キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】でんぱ組.inc『Dear☆Stageへようこそ2021』@豊洲PIT

こんばんは、キタガワです。

 

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『でんぱ組.incが10名体制に』……。去る2月16日、同会場にて行われた久方ぶりの有観客ライブ『ウルトラ☆マキシマム☆ポジティブ☆ストーリー!! ~バビュッといくよ未来にね☆~』のアンコールで発表され大きな話題を呼んだニュースから早3か月。でんぱ組.incが新体制になって初のワンマンライブ『Dear☆Stageへようこそ2021』が満を持して開催された。


定刻を少し過ぎて暗転すると、ふとバックで流れ始めたのはこの日を象徴するナンバー“Dear☆Stageへようこそ♡”。世紀末の世の中、冴えないサラリーマンである田中がディアステージ(でんぱ組.incがかつて活動拠点としていたライブバー)に辿り着くまでの語りが続く中、スポットライトが突如照らしたのは最年少14歳の新メンバー・高咲陽菜(ひなちゃん)で、そのストーリーに沿うようにステージ上をさ迷い歩いている。観客の誰しもが意味深長なステージに目を凝らすのも束の間、メンバー全員による「ディアステージへ、ようこそー!」との声が響き渡ると、ステージが一気に明点。そこには高咲の他、お馴染みのメンバーである相沢梨紗(りさちー)、藤咲彩音(ピンキー!)、鹿目凛(ぺろりん)、根本凪(ねも)に加え[注:古川未鈴(みりんちゃん)は産休のため欠席]、新メンバーの愛川こずえ(こずこず)、天沢璃人(りと)、小鳩りあ(りあぴ)、空野青空(あおにゃん)がお目見え。アイドルのライブに相応しい、キラキラとした雰囲気で会場を彩っていく。


“Dear☆Stageへようこそ♡”は今までのでんぱ組.incのライブでも幾度となく披露されてきた楽曲ではあれど、一挙増員し10名体制となった大所帯でのダンスはやはり壮観で、目にも楽しい。サビ部分では多数のペンライトが掲げられたが、その中には早くも新メンバーのカラーに染められたものも多々。後のMCにて新メンバーの面々は口々にライブ前に酷く緊張していたことについて語っていたけれど、蓋を開けてみれば全くの杞憂だ。言うまでもなく、ここまでの親密な関係性はこれまで変化を続けながら突き進み続けてきたでんぱ組.incだからこそで、この時点でライブの成功はほぼ確定したと言えよう。


10名の新体制となった一発目のワンマンライブである関係上、今回のライブで誰しもが注目していたであろう事象は大きくふたつ。ひとつは既存曲の数々がどのようなアレンジで披露されるのか。そしてもうひとつは、新たなでんぱ組.incそのものの是非である。中でも後者は言葉を選ばずに言えば、よもやの発表で多くの混乱と困惑を生んでしまった故に、今後長く活動を続けるために今回のライブではある種の『説明義務』がほぼ必須。そうしたことを踏まえて今回のライブは結論から書くと、ファン誰しもの思いに完全に答えた素晴らしいライブだったと言わざるを得ない。人数が増えたことで奥行きが広がり、よりアグレッシブさを増したアレンジて魅せたのはもちろん、何より新体制のでんぱ組.incの在り方はMC以上に、その凄まじい練習量を感じさせる決意を秘めたステージングで間接的に伝わってきた。総じて今後のでんぱ組.incは安泰であると、そう心から感じることのできた大切な一夜であったのではないか。

 


猛然と駆け抜けた“破! to the Future”とここで来たか!的でんぱ組.incお馴染みのアンセム“Future Diver”が披露されると、この日初となるMCへ。まずは全員が横並びになった状態でグループのリーダーである相沢が「皆様、いらっしゃいませ!ディアステージへようこそー!」とこの日ならではの開幕を宣言し拍手喝采を一身に浴びると、この日は本来の豊洲PITの収容人数の半分以下に抑えた1116名が来場していることに触れ「こうした状勢の中来てくれて、本当にありがとうございます」と感謝の思いを述べる。以降は古川を除いた総勢9名によるメンバー紹介に移るのだが、古くからのメンバーはともかく新メンバーはそれぞれ言葉も訥々としていて、若干緊張気味だ。ただ早くも客席には新メンバーが語るたびに多くのペンライトが掲げられていて、徐々に緊張も緩和。結果全ての新メンバーが突発的に「ありがとうございます!」と感謝を伝える、素晴らしい環境だ。そして鹿目が「以上、未鈴ちゃんを含めた10人と、ここにいるみんなででんぱ組.incです!」と告げると会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こり、次いで根本が「私たち、たくさん練習して最強になってきたので。その姿をぜひ目に焼き付けてください!」と語ると、ファン垂涎のナンバーを連続投下。

 


今回のライブは新体制初のワンマンライブとして注目が集まっていたことは前述の通りだが、セットリストの観点で言えばかつては多くライブで披露されつつも、年月の経過と共にセットリストから徐々に外れていった楽曲を多数披露したよもやのライブでもあった。その中でも取り分け前半の印象部として映ったのは、イントロの時点でファンの多くが思わず声を漏らした“VANDALISM”と“ファンシーほっぺ♡ウ・フ・フ”の2曲で、“VANDALISM”では全員が縦一直線に並んでのダンスに加えて小鳩バッター、根本キャッチャー、高咲球審の新たな形の野球スタイルでサビ前を彩り、“ファンシーほっぺ♡ウ・フ・フ”では高咲がメインボーカルを担っての歌唱など、まるで長いでんぱ組.incの歴史を新時代に引き継ぐような編成に、思わずグッと来る。


そして今回のライブで特筆すべきはやはり、ユニットで披露されたレア曲の数々だろう。先陣を切ったのは相沢と空野による予期せぬコンビで「ここで心機一転と言いますか、ゼロから新しいストーリーを一緒に作り上げていけたらなと思います」との一言からクールに“Truth of the ZERO”を。『古き良きでんぱ組.incの曲を届ける』をコンセプトに冠したチャペの泉(藤咲&小鳩&愛川)はハチャメチャな様相で“わっほい?お祭り.inc”と“ナゾカラ”、“ムなさわぎのヒみつ?!”を。もはやでんぱ組.incのスピンオフユニットとして確立しつつある仲良しコンビ・ねもぺろ(根本&鹿目)はキュートに“しゅきしゅきしゅきぴ♡がとまらないっ…!”、“ベイビー♡ベイビー”をそれぞれお届け。なお単純なグループ分けをしただけでは決してなく新体制ならではの試みも随所に取り入れられていて、例えば“Truth of the ZERO”では相沢が本メロ、空野はコーラスと上手くパートが区分されていたり、チャペの泉による“わっほい?お祭り.inc”では3人横並びで手を繋ぐ一幕で藤咲が中心となっていたりと、先輩が後輩を先導するような形になっていたのも印象深い。後のMCで根本と鹿目は「先輩が教えるのはもちろんだけど、後輩の頑張りを見て逆に私たちが教えられることもある」というようなことを語っていたように、既に新たなでんぱ組.inc内で双方向的な良い関係が築かれている故なのだろう。

 


熱狂そのままにライブは後半戦に突入。暗転した会場にカッと光が射し、新衣装に身を包んだ9人が一同に介する。満を持して披露されたのは、2月16日にも新曲として披露された新生でんぱ組.incの誕生を告げたナンバー“プリンセスでんぱパワー!シャインオン!”だ。初披露時、ミュージカルを彷彿とさせるそのでんぱ組.incらしからぬサウンドで衝撃をもたらしたこの楽曲は1番、2番、そして最終部で大きく異なる構成となっているが、何より印象深いのは楽曲内で歌われるでんぱ組.incへの加入という夢を叶えた新メンバーと、問答無用で現実の厳しさを突きつける既存メンバーの対比であろう。1番の歌唱を担うのは新メンバーの面々で、夢にまで見たプリンセスになることが出来た(=でんぱ組.incの新メンバーとなった)ことについて、屈託のない興奮と感動を爆発させていく。楽曲自体も彼女たちを祝福するようなきらびやかな代物で、ここまでは一貫してポジティブな内容……と思いきや《さあ 始まり!》との言葉が切り裂けば一転、サウンドも歌詞もアッパーなものに変化。《夢が叶った?/はい おめでと!》と一蹴する開幕、《夢が叶っただけでハッピーエンド/そんなわけないっしょ! 》《「王子様が幸せにしてくれる」/そんなの幻想!》というサビらしからぬ痛烈な宣告……。まるで新メンバーによる『憧れの場所』の希望をひとつひとつ潰していくようなリアルを、強制的に見せ付けていく。この日のライブの当事者としては唯一、最も古いメンバーでもある相沢による《変わることは変わらないためだから/もう 恐れない》のフレーズにもあるように、変わらない良さもあれば変わる良さもあって然るべきで、彼女たちはそんな中である意味では変わる選択をした。その深意は一貫して『でんぱ組.incをこれからも続けていくため』。……こと昔話のプリンセスは清楚端麗な姫が描かれがちだが、現代に生きる泥臭く愚直なプリンセス・アイドルたる新生でんぱ組.incは、きっと何よりも強い。


以降はクライマックスに突き進まんとばかりに、アッパーソングの連続だ。後のMCにて「お店のBGMで(この曲が)流れてて凄く良いなと思ってた」と回顧した天沢がメインを張る“惑星☆聖歌 ~Planet Anthem~”を皮切りに、曲間に高咲と天沢がでんぱ組.incをイメージしたロゴをあしらった巨大旗を持ち込み、ステージ上部でたなびかせた“ファンファーレは僕らのために”、コールが出来ない代わりにファンが手拍子でリズムを刻みコロナ禍ならではの感動を生み出した“でんぱれーどJAPAN”、原曲における『6人』の歌詞が《10人と地球にいるみーんなででんぱ組.incです!》に切り替わり新たな風を吹かせた“愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ”……。増員した真骨頂とも言える、よもやのアレンジで突き進む展開に会場は興奮の渦に包まれる。確かに若干混雑している感覚も否めない部分はあったが、おそらく今回9人体制で披露された楽曲は今後ライブで定番化する楽曲にもなるだろうと推察するため、回数を重ねれば間違いなくファンの見方も変わる。もう何ヵ月か後のことではあろうが、その第一歩とも言うべき重要な足掛かりが今回のライブであったと気付くはずだ。

 


そして暗転の中助走的なBGMに新曲のイントロをも携えた最新型の“電波良好!”をバックに、不明瞭ながらメンバーが配置に着く。本編最後の楽曲は“プレシャスサマー!”である。猪突猛進的と称して差し支えないどしゃめしゃなサウンドに乗り、メンバーは息継ぎもままならない程の歌唱とハイカロリーなダンスで魅せ、ファンの掲げるサイリウムは場面場面でダンスの動きとコールに合わせて揺れる揺れる。なお成瀬が脱退しセリフを1ヶ所変えざるを得ないという関係上、おそらく誰しもが注目していたセリフパートは「今年もステイホームかなー」と嘆く高咲をよそに相沢が「あおにゃんプール好きそうだよね!」と空野に振り、メンバーがひとりふたりと賛同。直後のアイスを望む根本の一幕も天沢が「じゃあ買ってこよっか?」とする形に変化。他にも楽曲途中に虹のコンキスタドール(根本がでんぱ組.incと兼任するアイドルグループ)の“かちとばせ!栄光のレインボー”の振り付けが取り入れられていたりと、これまで披露された既存曲全体を鑑みても取り分け新たなでんぱ組.incを想起させる楽曲に仕上がっていた。披露前には「次が最後の曲です」といった発言こそなかったため、ともすれば消化不良感の残る盛り上がりになる可能性さえあっただろうが、“プレシャスサマー!”は全くそんなことはなく、ファンもでんぱ組.incも全員が一体化してのパフォーマンスで猛然と駆け抜け、終了後は相沢が号令をかけての「以上、萌えキュンソングを世界にお届け!でんぱ組.incでしたー!ありがとうございましたー!」と感謝を表し、本編は幕を降ろした。


メンバーが退場してから間もなくし、示し合わせるでもなくファン一丸となっての手拍子で再度呼び込まれたでんぱ組.inc。まずは相沢が「新体制初のワンマンライブ、いかがですかー!」ともはや答えるまでもない幸福な質問をぶつければ、メンバーが着用する新衣装について触れ「未鈴ちゃんのやつも用意してる」とし、残念ながら産休中で欠席となってしまった古川へ「元気な赤ちゃん産んで、早くここに戻ってきてねー!みんな!未鈴ちゃんにエールを送ろう!」と、ファンはサイリウムの色を赤(古川のメンバーカラー)に変化させ頭上で大振り。正にライブの冒頭、鹿目が語った「未鈴ちゃんを含めた10人と、ここにいるみんででんぱ組.incです!」を体現した感動的な光景が眼前に広がっていく。


高咲が独特のリズムを取ってアンコール1曲目に披露されたのは、先日発売された両A面シングルから“千秋万歳!電波一座!”。でんぱ組.incの人気を確立したアッパーソングを地で行く圧倒的な言葉数とシンセサウンドが、本編の終了と同時に一旦ブレイクした興奮を一気に再燃させていく。どしゃめしゃなサウンドにまみれながら歌われる内容は両A面に冠されていた“プリンセスでんぱパワー!シャインオン!”と同様に新生でんぱ組.incについてだが、“プリンセスでんぱパワー!シャインオン!”が新メンバーに焦点を当てていたのに対して“千秋万歳!電波一座!”は取り分け『でんぱ組.incそのもの』を描いていて、中でも《まだまだ本命 わちゃわちゃ存命/ピリオドを打つ気はないさ》《賛否どうぞいっぱい アンチごと take you high/さあ猫も杓子も楽しもうぜ》といったサビのフレーズは並々ならぬ決意を間接的に表した一幕のようにも感じられた。


ダンスに関しても今までのでんぱ組.incの楽曲と比較しても沸点突破の様相を呈していて、某お笑い芸人のネタをオマージュした冒頭の歌詞然り、鹿目が軽やかに踊るシーンを他のメンバーが真顔&直立不動で見詰めるCメロ前然り、藤咲が相沢にスカートをめくられてから放たれる《取り乱しました》の一幕然り、ユーモアもたっぷりで面白い。他にもその激しさのあまりマイクが幾度もぶつかったり、勢い余ってバランスを崩した空野が笑顔でメンバーに助け起こされたり……。その楽しげな姿からは、これから先の困難を感じさせる素振りは微塵もない。今回のライブでは総じて新生でんぱ組.incの圧倒的な練習量やネクストステージへの展望を見ることが出来たけれど、最後に《聞き分け悪くてごめんなさいね まあ to be continued ってことで》と締め括られたこの楽曲で、僕はでんぱ組.incの無敵性を特に強く感じたのだった。


正真正銘ラストに披露された“イツカ、ハルカカナタ”が終わると、緩やかに点いた客電。ただ「本日の公演は全て終了いたしました」と終了を告げるアナウンスの目下、エンドロールのように流れる“秋の葉の原っぱで”を聴きながら、数十秒間に渡ってファンは立ち上がることなく拍手を送り続けていた。……今回集まったファンはでんぱ組.incに心酔する人は当然としてその他インタビュー記事などで新メンバーを応援したくなった人、はたまた「生まれ変わったでんぱ組.incの初ワンマンだけは観なければ!」と意気込んで参加した人など各自様々な思いを携えていたものと推察するが、今回のライブは結果どこまでも我々が思い描くでんぱ組.incそのものだった。


秋葉原のオタクが集まって結成されたでんぱ組.incという小さなアイドルグループ。様々な幸福を経験した一方で、所謂『黄金期』と呼ばれるあの頃から数えると今や結成当初からのオリジナルメンバーは遂に古川ただひとりとなり、何歳も年下のメンバーが一挙に増え、およそどんなアイドルグループより異質なものとなった。そんな中で『でんぱ組.incはこうだ』という一貫した意思表示が今回のライブでは窺えた気がする。新体制初のワンマンライブを大成功で終え、アイドル戦国時代を装いを新たに奔走する彼女たちの次なるアクションは再びファン誰しもを虜にし、また意外性ある一手となるに違いない。


【でんぱ組.inc@豊洲PIT セットリスト】
Dear☆Stageへようこそ♡
破! to the Future
Future Diver
ちゅるりちゅるりら
VANDALISM
ファンシーほっぺ♡ウ・フ・フ
あした地球がこなごなになっても
Truth of the ZERO[相沢&空野]
わっほい?お祭り.inc[チャペの泉(藤咲&小鳩&愛川)]
ナゾカラ[チャペの泉(藤咲&小鳩&愛川)]
ムなさわぎのヒみつ?![チャペの泉(藤咲&小鳩&愛川)]
しゅきしゅきしゅきぴ♡がとまらないっ…![ねもぺろ(根本&鹿目)]
ベイビー♡ベイビー[ねもぺろ(根本&鹿目)]
プリンセスでんぱパワー!シャインオン!(新曲)
惑星☆聖歌 ~Planet Anthem~
ファンファーレは僕らのために
でんぱれーどJAPAN
愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ
電波良好!
プレシャスサマー!

[アンコール]
千秋万歳!電波一座!(新曲)
イツカ、ハルカカナタ

[エンディング]
秋の葉の原っぱで

 

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