こんばんは、キタガワです。
去る3月6日、『R-1グランプリクラシック ~集え!歴戦の勇士たち~』がCOOL JAPAN PARK OSAKA TTホールにて行われた。既に承知の通り、翌日(記事執筆時点では本日)に開催予定のR-1グランプリ2021は芸歴10年以内に参加資格が大きく変更されたことにより、必然芸歴11年を超える所謂『ベテラン』は出場資格を消失。どう足掻こうともR-1の出場権を完全に足切りされた中での今回の試みは、過去準決勝以上に出場したピン芸人・ないしはコンビにおける過去のR-1ぐらんぷり出場者を対象として厳正なる選定の元、芸歴もネタも、年齢もバラバラな35名が参加。決勝前日の言わば前哨戦として、2時間以上に渡って笑いの空間が形成された。
まず宣言すると、今記事では過去当ブログで行ってきたR-1ぐらんぷりの各解説や、出場者を順々に紐解いていくような構成は一切行わない。今回僕が語りたいことはただひとつ。それは『R-1グランプリの出場資格が狭まったことへの抗議』である。
そもそも昨今のテレビという媒体は視聴者の興味・関心を第一義として考える傾向にある。例えば連日新型コロナウイルスについて報じることも、昼のニュース番組でバズった動画を特集することも、音楽番組で今流行りのアーティストばかりを抜擢することも……。今現在テレビ番組で流れるものの大半は今や世間の目、ないしは企業的利益に大きく左右されていて、言うなればその内容如何に関してはほぼほぼ我々いち国民が握っている。……テレビ番組は視聴率を稼がねば話にならない。ただ何でもかんでも好き放題放映すれば良い時代は完全に過ぎ去った関係上、視聴者を稼ぐ最も簡易な手段はやはり『誰もが知る話題を特集すること』以外にないのだ。
「テレビがつまらなくなった」との話はよく聞くが、それは至極当然のことだろうと思う。何故なら興奮がなくなったから。全てがそうではないにしろ、明らかに今のテレビ番組は様々な箇所に配慮を重ねた弊害で、制約が多くなった。お笑い的な例を挙げればかつては志村けんのバカ殿様が下世話な内容で絶大な視聴率を記録したり、めちゃイケが自由奔放な番組制作で頭角を現した時代もあったが、そうした事柄は今や実質的なタブー。どこから流れるかも分からない風評被害やクレームに戦々恐々としながらある種無難に、そして視聴率のために『視聴率を生む物事』を最重要項目として取り上げるような、窮屈な時代になってしまった。故に現在に生きる若者がどんどんYouTubeに流入していく理由も、頷けるというものだ。
……話は変わって、R-1グランプリである。結果として約16年続いてきたR-1グランプリは、出場資格が芸歴10年以内でなければならないとのルールを科した。前述の時代の変化を鑑みるに霜降り明星や四千頭身、ぽる塾といった所謂『第七世代』との言葉が広く浸透した現在、この際若い芸人のみに絞って開催し、またかねてよりのお笑いファンのみならず幅広い層にアピールしようという狙いがあってのことだろうし、正直そうしたルール変更については仕方がないとは思う。昨今はバラエティー番組然りネタ番組然り「若い芸人ばっかりテレビ出るなあ」とも常々思っていたため、然程驚きはなかった。むしろ時代が変遷する中でR-1グランプリを存続させるためには、やむを得ない措置でもあったのだろう。
ただ、そこにベテランへの配慮が圧倒的に欠けていたことに、僕は疑問を感じていた。……思えばいつの時代も、R-1グランプリを象徴していたのはベテラン芸人だった。現に優勝したハリウッドザコシショウもアキラ100%も。決勝進出者ではとにかく明るい安村もおいでやす小田も、みな芸歴は10年を超えるベテランばかりだ。そうしたR-1を彩ってきた立役者たちを半ば切り捨てるも同然の悪どい措置には心底怒りを覚えたし、おそらく僕と同様に怒髪天を突く思いをした人は、取り分けお笑いファンに多かったのではないか。加えて突然のルール改正に無念を滲ませつつ、ポジティブな発言をほぼ強制される芸歴11年以上の芸人によるツイートの数々も、いたたまれない思いで一杯だった。
そんな折に行われたのが、前述の 『R-1グランプリクラシック ~集え!歴戦の勇士たち~』である。MCはR-1グランプリ初代優勝者でもある浅越ゴエ(ザ・プラン9)が務め、大いに集まった観客を盛り上げた。そして「明日が本戦ですよR-1は。でも何か結局終わったら、今年のR-1ってクラシックの方やったなって思わせたくないですか皆さん!」との一言でもって会場には盛大な拍手が巻き起こった。背後に設置されたR-1グランプリクラシックの看板を指して「これ2021とも書いてないし第1回とも書いてないんですよ」と自虐的に浅越が語る場面もあったが、間接的に運営的には上手く行かなかったら来年からはクラシックは廃止する予定で動いていることも、やんわりと理解出来た。良い意味で捉えるなら『R-1に出場出来ない芸歴11年以上の芸人に救済措置を与えた』とも取れるが、僕は完全に悪い方……。もとい『もしも視聴率が良くなかったら来年からは廃止にする』との上層部の冷たい感情を強く感じた一幕でもあった。
そして総勢35名にも及ぶ芸人のネタがスタートする。個人的にはここ数年で考えても一番笑った時間だったし、芸人たちのネタはキャリア全体を考えてもベストなものを選出して披露している印象も受けた。それこそもしも今回のR-1グランプリに芸歴の縛りがなく、彼らが今回のネタを思う存分プレイ出来ていれば、決勝進出も夢ではなかったような、完成度の高いネタがどんどん続いた。僕は腹が引きつる程に爆笑しながら、彼らがどう足掻いても決勝には出演出来ない事実を再度思い知り、またも怒りを覚えた。ここには一昨年度のR-1グランプリのように岡野陽一やだーりんずの松本りんすのネタで何故か悲鳴を上げるような馬鹿げた観客はいないし、分かりやすいネタのみに反応して諸手を挙げて喜ぶネット民もいない。ただ目の前で繰り広げられる様々な笑いを純粋に楽しんでいる。その光景がとても美しく、またテレビ的には遠い昔に存在した出来事のようにも思えた。
『R-1グランプリクラシック ~集え!歴戦の勇士たち~』の栄えあるMVピン(最も最多得票数を獲得した芸人に送られる賞)を受賞したのは、何の因果かR-1グランプリ決勝に6年間にも渡って辿り着いた苦労人・ヒューマン中村。彼は結果発表前のインタビューにて「どーんと売れなかったから今があるんですよ」と語り、優勝後は賞金である50万円が入った金一封を一時も離そうとはしなかった。……確かに彼は現在37歳で、爆発的に売れてはいない。ただその過程で様々な芸風を模索し、芸を磨き、こうしてある種強制的に永久追放されたR-1グランプリの特別版で結果を残した。ヒューマン中村に限らずこの日披露された様々なベテラン芸人による円熟味のあるネタの数々は、地上波で言うところの視聴率とはまた違う、素晴らしき代物でもあった。彼らを差し置いて若い芽を成長させるのがR-1上層部が選んだ未来であるとするならば、彼らは単なるコンクリートに生える雑草なのか?否、決してそうではないはずだ。
日付は変わり、本日19時からは待ちに待ったR-1グランプリ2021が開催される。繰り返し綴っているように芸歴は10年以内で、必然ゆりやんレトリィバァ以外の9組が決勝初進出という、フレッシュな顔ぶれとなった。本当に楽しみにしている。個人的には高田ぽる子、吉住、土屋、ゆりやん、ZAZYあたりに期待しているところではあるが、そうした事前予測すらも楽しい。どう転んでも最高の大会になるのは間違いないと言えよう。ただ、今大会でピン芸人の全てを知っているように吹聴する人々には、是非とも知ってもらいたいのだ。その陰で努力を重ね、そして目標に見限られた芸歴11年以上のベテランの存在がいることを。