キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

[後編]珍しい楽器を使うアーティスト10選

こんばんは、キタガワです。


さて、今回は前回記した『珍しい楽器を使うアーティスト10選』の後編をお届けする。テスラコイルやオープンリールを紹介した前回も特殊な楽器が多かった印象だが、後編も負けず劣らず。パンチの効いた楽器の宝庫となっているため、気になった方は是非動画をクリックし、その独特な音像に触れてみてほしい。


それではどうぞ。

 

→前編はこちら

 

 

POLYSICS(使用楽器:ボコーダー)

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サンバイザーがトレードマークの電子音バンド、POLYSICS。彼らのサウンドの主軸を担っているのは言わずもがな、シンセサイザーと打ち込みの音像であるが、彼らの魅力を更に引き立てるのが、多くの楽曲で使われる『ボコーダー』の存在だ。


ボコーダーとはボイス(声)とコーダー(IT用語)の略であり、自身の歌声をロボットの如き機械音に変化させることが可能なエフェクターのこと。下記のMVでも描かれているように、POLYSICSのライブでは決まって向かって左側に通常マイク、右側にボコーダーを連結したマイクを配置し、楽曲ごとに地声と機械声をスイッチした楽曲展開を披露する。


昨今の音楽業界ではSEKAI NO OWARIの“Dragon Night”然りPerfume然り、高音の機械声サウンドを武器とするアーティストも多い。しかしながら彼らが用いるそれはボコーダーとは少し趣の異なる『オートチューン』と呼ばれ、あくまでも地声をメインに加工するものである。POLYSICSのボコーダーはそれとは違い、老若男女誰が歌ってもほぼ同じ声になるというのがひとつのポイント。もちろんこれらはPOLYSICSの代名詞の電子音に埋もれないようにした結果であることは言うまでもなく、事実POLYSICSは結成当初から現在に至るまで、同じ系統のボコーダーを使い続けている。なお以下のMV“MEGA OVER DRIVE”にてハヤシ(Vo.Gt)が弾く謎のキーボードはショルキー(ショルダーキーボード)と呼ばれ、こちらもレア楽器である。

 


POLYSICS 『MEGA OVER DRIVE』

 

 

Red Hot Chili Pipers(使用楽器:バグパイプ)

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フジロックフェスティバル2019で一躍脚光を浴びた、スコットランド出身の謎のインストバンド。彼らの名はレッドホットチリパイパーズと言い、かつてフジロックの出演者が発表された際には某有名ロックバンドRed Hot Chili Peppers(ちなみにレッチリはこの年、別の日本フェスへの出演が内定していた)との名前の類似性が大いなる誤解を招き、SNS上では「フジロックもレッチリが!」とのツイートが相次いだ。無論蓋を開けてみれば彼らの正体は『ペッパーズ』ではなく『パイパーズ』であり、逆にこの騒動が彼らの名前を広める貴重な機会となった。


その編成はギター、ベース、ドラムといったスタンダードな楽器に加えてパーカッションやマーチングドラム、果てはトロンボーンとシンセサイザーまで織り混ぜた大所帯っぷりであるが、中でも一際目を引くのが『バグパイプ』なる民族楽器だ。バグパイプとは平たく言ってしまえば、笛版のアコーディオンだ。吹いた息を循環させて音を鳴らすもの。そんなバグパイプの特徴としては雅な音像と消費カロリーの高さであろう。前後編通して言えることだが、なぜ国内外に多くのアーティストがいるにも関わらずレア楽器を演奏しないのか、最も大きな理由として挙げられるのは、その難易度の高さと楽器管理の大変さにあると思うのだ。事実バグパイプの砂漠地帯を思わせる音はオリジナリティー溢れるものであるが、笛の全体に息を与えなければならないため、演奏の難易度は極めて高い。


更にはバグパイプを取り扱う店というのは国内外含めてほぼ存在しない。それこそ彼らが拠点とするスコットランド以外の場所で長期間滞在するとなるとデメリットも出てくる。だからこそ彼らは海外を飛び回り一夜限りのパフォーマンスにしているのだろう。


なお彼らの音楽は基本的には他者のカバーであり、オリジナル楽曲は少な目。具体的にはAvichiの“Wake Me Up”やQueenの“We Will Rock You”、Deep Purpleの“Smoke On The Water”などがライブの定番曲となっているが、バグパイプの存在も相まって言い意味で原曲とは似ても似つかないサウンドに昇華。今では彼らを名指ししてカバーを熱望する声も多いことからも、今後彼らの名前の存在は広く知れ渡ることになりそうだ。

 


Red Hot Chilli Pipers cover Avicii's Wake Me Up for the Radio 1 Breakfast Show

 

 

住所不定無職(使用楽器:ツインネック)

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数年前、ロックシーンに彗星の如く現れたポップの異端児、住所不定無職。一時は無名ながらrockinon主催のカウントダウンジャパンのトリを務めるなど大躍進を果たしたが、ある時期を境に突如音楽シーンから失踪。そして現在は住所不定無職の既存メンバーに2名の男性メンバーを追加した新バンド『Magic, Drums & Love』を結成し、更なる音楽を探求し続けている。なお住所不定無職は現在も活動休止及び解散については明言しておらず、ユリナ(ギターとか)は「脱退とか解散とか結構どうでもよくて、住所不定無職は凄いいい曲たくさんあるからライブやりたいなと思ったし、今はMagic, Drums & Loveてゆー新しくはじめたバンドにすごく夢中だからそっちでライブしてくだろうし」とツイッターで語っている。


そんな彼女らが結成当初より話題になっていたのが、そのヘタウマな演奏スキルと、『ツインネック』なる楽器であった。


ツインネックとは持ち換えずとも異なる楽器を弾くことが出来る、端的に表すならばギターとベースをそっくりそのまま繋ぎ合わせた楽器である(なおギター+ギターならツインギター、ベース+ベースだとツインベースと呼ばれる)。住所不定無職は当時スリーピースであったため、他メンバーがギターとドラムであることから基本的に誰かはベースを弾かなければならない。けれども前述の『ギターとか』なるパート説明に顕著だが住所不定無職にはこれといった演奏楽器は存在せず、メンバー全員が曲ごとにパートチェンジするというあまりに異端なスタイルであることから、必然的にギターとベースを時間差なしに両立する人物を補う必要があった。そこで白羽の矢が立った楽器が、ギターとベースを混在させたツインネックなのだ。


けれどもツインネックは当然の如くギターとベースの計2回のチューニングが必須であり、何より重い。ほとんどのバンドがツインネックを使わない理由はここにあり、大半は「じゃあギターとベースを別々に入れ換えて使えば良い」との結論に至るのだ。だが彼女たち自身が特段演奏に重きを置いておらず、多少のチューニング狂いは気にしないスタイルのため、ツインネックはまさに彼女たちの初期衝動を極限まで突き詰めた形であろうとも思う。なお、後に住所不定無職はメンバーを増員。その追加メンバーの担当パートはギターであるが、頑としてツインネックを廃さないのは彼女たちのオリジナリティーを確立させているようでいて、好感が持てる。今後もライブで是非とも使ってほしいとは思うのだが、正直「じゃあ別にツインネックいらないのでは……」との気持ちにも陥ってしまう。難しいところだ。

 


住所不定無職 / I wanna be your BEATLES 【PV】

 

 

THUNDERCAT(使用楽器:6弦ベース)

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海外ベースシーンの重鎮、サンダーキャット。この日本でもアルバム『DRUNK』がヒットを飛ばしたため、衝撃的なジャケ写に見覚えのある人も多いのでは。


そんな彼のプレイを支えているのは、もはやトレードマークと化した『6弦ベース』である。言うまでもなく、通常ベースは4弦で作られる。その理由はベース自体がバンドの全体像を支える役割を主としているためであり、弦がひとつ増えるということはベースの音の高さが更に高くなるのと同義なのだ。それはすなわち低音を武器とするベースの売りが消え去ってしまうことに他ならず、だからこそ大半のベーシストは初心者ベテラン問わず、4弦を基本とする(多弦ギターが少ないのもほぼ同じ理由)。


しかしサンダーキャットは、ベースをタッピング奏法で弾き倒すどころか、下手すればギターより高い音を鳴らすという完全に一般的なプレイを逸脱した形を取る。彼が世界各国でベースヒーローとして崇められる理由はそこにあり、そんじょそこらのベーシストでは絶対に辿り着けないそのバカテクぶりは、彼特有の最強の演奏と言っても過言ではない。なおこの神業で繰り出されるサウンドがロックではなくジャズやファンクというのも意外性たっぷりで面白い。


彼は現在においても立つステージにはほぼ拘らないらしく、各地のフェスでは最も小さなステージで若手と同じ舞台に立ち、軽やかにライブを行うこともしばしば。その明るいキャラクターも人気の秘密だが、かなりの親日家としても知られており、加えて一度ライブを行えば雰囲気が一変するというサンダーキャット。近々ニューアルバムを携えた来日も控えており、あのプレイをバカテクぶりを目撃出来る日も近いのでは。

 


Thundercat – Black Qualls

 

 

星野源(使用楽器:シンセパッド)

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今や世間に知らぬ者なし。一流アーティストの仲間入りを果たした星野源だが、彼の楽曲にもレアな楽器が使われている。


その楽曲とは朝の連続テレビ小説『半分、青い。』に起用され、紅白歌合戦でも披露した“アイデア”である。壮大な幕開けから耳馴染みの良いサビに至るまでポップを地で行く“アイデア”は一見、軽やかなポップソングにも思える代物だ。けれどもその裏側を紐解いてみると彼は前作“恋”の大ヒットをきっかけにマスメディアに追われる身となったことから精神的に疲弊し、明と暗をしっかり分けた楽曲を作ろうと臨んだのが“アイデア“であると語っていた。


そのため“アイデア”では5分少々の短い時間の中において、大きく艶やかな一面と鬱々とした一面のふたつの展開に分けられる。そして今回取り上げるレア楽器『シンセパッド』が用いられる箇所は所謂鬱々とした一面の部分であり、具体的には1番のサビが終わり2番のAメロに差し掛かった頃合いとなる。


シンセパッドとは主にPC上で事前に入手可能な音の数々をそれぞれのパッドに割り振り、実際に触って音を出す楽器だ。“アイデア”ではパーカッションの音をプログラミングしているためにドラム的ポジションを担っているが、シンセパッドに取り入れることの出来る音の種類は様々であり、中には猫の鳴き声や叫び声、シンセサイザーの音色、果ては自身が録音した短音など、理論上『音』であればほぼ何でもセッティングすることが可能だ。


そんな万能楽器・シンセパッドだが、その面の数のみしか音がセッティング出来ない点と、音圧がなく平坦なサウンドになってしまう点には注意が必要。だからこそライブで使用される際には「ドラムの代わりにずっとシンセパッド使います」という手法はほぼ成立せず、例えばCD音源において波の音が鳴っていたり、話し声が流れているような箇所をライブで再現する上で飛び道具的に使われることが多い。よって基本的にシンセパッドを配置する箇所は、ドラムを担当する人物の横である。


なお“アイデア”にてシンセパッドを担当する人物は指で押して音を鳴らしているが、これは直接押すことが出来れば何でも良いため、見映えを良くするためにドラムスティックで叩くバンドマンが多い。けれどもこのシンセパッド、叩く箇所が少しでもズレると別の音が鳴ってしまうことに加えて全ての音の面を把握することが必須事項となるため、習得するにはかなりの時間を要する。シンセパッドは全国各地の楽器屋にはほぼ必ずある楽器なので、気になった方は実際に体験してみてはいかがだろうか。

 


星野源 – アイデア (Official Video)

 

 

……さて、いかがだっただろうか。以上が『珍しい楽器を使うアーティスト10選』の全貌である。


前編でも触れた話ではあるが、やはり様々な音楽に触れていると「同じような音が多いな」との思いを抱いてしまうことは多々ある。そしてその思いは実際にライブや音楽番組を観ると、瞬時に確信に変わる。何故ならOfficial髭男dismやKing Gnuなど、世間一般的に売れたと目されるほとんどのアーティストの演奏楽器は完全に固定化されているからだ。ギター、ベース、ドラム……。一風変わったアーティストでもキーボードやシンセサイザー、管楽器のパートが加わる程度で、良く言えばお馴染み。悪く言えば面白味がない。


何故レアな楽器を用いないのかと問われれば、そこには演奏する上で大きな障害となり得る確固たるデメリットが存在するためである。事実今回紹介した楽器はいずれもスペースが大きい、セッティングに時間がかかる、物理的に重いなどのデメリットが存在する。だからこそ普段見掛ける機会もないし、存在すら知らない。けれども世界各国に散らばるレア楽器は、その存在のインパクトや独特の音色を一度知ってしまえば、なかなか面白いものなのだ。


常々綴っている事柄で恐縮だが、僕個人としては音楽の入り口は何でも良いと思っている。友人が歌うカラオケでも良し。ネットでバズった音楽でも良し。YouTubeの関連動画に出て偶然クリックしてしまったというのも全然アリだ。ならば『珍しい楽器』をまとめた今回の記事が新たな音楽の発見に繋がる可能性も、アリなのではなかろうか。


総じて今回の記事が、貴方の新たな音楽の発見に貢献できれば幸いである。それでは。