キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

ナンバーガール初の地上波生ライブは、どこまでもナンバーガールだった

こんばんは、キタガワです。

 

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「全国のフジテレビジョンネットワークを御覧の皆さん、福岡市博多区からやって参りました。俺たち、ひょうきん族!……違うか。ナンバーガールです。いつまで経っても、やめられないのね……。おかみさーん!Do it!」


これは開幕の冒頭、ナンバーガールのフロントマン・向井秀徳(Vo.G)により語られた言葉の全貌である。ナンバーガール特有の緊張感とは対照的に、どこを切っても意味不明なお馴染みの向井節に何故か泣きそうになりながら、漠然と「この後のライブは一生忘れないだろうな」と思った。そしてそれは寸分の狂いもなく、現実のものとなったのだった。


……日々猛威を振るう、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。世界各国で終息の兆しが見えない中、少しでも多くの感染拡大を防ぐため大半のライブイベントは中止もしくは延期となり、音楽業界は未曾有の窮地に立たされた。そして3月4日、主要コンサート制作会社含むエンタメ関連会社は苦難の続く現状を受け公式声明を発表。そこに書かれていたのは、今現在におけるエンタメ業界のリアルな心境とエンターテインメントを愛する人々への思いと、そして先の見えない今を共に堪え忍び、いつか再び元の環境に戻ることを切望する『春は必ず来る』とのハッシュタグであった。


日増しに音楽への距離が遠くなっていくフラストレーションがじわじわと肥大化する最中、去る3月21日に『緊急生放送!FNS音楽特別番組 春は必ず来る』なる特別番組が放送された。これは『緊急生放送』との副題に顕著だが、コロナウイルスの影響で音楽へ触れる機会が減少傾向にある今だからこそ「少しでも音楽の力で元気を取り戻そう」とのコンセプトのもと企画された番組である。


番組内では『ライブが中止・延期となり直接的に被害を被ったアーティスト』と『春を題材とした楽曲』のふたつを主なメインテーマに据えて進行。事実アーティストのパフォーマンス時には本来予定していたライブの中止・延期を余儀なくされた事実がテロップに映し出され、DA PUMPの“桜”然りWANIMAの“春を待って”然り、セットリストもとりわけ春を題材にした楽曲が並ぶなど、総じて音楽業界の今と未来を一考させるような流れを意図的に組んでいたように思う。


そんな中一際異彩を放っていたのが、解散から17年の時を経て再結成を果たした、我らがナンバーガールである。


19時から22時、計3時間に及んだこの番組。アイドルや流行歌、果ては映画音楽やミュージカルも並ぶ多種多様なラインナップの中において、ナンバーガールの存在はあまりにも浮いていた。もちろん彼ら自身も全国ツアー『逆噴射バンド』の一部公演が延期に追い込まれ、被害を被ったアーティストの一組ではある。だが彼らは今回の出演者の中においては唯一無観客のライブ配信を敢行し、画面越しにではあるにしろライブの熱量をお茶の間に届けたことや、彼らのタイムテーブル上で公開されていた演奏曲が“桜のダンス”ではなくもはや春を完全に追い抜いて《気づいたら俺はなんとなく夏だった》とうそぶく“透明少女”であったこと、そして何より地上波に出るようなバンドイメージが皆無であったことからも、今回の起用は異物感漂うものであったのは間違いなかった。


時刻は20時を過ぎ、CMに入ろうかというその時、突然カメラが切り替わった。そこに映し出されたのはリアルタイムのZepp Tokyoであり、ステージ上では4人の男女が入念な準備を始めている。この日ライブハウスで生演奏を披露するのはナンバーガールのみ。よってこの後CM明けに演奏するアーティストはナンバーガールであると、ほぼ確約された瞬間であった。言うまでもなく、ナンバーガールの地上波における生演奏は初。けれども彼らのパフォーマンスに内なる期待が高まる一方で、インタビューやライブ等で突拍子もない言動を頻発させる向井を幾度となく目に焼き付けてきた身としては鬼が出るか蛇が出るか、緊張の面持ちで待機せざるを得なかったというのが正直な気持ちとしてあったのも事実として存在した。


そしてCM明け、静まり返ったZepp Tokyoにて、向井の口から放たれたのが、冒頭に記した口上である。たとえ地上波であろうとも自然体を貫く、我々が愛してやまないナンバーガールがそこにいた。


そんな向井による荒唐無稽な流れの果てに田渕ひさ子(G)によるお馴染みの金属的なギターリフが響き渡り、向井がそれに合わせるように力強いカッティングでテレキャスターを掻き鳴らす。そしてアヒト・イナザワ(Dr)の「1.2.3.4!」に近い、しかし明確に数字を発語しない独特のカウントと共にドラムが打ち下ろされ、中尾憲太郎(Ba)の低音ベースがサウンド全体を牽引するように鳴らされる。かくして血沸き肉踊る狂乱の宴は、幕を開けたのだった。

 


NUMBER GIRL - 透明少女


普段は決まって押しつ押されつの蒸し風呂状態となるフロアには観客はゼロ。代わりに多数の撮影クルーが待機し、彼らの鬼気迫る演奏に合わせ忙しなく動き回っている。それはかつてYouTube上で配信された無観客ライブの延長線上にそのまま立つような、あまりにも冷たく、どこか寂しさを覚えるライブであった。けれどもそうした欠落的なZepp Tokyoの光景は彼らの他の楽曲の言葉を借りるならば『冷凍都市の暮らし』を体現するかのようでもあり、熱い中にも冷たさが残るこの日の独特の雰囲気に一役買っていたように思う。


結果、彼らのライブはどこまでもナンバーガールだった。


演奏中、右上に表示されたテロップには常に「伝説のバンドが音楽ファンのために緊急出演!!」との文字が映し出されていた。おそらく番組出演自体を打診したのは、番組サイドなのだろう。しかしながら再結成がアナウンスされた際の向井による「2018年初夏のある日、俺は酔っぱらっていた。そして、思った。稼ぎてえ、とも考えた。またヤツらとナンバーガールをライジングでヤリてえ、と」とのコメントにもあるように、おそらく向井は(他のメンバーの思いは定かではないにしろ)、そうした思い以上に自分自身の「爆音でロックを鳴らしたい」という突発的に抱いた強い思いを第一義として快諾し、出演に至ったのだと推察する。


……彼らの演奏が始まる前には、今のライブハウス、及び大規模イベントが置かれる現状をつまびらかにしたVTRが流れた。ナンバーガールの演奏終了後にはSNSに、この番組でナンバーガールの存在を初めて知った人たちやかねてよりのファンによる称賛の声が踊った。けれども向井が中尾と向き合って演奏する一幕も、向井のシャウトに似た絶唱も……。今回テレビの向こう側で繰り広げられたそれは本来生でしか体感出来ない、言わばライブ特有のパフォーマンスだ。そう。コロナウイルスによりライブ自粛のムードが漂う今現在は要するに、そんなライブでしか体験できない唯一無二の興奮と感動が失われているのと同義でもある。


3月も終わりに差し掛かり、気付けば春の到来も近付いている。ライブが今が四季で言うところの冬であるとするならば、番組内で言われていた春とはきっと、コロナウイルスが終息の兆しを見せ、ライブイベントへの悪しき風潮が一旦の落ち着きを取り戻すことを差しているのだろう。そして彼らが今回演奏した“透明少女”における《気づいたら俺は夏だった風景》はきっと、その更に先……。具体的にはコロナウイルスが蔓延する以前のようにライブイベントが完全に戻り、全ての音楽ファンが笑顔で日々を送る日常に他ならない。


結局彼らは最後まで、自身の胸の内を語ることはなかった。普段のライブではハイボール、もしくはビール缶を高々と掲げながら「乾杯!」と語って颯爽と去る向井は、画面が生放送会場へと切り替わるまで、カメラの方向をじっと見つめていた。彼の抱える胸の内は最後まで分からないままだったけれども、それは回り回って、非日常の空間が日常から消失した欠落感染を拡大するクラスターのひとつとして後ろ指を指されるライブイベント全般への、何よりも強いメッセージであったのではなかろうかと、そう思わずにはいられなかった。