キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

PEDRO初の日本武道館公演『生活と記憶』YouTubeライブを観て

こんばんは、キタガワです。

 

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2月13日に行われたBiSHのメンバーであるアユニ・Dのソロプロジェクト、PEDROによる日本武道館公演の模様が、本日YouTube上で独占公開された。完全なるフル公開ではないまでも、本編22曲中13曲がカット割りなしで聴くことの出来る大盤振る舞いでいたく感動した次第であるが、ライブ途中に本公演がライブDVDとして7月7日にリリースされる事実が正式に発表。「なるほど……今回のアーカイブなしの武道館公演の公開は一種の販売促進活動であったのだな」と腹落ちしたのも束の間、ライブ終了後のアユニ・D本人による生配信で、今回のDVDのファンクラブ特典が何とアユニの直筆ポスター、新曲“夏”のシングル、他アコースティック音源2曲の追加であると知り、無意識に財布を確認してしまった……。そんな5月某日の夜である。

 

PEDRO初の日本武道館公演……。それは紛れもなくアユニ・Dというかつて消滅願望に取り憑かれるように日々を過ごしていた少女の、ひとつの到達点だった。結果彼女の所属事務所・WACKとしても、彼女が籍を置くアイドルグループ・BiSHとしても日本武道館に立った人間はアユニ・Dのみということになるのだが、この重要な背景については同日発売のドキュメンタリームービー『SKYFISH GIRL -THE MOVIE-』で明かされているし、僕個人としてもかつて執筆した記事で記述しているため詳しくはそちらをチェックしていただきたいと思うのだが、とにかく。


そもそも論、僕は「何故アユニ・D(PEDRO)はこんなにも愛される存在なのか」という疑問を常に抱きながら彼女の活動を追っていた節がある。例えば今回の日本武道館公演。「もしもBiSHの他のメンバーが同じく日本武道館に立った時、同じようにチケット即日ソールドアウトの光景を観ることが出来るだろうか」と問われれば、おそらく答えはYESだろう。では他のアイドルグループならどうか。乃木坂。AKB。ゆるめるモ。でんぱ組.inc。TEAM SHACHI……。それらのグループのメンバーをランダムで選出し、ひとり突如武道館の地に降り立った時、その眼前に広がる光景が誰しも大入りであるとはお世辞にも言い難いと思うのだ。


では何故アユニはこのコロナ禍において満員御礼の武道館に立つことが出来たのか。その真髄を知る契機たる事実が、今回のYouTubeライブには常に出現していた。そう。それはベースの演奏から垣間見える、アユニの血の滲むような努力である。ライブというのは元来、当人たちの蓄えた演奏スキルによってその日の成否が如実に左右される。演奏が下手なバンドは良いライブが出来る筈もないし、逆に努力を重ねたバンドには熱量的にもサウンド的にも深みが生まれ、観客を惹き付ける何よりの力になる。ただ昨今、PCの打ち込み(オケ)を多様、ないしはディストーションやファズといった音を格段に変化させるエフェクターに接続することで、悪い言い方をすれば『誤魔化し』が容易に出来る環境になった。更に極端な話、ゴールデンボンバー然り昨今のSt.Vincentなど、別段ライブで楽器を用いずともバックでバンド演奏を流し続けるアーティストも増えていて、益々ライブにおいてスキルの重要性は薄くなっている部分も存在するのは確かだ。


そんな中今回のPEDROのライブはどうかと言えば、オケも使わず、サポートも入れず……。つまりは徹頭徹尾3人だけのサウンドで勝負していたという点で、僕は至極感動してしまった。しかも原曲ではギターを二重に鳴らしているにも関わらずだ。勿論こうしたミニマルなバンド編成は結成当初から一切普遍ではあるが、故に様々なライブツアーやフェスで鍛え上げられてきた地力がこの音楽の聖地との呼び声高い日本武道館で爆発した、ということになるのだろう。同日発売のドキュメンタリームービーでは、結成から初めてスタジオで田渕ひさ子(Gt)と毛利匠太(Dr)と共に音合わせを行った際、アユニがベースを触ってから毎日、多忙を極めるBiSHの合間をぬって1日8時間のスタジオ練習と帰宅後の自主トレーニングを行っていることが白日の下に曝されたが、正にそうした演奏努力が結実したと言って差し支えないだろう。

 


「今日この数時間、誰かにとってはただの数時間かもしれません。私は今日ここで音楽を鳴らしている間、歌っている間、いろんな感情になりました。私にとってこの時間は凄く大切でいとおしい時間です。今日は最後に、私が上京してアユニ・Dになったということ、アユニ・Dとして今まで生きてこられたこと、私と私の音楽をあなた方が生かしてくれたこと、そしてこれからも、この街で生きていきたいということ。今の思い全てが詰まっている曲を、聴いて帰ってください」……彼女は本編ラストのMCで、率直な思いの丈を声を震わせながら語っていた。小さな町から単身状況した彼女を待ち受けていたのはある意味では幸福、そしてある意味では壮絶な日々の連続であったが、それでもこのランナーズライの如きワーカホリックな状況を楽しんでいるのが今のアユニだ。大の人間嫌いであった少女は人と関わることの素晴らしさを知り、楽器に触ったことのなかった少女はベースの深みに嵌まり、そして存在を否定し続けていた少女は人生の価値に気付いた。今回の日本武道館のライブは躍進を続ける彼女の未来を占う試金石として、これ以上ない経験であったのではなかろうか。その運命的なライブを回顧するためにも、まずは来たる7月7日のリリースを座して待ちたい。


【PEDRO@日本武道館 セットリスト】
自律神経出張中(※)
猫背矯正中
来ないでワールドエンド(※)
WORLD IS PAIN(※)
愛してるベイベー
後ろ指さす奴に中指立てる
GALILEO(※)
Pistol in my hand(※)
ボケナス青春
うた(※)
浪漫
へなちょこ
無問題(※)
Dickins
丁寧な暮らし(新曲)
ゴミ屑ロンリネス(※)
SKYFISH GIRL(※)
EDGE OF NINETEEN(※)
生活革命(※)
空っぽ人間(※)
感傷謳歌
東京(※)

[アンコール]
乾杯
日常
NIGHT NIGHT

(※はYouTubeライブで配信された楽曲)