キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

アーティストの人形や着ぐるみを使ったMV5選

こんばんは、キタガワです。


愛らしい笑顔で子供を中心に心を掌握する、人形や着ぐるみを主としたキャラクターたち。現在ではデパートイベント等での演出として使われるのは元より、ゆるキャラとして地上波に進出したり、子供向け番組では人形を何体も主人公と化した作品が多数作られるなど、その活動の舞台は実に多い。同様にアーティストのMVにおいても一瞬でシーンのハイライトを担うことの出来るその存在は重宝されていて、今でも邦洋問わず様々なMVで観ることが出来るが、今回はそんな人形・着ぐるみが出現するMVを5本ピックアップ。その魅力に迫ると共に、それらの起用が全体の雰囲気にどのような影響を及ぼしているのかについても注目しながら、是非新たな音楽へと出会う契機としてもらいたい。

 

 

Dumb Ways to Die/Tangerine Kitty

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2012年、メトロ・トレインズ・メルボルンが開設した鉄道安全キャンペーンサイトを通じて突如一大ブームを気付いた“Dumb Ways to Die”と題された謎の楽曲。その人気は様々なメディアに影響を与え、登場人物を題材としたゲームアプリが諸々合わせて2億回以上のDL数を記録している他、2013年のカンヌ国際広告祭では金賞18個、銀賞3個、銅賞2個の計28部門という最多の受賞を達成。名実共に海外が誇るバケモノコンテンツとなった。


その内容はと言えば“Dumb Ways to Die(おバカな死に方)”とのタイトルの通り、前半は身近に潜む死亡事故を、後半は鉄道での人身事故に繋がる様々な事柄をコミカルに表したメッセージソングである。トースターにフォークを刺して感電、2週間常温保存されたパイを食す、電気工事を自分で行うといった無知がきっかけで起こり得るものから、絶対に日常では起こらないものまで様々あるが、それらが印象的なサビのフレーズとメロディ、そして何より動画との相乗効果でもって口コミで波及し、ひとつの結果としてメトロ・トレインズ・メルボルンでの死亡事故が前年比で21%減少するというよもやのデータを叩き出すに至ったのだというのだから、ネットの力もあなどれない。


なおゲームにおいては最新アップデートにより、アイスバケツチャレンジなど『今風』な要素も増やしている他、昨今では『おバカな死に方』と同様に『おバカが社会的に死ぬ』……つまりは所謂バカッターのような過激な動画を自らが撮影して炎上し、今後の人生に大きな影響を与えてしまうことも揶揄しているのでは?との議論も交わされることとなり、“Dumb Ways to Die”は現在有名YouTuberが取り上げたり、キーホルダーなどのグッズ制作も順調と、何度目かのブームが訪れている。

 

Dumb Ways to Die - YouTube

 

 

シャングリラ/Wienners

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シーンをにわかに賑わせる4人組ロックバンド・Wienners。その数あるMVの中でも特殊との呼び声高く、また現在でもセットリストに組み込まれることの多いアンセムと化しているのが、以下の“シャングリラ”だ。この頃のWiennersと言えば、1曲がとてつもなく短い爆速アルバム『CULT POP JAPAN』が好評価を受けており、けれどもその直後に放たれた『W』は確かにスピード感のある楽曲もあるが、全体として前作よりは明らかにBPMは遅くなっていた。そんな『W』のリード曲として配置された“シャングリラ”は(特にiTunesで無料配信されていたあたりから)当然の如く暴れ狂いたいライブキッズたちからは少しばかり反対の声もあり、そのユーモラスな人形たちが歩くだけという今までのWiennersの無骨なイメージとかけ離れたMVも相まって、Wiennersが大きく変わってしまったという印象を持つものもいた。


しかしながらその後のWiennersはどちらかと言えば『W』に近い作風を持つ楽曲を多くリリースするようになり、また“シャングリラ”がほぼ毎回セットリストに入る反面『CULT POP JAPAN』からは年々楽曲が外されつつあることから考えても、“シャングリラ”は彼らが最も鳴らしたい音楽をこのタイミングだからこそリリースしたいとする思いの表れだったのだろう。ともあれ今や彼らにしか鳴らせない新境地を突き進む彼らの現在進行形には、明らかにかつての足跡あってのことなのは間違いない。

 

Wienners「シャングリラ」Music Video - YouTube

 

 

 

憂&哀/ヒステリックパニック

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『アーティストの人形や着ぐるみを使ったMV5選』。ここまでは主にMV内に人形的キャラクターを用いた楽曲を続けて紹介してきたが、ここからは一風変わった試みとして着ぐるみを用いたMVに焦点を当てて記述していきたい。まずは名古屋で結成されたラウドロックバンド・ヒステリックパニックがその存在を広く知らしめる契機となった楽曲“憂&哀”。このMV構成は極めてグロに特化したものになっていて、冒頭こそ可愛らしい視線でこちらを見詰めるバニーが最終的にはピエロと刺し刺されの一部始終を繰り広げ、血まみれのバニーがこちらを見詰めて終幕する異様ぶり。


総じておよそ年齢制限ギリギリの作りだが、今作がここまでグロを主軸に置いている理由は、楽曲の作詞の大半を担当するとも(Vo)が所謂スプラッター映画を嗜好品としていることが大きな理由として垂直に立っている。なお上記の事柄以外にも楽曲タイトルの“憂&哀”はバンドアニメ『けいおん!』の最終話で披露された“You & I”から来ているし、おそらく一聴した多くの人がイメージするようにルーツとして彼らはマキシマム ザ ホルモンを挙げており、この1曲のみを鑑みても他方向から彼らの特色を知ることが可能。ただその中でもヒスパニならではのオリジナリティーも溢れており、とものグロウルとTack郎(Vo.Gt)のハイトーンボイスや、とものブログを熟読すると分かるように彼自身の心中をこの楽曲に深く落とし込んでいることが分かる。

 

ヒステリックパニック - 「 憂&哀 」( Official Music Video ) - YouTube

 

 

セーラー服を脱がないで/アーバンギャルド

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電子ロックバンドの突然変異・アーバンギャルドの記念すべきファーストアルバム『少女は二度死ぬ』に収録されたリード曲。今でこそポップ集団のイメージが強いアーバンギャルドだが、極めてネガティブな事象を優先的に楽曲に取り入れていて、バンドの中心人物であり、かつては子供向け番組『Let's 天才テレビくん』のレギュラーも務めていた松永天馬(Vo)が「タランティーノの映画は(腕や足がポーンと吹き飛ぶシーンが)面白い」という旨の発言をインタビューで語っていたように、特に活動初期の楽曲には血をモチーフとしたものが多く、以下の“セーラー服を脱がないで”でも同様にセーラー服に身を包んだ浜崎容子(Vo)が謎のキャラクターに切り刻まれ、血みどろになる様子が映し出されているが、そのキャラクターというのもどこからどう見てもキューピーであり(許可を取ったのかは不明)、得体の知れない恐怖が襲い掛かるインパクト抜群の楽曲となっている。


先述の通り、松永と言えば子供の間では完全に「進行の上手いオッチャン」であり、また他のドラマ等で俳優として活動する彼の姿を見たことがある人も多いだろうが、それらの活動よりも早くから行っていたのはまさしくアーバンギャルドである。いろいろな意味でトラウマを植え付けるこの楽曲を目にしてしまえば、その瞬間もう元のイメージには戻れないこと請け合い。なお以下のMVのみ突出してグロテスクな内容であるため、幾分マイルドなライブ映像も添付。お好きな方を是非。

 

アーバンギャルド セーラー服を脱がないで - YouTube

〔LIVE〕セーラー服を脱がないで/アーバンギャルド@赤坂BLITZ - YouTube

 

 

どんなふうに/むぎ(猫)

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ラストを締め括るのは『その存在自体が着ぐるみ』という謎のシンガーソングライター・むぎ(猫)(読み:むぎかっこねこ)だ。一見アンダーグラウンドな雰囲気すら纏うむぎ(猫)だが、その正体はカイヌシ(ゆうさくちゃん)と共にカイヌシの地元である沖縄へ移り住み、2019年の1月に病気のため永眠。カイヌシがシンガーソングライターのジョン(犬)からむぎを蘇らせるヒントをもらって新しい体を作り、5年間の天国暮らしの後、2014年3月に再びこの世に舞い戻った「天国帰りのネコ」(Wikipediaより)。としており、未だその『中身』については一切公表されていない。


故にライブにおいても着ぐるみを脱ぐことはせず、むぎ(猫)としてのパフォーマンスに徹しているのも特徴で、オケを流しつつ自身はパーカッション等を操り(ギターは身体的な理由から演奏出来ないという)、口元にセッティングされたマイクで歌唱するスタイルを取っていて、加えて現在ではYouTubeを中心にショート動画を上げたり、出身地である沖縄で販売されている様々な食品についてツイッターでPRしたりと、音楽以外の手法でも認知へと繋げる活動も行っている。ただ彼が何故こうした稀有な風貌でありながらメジャーデビューも果たす存在となったのか、その理由はやはり音楽の持つ求心制の高さゆえ。事実楽曲自体に目を向けてみると、老若男女にズッパシ嵌まりそうなキャッチーさを携えていて、敢えて(?)ゆるキャラ風の姿で活動する形にしたのは理にかなっているとも思うのだ。

 

むぎ(猫)『どんなふうに』 - YouTube

 

 

サブスクの発達とYouTubeが完全に浸透したことで、今やアイドルを除いて、アーティストにとって最も重要なものは『音楽』に、その時点で『MV』となった。特に昨年辺りからは取り分けヨルシカやずとまよ、Ado、ひらめ、和ぬかなど素顔を公開しないアーティストが台頭するようになったがそれもそのはずで、それはつまり『顔を明らかにしなくとも音楽の良さがあれば認知される時代に突入した』ことの表れで、これについてはやはりどうしても今まで『大手メジャーレーベルに属しているかどうか』、はたまた『ドラマや映画などのタイアップがあるか』が売れるまでのスタートラインに位置していた点を鑑みると、とても素晴らしいことだと思う。そんな中、どうしても避けられないものがやはり素顔……とまでは行かなくとも何らかの本人性であることも同じく強く感じるもので、それこそ先述のアーティストたちは皆一様にSNSであったり実況動画であったり、本人にしか成し得ない魅力を素顔非公開のまま行うことで、端的に表すならば『素顔を公開しているっぽい雰囲気』を上手く魅せている。


今回テーマに冠した『アーティストの人形や着ぐるみを使ったMV』についても似通った部分があるとも思っていて、特に“Dumb Ways to Die”やむぎ(猫)のMVを観れば素顔を見せずともどこか親近感のある作りになっていることが分かる。そしてその理由を紐解いていけば、おそらくは人形なり着ぐるみなりの仮の姿を大々的に見せていることも大きいのではないか。無論全てがそうした意味合いではないにしろ、試行錯誤の末に特異なMVに行き着いた先には何かしらの考えあってのこと。今回紹介したMVが読者貴君に重要な知識を与えるものであるとは到底思わないが、それでも。どこか一ヶ所でも引っ掛かるものがあって、あわよくばそれらのアーティストの深くまで掘り下げる契機となってくれれば嬉しい限りである。