こんばんは、キタガワです。
STANCE PUNKSのオリジナルメンバーであり、ヘビーワックスで立ち上げた文字通り尖った髪型でステージ上のアイコンとしても絶大な存在感を放っていたギタリスト・勝田欣也(Gt)。およそ23年間に渡って活動してきた彼は、この日を最後にバンドを脱退した。ラストステージとして用意されたのはスタパンが長らくライブを行ってきた思い出深いライブハウス・CLUB CITTA'で、ただおそらく会場の誰しもが想像していたようにそのライブは涙もろい一幕はほぼなく、いつも通りの灼熱で、バカで、男臭いパンクロックのライブだった。ライブが終わった今改めて思い返しても、次のライブで普通にギターを弾いているようにも思えてしまうのは、彼はスタパンにとって当然存在すべき人物だと長年に渡って刷り込まれているからに他ならない。
ライブは所々を噛みながら注意事項を語るアットホームな前説を経て、お馴染みのSEである“火の玉宣言”と共にメンバーが袖から登場する幕開けから。未だステージは暗い照明に照らされていて、ひとりひとりの表情までは確認できない状態ではあるが、向かって右側でギターを構える欣ちゃんの特徴的な頭髪を見ると、やはり欣ちゃんは変わらずそこにいて、またこの光景が最後になるのだと、少しばかり寂しい気持ちにもなる。
STANCE PUNKS - Sharol Wa Blue (Music Video) - YouTube
SEのギターアウトロが静かに消え行く中、力強くマイクスタンドを握り締めたTSURU(Vo)。開口一番「やあみんな調子はどうだーい!」と声を上げると、佐藤康(Dr)のリズミカルなドラムに乗せて「ハローハロー!」と絶叫。1曲目に投下されたのは中盤以降に配置されることの多いライブアンセム“シャロルはブルー”で、早くもフロアを真っ赤な灼熱地獄に染め上げる。TSURUはマイクスタンドを持ち上げながら縦横無尽に歌い回っているし、佐藤はシンプルながらも全体重をかけたパワフルなドラムを魅せ、川崎テツシ(Ba)は血管が切れそうな程に叫びながら肉体的なパフォーマンスだ。そしてラストライブということもあり、どうしても意識的に欣ちゃんに注目してしまうのだけれど、動き少ななギタープレイに終始しており、良い意味で自然体。……常に全力でライブを行ってきた彼らのことだ。23年の集大成を見せようとの思いというより、普段通りの最高のライブをしようと試みてのことだろう。
仕方がないこととは言え、感染防止対策の観点からモッシュやダイブ、声出しといったかつてのスタパンのライブで必須事項になっていた様々な観客のアクションは制限されており、スタパンと観客とが絶叫しながら作り上げていく彼らのスタンスとはある意味では異なる形にはなった。我々が体を存分に動かして叫ぶことで熱が高まり、それが相互作用となっていたのは紛れもない事実として存在したが、様々な制約がありながらも今回のライブは素晴らしかった。汗まみれで絶叫に包まれるものとはまた一味違ったものにはなったけれど、スタパンは変わらず最高だった。
今回のライブは新旧織り混ぜた絶妙なセットリストで進行。『STANCE PUNKS』や『HOWLING IDOL ~死ねなかった電撃野郎~』、『BUBBLEGUM VIKING』といったおそらくは集まった観客の大半が青春時代に出会い、スタパンに心酔する契機となったであろうアルバムをはじめ、ミニアルバム含めキャリア全てのアルバムからチョイス……つまりは欣ちゃんがスタパンで生きてきた歴史を余すところなく落とし込むことと同義であり、この日集まった観客の涙腺に曲のいずれかは絶対にクリティカルヒットする、ある意味ではとても罪な構成となっていたのも素晴らしい。
STANCE PUNKS 爆裂LIVE 2013 - YouTube
前半部のハイライトとも称すべき一幕は、やはり彼らの結成初期から欠かさずセットリストに組み込まれてきた“すべての若きクソ野郎”。TSURUが「行くぜー!クソ野郎どもー!」と言葉を吐き散らすと、以降は暴走列車の如き勢いで猛進していく。……そもそもパンクロックとは語弊のある言い方を敢えてしてしまえばあまりに粗雑な音楽であり、ギター、ベース、ドラムが荒々しく鳴っていて、突き抜けるボーカルが聴こえればそれでOKというある意味では『馬鹿な音楽』との認識が一般的には強いし、実際それらは我々パンクを好き好んで聴くライブキッズからしても、およそ間違っていないと思う。特筆すべきテクニックはないし、歌詞だってひたすらシンプルだ。ただそこには巷の流行歌を聴くだけでは決して有り得ない、心の底から血沸き肉踊る興奮が迸る感覚がある。《すべての若きクソ野郎どもに願う/間違えたっていいんだ 君らしく叫んでやれ》との幾度も繰り返されるフレーズも、時折挟まれ、おそらくは今後別のギタリストが担うことになるであろう欣ちゃんの絶叫も部分も、最後にマイクスタンドをノールックで背後に投げ飛ばしたTSURUのアクションも……。これまでの全てを放出させるようなパフォーマンスは、思わず涙腺を刺激される。
以降はパンクロック愛を全身全霊で表現した“Hello, No Future”、人気アニメ主題歌として海をも超えて広く認知されるに至った代表曲“ノーボーイ・ノークライ”、随分と久方ぶりに披露された“絶望ニュージェネレーション”と休憩らしい休憩も挟まず連続で楽曲を展開。彼らの全身からは当然大量の汗が流れ続けていて、楽曲はバラードチックなものは一切挟まれないためかなり過酷なステージングであろうと推察するが、彼らはまるで「もっと熱く、もっと興奮を」とばかりに限界突破のパフォーマンスに徹している。「体を動かすっていう力があるんだぜ、音楽には。別にさ、歌えなくったってやれるんだよ。教えただろ?パンクは『オイ!』だけで済むんだって。oに、iを入れるだけ。そうすると素敵なことが起こります」とは後のMCでのTSURUの弁だが、その言葉の通り『オイ!』を乱発したあまりにストレート、それでいて何よりも分かりやすいレスポンスに、観客も限られたスペースの中で拳を突き上げている。
スタパンの楽曲は、『若者』と呼ばれる時分、誰しもが感じた不安や怒りを、完全にあの頃なりたくないと切望していた『大人』になってしまった立場から、まるで「良いから聴け!ガキども!」と強いエールを送るパンクロックが大半を占めるということは、彼らのバンド名であるSTANCE PUNKS(過激な立場)を見ても明らか。そんな中、数あるスタパンのリード曲としては異質な立ち位置で未だ降臨し続けるミドルチューン“大人になんてなるもんか”は、若い頃にスタパンと出会い大人に変化してしまった我々の心に、鋭く突き刺さる1曲であった。サンタクロースや怪獣、秘密基地といった子供時代の思い出を回想し 無敵感に溢れた在りし日の自分に思いを馳せつつ、楽曲はゆるりと続いていく。TSURUはリアム・ギャラガーよろしく腕をだらんと垂らし真摯に歌を届け、他のメンバーも同様に地に足着けたプレイに終始。今思い返せば“大人になんてなるもんか”はこの日の本編で披露された20曲にも及ぶ楽曲の中で唯一テンポの遅い楽曲であるため、ともすればこれまでの熱量を一段階落とす可能性もあったはずなのだけれど、言うなれば内なる興奮が心の底でグツグツと煮詰まるような熱量はそのまま。かつしっかり『聴かせる』形になっていて、幾度も観客の拳が突き上げられたことからも、大多数のファンの心では大合唱が起きていたに違いない。
ここからは後半戦。これまでフルスロットルで駆け抜けてきたスタパン、流石にブレイクを挟むかと思いきや、お馴染みとされてきたキラーチューンとファンの間で人気の高いアルバム曲を良い塩梅で溶け合わせた磐石の楽曲群で、更なる畳み掛けを図っていく。初期作代表のひとつ“黒いブーツ”、パンク愛をしなやかに歌い上げる“あの娘はパンクを聴いてる”、欣ちゃんがメインボーカルを務めた“すべてが終わっちまう前に”など様々な魅せ方を展開。中でも「良いからな。周りに合わせてばっかじゃなくて。おんなじこと言ったときによ、おんなじようにニヤニヤ笑ってるのが『ひとつになる』って、そんなことじゃねえんだよ。今俺たちが一緒に、大好きな歌を歌う。それはきっと俺は『ひとつになる』ってことだと思います」とTSURUが語ってからの“stay young”は特筆すべきだろう。
……人間は『何か』に出会ったそのときの衝撃が大きければ大きいほど、後の人生にも尾を引くとされる。そしてTSURU、欣ちゃん、テツシ、康がスタパンを結成し、その後何十年間もまさしく楽曲然り演奏然り、バンドの『スタンス』を『パンクス』に徹していることからもやはり若い頃に出会ったパンクという音楽が衝撃極まりないものであり、以来その衝撃が常に自身の最高潮の経験として固定化しているためであろう。TSURUは整髪料が汗ですっかり流れた髪の飛沫を撒き散らし、テツシはコーラスと呼ぶには明らかに場違いの絶叫を連発している様を観て、先にも記したけれど、やはり何度聴いてもパンクは本当に馬鹿な音楽だと思った。今の御時世にもヒットしているとは思えないし、特にコロナが猛威を振るった昨年あたりは特に制限も加わって……というのもある。ただスタパンの活動は、同じくパンクに救われた者、歌詞に共感した者、流行りの音楽が何故か肌に合わない者など、結果として様々な人たちを結び付けた。それこそが功績。それこそが感謝なのだ。
以降もライブは続き、TSURUが「OKみんな、最後の曲です。必ず、必ず、必ず、また生きて会おうなー!」と叫んで雪崩れ込んだのは“モニー・モニー・モニー”。サードアルバム『HOWLING IDOL ~死ねなかった電撃野郎~』の中で世間的に知られているのはおそらく“ノーボーイ・ノークライ”であろうが、かねてよりのファンとして馴染み深いのは明らかにこちら。正にラストソングに相応しいチョイスに、ギターリフの時点で大盛り上がりだ。歌詞の節々を絶叫することに加え、拳を突き上げてのオイ!コールでぐんぐん焚き付け、ラスサビでは本来TSURUが歌唱するところを「欣ちゃーん!」と突発的に引き継ぎボーカルのパートチェンジを試みる感動的な場面も。
STANCE PUNKS - Mony Mony Mony (Live Club Citta 2005) - YouTube
鳴り止まない拍手に迎えられたアンコール。TSURUによるタオルを口に当ててではあるが、一瞬フロアに降りるという今のご時世的にギリギリのアクションでボルテージを高めると、欣ちゃんが「思い出すと、夢だったのかなって思うよね。でもいろいろあったよね」と訥々と語り始める。これまでに綴ってきたように、今回のMCは欣ちゃんが担当する比率が全体的に高かったが、それもこのアンコールでほぼ終わってしまう。故に観客の誰しもが耳をしっかりと傾けていたのだが、欣ちゃんの言葉に対しTSURUが「あるよ。ドラえもんの都市伝説のオチみたいなやつ?」という分かりづらい返答(漫画のラストでよくある人生回顧?)から、欣ちゃんは「それ分かんない……」と一蹴。結果TSURUが「僕たち、最後まで意思の疎通が取れませんでした」とはにかむ『らしい』トークに、良い意味で肩の力を抜かれていく。やっぱりスタパンは最後までスタパンなのだ。
アンコール楽曲は“モンキーセブンティーン”と“今夜ブチ壊せ”の2曲で、どちらもスタパンの楽曲の中でも極めてBPMの速いパンクチューン。中でも正真正銘のラストソングとなった“今夜ブチ壊せ”は、まさしく『パンク』と称して然るべしな暴走だった。「狂ったっていいぜ!もうとっくに狂ってんだろうが!」と絶叫したTSURUは猪突猛進的にステージ上を転げ回りながら、全てを出し尽くさんとばかりに絶唱に次ぐ絶唱でボルテージを底上げ。溢れ落ちる汗で何度もマイクが滑り落ち、床に叩き付けられる音が響くのもおかまいなしで時にはステージを這って進むTSURUが常に自身の位置としてキープしていた場所。それが欣ちゃんの足元だったことには、これまでほぼ欣ちゃんの脱退について詳しく語らなかったTSURUなりの、泥臭いなむけのようにも感じた次第だ。
Stance Punks - Monkey Seventeen - YouTube
最後まで全力で駆け抜けたスタパンと、欣ちゃん。アンコール終了後もなおも続くアンコールの手拍子で三たびステージに舞い戻った欣ちゃんが最後に叫んだのは「地獄のような毎日でスタパンの曲を聴きながら、また生きて会おうぜ!」との一言だった。……正直、ライブを観る前には今回のライブに対して若干の不安もあったのは事実だ。その理由はいくつかあって、まずモッシュ・ダイブが出来ないスタパンのライブが全く想像出来なかったのがひとつ。更にはメンバー全員がこの数週間前に新型コロナウイルスに罹患してしまい、体力的にどうなのか、ということ。そして個人的な部分で言えば、そもそも欣ちゃんの脱退を未だ飲み込めていないということ。繰り返すが、欣ちゃんがスタパンに加入して23年。人が生まれて、ようやく大学生ないしは社会人になるような歳まで、彼はバンドに在籍していたことになる。
もちろんスタパンは活動当初より、輝かしい実績を数多く残してきた。当時はパンクシーン全盛期であったこともあってか、アルバムは軒並みヒット。ライブはソールドアウト続出で、アニメ『NARUTO』や映画『バトル・ロワイヤル』への主題歌提供から彼らの名を知った人も一定数いるのは間違いない。ただパンクシーンが音楽業界全体として下火になった頃合いからスタパンの動員は下降線を辿っていて、正直なところ現在もその渦中……。いや、コロナウイルスの影響でモッシュ・ダイブと発声が禁止になったことも考えると、状況は過去最悪とも言える。
しかし、彼らは今もパンクを鳴らしている。方向性も音楽性も何ひとつ変わらずに。今回のライブは確かに様々な制限はあったし、長年活動してきた欣ちゃんの脱退ライブでもあったけれど、やはり彼らの音楽に救われてきたファンとしては彼らが全く変わらないでいてくれることが、何よりも嬉しかったのではなかろうか。欣ちゃんは脱退後もどこかでギターを弾くと語っていたし、スタパンはライブ後、公式ツイッターにてニューアルバムの制作とギタリストの応募を公開した。となれば残された我々は、スタパンの熱い思いに答える他ないと言うものだ。……欣ちゃん、一先ずお疲れ様。そしてスタパン、これからもよろしく。
【STANCE PUNKS@川崎 セットリスト】
火の玉宣言(SE)
シャロルはブルー
ディンゴ
すべての若きクソ野郎
Hello, No Future
12&34
NO TEACHER FOR ME
ノーボーイ・ノークライ
絶望ニュージェネレーション
大人になんてなるもんか
黒いブーツ
イカれたブギー
すべてが終わっちまう前に
あの娘は部屋でパンクを聴いてる
アイワナビー
stay young
クソッタレ解放区 ~クソッタレ2~
ザ・ワールド・イズ・マイン
東京ブラザーズ
地獄の骸骨船
モニー・モニー・モニー
[アンコール]
モンキーセブンティーン
今夜ブチ壊せ