キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

コロナ禍でのモッシュ・ダイブの是非をENTHとPaleduskの炎上から考える

こんばんは、キタガワです


モッシュと、ダイブ。ポップスはともかく世界のロックライブシーンを語る上で、このふたつはかつて紛れもなく必要不可欠な存在として位置していた。もはや語るも野暮だが補足的に説明すると、モッシュは観客同士がぶつかり合いながら興奮を体現するアクション。ダイブは観客と観客とが肩車をした状態から横倒しで飛び込んで、人の海を自ら流れる行動のこと。なおこれらの行動は取り分け激しいタイプのバンドライブ(ラウドロック・パンクロック等)で頻繁に行われる傾向にあって、中にはフロアの中心を観客同士が左右に区切り、中心に向けてモッシュに誘う通称『ウォール・オブ・デス』や、観客が円状に回る『サークル』といった行動もあり、これらが興奮を更に一段階高める素晴らしいエッセンスとして駆使されていたことは、おそらくライブバンドに詳しい人なら誰もが共感してくれることだろうと思う。


けれども新型コロナウイルスの影響で密接やら飛沫やらが危険と判断されて以降、早いものでもう1年近く、全てのロックバンドのライブからモッシュ・ダイブも含め様々なアクションが消えた。当然これらの措置については「状況も鑑みてやむを得ないだろう」との声が大多数を占めるけれど、そんな中でもかつてモッシュ・ダイブが恒例と貸したエネルギッシュなライブに足しげく通っていたライブキッズも一定数おり、2021年夏現在多くのライブやフェスが再開し始めている渦中においてもどこかウズウズ……。今すぐにでも爆発させたい衝動を無理矢理抑えながらライブを鑑賞している人も同じく少なからず存在するはずなのだ。

 

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そんな折、とある2組のバンドのライブが波紋を広げているのをTLで目撃する機会があった。それは7月17日に行われたPaledusk主催の渋谷ライブイベントでの出来事が発端となっているらしく、槍玉に上げられているのは主催のPaleduskとこの日のメインアクトのひとつことENTH。話を紐解くにどうやら彼らのライブで多くのモッシュ・ダイブが行われ、それが数々の議論を生み出しているようだったが、次第にマキシマム ザ ホルモンのナヲが苦言を呈するツイートを書き込み、対照的にCrystal LakeのRyoが称賛するツイートを投下。その数日後にはSiM、coldrain、HEY-SMITHの3バンドによる『TRIPLE AXE TOUR』にてメンバーが間接的に彼らの行動を批判したことから問題が激化。結果ロックライブにおけるモラルを考える重大なテーマとして、様々な意見が噴出する形となった。


そしてこの件についてはそれこそライブに多く通ってきた人ほど、言葉を選ばずに言えばおそらく中立の立場の人が大半のはずだ。……これは決して『モッシュ・ダイブをやるべき!』との意味合いではなく「かつてのライブシーンの在り方を知っているからこういう気持ちも確かに分かるし、でも今は状況が状況だから」という理想と現実を天秤にかけた上で判断する動きが強いからで、例えば現在メディアで広く取り沙汰されている『酒を禁止したい政府と提供したい飲食店』や『自粛派と経済活動派』のように、長らくの停滞により自身で取捨選択することが必要となった今においては「自分はこうしたいんだ!」との思いが勝ったためにモッシュ・ダイブを敢行してしまうのは些か仕方がないとも言える。

 

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ただ現在のコロナ禍において、これらの行動が他人に回避不能な影響を与えてしまう可能性があるという意味では、絶対にモッシュ・ダイブは行うべきではない。無論全部が全部ダメと括っている訳ではなくて、ワクチンを全員が接種しているとか、これは極論だけれども参加者がみな一人暮らしの無職で誰とも関わらない生活をしていて「別に俺が誰に感染させようと知ったこっちゃないよ」とする自分本意な人間ばかりが集まったり、ライブ後に自主的に2週間缶詰になるという集まりなら、モッシュ・ダイブの発生を事前に周知させていれば別段許可しても良いだろう。だが現在は若者の接種率が10%にも満たない状況なので、まずもってこれらの基準をクリアすることが出来ない以上、やはり他者に迷惑をかけてしまう可能性のある行為があるとすれば厳密なルールを設けるべきだと思う。


……翻って、今回のライブだ。筆者が確認出来たのは当日の参加者のツイートと参加者が撮影した動画だけで、当日の全体の様子が実際のところどうだったのかは知り得ないので憶測で語るべきものではない。しかしながら『動画』という最悪な形で様々出回ってしまっている撮影物に関しては、ほぼ全員がマスクをしていないし絶叫しているし、もちろんモッシュ・ダイブもしているしで擁護出来る点はまず見当たらない……というか、反対意見が賛成意見を上回ることは間違いなかった。そしてそれ以上に、個人的には演者が「俺たちは『ライブ』をしに来たんだ」と観客を焚き付けたとする発言が気になっていて、もしもこれが真実だとするならば彼らにとってライブとはイコール音楽を聴く以上に「モッシュ・ダイブなしのライブはあり得ない」という考えが先行しての結果なのだろう。筆者も何度かENTHとPaleduskのライブに足を運んだ身だが、誠実な姿も目にしてきてはいるので正直彼らがここまで声高にネガティブな内容のことを焚き付けるとは考えにくい。なので何かアーティスト同士での示し合いなり会場サイドとの打ち合わせなりで今回に限ってはモッシュ・ダイブ容認のスタンスに変えようと動いた結果なのではと思うのだけれど、これらも悲しいかな、彼ら自身からの弁明がなければ我々は何も分からない。

 

(↑これまでのラウドライブ)

(↑コロナ禍のラウドライブ)


実際、現在のライブシーンで特にラウド系のバンドは苦境に立たされていることだろう。ただでさえキャパシティが半分以下にまで抑えられたスカスカな環境でモッシュ・ダイブも出来ず、シンガロングも出来ず、外部的要因で言えばアルコールも飲めない。少し前にHER NAME IS BLOODが解散を表明したけれど、おそらくは我々が想像する以上にラウドバンドにとっての状況は深刻で、たった4~5人のメンバーが1年間スタジオに籠ってようやく生み出された激しい楽曲を披露する場がこうも様変わりしてしまえば、アーティストの精神状態的にもかなり悪い。もちろんその中でも制約ありきでツアーを回るバンドも多いのだが、最近鑑賞したオンラインライブを例に上げればマキシマム ザ ホルモンの『面面面 ~フメツノフェイス~』もそうだったように、やはりかつてのライブを知っている身であればあるほどこれじゃない感を如実に抱くのは自明だ。……「どうするの?」と問われれば取り敢えず「やるしかない」。だがその行動にやりがいが見出だせないのであれば、先述の飲食店の酒提供の話のように、後は更なる行動に移すのみなのである。なのでモッシュ・ダイブに救われてきた個人としてはどうしても彼らの行動を強く責められない部分もあるし、それでも「そんなライブなら今は行きたくない」とも思ってしまう。


なので両バンドのファンにおいては、是非ともこれでENTHとPaleduskを毛嫌いしてしまうのではなく、この状況下で彼らがこれらの行動を試みた真意を考えた上で個人の判断を下してほしいと強く願っている。こここ数年、不祥事やゴシップが上がるたびに音楽ファンの間で広がった「音楽に罪はない」という考え。それを活かすのもまた、コロナ禍でバンド業界があえぐ今なのだ。