キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】POLYSICS『25th Anniversary Tour ~アタック25!!!~』@京都磔磔

こんばんは、キタガワです。

 

http://www.polysics.com/

日本に現存するロックバンドの中でも最も不変のバンドがPOLYSICSだと、今でも信じて疑わない。確かに彼らのように、長らく活動を続けているバンドはいる。ただここまで同じ熱量で、全く方向性が変わることもないまま25周年を迎えたバンドはほとんどいないのではなかろうか。

今回『25th Anniversary Tour ~アタック25!!!~』と題されたツアーは、これまで10年・15年・20年と周期的に行われてきた周年ライブの一環。コロナ禍もあってなかなか訪れる機会の少なかった地域も含めて、一気に回ろうという粋な計らいである。京都会場に選ばれたのは、酒蔵をライブハウスに改造したという、一風変わった磔磔(たくたく)。外観からは絶対にライブハウスとは分からない木族建築に約100人のファンが集まり、開場時には手持ちの傘を適当な脚立に引っ掛ける、雨の中全員で協力して物販場所を守るなど、なかなか珍しい光景の果てに入場。

そんな会場は中も特殊。客席の中心には巨大な柱が聳え立っていて、よくよく見るとステージ横には演者の出入り口が一切なし。ただそのステージ上はお馴染みのシーケンサーとシンセ、マイクがそれぞれ2本ついたスタンドが鎮座していて、POLYSICSのライブが今から行われるんだなあと実感。そして入場口では『トイス!(POLYSICS流のあいさつ。おいっす!的な意味)』と大きく書かれたうちわが配られ、興奮が次第に高まってくる感覚に。

ライブは定刻の17時30分にスタート。暗転するなり背後に視線を移すファンたちになんだなんだと疑問を抱くのも束の間、PA卓の横にある階段にピンスポが当てられる。すると突然ハヤシ ヒロユキ(Vo.G.Syn.Vocoder.Programming)、フミ(B.Vo.Vocoder)、ヤノ(Dr.Vo)たちが降りてくるではないか!驚くファンの真横を笑顔で通り過ぎ、ステージに立ったPOLYSICS。かなり異様な光景だが、どうやらこれが京都磔磔のあるあるらしい。

今回のライブはなんと1曲目からSEの新曲!“Dee B-Bop”と題されたそれで、一気に会場は電子音の波に飲み込まれていく。圧倒的な音量で鳴り響くピコピコ&シンセ音は確かにPOLYSICS的だし、本来ピコピコ音と掛け合わさること自体がタブーとも言われるエレキ楽器をどしゃめしゃに掻き鳴らすのもやはり、POLYSICSなのである。《Dee B-Bop Dee B-Bop Dee B-Bop ヘイ!》という歌詞以外はほぼインストなのだが、新曲の特殊さもあって、全員がすぐにレスポンスを返していたのが印象的。POLYSICSのライブの定番になっているSE楽曲は今後1年ほどはこの楽曲になると思われるので、ぜひライブで聴いてみてほしいところ。

先述の通り、当日の京都磔磔は彼らの結成25周年を祝う代物だった。ただライブのたびにセットリストを目まぐるしく変える彼らのこと。この日もかなり変則的な曲順になるかと思いきや、個人的にこれまで観てきたどのライブよりも鉄板セトリだったのは驚き。ファン必須アイテムの『BESTOISU!!!!』『POLYSICS OR DIE!!!!』『Replay!』のベスト盤3枚の凝縮セット、と言えば分かりやすいだろうか。……とにかく、最初から最後までずっとハイテンションな状態を2時間キープした異常な空間がそこにはあった。

 

POLYSICS 『PLUS CHICKER』 - YouTube

後のMCでもハヤシは「今日は新旧詰め合わせのライブ」と語っていたように、特に前半はこれまでポリのライブでほぼ欠かさず演奏されてきたキラーチューンを大盤振る舞い。1999年にリリースされた“PLUS CHICKER”をはじめ、いつしかライブの超定番となった“Young OH! OH”や“Digital Coffee”、フロアにヘドバンの海を生み出した“シーラカンス イズ アンドロイド”……。それら全てがこれまでの思い出と共に爆音で鳴らされる様は、本当に圧巻だ。何を言いたいのかが全く分からない歌詞に、ロボット的なボコーダーボイス。そして主張の強すぎる打ち込みと生楽器が半ば反発するように炸裂するカオス。これこそがポリである。

 

POLYSICS『Young OH! OH!』 - YouTube

また25年間彼らを追い続けてきた身としては、会場全体が盛り上がり方を熟知していたことにとても感動した次第だ。分かりやすいところで言えば振り付けの数々で、“Young OH! OH!”の体をクネクネ動かすハヤシだったり、“Baby BIAS”のラジオ体操的な飛び跳ねだったりと、これまで何度も観てきた挙動を全員がマネしている。多分、みんなの体が自然にそうなるのだろう。それを見ながら幾度も「トイス!トイス!」と連呼するハヤシのテンションも、どんどん高まっていくのも◯。

本編初となるMCでは、初めて京都磔磔に訪れた思い出をトーク。この会場は酒蔵を改装して作られたライブハウスで、外観的には由緒正しい建造物にしか見えない。その内部も植物のツタや一本柱など印象的なものが多い関係上、彼らはその音楽性とのミスマッチから「海外アーティストの来日ライブかと思った」という。ただそれ以降磔磔での公演が多くなったとし、結果的に2019年には『磔磔でクタクタ!』と題された特別ライブも敢行。磔磔でライブができる喜びを、改めて滲ませる3人が愛おしい。

 

POLYSICS 『Baby BIAS』 - YouTube

緩いMCとは打って変わって、楽曲に移ればすぐさま豹変する結成25年の彼らである。競馬から着想を得た“ムチとホース”をはじめ、ハヤシとフミのダブルボーカルが印象深い“人生の灰”、形を変えて長い間演奏されてきた“Baby BIAS”と、全くスピードが落ちることなく進行。制限もあるため全員がしっかりマナーを守っていて、数年前では当たり前だったモッシュやダイブは全く行われない素晴らしい環境にしろ、「多分これコロナなかったら物凄いモッシュが起きてただろうな」と容易に想像できるほど、興奮は凄まじかった。

ここからは「磔磔では普段なかなかないことが起きる」というMCから、新曲を含めた新たなゾーンに突入。まず披露されたのは“Hey Shepherd(ヘイ シェパード)”、“Wipe Out Happy Guy”と名付けられた新曲。全国各地で全く違う新曲を演奏していることから、おそらく次のアルバムに収録されるであろう楽曲たちだ。『売れる・売れない』といった収入的な部分はもちろん、「昔のような曲より今はこれをやりたい」と、長年活動していたアーティストでも方向性が変わることは当たり前とされている中で、1ミリもブレていないのは流石ポリ。音を聴いただけでとてつもない安心感がある。

 

POLYSICS 『シーラカンス イズ アンドロイド』 - YouTube

かと思いきや、既存曲に関しては一方的な音楽的エゴ(褒め言葉です)を撒き散らす熱量で展開。中でも凄まじい盛り上がりだったのは“Crazy My Bone”。直訳すれば“俺の骨はヤバい”になるそれを、ハヤシはスクワットを繰り返しながら熱唱。もちろん我々も彼の動きを真似しながら暴れているが、肉体的にも興奮を突破したのか、ハヤシが目に装着しているバイザーはいつしか壊れ、素顔でのパフォーマンスになっている。以降もあの独特なハイトーンボイスで、旧SEのバンドリアレンジverの“ACTION!!!”、レア曲“Jhout”などの旧楽曲を次々展開。ほぼ休憩もない熱狂下、思わず記憶が混濁するレベルの盛り上がりには脱帽だ。

“Don't Cry”後には、ハヤシが壊れたバイザーをなんとかする時間に。かつてのライブでも韓国の俳優のように顔が整っていることをイジられていたハヤシ、この日もフミから「このまま行く?YOUのイケメン見せちゃいなよ」と提案されてはいたものの、断固として拒否。その間は普段ほとんどトークをしないヤノが無理矢理場を繋いで失笑……という、まさしく「磔磔では普段なかなかないことが起こる」を体現した時間が続き、なんとかバイザーも復活。いろいろと残念そうなふたりを尻目に、絶対にバイザーを外さない宣言をするハヤシの対比が面白い。

 

POLYSICS『Let's ダバダバ』 - YouTube

終盤戦はハチャメチャな電子音が侵略する“How Are You?”から。これまでも激しい楽曲のオンパレードだったが、このゾーンは明らかに我々のテンションを壊しにかかっていた。例えば先述の“How Are You?”。こちらは4人から3人になって初のアルバム曲だし、10年以上前の楽曲“go ahead now!”で思い出に浸り、ライブで100%演奏される代表曲“Let's ダバダバ”では声が出せない代わりに、メンバーが『ダバダバ』と書かれたうちわを振り回すという……。25年間の総括と言えば簡単に思えるが、それこそ“How Are You?”の頃は活動休止してソロ活動をすることも視野に入れていたとインタビューで語られてもいるし、いろいろな危機も乗り越えた末に行われているのが今回のライブでもある。

クタクタのライブのラストソングは“URGE ON!!!”。ボコーダーにより歪められたロボットボイスを経て、会場はピラニアにエサ状態の盛り上がりだ。もう興奮だけでこうなっています、と言わんばかりのダンスがそこかしこで繰り広げられ、ハヤシはエビ反りでギターを掻き毟りながら更に熱量をよこせと煽り倒す。そんな音の洪水の中でライブハウスの素晴らしさがスパークする様は、どこか感動すら覚えた次第だ。

ここで一旦ハケ、鳴り止まない拍手に再び呼び込まれたポリの3人。そこでハヤシがおもむろに語ったのは、改めてこの磔磔という運命的な場所についてだった。それこそこの日は大雨の影響で開場時間が大幅に遅れたのだが、何度も磔磔でライブを行ってきた彼らも、一度だけライブ時間ギリギリに到着したことがあるという。そのとき磔磔に到着したのはなんと開場時間を過ぎてから。「もう時間押してるんだけど、1曲だけリハ(リハーサル)しましょうって。次やる曲はそのときリハした曲で、この曲を絶対今日の磔磔でやりたかった」とハヤシが語り、アンコール1曲目の“ドモアリガトミスターロボット”に繋げていくのだった。

 

POLYSICS 『Lucky Star』 - YouTube

そこからは鉄板ポップアンセム“Lucky Star”を挟んで、最終曲は結成当初から鳴らされ続ける代表曲“Buggie Technica”。この楽曲に主だった歌詞はなく、メンバー紹介以外は基本的に爆音の電子音で構成されている。ただ制作されて以降メンバーが脱退、周年アルバムリリースとと様々な出来事が起こるたび、その都度新録されてきたのがこの“Buggie Technica”であり、言わば彼らの活動を総括する大切な楽曲なのだ。もちろん会場はイントロが流れた瞬間から大盛り上がり。メンバーたちも頭が取れるレベルの激しいヘドバンで熱量に油を注いでいき、お馴染みの振り付けもバッチリ成功。もはやヘドバンと爆音で前後不覚の状態になったところで、気付けば終了。アウトロとしてギターが響き渡る環境でハヤシはダメ押しの「トイス!」を連発し、最後には「おやすみー!」と叫ぶ恒例の流れでもって、圧倒的興奮に包まれたライブは終幕したのだった。

 

POLYSICS 『BUGGIE TECHNICA 2012』 - YouTube

全部で25曲という曲数も表している通り、名実ともにこの日のライブは彼らの25周年を記念するものだった。当然ながら、大学時代から25年間やり続けたバンドは日本全体を見てもなかなかいないだろう。ただ今回のライブは特にメンバーからの印象深いMCもなく、いつも通りに終わったことは驚きでもあった。それこそ僕は長いこと彼らを追い続けていたが、住む場所が田舎になったことから、ある時期を境に7年近くPOLYSICSのライブに行くことはなくなってしまった。なので正直なところ今回のライブの参加には若干の不安もあったのだが、良い意味で彼らは本当に何も変わっていなかった。特に曲調が変わることもなく、大好きなままのポリがそこにいたのである。

今回のライブでも何曲か披露されたように、彼らは既に『25周年の次』を見ている。またアルバムを作って、全国ツアーを回って……。30周年を迎えて記念ツアーをして、35年、40年と続いていくはずだ。その通過点としての今回のツアーは、きっと大きな糧となって還元される。今度は「トイス!」が全員で叫ぶことが出来ることを願って、これからも追い続けていきたいと思った夜だった。

【POLYSICS@京都磔磔 セットリスト】
Dee B-Bop(新曲)
PLUS CHICKER
Young OH! OH!
Digital Coffee
シーラカンス イズ アンドロイド
ムチとホース
人生の灰
Baby BIAS
Hey Shepherd(新曲)
Wipe Out Happy Guy(新曲)
Crazy My Bone
ACTION!!!
Jhout
Stop Boom
Don't Cry
How Are You?
go ahead now!
Funny Attitude
Let's ダバダバ
ピーチパイ・オン・ザ・ビーチ
SUN ELECTRIC
URGE ON!!

[アンコール]
ドモアリガトミスターロボット
Lucky Star
Buggie Technica