キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

『WILD BUNCH FEST. 2021』全出演アーティスト発表から見る、コロナ禍で開催される夏フェスの意義

こんばんは、キタガワです。

 

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この夏、我らがワイバンが遂に帰ってくる。悪しきウイルスが蔓延し国民の恐怖心が今以上に高まっていた2020年、国内の『夏フェス』と呼ばれる音楽娯楽は全滅。それは中国地方最大の夏フェスのひとつである『ワイルドバンチフェス(以下ワイバン)』も例外ではなく、アーティストの発表すら行うこと叶わず開催を断念した。そこには当然様々な決意を秘めつつも沈黙を余儀なくされた様々なフェスへの思いがあったと察して然るべしだが、そのアナウンスの最後にはこうも記されていた。「来年のWILD BUNCH FEST.で皆様にお会いできる事を願っております」……。


そんな希望を携えたアナウンスから約1年。待ちに待ったワイバン2021開催決定の報と全出演アーティストが一挙公開された。公式による上記のツイートは瞬く間にライブキッズたちの間で拡散し、現在は1万リツイートを超えるまでに巨大化したけれど、改めて圧倒的な数字として観るとロッキンも京都大作戦(2週目)も中止となった今夏、ワイバンがどれほど運命の灯として位置しているのか、またこれまで様々なフェスに参加してきたであろうファンにとって、如何にワイバンが特別なフェスなのかを実感した次第だ。

 

 
さて、今回の発表でファンから多くの短文での発言がされた内容と言えば主にふたつ。それは「出演者が豪華」であることと、率直な感謝の思いだ。そもそもの話として、未曾有のコロナ禍においてフェスを敢行すること自体がイレギュラー極まりなく、実際多くのサマソニやフジロック、モンバスといったフェスが「今年は絶対にやる!」と意気込んで開催に漕ぎ着けようという中で中止の判断を決めたフェスも決して少なくない訳で、今回の開催の決定はあらゆるネガポジを考え抜いた結果によるものであることは、予め記述しておきたい。


まず今フェスで誰しもが注目すべきは、圧巻の布陣の出演アーティストだろう。NUMBER GIRL、BiSH、MAN WITH A MISSION、KEYTALK、RADWIMPS、サンボマスター、マキシマム ザ ホルモン……。今やどこのフェスでも取り合いになること間違いなしのロックな面々が並ぶ。これもリプライ等でしこたま指摘されていることではあるが今までの傾向と同じく今年も異様に豪華な顔ぶれで、こと日本国内の他夏フェスと比較しても『アーティストの満足度』という点においてはかなり上位に位置するのではなかろうか。よく観ると今回起用されているアーティストはこれまでのワイバンの中心を担ってきた盟友揃いなのも熱く、Creepy Nutsや緑黄色社会、ハルカミライ、hump backといった2019年では最も小さなステージでパフォーマンスをしていたアーティストの中では昨年以降とてつもない飛躍を遂げたものも少なくなく、その勢いそのままにいきなりメインステージ……。という可能性も大いにある。そして言うまでもなく今までメインを張っていたアーティストたちは圧巻のパフォーマンスをすることが確定事項なので、雑な言い方をしてしまえば好み的にも話題性的にも、「1日の間で全く興味のないアーティストを観ることはほぼない」と見て良いだろう。


加えて、例えばロッキンやフジロックでは各日で明確なジャンル分けがされていたところが、ワイバンでは3日間それぞれ同じ系統のラインナップなのも嬉しい。ワイバンと言えばロック。ロックと言えばワイバン……。何故このフェスが中四国地方開催という交通の便においても若干不自由な環境の中、都市部からもファンが殺到し即日ソールドアウトになり続けてきたのか。その理由はやはり、日本国内どの夏フェスと比較してもロック比率が高いためではなかろうか。「このバンド呼んだらどう?」との主催側の意見とロックファンによる「そうそう!これを待ってたんだよ!」との信頼関係が何年もかけて結実したフェス、それがワイバンなのだ。今回のアーティストで言えばBiSHやRHYMESTER、Creepy Nuts、Vaundyらはおそらく『ロックっぽくないアーティスト』に分類されるとは思うのだが、それらもこの環境の中ではクリーピーの楽曲の歌詞を借りれば《ロックフェスでのCreepy Nuts/時として主役を食っちまう》ような、ダークホースが実は一番の名脇役である図式も生まれる。総じて隙のない素晴らしい構成だと思う。


そして何より、先の見えない状況下でありながらも開催をアナウンスしてくれたワイバンサイドには頭が上がらない思いだ。前述の通り……というか誰もが熟知していることだろうが、2020年はエンタメ系列のイベントは軒並み中止、もしくは延期となる末路がほぼ決定事項のような絶望的雰囲気が蔓延していて、感染者の増加につけ「こんな時にフェスってどうなの?」との声がSNSを起爆剤として増幅し、そうした声に屈する形で結果開催を諦める動きを何度見たか分からない。これについてはモラルがどうとか個人個人の考えがどうとか言いたい訳ではなくて、純粋に2020年時の世間の風潮がそうしたネガティブな形であった、というだけの話。「不特定多数の人が一ヶ所に集まる?じゃあダメだよね」との考えは今より顕著だったので、半ば当然のようにも思うのだ。


では今年、2021年の夏はどうか。まずネガティブな部分を記すと、フェスに参加者の大半を占める10代~20代のワクチンは未だ接種出来ていないこと、これは間違いなくマイナスだ。もちろん職域接種や大学接種、更には一度感染経験のある人にはある程度抗体があるだろう。けれども「出来れば9月、遅くとも10月には国民全員がワクチン接種を完了したい」とする菅総理大臣の希望的観測が、河野大臣が発した「ワクチン不足のため一定の自治体への供給停止」というリアルで不可能な形に変化した今、ワイバンの参加者全員が接種済みという可能性はゼロになった。この時点で炎天下でのマスク着用は元より、アクトごとの観客入れ替えや度重なる入退場、当然飲食は限られた場所で……。と多くのレギュレーションが付加されるのは確実になった。


ただそれ以上に重要なのは、こうした状況下でフェスが開催されることの意義についてである。これまでも様々な記事で個人的に記してきたが、この時期にフェスを開催する必然性というのは実はほとんどない。キャパは半分でステージ数も減り、しかも多くの制限を課すことが必然な今年を鑑みても、採算的にも動員的にも満足度的にも、絶対に今年は開催を諦めて2022年にシフトするのが得策な筈なのだ。では何故主催側は頑なにフェスを敢行しようとするのか。その答えはひとつしかない。そう。音楽を愛する我々のことを思ってのことである。


「不要不急の外出は自粛しましょう」と、我々はこの1年半に渡って耳にタコが出来るほど毎日聞いてきたはずだ。外食も娯楽も、果てはそれらに当たらない日常生活において普通の出来事も今はやめておこうと、特段代わり映えのない毎日を過ごしてきた人は多い。ただ不要不急の活動を制限した代わりに、やはり「音楽は不要不急ではなく『有要有急』なのだ」との思いに至った人もおそらく同程度いるのではないか。ならば音楽の未来を次に繋げるために奔走しよう、と決意したのが、ワイバンも含めた今夏開催を考えているフェスの思いなのだ。どれだけの赤字を被っても、今やらなければ音楽市場は完全に死んでしまう。これは別に批判している訳ではないのだけれど、昨年以降はコロナの蔓延と同じ時期から、顔を隠してYouTubeやインターネット上で台頭する個人アーティストや、果てはオンラインライブで人気を博す新進気鋭のアーティストが注目されがちだが、やはり生で直接音楽を届けることの素晴らしさを今伝えなければ、どんどんライブシーンもオンラインに切り替わってしまうし、アーティストもネット中心の若手に入れ替わってしまうし、我々が思い描いている「モッシュも出来て声も出せて、暴れ狂うライブ」は何年も先の話になってしまうのだ。だからこそ今は制限はあれど、絶対に開催だけはしなければという思いを抱えたワイバンに、特にライブシーンに恩恵を受けてきた我々だけは味方しなければならないとも思うのだ。


ここまでつらつらと記してきたが、実際これからのワイバンの動きがどうなるかは分からない。2週間後に迫った東京オリンピックで感染が爆発すれば中止は避けられないだろうし、先日のロッキンのように開催直前でありながら医師会に中止を進言される可能性だってある。ただ我々は長らく音楽のない季節を過ごし続けてきたし、音楽は確かに発達を遂げた一方でフェスシーンは衰退の一途を辿ってきたのも事実。今年もフェスのない夏を過ごすのかどうか、それは我々の心構えにも大きく左右される。ならば未曾有の状況下でも、我々だけは願い続けようではないか。最高の夏フェスの到来を。

 

RADWIMPS - 愛にできることはまだあるかい [Official Music Video] - YouTube