キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

【ライブレポート】エレファントカシマシ『日比谷野外大音楽堂2020』@日比谷野外音楽堂

こんばんは、キタガワです。

 

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エレファントカシマシ、今年も野音の地へ。彼らの日比谷野外大音楽堂公演は同時期に毎年決まって行われる、エレカシにとっては年に一度の恒例行事とも言うべき代物である。しかしながら既知の通り、今年は新型コロナウイルスが猛威を振るう中での開催。故に今回のライブはかつてのエレカシの野音とは結果として大きく異なるものとなり、全体のキャパシティを下げ、観客にはマスク着用義務化と発生制限といった協力を求めることに加え、チケット無しかつ野音の外でライブの音を楽しむ所謂『音漏れ勢』に関しても、今年は公式より控えるようお達しが出た。


そして最も大きな変革として挙げられるのは、リアルタイムのオンライン配信を敢行したことだろう。言わずもがな、彼らにとってオンライン配信は初の試みであったけれども、本来であればチケット争奪戦必至なプレミアチケットと化していたはずの今回のライブが今まで通り会場内で観ることが出来るのに加え、一切の不安要素を介さず自宅で鑑賞することも可能になった点においてはすこぶる良心的であり、結果的に大多数のファンが各々の異なる環境下でライブを鑑賞し、ライブの感動を媒介する重要なツールとなった。


幸い雨も降ることなく、晴天となった当日の野音。定刻を少し過ぎると、未だ空も明るい野音のステージにメンバーがひとり、またひとりと降り立ち拍手喝采を浴びる。かつての野音では途中途中でメンバーが入れ替わり最終的には総勢10名以上に及ぶ場面も存在したが、今回のライブはもはや紹介するまでもないオリジナルメンバーに加え、サポートメンバーとしてギターに佐々木貴之、キーボードに細海魚を加えた6人編成。楽曲ごとの人数増減も皆無な、徹頭徹尾演奏メンバー完全固定制のパフォーマンスとなった。


開幕を飾るのは、長い沈黙を破ってこの日セットリスト入りを果たした“「序曲」夢のちまた”。ギターを爪弾く調べに乗せて日常の情景と感情の起伏が移り行くそれを、宮本は歌謡曲を彷彿とさせる緩急をつけた歌唱でもって時に囁くように、時に高らかに歌い上げていく。徐々に熱を帯びるでもなく長らく一定の熱量をキープし続けていた“「序曲」夢のちまた”だが、終盤に差し掛かると宮本の背後でじっとその時を待っていた楽器隊の面々が覚醒。圧倒的な物量でもって猛然と、野音の空に轟音を響かせていく。1曲目にしてよもやの選曲でもって多大なる緊張感に包まれた今年の野音。演奏終了後は息を飲むことさえ憚られるような沈黙に支配された空間に、ハッと思い出したようにまばらな観客の拍手がそこかしこで上がっていた。

 


エレファントカシマシ「Easy Go」Short ver.


例年と比較するとおよそ緩やかに始まった野音公演。一転ライブ然とした熱量に変貌する契機となったのが、宮本が「ワンツースリーフォー!」と叫んで鳴らされた屈指のパンクアンセム“Easy Go”。冒頭からノイジーなメジャーコード進行でエレキギターを掻き毟っていた宮本であるが、時間経過と共に体の芯から迸る熱量が理性を凌駕。次第にギターを弾く手は止まり、まるでブレーキを失った暴走列車の様相で鬼気迫る絶唱を響かせていく。息継ぎする間もない物量で襲い来るキーの高い歌詞もなんのその。宮本は歌唱のスピードを自由自在にコントロールし、ラストは倒れ込みそうになる体をマイクに掴みかからん勢いで保ちながらの《俺は何度でも立ち上がるぜ》との勝利宣言たるフレーズでもって終え、その後は肩で息をしながらも間髪入れずに“地元のダンナ”、“デーデ”といったロック然とした楽曲に続いていく。


エレカシの野音はフェスや単独ライブでは滅多に披露されないレア曲を広く展開されることでも知られているが、今回も例に漏れず長年のファンであっても初めてライブで刮目したであろう稀有な楽曲群をドロップ。取り分け大きな驚きと共に迎え入れられたのは中盤における“星の砂”、“何も無き一夜”、“無事なる男”、“珍奇男”、“晩秋の一夜”、“月の夜”、“武蔵野”、“パワー・イン・ザ・ワールド”までの8曲である。それもそのはず、これらの8曲は彼らがまだエピック・ソニーに在籍していた頃……つまりは約20年以上も前に世に放たれた楽曲群であり、野音以外の単独ライブでも何度か披露されている“珍奇男”はともかくとして、あまりにレアな代物であったためだ。


無論このファン垂涎ものの楽曲群は野音という空間がエレカシにとって、またファンにとってどれほど特異な場所であるかを重々理解した宮本が悩み抜いて決めた選曲であることは疑いようのない事実である。その判断が正しかったという事実を証明するように、楽曲が披露されるたびに大半の観客は基本的に直立不動で聞き入り、対してある一定のファンは狂ったように腕を上下に振る対極構造が出来上がっていた。実際“星の砂”を指して宮本が「40年くらい前の曲です」と語ったり「これすげえ懐かしくて。“晩秋の一夜”っていう歌は、ひとり四畳半の家でやたら難しい本を無理矢理読んで部屋にいるときの歌で……」と回顧していた通り感慨深い思いも存在していたようで、宮本は《ハレンチなものは全て隠そう》との歌詞に合わせて自身の乳首を指で覆い隠し(“星の砂”)、時にはパイプ椅子上で絶大な存在感を示し(“珍奇男”)、淡い照明に照らされながらしっとりと奏でる(“晩秋の一夜”)等、千変万化のステージングで魅了。久方ぶりのライブ披露であるためか途中で幾度かの機材トラブルも発生したが、そうした予想外の事象すらものともしない力強さもって、古き良き楽曲の数々を野音の空に溶かす光景は印象深く映った。

 


エレファントカシマシ「ズレてる方がいい」


以降は画面越しに鑑賞しているファン含め誰しもの琴線に触れた“悲しみの果て”からBPMを原曲よりも更に速めて投下されたファストチューン“RAINBOW”、そして「死ぬ時がこの世の中ときっとオサラバってことだろ?だったらそれまで出来る限り己自身の道を歩むべく、戦いを続けてみようじゃねえかエブリバディ!」とのグッと来るアドリブワードが繰り出された“ガストロンジャー”、穿った日々を生きると共にパートナーとの連帯を描く“ズレてる方がいい”と続くと、ラストに投下されたのはエレカシにおけるかの代表曲“俺たちの明日”。

 


エレファントカシマシ - 「俺たちの明日」


宮本は同曲のMVよろしく黒スーツを背負って振り回し、明日への活力たる鼓舞的言霊を何度も絶唱。加えて「さあ、まだまだ行けるぜ?一丁やってやろうぜ!」と叫んだ後に雪崩れ込んだ渾身のサスサビは集まった観客の拳を全身全霊で受け止めるが如くの求心性を担って、広々と響き渡っていた。演奏が終わると先程の熱演から打って変わって宮本による「イエーイ!センキュー野音ー!」との肩肘張らない一言の後「どうもありがとう、1部終了です。まだ2部がありますんで一回引っ込みます」との嬉しい報告と共にステージから去ったメンバーたち。結果的に彼らは数分後に再度姿を見せることになるのだが、その間集まった観客はひとり残らず2部の開催を熟知している状態のため、手拍子はなし。今しがたの感想を友人間で語る者、椅子に座って来たる第2部に向けての臨戦態勢を試みる者、メンバーの名前を叫ぶ者など様々だが、その光景は思い返せばホール規模のワンマンライブでよく観られた代物でもあり、生のライブの素晴らしさを視覚的、聴覚的に感じることが出来、じんと心に染み入る一時でもあった。

 


エレファントカシマシ「ハナウタ〜遠い昔からの物語〜」


そしてしばらくの暗転の後、静かにステージへ帰還したメンバーたち。宮本がマイクに向かい「ありがとうございます。じゃあ第2部……」と言葉を切る形で、第2部は“ハナウタ ~遠い昔からの物語~”、“今宵の月のように”という鉄板アンセムの投下で万感の開幕である。ここまで約1時間以上に渡ってバラード、ミディアムナンバー、パンク、果ては音数をぐっと絞ったひとり演劇たる面妖曲等様々な楽曲を展開してきたエレカシ。だが第2部は取り分けライブバンドとしての真骨頂を体現するようにアッパーな楽曲を次々披露するモードに突入し、“今宵の月のように”以後は「立ち止まったっていいぜ!斜めでも後ろでも、何でもいいぜエブリバディ!」との宮本の咆哮が涙腺を緩ませた“友達がいるのさ”、男の文字通り日々を駆け抜ける様を描いた“かけだす男”、多数の拳が掲げられた“so many people”、宮本による即興的テンポ変化による緊張と緩和で大いに盛り上げた“男は行く”と、特段休憩を挟まずシームレスに続いていく。


中でも第2部における極上のハイライトとして映ったのは、もはや語るも野暮なお馴染みのナンバーこと“ファイティングマン”。宮本が盟友・石森敏行(G)の背中を押し強制的に前方へと移動させた冒頭から、ここまで立て続けに楽曲を披露してきたはずの宮本は縦横無尽にステージを駆けずり回る驚異のステージングを見せると共に、サビ部分では幾度も腕を天に突き上げての日常生活で起こり得る多種多様な事象への闘争を表明。観客もそれに答えるように力強いレスポンスで応じる双方向的な関係性が光る。ラストは《baby ファイティングマン》との熱意の言霊とも言うべきそれを獰猛たる勢いで観客に放ち続け、つんのめるように終了。


石森がギターを下ろした瞬間に行われたカウント、マイクスタンドの突発的移動、肩を引っ掴んでの《歩こうぜ》との絶叫等、取り分け石森に対する宮本の横槍が笑いを誘ったエレカシ野音の名物的叙情歌“星の降る夜に”を披露すると、宮本が「みんな今日はありがとう。思ったより長くなっちゃったけど、最後まで凄い真剣に……。素晴らしいコンサートになりました。ありがとうエブリバディ。みんな良い顔してるぜ、多分。マスクしてるからよく分かんないけど、良い目してるぜ。格好良いぜエブリバディ。また会おうぜエブリバディ!ありがとう!」と感謝の思いを述べ、本編最後の楽曲となる“風に吹かれて”が高らかに鳴らされた。


《手を振って旅立とうぜ》の一節では宮本が手を振る挙動に合わせて観客が同様に手を半月状に振る幻想的な光景が夜空の直下で繰り広げられる。演奏終了後には「ソーシャルディスタンスで……」と距離を取ろうとした宮本だが、ふいに思い直し、メンバー全員としっかりとしたハグを交わし、サポートメンバー含めた6人が横並びになってのこれまた宮本の動きにつられるように腕を高々と挙げてのお辞儀。拍手で祝福する観客に向けて「お尻出してプッ」と一発ギャグを放ち、颯爽と去っていった。


アンコールの声に答え、三たびステージに帰還したエレカシ。先程まで第4ボタンまで開けたカッターシャツでパフォーマンスを行ってきた宮本だが、その上に黒いスーツを羽織り正装とも言うべき服装に。正真正銘、運命的一夜の最後を飾る楽曲は1998年にリリースされたセカンドアルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI Ⅱ』から“待つ男”である。


楽器隊による地に足着けた演奏こそ今までと同様にも思えるが、宮本はこの日イチの本能的な挙動に振り切ったパフォーマンスで、全てを出し尽くさんと言わんばかりだ。 中でも宮本による歌唱は圧巻の一言で、バックでは重厚なサウンドが一定のテンポで奏でられているにも関わらず、それをほぼほぼ無視した独自性の高い発語がぐんぐんと牽引。その姿はまるで傍若無人に突き進む宮本を楽器隊が必死に追随するようでもあった。そして異次元の領域に達した宮本に翻弄されているのはこの場に集まったファンも同様で、観客は拳を振り上げるでも手拍子をするでもなく、一様に鳩が豆鉄砲を食らったように呆然と眼前を見詰めている。けれどもそれはネガティブな意味合いなどでは決してなく、言わばステージ上で繰り広げられる演劇とも演説ともつかない異次元的な光景に圧倒された末の直立不動である。ラストは言語化不能の宮本の絶叫が幾度も繰り返され、宮本が全ての言葉を放出し尽くしたと同時にピタリと演奏も停止。そうして静まり返った野音に終演を告げる投げキッスが宮本自らの手で放たれると、会場は我に帰ったように沸き、拍手喝采の海が出現した。これにて2時間以上、演奏にして28曲にも及んだ今年のエレカシ野音は幕を閉じたのだった。


思えば昨年から今年にかけての宮本はエレカシ以上にソロとしての活動に傾倒していて、特に今年は自身初となるファーストフルアルバム『宮本、独歩』をリリースし、今冬には自身初となるカバーアルバム『ROMANCE』の発売も決定。彼のソロ活動は文字通り順風満帆な渦中にある。何故エレカシの絶対的フロントマン彼が突如としてソロ活動をスタートさせたのか……。その動機のひとつは言うまでもなく『シンガー・宮本浩次』としてのステップアップ。そしてもうひとつ、忘れてはならない大きな理由として挙げられるのは『エレカシとしての活動を生涯続けていくため』であるということ。


無精髭を剃り落とした外見的な変化然り、機材トラブルの際に見せたスタッフへの愛のある叱責然り、個々の歌詞を噛み締めるように歌い上げたステージング然り……。去る1月の『新春ライブ2020』から8ヶ月以上のスパンを経て開催された此度のエレカシのライブは心なしか、宮本の意識的改革及び音楽に対する真摯さ、更にはある種のホーム感さえ思わせる素晴らしき代物だったように思う。宮本が独歩に至る契機となった事柄がエレカシであったとするならば、そこからぐるりと巡った終着点に存在するのは、やはりエレカシなのだ。今回のライブが彼らによるひとつの起爆剤たる犯行ツールであったということを我々が実感するのは、来たる大爆発が起こった直後。……その証拠に、最後にステージを降りる際に宮本がうっすらと浮かべた笑顔は、凄まじい決意を伴って見えた。


【エレファントカシマシ『日比谷野外大音楽堂2020』 セットリスト】
[第1部]
「序曲」夢のちまた
DEAD OR ALIVE
Easy Go
地元のダンナ
デーデ
星の砂
何も無き一夜
無事なる男
珍奇男
晩秋の一夜
月の夜
月の夜(機材トラブルにより再演奏)
武蔵野
パワー・イン・ザ・ワールド
悲しみの果て
RAINBOW
ガストロンジャー
ズレてる方がいい
俺たちの明日

[第2部]
ハナウタ ~遠い昔からの物語~
今宵の月のように
友達がいるのさ
かけだす男
so many people
男は行く
ファイティングマン
星の降るような夜に
風に吹かれて

[アンコール]
待つ男