キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

映画『浅田家!』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。


この世に生を受けた人間誰もが最も密接に関わらざるを得ないコミュニティ……それ即ち『家族』であるという事実は、誰もが共感して然るべしだろう。無論家族は大半の人間にとっての大切な存在のひとつであろうが、もしも某かの契機によって関係が悪化・修復不可能な域に達してしまえば、その影響力の高さ故に人生自体が破綻しかねない程の重大な回避不能事項としてガッチリ固まってしまうこともある巨大な足枷としても確立している事実も同様に、誰もが知るところだ。

 

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今回鑑賞した映画『浅田家!』は正に上記の家族関係に徹底してスポットを当てた人情映画で、具体的には二宮和也演じる主人公・政志が家族全員を巻き込んでそれぞれのやりたかった事やなりたかった職業を具現化するという稀有な写真撮影を経て評価され、家族ともども成長する姿が鮮明に描かれている。


なおこの映画は、現実社会で写真家として活動する浅田政志が出版した写真集『浅田家』と『アルバムのチカラ』を原案としている。そのため今作『浅田家!』はオリジナルストーリーの長編映画の様相を呈すると同時に、ある種のノンフィクション作品であるとも称することができ、事実映画の公式サイト中にて展開されている『浅田家!写真展』では、物語の核として劇中で幾度も撮影された写真の数々が、実際に撮影された浅田政志による撮影写真と酷似……と言うよりは完全再現に振り切って撮られていることがはっきりと分かる。


ここまで映画の概要を列挙してきたが、結局はやはり『その映画が純粋に面白いと感じられるものであるか否か』という部分なのだけれど、これがなかなかどうして非常に良く出来ている。前半部分は浅田家の物語、対して後半部は被災地におけるボランティア活動が描かれているのだが、特に前半部の家族間のやりとりが笑いの端々に感動が襲い来る、言うなれば映画の教科書的なストーリー展開。そしてその全ての流れに無理がないため違和感なく心に侵入する点も、個人的な好評価に繋がった。


ただ前半の家族間の駆け引きに心捕まれたからこそ、後半の震災の話はやや蛇足というか、新規に登場する多くの人々然り長らく家族の描写が失われる展開然り、2時間の尺を持たせるため引き伸ばした感も否めなかったというのが正直な気持ちだ。けれどもラストはしっかりとしたオチで締め、ズルズルと間延びした感覚は然程なかった点に関しては心底素晴らしいと思えたし、総合的に判断して良作であった事実は揺るがない。実際「もっとこうだったら良かったのになあ」という所謂たらればはどの映画にも言えることで、自分の好みを押し付けることほど野暮なものはないと思うので……。


ともあれ『浅田家』は総じて良作であると共に、おそらく映画という娯楽において最大の賛辞のひとつであるところの「映画館で観ることが出来て良かった」と思えた代物だった。個人的・かつ蛇足の話で恐縮だが、今回の映画は前記事で綴った映画『青くて痛くて脆い』上映前に流れた予告動画に興味を抱いたことが契機となっていたのだけれど、今やコロナウイルスの影響や動画配信サービス等の普及により『映画を映画館で鑑賞する』との行為自体が次第に縁遠いものとなっている現代、こうした良作の出会い自体が映画館で、また本能的な契機を経て鑑賞に至ることが出来る喜びを改めて感じ得ることが出来た、映画好き冥利に尽きる経験であった。個人の趣味嗜好や損得勘定如何では図れない素晴らしさが、やはり映画館には溢れているのだと再認識した重要な映画。感謝の極みである。


ストーリー★★★★☆
コメディー★★★☆☆
配役★★★☆☆
感動★★★★☆
エンターテインメント★★★★☆

総合評価★★★★☆

 


映画「浅田家!」予告【2020年10月2日(金)公開】