こんばんは、キタガワです。
『ホワイトアルバム』再評価とサブスクDL数爆増と、海外で突如巻き起こったビートルズブーム。その再燃の火付け役とも称されるのが、今回観賞した映画『イエスタデイ』である。
ポスターの写真やタイトルを見れば一目瞭然だが、今作は伝説のロックバンド・The Beatlesに焦点を当てた作りとなっている。端的に表現するならば、昨年QUEENを題材に世界的ヒットを記録した『ボヘミアン・ラプソディー』とほぼ同じ系統だ。
物語は10年以上に渡って泣かず飛ばずの無名ミュージシャン・ジャックが、とある事故を契機とし「ビートルズを誰も知らない」というifの世界線に進んだことから幕を開ける。“Yesterday”、“Help!”、“Let It Be”……。かの名曲を自分以外の誰もが知らない世界で、主人公は藁にもすがる思いでビートルズの楽曲に手を出し、一躍スターダムへと駆け上がる、というのが今作の主なあらすじである。
言うまでもなく、今作の肝となるのはビートルズの楽曲群。映画内では物語のキーとなる箇所はもちろんのこと、日常シーンにも往年の名曲が流れ、没入感を引き上げる。
少し話は逸れるが、現状CD音源としてリリースされているビートルズの曲というのは、総じて音が良くない。これに関してはCD自体が1960年代に制作されたものなので仕方のないことではあるのだが、ボーカルが右側、楽器隊が左側のみで聴こえるというその特異なサウンドは、かねてより大きな違和感として存在していたのも事実だ。
だが今作で流れるビートルズの曲は全て新規リマスター音源。必然臨場感も段違いであり、爆音で流れる名曲の数々には、慣れ親しんだ人であっても驚くこと間違いなしだ。個人的にはあるシーン以降、ビートルズの曲が絶えずクリアな爆音で流れてくる時点で「こりゃすげーわ」と思ったものである。
しかしながら今作『イエスタデイ』において、僕には一種の懸念事項があった。それこそが後半からラストにかけての展開である。『ビートルズの曲をそっくりそのまま演奏して陽の目を浴びる』という一見輝かしいシンデレラストーリーにも思えるシナリオだが、その非人道的な行動の数々には疑問が浮かぶ。
映画のみならず、映像作品やゲーム等を観ていて思うことだが、伏線とストーリー展開を有耶無耶にして「俺たちの戦いはこれからだ!」と打ち切りになる漫画よろしく、昨今は突拍子もなく終わる作品が多くなってきている印象が強い。ゲームで例えるなら『FF15』『龍が如く6』辺りがそうだが、「内容が適当でもブランドイメージである程度売れるだろう」と製作された物には、嫌悪感を抱いてしまう。総じて作るならしっかり最後まで作ってくれよと、そう強く思うのだ。
だからこそ開始30分で頭に浮かぶ「盗作なのでは?」「ビートルズに対しての侮辱では?」「それはミュージシャンとしてあるまじき行為なのでは?」という数々の疑問に対し、僕はずっとヒヤヒヤしていた。だからこそもしもこれらの疑問(伏線)を無視して冗長なラストを作り、ただビートルズの曲を流して最後を迎えるのならば、僕は問答無用で駄作のレッテルを貼るつもりだった。
けれどもそれらの思いは杞憂に終わり、最終的にはそれらの疑問をほぼ消し去る、スッキリしたラストを迎えた。正確には、全く粗がないわけではない。多少強引な展開もあるし、よくよく考えると「ん?」となる場面も存在した。しかし総合的に極上のエンターテインメント作品として大団円で終幕するその作りには、ネガティブな点以上に「面白かったなあ」との気持ちが圧倒的に上回るのだ。
加えてビートルズを知っている人であればニヤリとする場面も随所に取り入れられ、ビートルズファンに対してのリスペクトも完璧。ビートルズを知らない人には「CD聴いてみようかな」という思いに駆られるだろうし、元々ファンである人にとってはコレクションにもなり得る、愛に溢れた名作であった。
『ボヘミアン・ラプソディー』は大衆に受け入れられ、結果的にQUEENの何度目かのブレイクに繋がった。『イエスタデイ』も同様に、この映画を契機としてビートルズへの注目が高まることを、切に願っている。……あわよくば、今までビートルズに触れてこなかった若者たちの第一歩となれば。
ストーリー★★★★☆
コメディー★★★☆☆
配役★★★★★
感動★★★☆☆
エンターテインメント★★★★☆
総合評価★★★★☆