キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

映画『パラサイト 半地下の家族』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。

 

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あの話題作『ジョーカー』を退け、韓国映画としては異例となる、アカデミー賞4部門独占という快挙を成し遂げてしまった『パラサイト 半地下の家族』を観た。


僕が『パラサイト』鑑賞に至った要因は、やはりアカデミー賞の存在が大きかった。昨年度も多くの映画を鑑賞してきた自負はあるが、個人的には『ジョーカー』と『イエスタデイ』、このふたつのどちらかがアカデミー賞を取るだろうなと思っていたため、今回大穴の『パラサイト』が受賞したことには驚きを禁じ得なかった。……総じてかねてよりの映画ファンを公言している僕としては、是が非でもこの目で確かめなければいけないと思ったわけだ。


しかしながら、鑑賞前からある種の懸念事項も頭をもたげていたことも否めない。二の足を踏む何よりも大きな要因となっていたのは、やはりこの映画が韓国映画であるという点。僕は別段韓国アンチではないにしろ、世界的規模で見ても韓流作品は『チャングムの誓い』然り『冬のソナタ』然り、どこか品行方正で絢爛華麗な雰囲気がある。更にはあの独特の言葉の羅列は耳で聴く分にも厄介で、実際問題『パラサイト』の冒頭では矢継ぎ早に吐き出される韓国語の数々に辟易してしまったのは、正直な気持ちとして存在した。


そうした事前情報を加味しての結論。個人的には早くも今年度の映画で断トツの1位。それどころか、過去鑑賞した様々な邦洋映画の中でも1.2を争う出来だった。もうこの時点で発表してしまうが、総合評価は文句なしの星5である。それほどまでの衝撃だった。


前半の展開は主にブラックコメディ。ネタバレに触れる事象なので明言は避けるが、例えるなら事故を起こした瞬間に「俺終わったわー」と自然に笑みが零れてしまったり、学年1位の人間が死んでしまった結果2位だった自分が1位に繰り上がったり、葬式中における念仏の発音を面白く感じてしまったり……。おそらく人道的には反しているが、しかし何故か面白いというある種の嫌悪感を伴った笑いが次々と起こる。言うなれば『笑ってはいけない笑い』。全体的に「よくこんなこと思い付くな」というか何と言うか……。ただひとつ間違いないのは、この脚本を書いた人間はとんでもなく性格が悪い。


そして後半では怒濤のクライマックスへと突き進んでいくのだがこれがまた痛快で、前半の伏線を高速で回収しつつ、おそらく前半部分で誰もが感じた今作のイメージは瓦解。恐るべきミステリーホラーの真髄を観ることができる。……全体通して発想の勝利というか、「映画でこんなこと出来るのか!」という驚きと称賛の雨が降る。


どうしても比較対象として浮かんでしまうのが、同じく2019年度に話題をさらった『ジョーカー』である。『ジョーカー』は徹底してアメリカに苦言を呈し、富裕層と低所得者層を対比させ、観るものに正義を考えさせるものだった。


対して『パラサイト』は、韓国における少しの問題提起こそあるにせよ、完全に『ジョーカー』とは違う名作として垂直に立っていた。けれども観賞後には名状し難い「何かヤベえ映画観ちゃった……」との感覚だけが頭を支配するこんな映画は間違いなくあと数年は現れないし、久々に度肝を抜かれた感覚を味わった。


狂気とコメディ、ホラーとミステリーという様々な要素をごった煮した意欲作『パラサイト』。この映画を観ずして2020年の映画は語れない。頭をハンマーで殴られたような衝撃は、ぜひ劇場にて経験してほしい。


ストーリー★★★★★
コメディー★★★★☆
配役★★★★★
感動★★★☆☆
エンターテインメント★★★★★

総合評価★★★★★

 


第72回カンヌ国際映画祭で最高賞!『パラサイト 半地下の家族』予告編