キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

卓越した演奏スキルで魅せるライブバンド5選

こんばんは、キタガワです。


新型コロナウイルスの影響により、未曾有の困難に直面している現在。言うに及ばず、人々の生活に親密に寄り添っている音楽もその限りではない。演劇、映画、お笑い……。考え得る限りの様々なエンターテインメントは苦難の時期に突入。取り分け音楽シーンでは今回取り上げるメインテーマたる『ライブ』が、未だかつてない危機的状況に陥っている。


周知の通り、現在では三密回避や外出自粛の煽りを受け、ライブは従来のような実際に現場に赴き体験するものではなく所謂『オンラインライブ』として画面越しで観るものと捉えられている節もある。そこで今回は、ライブシーンの中でも『卓越した演奏スキルで魅せるライブバンド5選』と題し、こんな時代だからこそ印象深い、音源とライブの比較が著しいバンドにスポットを当てて紹介していきたい。難しい状況が続いているが、苦境に立たされるライブシーンに興味を抱くのみならず、最終的にはライブハウスに赴くその契機の一端となれば幸いである。

 

 

Cornelius

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伝説的ロックバンドことフリッパーズ・ギターの主要メンバーのひとり、小山田圭吾(Vo.Gt)によるソロバンド・コーネリアス。彼らの魅力は何と言ってもグラフィックデザイナー・辻川幸一郎の映像と絶妙にシンクロしたバンドアンサンブルである。実際彼らの楽曲はCD音源においても几帳面を極めていて、一聴した瞬間誰もが「ライブでの再現は不可能なのでは?」との直感的な思いを抱く楽曲も少なくない。ただこうした超絶技巧の楽曲を難なく弾きこなすのが、コーネリアスが世界的に名を馳せている要因。特にセットリストの中盤以降におけるハイライトとして位置している“Gum”と“Fit Song”は高水準のパフォーマンスとの呼び声高く、メンバーのうちひとりでもタイミングを逸した瞬間に破綻する、キワキワの緊張感を放つライブ風景は圧倒的異次元さ。


プロモーション活動をほぼ行わないそのペースこそ緩慢だが、CDのリリース以上にライブ演奏を主とした存在証明を長らく行い続けているコーネリアス。昨今ではCM、ドラマ、バラエティー番組のワンシーンを切り取ってコラージュした“Another View Point”、マイクチェックに複雑なアレンジを施した“MIC CHECK”など、ライブならではの『映える』楽曲も多数披露。その引き出しをぐんぐんと広げている。昨今では思わずタイトルを二度見してしまう意味深な新曲“サウナ好きすぎ”を発表。フジロックが延期となり、彼の心底望む海外公演も実現不可能となった現在。けれどもそうした事象も重々理解しつつ、彼は今日も人知れずロックを鳴らしている。

 


CORNELIUS - GUM (ULTIMATE SENSUOUS SYNCHRONIZED SHOW)

 

 

Applicat Spectra

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2011年に彗星の如くデビュー。以降大手音楽雑誌のニューカマーとして取り上げられるのみならず、後述する稀有な演奏で話題を博した4人組ロックバンド。惜しまれつつも2015年に解散し、現在はボーカルであるナカノシンイチ(Vo.Gt.SP)は音楽を離れ、他のメンバーは音楽活動とそれぞれ別々の道を歩んでいる。


音源ではナカノによる高音ボーカルや四次元的な歌詞にも注目が行きがちだが、ライブにおいて多くの観客が驚愕するのは前述のナカノをはじめナカオソウ(EGt.AGt)、イシカワケンスケ(Gt.syn)、ナルハシタイチ(Dr)というバイオグラフィーからも分かる通り、次から次へと楽器をスイッチするその類い稀なるマルチプレイヤーぶりだ。彼らの楽曲の魅力は宙に溶ける浮遊感溢れるサウンドであることは間違いないが、その音像の役割を果たしているものこそ、シンセパッドやシンセサイザーといった電子楽器の数々。それもそのはず、彼らはライブにおいて同機(PCに保存されたサウンドを出すこと)を徹底して行わないことを信条としており、故に彼らのステージ上の機材量ははとてつもなくライブ中、メンバーが持ち場を離れることはほぼ不可能な程。実際、多彩な音像と言うのは現代の音楽シーンではポピュラーで、特にシンセ系統の話となるとその裾野は更に広がる。けれどもほぼ大半の音をPCのみで代用可能な現代の音楽シーンにおいて、基本実機でプレイすると言うのは1周回ってレア。上記の通り、残念ながら現在は解散している彼らだが、是非とも再びの活動を願うばかりだ。

 


Applicat Spectra セントエルモ(Live Ver.)

 

 

Royal Blood

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海外が誇るロックバンドの無骨代表、ロイヤルブラッド。彼らのサウンドは至ってシンプルで、何とベースとドラムの2名のみ。無論、上記のツーピース編成はは『ロックバンド』としての最小形態。そのため彼らの真髄を最大限魅せる場であるライブ会場では、当然『CD音源との差異』に大きな注目が集まることとなる。ただそんな人々を一瞬で沈黙させるのが、ロイヤルブラッドが唯一無二の存在と語られる所以。彼らのライブでは横長に組み上げられた異様なベースアンプと要塞じみたセッティングが施されたドラムセットがサウンドの全てを担っているのだが、とにかく音圧がデカい。特にベースに関しては足元のエフェクターでこれでもかと音圧を増幅させている関係上、サウンド的にはベースと言うよりもほぼギターである。


彼らの海外人気は凄まじく、フェス等に出演する際はメインステージに据えられることが多い。しかしながらそんな中でも基本スタイルを崩すことはなく、VJ(ライブのバックに映像を投影すること)が使われることはなく、それどころかサポートメンバーさえ演奏に加わらない徹底ぶりには驚かされるばかり。ちなみにロイヤルブラッドのライブに足しげく通うファンの中にはマイク・カー(Vo.B)のミスを楽しむという一風変わったファンも少なくなく、トラブルで音が出なくなった瞬間に歓声が上がる一幕も。それはすなわち超絶なサウンドが全てマイクの指先から奏でられていることの何よりの証明であって、辛口の海外評論家さえ唸らせる多大な説得力を秘めている事実も納得。

 


Royal Blood - Out Of The Black (Glastonbury 2017)

 

 

ZAZEN BOYS

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「マツリスタジオからやって参りました、ザゼンボーイズ」の一言でお馴染み、ザゼン。彼らはNUMBER GIRLの絶対的フロントマン・向井秀徳(Vo.Gt.syn)が母体となって結成されたバンドで、現状ザゼンの楽器の大半はMVで公開されておらず、楽曲を聴くためには最低限ストリーミングサービス、若しくはCDレンタル等を用いる他ない。何故そうした手法を取っているのかと言えばもちろん、彼ら自身ライブバンドとしての確固たる心情を持っているからだ。


ライブで彼らの楽曲がCD音源のままのパッケージングで披露されることはまずもってなく、シンセサイザーの有無はもとより楽曲のブレイク、キメ、展開は自作のハイボールをチビチビ呑みながらライブを行う向井のアドリブに大きく左右され、楽器隊が必死に追随するスタイルがザゼンの真骨頂。結果向井以外の誰も予想出来ない……と言うより向井自体も制御を放棄したカオスのライブが話題を呼び、気付けば約8年間に渡って正式音源をリリースしていないにも関わらずライブは都度ソールドアウト。そのカルト的人気を体現している。


以下に記した“泥沼”ではへべれけになった向井が観客へレスポンスを促す場面が観られるが、別動画ではメンバー全員を呼び寄せてコーラスを任せたり(“kimochi”)、緊張感ある一糸違わぬ演奏を繰り広げたり(“COLD BEAT”)と、まさにライブは絶頂の連続。実際筆者が体験したものとしては何故か向井が不得意なロボットダンスをかます、言語化不能のラップを連発する、楽曲中にスタッフを呼び寄せてハイボールを作らせるといった一幕も。図らずも鋭利なロックを鳴らすNUMBER GIRLとはまた違う魅力で注目を集める彼らのライブは、いつまでも観ていたい麻薬の如き依存性に包まれている。

 


ZAZEN BOYS - 泥沼 @ ボロフェスタ2013

 

 

あぶらだこ

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1983年結成。フジロック出演経験もあるロックバンドの礎を築いた歴史的サイケロックバンド・あぶらだこ。今までにリリースしたアルバムタイトルは全て『あぶらだこ』(CDジャケットを模して“月盤”、“青盤”、“亀盤”、“船盤”等と呼ばれる)、長年活動を行っていないにも関わらず活動休止宣言なし、そもそも何を歌っているか分からない等、そのバンドの実態は未だ謎だらけで、枚挙に暇がないカオスっぷり。


そんな彼らの魅力と言えば、不協和音にも似た変拍子の連続で形成される、クレイジーなサウンドメイク。実際『サイケデリックバンド』とジャンル分けされるアンダーグラウンドな音楽というのは、基本的に性質自体が異次元的であったり、演奏する当人が何らかの奇妙さを携えていることが多い。けれどもあぶらだこは一貫して『サウンドが狂いに狂っている』バンドで、下記の“冬枯れ花火”のMVでは脳の許容量を遥かに凌駕する圧倒的な情報が鼓膜を刺激する。ただ驚くべきは、一見アドリブで演奏されているように見える様々な楽曲は何百何千と練習を繰り返した果てに織り成されたものであり、事実公開されている希少なライブ映像ではCD音源と同様の演奏に徹し、意図的に変態性を作り上げていることが分かる。故にあぶらだこのライブでは、長谷川裕倫(Vo)によるボーカル面よりもサウンドに陶酔する聞き方がセオリー。現代の音楽シーンではおよそ考えられないが、こうしたバンドが第一線で活躍していた時代は間違いなくかつては存在し、そうした歴史があるからこそ今の音楽シーンがあるということは、ゆめゆめ忘れてはならない。

 


あぶらだこ - 冬枯れ花火

 

 

……さて、いかがだっただろうか。卓越した演奏スキルで魅せるライブバンドの世界。前述の通りコロナウイルスの世界的蔓延によりライブシーンは窮地に陥っていて、おそらく完全に元通りになるには更なる時間がかかると推察する。ただ多くのアーティストの年間活動がかつて『アルバムリリース→全国ツアー』という流れに沿っていたように、アーティストをアーティストたらしめるアクション、それこそがライブであることは今も不変だ。


だからこそ、現在自粛自粛で沈痛な思いで日々を生きるアーティスト側から見ても、今後の希望的未来……すなわちコロナ収束後のライブ活動は凄まじいバイタリティーを伴ったものになることは必然と言える。そしてそうした強い思いで敢行されたライブへの参加を決めるのは、他でもない我々。コロナ収束後には、きっと今記事で取り上げたような素晴らしいライブバンドが貴方を待っている。故にそれまでに是非ともこの自粛期間中、出来るだけ多くの人々に来たる参戦に備えて様々なバンドに思いを馳せてほしいと、強く願うばかりである。