キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

ロックバンド・ゆうらん船による穏やかな航海に、新時代の希望を見た

こんばんは、キタガワです。


コロナウイルスの流行から早半年。この未曾有のパンデミックは一瞬のうちに、世界中で暗黙の了解として垂直に立っていた『音楽の在り方』そのものを根底から変えてしまった。


まず一つが、ライブの消滅。世のミュージシャンは『新譜の発売と共にツアーを行う』との誰もが知るルーティーンワークが常だった。しかしながらご存知の通り、コロナウイルスにより大半のライブが延期・中止を余儀無くされている現在においては、全国ツアーの報が流れること自体がそもそもなくなった。そしてソーシャルディスタンスの確保によるイベント人数制限についても然程緩和されていない今、今までのライブ形体が完全に元通りになるのは相当の時間を要することは明白で更には飛沫感染の観点から鑑みても、例えばモッシュ・ダイブが頻発するエネルギッシュなバンドや、コール&レスポンスを筆頭とした観客との相互的なアクションがライブの軸を担うようなアーティストの活動は非常に制限的なものとなるだろう。


もう一つが、ソーシャルネットワークの台頭だ。実際ピコ太郎然りDA PUMPの“U.S.A.”然り、SNSは今までもアーティストのブレイクに一役買っていた印象が強いが、特に今年はその傾向が強かったように感じていて、一切の楽曲をリリースしていなかった瑛人が日本規模のブレイクを果たし、ソニー・ミュージックエンタテインメントが運営する小説投稿サイトの小説をモチーフに楽曲を形作るユニット・YOASOBI、加えてロックバンド業界においてもTikTokを起点としてNovelbrightが一躍ブレイクを果たすなど、現在ではメジャーとインディーズの境目は酷く曖昧になり、世間の注目を集めたアーティストはそのまま流行歌になるという現象が起きている。


そうした中頭をもたげるのが、「この新時代に鳴るべき音楽は一体何なのだろう」とのささやかな疑問だ。……ライブも出来ず、音楽への接し方も多様化し、あまつさえ忌々しいコロナウイルスとは、十中八九来年度まで共存を余儀無くされるときた。故に今後はSNSや各種タイアップでの周知以上に、メッセージ性や作風など、さしずめ『音楽的な地頭力』とも称すべき今の時代にフィットした楽曲が強みを持つ時代とも言えるのではなかろうか。

 

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そこで、個人的には日本のインディーロックバンド・ゆうらん船に、日本の音楽の未来すら感じてしまうのである。自然の中を揺蕩うような音像と歌声。穿ったサイケデリアに加えて不思議な魅力を孕んだ楽曲群。彼らの楽曲は世間一般的な『売れる・売れない』といった成功指針を悉く突っぱねるようでもあるが、同時に強い精神性を感じさせる。


ゆうらん船は今年の去る6月24日に自身初となるファーストフルアルバム『MY GENERATION』をリリースした5人組。彼らの織り成すニューアルバムのサウンドは、まさに前述の遊覧船が水上を渡航するが如くの緩やかな雰囲気に満ち満ちている。けれどもその全てが一辺倒な作風という訳では決してなく、気だるい中にも晴れやかな朝の風景が瞬時に沸き上がるオープナー“Chicago, IL”から始まり、次曲“鉛の飛行船”では一転、希望的にも絶望的にも解釈可能な徹底的に削ぎ落とされた歌詞でもって夢の世界へ誘う。中盤における“Summer2”では鼓膜をざわつかせるサイケデリックな浮遊感をもたらし、今作のリード曲である“山”に差し掛かる頃にはポップな強みが顔を出し、果ては淑やかな“Rain”でもって映画のエンドロールを彷彿とさせる幕切れを迎えるのだ。

 


ゆうらん船『山』Music Video


フロントマンを務める内村イタル(Vo.G)は、かつてソロシンガーとしてGalileo Galileiやねごと、ぼくのりりっくのぼうよみといったティーンネイジャー・アーティストを数多く輩出した閃光ライオット(現・未確認フェスティバル)の決勝進出者に名を連ねていた事実を覚えている人は多いだろうが、当時10代だった彼が行き着いた先がバンドであり、あれからほぼ変わらない独自性の高いサウンドをバンドに落とし込んでいることには、ある種の感慨を抱いてしまう。バックボーンにはジャズやカントリー、洋楽の数々が浮かぶ弱冠25歳の内村と、彼のデモ音源を予想だにしない形で料理するメンバーがいるからこそ、ゆうらん船は確固たるオリジナリティーを確立しているとも言える。


……時代は移り変わる。しかしながらどの時代を遡っても、こと日本ではチルアウトかつサイケデリックな音楽は流行の直ぐ傍まで迫っているようでいて、なかなかブレイクには至らなかった。片や海外音楽シーンに目を向けてみると、あのテイラー・スウィフトが今までのサウンドメイクを完全に手放してスローリーな作風に徹したアルバム『フォークロア』をリリースして好感触を得たように、コロナ禍を経たからか、現在ゆるりと進行する自然的な楽曲が確実に注目を集めているという。


そしてそれは同時に、ここ日本でも近い将来、そのムーブメントが訪れるという何よりの証明でもある。おそらくそうしたムーブメントがもしも訪れた場合、まず第一に注目されるのは元々ある程度の知名度が確立していたSuchmosやNulbarich、cero、Tempalayといった長命のバンドたちだろうが、例えばフジロックでも同様の音楽性のバンドが多く出演するように、彼らのようなチルアウトな音楽を展開するバンドのベクトルは更に広い。緩やか過ぎる音楽よりある程度ロックテイストを散りばめた音楽を好む人間もいるだろうし、ボーカルの声質を求める者、歌詞を重要視する者……。人の音楽の好みは千差万別である。だからこそ、ある意味での類似性を感じさせている中にも明らかな異質さを携えるゆうらん船は光るのだ。


低血圧な音像の中にサイケの装いをも携えた稀有なバンド、ゆうらん船。その波間にゆらゆらと揺れながら進むが如くの自由奔放な航海の行く先は全くもって不明瞭だが、その穏やかな旅路の果てに訪れるのは、もしかすると未だ発展途上を揺れ動く彼らも、そして彼らの音楽に心酔する我々にとっても予想だにしなかった未来かもしれない……。『NEW GENERATION(新時代)』と名付けられたアルバムを聴いて、僕は勝手ながらそう思ってしまうのである。

 


ゆうらん船『Chicago, IL』Studio Live.