キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

映画『青くて痛くて脆い』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。


コロナウイルスに生活を脅かされてから、早半年。その中でも最も猛威を振るった月……具体的には外出自粛がメディアで頻繁に呼び掛けられるようになった頃から、様々な新作映画の公開延期が発表されるに至った。アカデミー賞入選間違いなしとの呼び声が高かった注目はもちろん、毎年大々的なヒットを飛ばすことで知られる『名探偵コナン』に関しては全てが完成している状況下でありながら来年4月に延期されるなど、映画館は甚大な被害を被った。のみならずその代替として急遽『君の名は。』や『シン・ゴジラ』、数年も前に公開されたはずのジブリ作品の一挙公開という時代錯誤な試みも成され、必然多くの人の足が映画館から遠退く結果となった。


故に今回、個人的には数ヵ月ぶりの映画館来訪となった。最も入場口に「マスク未着用の方はご遠慮ください」とのメッセージが掲示されていたり、場内は上下左右ひとつ分の席が紐でギチギチに座席を固定する形で強制的に空けられていたり、鑑賞前にはドラえもんが『新しい映画の生活様式』なるVTRが挟まれるなど、少しばかりの違和感は禁じ得なかった。ともあれ、久方ぶりの映画館である。


閑話休題。

 

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そんなこんなで今回鑑賞した映画は、『青くて痛くて脆い』。今作は『君の膵臓をたべたい』で話題をさらった小説家・住野よるの同名小説を題材としており、公式ビジュアルには『「君の膵臓をたべたい」の住野よるが「キミスイ」の価値観をぶっ壊すため書いた衝撃作』との文字が躍り、期待値を無意識的に底上げしている。


今作の主要人物は、コミュニケーションが苦手で他人と距離を置いてしまう田端楓(主人公)と、理想を目指すあまり空気の読めない発言を連発して周囲から浮いている秋好寿乃(ヒロイン)。彼らは入学早々に「世界を変える」という目標を掲げる秘密結社サークル「モアイ」を立ち上げ奮闘。しかしながら秋好はしばらくして、「この世界」からいなくなってしまう。その後のモアイは、当初の理想とはかけ離れた、コネ作りや企業への媚売りを目的とした意識高い系の就活サークルへ成り下がってしまい取り残された田端は秋好がかなえたかった夢を取り戻すため、親友や後輩と手を組んで「モアイ奪還計画」を企てる……以上が今作の主なストーリーである。


PVでもビジュアルでも繰り返し述べられている事柄であるため事前に結論から述べてしまうが、この映画はかねてよりの住野よる像……つまりは甘酸っぱい恋愛の果てにダークな出来事が起こり、悲壮な結末を迎えるという流れを完全に度外視した問題作である。それこそ『君の膵臓をたべたい』が多くの一般層に受け入れられたレンジの広い作品であるとすれば、今作は間違いなく賛否両論が渦巻く映画。それでいて『賛』の意見も『否』の意見も両方理解できるような、あまりに癖の強い人情劇が全体を覆い尽くしている。であるからして、今作を気に入るか気に入らないかというベクトルはおそらく『鑑賞した貴方自身がこの数十年でどのような生活を送ってきたか』に大きく左右されると思うのだ。例えば基本毎日友人に囲まれていた人間であるかそうでないかでも区別出来るし、もし一人きりの状況に陥ったとして、誰かに連絡するか否かにも左右される。


そうした点を全て鑑みた上での意見だが、僕は個人的にこの映画はとても良かった。その理由はいくつかあるが、やはり全体通して『無理がなかったから』といの思いが強い。物語では主人公の行動がディベートよろしく様々な否定意見に晒される場面が多く存在するのだが、どの意見もはっきりと筋が通っているのである。故に「お前の言っていることはおかしいと思うけれど、100%理解出来ない訳ではない。だが確かに僕も境遇が違えばお前のようになっていたかもしれない。しかしながら僕は今お前に反対する」とも称すべき、表裏一体の感情が渦巻き続ける。これが賛否両論を生まずに何を生むというのか……。


僕がこの映画を最終的に好評価としたのは、僕がこの“青くて痛くて脆い”の主人公の如き鬱屈で、かつ穿った目線で学生生活を送っていたからに過ぎないのかもしれない。ただこの映画には既存の映画には絶対に作り上げることが不可能なレベルの、言わば『誰しも一歩間違えばこうなる』とのネガティブ過ぎるリアルがふんだんに積み込まれているのもまた事実なのだ。公式サイトには「今を生きる学生に見てほしい」とのコメントが寄せられているが、個人的には様々な経験を経た結果、すっかり現実を知り過ぎてしまった大人に是非とも観てもらいたい映画である。今作の主人公のようなあまりに悲壮的な経験はないにしろ、見続けるうちにあの頃のまだまだヒヨッコだったかつての自分自身と主人公を、自然に照らし合わせてしまうはずだ。

 

ストーリー★★★★☆
コメディー★★☆☆☆
配役★★★☆☆
感動★★★☆☆
エンターテインメント★★★★☆

総合評価★★★★☆

 


『青くて痛くて脆い』予告【8月28日(金)公開】