去る6月某日、神聖かまってちゃんとでんぱ組.incのツーマンライブ『でんぱをかまってちゃん“星降る引きこもりの夏休み”』が、有料ライブ配信のいちマーケットとしても著名なZAIKOにて有料配信された。今記事では約2時間にも及んだライブの後攻、でんぱ組.incのレポートを記す。
思えばでんぱ組.incは5月上旬から中旬にかけて、4月15日にリリースされた自身6枚目となるフルアルバム『愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ』を携えて全国6箇所のライブハウスを回る全国ツアー『THE FAMILY TOUR 2020』を開催する予定だった。けれども収束の兆しが見えないコロナウイルスと政府の緊急事態宣言発令により、已む無く全公演の中止を決定。ライブハウスでのライブの機会は失われてしまった。無論、その後のでんぱ組.incの活動が一切無かったわけではない。過去行われたライブ映像の無料公開やメンバーそれぞれが動画編集・アップを担うYouTubeチャンネル開設、果ては中止となった全国ツアーの代替として行われた『THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE』など様々なアイデアを駆使し、この限られた状況下にあっても活動の炎を絶やすことはなかった。そんな中、やはりグループとしてではなく個人の活動を主とするこの数ヵ月は若干の寂寥を覚えたのも正直な気持ちとして存在し、実際でんぱ組.incが一丸となって臨んだ前述の『THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE』でもソーシャルディスタンスの観点から各自が別々の場所で歌い、更にはダンスパフォーマンスなし、歌唱オンリーという特異な形で進行するに至るなど異例なライブ形態を打ち出していた。そう。この日のパフォーマンスはもはや『久方ぶりのライブ』とのベクトルで括られる類いの配信ではもはやない。あの数ヵ月前のようにメンバー全員が歌い踊ると共に、今のでんぱ組.incの精神性をリアルタイムで視認することのできる、極めて重要な一夜でもあったのだ。
ゲームの城下町チックな壮大なSEを経て、運命的なライブはその幕を開けた。暗闇に包まれるステージが大写しになる中、事前に録音された「せーの!でんぱ組.inc、はーじまーるよー!」とのメンバー全員による一言から一斉に照明が点けられてスタートした記念すべき1曲目は、疾走感溢れるライブアンセム“ギラメタスでんぱスターズ”。
《ぶかっこうでも 光れ/どうぞ ごちゃごちゃって言ってちょうだい/太陽フレアな炎上だって上等だ/丁々発止 生きれ/万物は流転してくもんさ 転がんのやめたら生ゴミ確定よ》
今でこそでんぱ組.incの代表曲となった“ギラメタスでんぱスターズ”であるが、発売当初はあまりに激しい逆風を突き進む、言わば『その後』に至るでんぱ組.incとしての決意表明の側面が強かった。記憶を辿れば、主要メンバーであった最上もがが脱退を表明し、その数ヵ月後に新メンバーとして根本凪と鹿目凛の加入が公式発表され、そうした混乱の渦中に発表された楽曲こそが“ギラメタスでんぱスターズ”だった。実際6人だったメンバーが5人に、そして根本と鹿目の加入で一気に7人体制(後に夢見ねむの脱退で6人)となったごく短期間でのメンバーの増減は当時SNS上でも賛否両論を巻き起こしていて、焦燥的に次のステップに向かおうとする切り替えの早さを問題視する声さえあった。そうした状況に陥りながらも、“ギラメタスでんぱスターズ”は「それでも前に進み続けるんだ」とのでんぱ組.incの並々ならぬ思いを体現した楽曲として、ふたりの新メンバー加入後は積極的にライブの幕開けを飾る楽曲として披露されるばかりか、以降のライブにおいてもほぼ例外なくセットリスト入り。結果今ではでんぱ組.incを語る上で欠かせないナンバーとして完全に受け入れられている。
そんな様々な思いが内在する“ギラメタスでんぱスターズ”はメンバーそれぞれが強い決意に満ち満ちている印象すら感じさせ、開幕の相沢梨紗による「いくぜー!」との絶叫を皮切りに右へ左へと縦横無尽に駆け巡るダンスと決して口パクではない渾身の生歌でもって、1曲目ながらロケットスタートを切るが如くのフルスロットル。
その後は横一列に並んでの「萌えキュンソングを世界にお届け!でんぱ組.incでーす!よろしくお願いしまーす!」とのライブでお馴染みとなった一言から、長尺のMCタイムへ。まずは全員で今回のタイトルを叫ぶと「いやー、かまってちゃんのライブ最高だったね」という古川未鈴の一言から、相沢は「メンバー以外とこうやって何か出来るのが本当に久しぶりすぎて……」と思いを滲ませる。そして「我々も久しぶりの歌って踊るステージなので緊張もしておりますが、凄く今日という日を楽しみにしておりました。皆さん今日は最後まで、よろしくお願いしまーす!」との古川渾身の開幕宣言でもって、静かな舞台に明らかな熱が生まれていく。……その間も興奮が抑えられないのか、成瀬瑛美がハイテンションに「やったー!とうとうきたー!」などしきりに声を上げていたり、メンバーひとりひとりが一様に笑顔を浮かべていたりと、何よりも彼女たち自身が、久方ぶりのライブ空間を全身全霊で楽しんでいる印象を受けた次第だ。
上記のハートフルな流れからは、ライブ恒例となる自己紹介へと移行。総勢6人にも及ぶ全員の自己紹介を綴ると全体のテキスト量を大きく圧迫するため、全容を記すことは割愛するが、成瀬がライブタイトルを盛大に間違う、藤咲彩音が「じゃあ私はこっち行きますか?ここら辺でいいですかー?」とカメラの位置を確認したにも関わらず、画面に映る映像はメンバー全員を捉えた定点カメラから長時間動かない、鹿目がライブを鑑賞しているファンに向けて「今観てる……よね。……感じてる?」との意味深な囁きを繰り出すなど総じて噴飯もので、その都度突っ込みが入り和やかなムードと化していく一幕も含め、メンバー間の仲の良さを改めて感じさせた。今回のライブは無観客ということもあり、普段のライブでは自己紹介の後に自然発生的に叫ばれる「せーの、○○ー!(みりんちゃーん、ピンキー、りさちー、など)」のコールは残念ながら消滅していたものの、その代替としてメンバーが男性さながらの低音ボイスでコールを行うなどオンラインライブならではの試みも取り入れられ、この未曾有の無観客ライブを成功に導くための様々な趣向が凝らされていたのも興味深い。
なお今回のライブはセットリストの大半をニューアルバム『愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ』収録曲が担っており、その途中途中にでんぱ組.inc屈指のライブアンセムを配置するという、ニューモードかつハイカロリーなものとなっていた。そのため今回のライブは大半の人間が初見となるニューアルバムの楽曲におけるパフォーマンスにおのずと注目が向けられる形であったのだが、中でも度肝を抜かれたのは、3曲目に披露された“もしもし、インターネット”。
この楽曲でとりわけ印象的だったのは、リアルタイムで映像を挟み込む美麗なVJだ。今回の照明やVJ、映像演出は数あるアーティストの映像演出を手掛けるユニット・huezが手掛けるということは事前情報として認知してはいたものの、実際に目の当たりにすると想像を越えた異次元の領域で、具体的にはライブハウスから夜の高層ビルが建ち並ぶ映像にスイッチし、その後は各メンバーが出現と消滅を繰り返し進行していく。その類い稀なる映像は楽曲が進むごとに更に迫力を増すばかりで、楽曲後半にはプログラミング言語や多数の数字がもたらす高速のカウントダウン、果ては謎の中年男性の潜在写真が点在するカオスな映像にシフト。でんぱ組.incのパフォーマンスと完全にシンクロした四次元的な映像美に思わず息を飲む、オンラインでしか成し得ない、極上のエンターテインメント空間がそこにはあった。
「今日はかなり熱めのセトリを持って来ておりますので」と中盤で古川が語った通り、以降はライブで盛り上がりを加速させる役割を担っていたキラーチューンを惜しみ無く披露する怒濤の展開に。新体操を思わせるリボンを繰り出しての“でんでんぱっしょん”、先日誕生日を迎えた神聖かまってちゃんのフロントマン・の子(Vo.Gt)を祝いつつ梅雨のジメジメとした雰囲気を吹き飛ばした“プレシャスサマー!”、オートチューンで声質を変化させ、ソウルフルな歌唱で各自のボーカルとしての側面を前面に押し出した“形而上学的、魔法”、地面に倒れ込んだ藤咲が右腕を天に突き上げ、指を折り畳むごとにひとりふたりとメンバーが崩れ落ちた果てに藤咲がムクリと起き上がるサスペンスドラマ的な衝撃のラストを迎えた“おやすみポラリスさよならパラレルワールド”……。その一連の流れは言わば曲ごとにハイライトを更新するような圧巻のパフォーマンスであり、思わず画面を凝視してしまうほど熱量のこもった代物であった。今回のライブが何故ここまでポテンシャルの高いものなったのかと言えばもちろん、彼女たち自身が久方ぶりのライブであったためというのがひとつの大きな理由であろう。だが加えてダンス練習やライブ、全国ツアーの開催さえ奪われた失意のコロナ禍においてまるで溜め込んだ何かを発散するかのように感情を露にするメンバーはあまりに肉体的で、心からの喜びに満ち溢れているようにも見えた。
藤咲以外のメンバーが倒れ込んだ“おやすみポラリスさよならパラレルワールド”のある種シリアスな状況からは、おずおずと「……ありがとうございまーす!」とカメラの前に進み出たメンバーたち。直後互いの顔を見合わせてMCに突入した古川は「やっぱオンラインライブだからさ、いつもだったら(曲が終わった後に観客の)『ウオオオ!』みたいなのが入るじゃん?で、『はい!ありがとうございましたー!』って入れるんだけど、今日はやっぱ無観客だからさ、バンと終わってもさ、『(しばらくの沈黙)……ありがとうございます』みたいな。だからこれをやって思うのは、まあ今日は今日で楽しいんだけども、やっぱりみんなの声っていうのがいかに大事で、そしていつもどれほど助かってるかっていうのが身に染みて分かる訳なんですよ」とストレートな思いを吐露。歓声もレスポンスも聞こえない完全無観客で行われた今回のライブはあえて口には出さないまでも、やはりメンバーそれぞれが若干のやり辛さを抱えていたのだろう。古川が一息に語り終わるとメンバーからも同意の声が次々と上がっていた。
その後はふたつのお知らせとして、全国ツアー中止を受けて急遽5月に行われたオンラインライブ『THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE』が映像作品化されること、そして鹿目と根本によるスピンオフユニット・ねもぺろ from でんぱ組.incのセカンドシングル“にゃんにゃん♡ちゅちゅちゅ♡”がリリースされることが発表……と未来への期待を呼び起こしたところで、続いてはニューアルバムのタイトルを曲名に冠した“愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ”をドロップ。
《未知数のフェイズ 来たとしても/変わらないの 変わるわけないじゃない/レディースもジェントルメンもいくよ!せーの!/6人と地球にいるみーんなででんぱ組.incです!》
でんぱ組.incの長い活動において、メンバーの数と担当色を歌詞に用いた楽曲は多い。具体的には彼女らの名を広く知らしめた楽曲“W.W.D”ではメンバーの鬱屈とした過去をつまびらかにし最終的に《6つの光》へと帰結させているし、一気増員した頃の楽曲“ギラメタスでんぱスターズ”では《七つ星》、“ちゅるりちゅるりら”ではメンバー6人の担当色を列挙するなど、その時々におけるでんぱ組.incの団結力を示すひとつの形として、ファンに広く受け入れられてきた。けれども現メンバーに焦点を当てたそれは同時に、メンバーの脱退という予想外の事態が訪れた瞬間、ネガティブな面として作用することもある。事実メンバーそれぞれの暗黒期を歌う“W.W.D”は主たるメンバーの脱退に伴って今やライブで披露されることは一切なく、今回1曲目に披露された“ギラメタスでんぱスターズ”でも、今なおライブアンセムとして頻繁に鳴らされる“ちゅるりちゅるりら”でもメンバーの数や色が楽曲のリリース時とは異なることから、やはりライブで聴く場合には多少なりの違和感を禁じ得ないというのは正直な気持ちとして存在した。
そんな中“愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ”は今のメンバーたちとファンへの信頼はもちろんのこと、徹頭徹尾前だけを見据えるこれからのでんぱ組.incの覚悟を大いに証明する1曲として、高らかに響いていた。でんぱ組.incを結成当初より追い続ける古参のファンのみならず、今回のライブを画面越しに観ている人も、でんぱ組.incのCDすら持っていない人も……。今を生きる全人類を指して《6人と地球にいるみーんなででんぱ組.incです!》と高らかに言い切るでんぱ組.incの強固な言霊は、今後どのようなことが起ころうとも誰も置いていかないという何よりの意思表示でもあったのだ。
以降は愛を歌う前曲と地続きの多幸感をもたらしたニューソング“アイノカタチ”から、長きに渡って形を変えて歌われ続けてきた代表的ナンバー“Future Diver”でもって、まさしく夢に飛び込むが如くの万感のフィナーレを飾った。そしてメンバーが去ると、緩やかに照明が暗転。無観客ライブに伴ったアンコールを求める声すら挙がらないミステリアスな暗闇に包まれながら、スタッフが急ピッチでセッティングを施し、アンコールの準備を進めていく。アンコールで披露される次なる楽曲はライブ開催時にアナウンスされていた通り、でんぱ組.incの楽曲“星降る引きこもりの夜”を提供元である神聖かまってちゃんのコラボレーションと共に披露する、この日限りのパフォーマンスだ。神聖かまってちゃんもでんぱ組.incも、普段はワンマンライブを中心に活動を行っているアーティスト。そのためでんぱ組.incのメンバーのマイクチェック、及び神聖かまってちゃんのメンバーが楽器の音量を図るこのリハーサルシーンは極めて貴重であり、また先程まで縦横無尽にパフォーマンスを行っていた彼女らが真剣な表情で準備に当たる様は、ライブとは一味違った一面を感じさせるものでもあった。
明転したのは、リハーサル開始から数分後のこと。総勢10名のライブとのことで、事前に勝手ながら「全員がステージ上でひしめき合いながらパフォーマンスをするのだろうな」と思っていたのだが、実際はステージ上にでんぱ組.incが横並びになり、本来客席がいるはずのフロアには神聖かまってちゃんのが楽器を携えるという、ライブハウス全体を目一杯使ったオンラインライブならではの試みだ。
そして楽曲は神聖かまってちゃんのmono(Key)のつま弾くリフを契機とし、緩やかに幕を開けた。でんぱ組.incが動き少なの真摯な歌唱に徹しているのはもちろん、神聖かまってちゃん側も互いに貴重なコラボレーションであることを踏まえてのことだろう、地に足の着いた堅実な演奏に終始し、でんぱ組.incの歌唱を支えるバックバンドとして、与えられた役割を実直にこなしていた。ボーカルを担うのはもちろんでんぱ組.incのメンバー。メロ部分ではひとりひとりの特徴ある歌声でもってしっとり聴かせ、一転6人が一斉に壮大な歌声を響かせるサビはこれ以上ないほど感動的で、またでんぱ組.incの多大な成長さえ感じる代物。原曲では一切歌唱しないはずのの子が終盤に発した「こんな状況、こんな状況でも何とかなっちゃうぜ!もっともっともっともっとやりてえことがある!」との即興ラップも、コロナ禍で疲弊する今を体現するようで涙腺を緩ませる。そうしたコロナ禍によって否が応にも自宅で引きこもらざるを得ない状況に陥る現在において、おそらく楽曲制作時とはまた違った側面を携えて披露された“星降る引きこもりの夜”は、強い説得力を纏って響き渡っていた。
今回のライブはでんぱ組.incにおける前傾姿勢の活動方針を体現すると共に、彼女たち自身にとっても、いかにライブに重きを置いているのかを改めて感じる一夜であった。今記事執筆時点では残念ながら開催前のため、当日の様子を想像することしか出来ないが、きっと7月30日に行われる予定の新たな配信ライブ『THE FAMILY TOUR ONLINE ~夏祭り編!!~』は大団円で終幕し、彼女たちは更に一歩先を歩んでいることだろう。未だ収まる気配のないコロナウイルス。よって今まで彼女たちがスタンダードとしてきたようなサイリウムの海に満たされる中でのライブというのは現状難しく、思うように活動出来ない日々がまだまだ続くだろうと予想する。けれども本編のMCにて「オンラインライブかもしれないし、また違った形かもしれないし、またどこかで元気に一緒に会いましょう!」と満面の笑顔で語った古川の言葉が表しているように、彼女たちはでんぱ組.incを愛する人々がいる限り、今為し得る最良の手段を模索しながら活動を続けていくはずだ。何故ならでんぱ組.incは我々を含めて、ひとつの家族なのだから。
※この記事は2020年7月31日に音楽文に掲載されたものです。