キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

行きたくても行かなかったチケット代を、結果的に3万円分失った話

総額にして3万円。3万円である。時給800円のアルバイトに当て嵌めれば休憩除いて5日分、仮に貯蓄に回せば精神的にグッと安定する大きな金額を、僕はこのただでさえ厳しいコロナ禍の時代に支払ってきた。用途はズバリ、ライブである。ただ結果として僕の大枚はたいて入手したチケットは霧散した。……何故なら僕はそれらのライブに、一度も足を運んでいないのだから。

今でこそ共存を余儀なくされる悪しき新型コロナウイルスが猛威を振るい始めたのは、思えば昨年の春頃のことだった。当時こそ東京都の観戦者数は100人を下回る日が続いてはいたが、原因不明のウイルスの驚異に人々は恐れ戦き、緊急事態宣言の発令が引き金となり、街からは人が消え、当然ながら多くのライブイベントは中止を余儀なくされた……というのは周知の通りである。

実際、タイトルに冠した『3万円』に当たる何割かはこのコロナ禍が今より更に絶望的な雰囲気で伝わっていた頃のライブについてである。当時(2020年3月~7月頃)開催予定だったライブは基本的に延期か中止の措置が取られ、対象となるライブチケットも同様に払い戻しとなることが多かった。なお『払い戻し』とは、ざっくり言えば現在発見済みで手元にあるチケットを最寄りのコンビニエンスストアに、もしくは電子チケットの場合はクレジットカード会社に連絡し返金の旨を伝えてチャラにする試みのことで、チケットの額面金額、各種手数料は実質的にほぼほぼ返金され、総じて実に良心的な対応であると言える。

ただここに分類されないものもいくつかあり、僕の場合はまず『ファンクラブの月額費』がこれに該当した。チケットというのはなるたけ良番を入手したいと誰もが願うことであろうが、最も手っ取り早いのが『ファンクラブ先行』を用いることだ。500円~高いもので1000円の月額の会員費こそ必要になるが、CM等で頻りに伝えられる『良い席はお早めに』の良い席はまずもってこの先行でしか取ることが出来ず、『ファンクラブ先行』『各種プレイガイド(ローチケ・イープラス・チケットぴあ)先行』そして『一般発売』と移行するライブチケットだが、実際ほぼほぼこのファンクラブ先行で8割方売り切ってしまうことも多い。だからこそ僕はこのファンクラブ先行を多用し、チケットを多々購入していたのだった。

しかしながら前述の通り、このファンクラブ先行の会員費は払い戻しの対象には一切当て嵌まらない。つまりは関ジャニ∞のチケットを得るために年間1万円超えのファンクラブに入ろうが、月額500円程度のファンクラブをいくつも登録して先行に応募しようが、極端な話で言えば先行応募した次の日に退会しようが、結果その会費は戻ってこないのである。まあこの末路に関してもしも席が後方になっても良かったり、そもそもチケットが売り切れる可能性のほぼないライブであったりもしたため、そもそも自分が仕出かしたミスでもある。

最も重大なのは『チケットを購入していながらも特段払い戻しの対応もされず、結果行けなかった』というもの。敢えて『行かなかった』としている点が、今も心の奥底で魚の骨のようにつっかえている部分でもあるのだが、とにかく。地方都市在住者の筆者にとっては、これが一番ネックだった。以下、1週間以内に行われたごくごく最近のライブに『行かなかった』出来事について書き記していきたい。

元々、今回のチケットの何枚かは今(2020年5月)から数えて約半年前にファンクラブ先行で入手したものだった。ただ当時は感染者が東京都で連日数百人を超えることこそザラだったが、地方では未だ感染が拡大しているとは言えず、筆者の住む都道府県だけで考えても長い間感染者の報告はなかった。そこで「ライブの開催は半年後」となれば「これは行けるかもしれない」と思うのはもはや必然であった。

月日は流れ、5月。結論から書くと、行く予定で動いていた半年前の時点で感染者がほぼ出ていなかった都道府県に、緊急事態宣言が発令されたためである。職場からも上から「不要不急の用件で緊急事態宣言が発令された場所には絶対に行くな」という半強制的な遠征禁止命令が出され、僕の遠征計画は瞬時に水泡に帰した。手元には約8000円のチケット。この日に備えて有給も取ったし、ホテルも予約済み。ファンクラブで取ったため手数料もかかる。半年前、なけなしの金をはたいて手にしたものは、結果単なる休日と化した。いや、ライブに行けないストレスを鑑みれば、むしろデメリットの方が大きいかもしれない。

そして何より辛かったのが、こうした状況にも関わらず払い戻しの対応が一切成されないことだった。公式アナウンスでは感染防止対策を徹底した上での開催を周知するものが大半であったが、もしも予期せぬ事態(緊急事態宣言)が発令された場合はどうなるか、またその際の対応については言及されず、実質的に売れたチケットは売れっぱなしの状態となっていて、そもそもライブに赴くにはほぼ他県から遠征、更には行きたいけれども行けないという状況下に置かれた数少ない人間の意見はほぼ見てみぬ振り、といった有様だった。中にはリセール(ライブに行けなくなった人がチケットを正規ルートで販売するシステム)を取り入れているアーティストもいるいはいたが、それはある程度有名どころのアーティストに限った話。そして勿論売買が成立しなかった場合は実質的に返金が成されないので、損することには変わりないのだ。

かくして僕は計5公演、金額にして総額3万円弱の『行かないライブチケット』を放棄した。これに関しては責任の多くは自分自身にあるし、間違いなく僕がライブに行かなかった関係上、当日のライブでは最前列に近い席にも関わらず空席が出来てしまったことについては本当に申し訳ないとも思う。ただ、元々の生活に余裕がない身としては失った金のことを考えてしまうことは仕方がないというもので、堂々巡りの果てに「もしこの3万円があったらなあ」とか、そんなことに着地してしまう感覚もあるのだ。

チケットの購入は自己責任。しかしながら新型コロナウイルスの突破的感染拡大の可能性があるにも関わらず、未だ払い戻しの敷居は低い現在。是正も求められているのではなかろうか。少なくとも、行きたくても行けない地方民からすれば。