キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

映画『ドライブ・マイ・カー』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。

 

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鑑賞後、無意識的に「おおー」と声を出してしまった自分自身が、妙に可笑しかったのを今でも覚えている。一体何が「おおー」だったのかは形容し難いものがあるけれど、おそらく本当に素晴らしい作品と出会ったときというのは、誰もが「すげー」とか「うわー」とか、決まってそうした感動詞を口にするはず。そして『ドライブ・マイ・カー』もまた、静かに心を震わせる大名作だった。

本題に入る前に、少し『ドライブ・マイ・カー』について説明しよう。この作品の原作は村上春樹の『女のいない男たち』と名付けられた短編小説集の中の1つ『ドライブ・マイ・カー』。なにぶん小説としては短編集であることからも分かるように非常にショートで1時間もあれば読み終わることが可能な代物なのだが、何と今作、上映時間が3時間あるのだ。そしてもうひとつ、おそらくこれはこの映画を鑑賞しようとする人々を増やした契機にもなった栄誉であるが、2022年・第94回アカデミー賞で日本映画史上初となる作品賞にノミネートされたことで、大きな評価を得るに至った。……長々と綴ってしまったので要約すると、今作は本来とてつもなく短い小説を映像化したものでありながら、映画化にあたって約3時間尺にし、更には日本映画で初の快挙を成し遂げた作品ということになる。なので当然これから鑑賞する人は、そうした高い前評判を絶対に頭に記憶させてから臨む訳なのでハードルは高くなるとは思う。

さて、以上のことを踏まえてレビューに移るが、今回この『ドライブ・マイ・カー』は最高の★5評価にした。加えて高評価と相反する形で申し訳ないが、この映画をネタバレなしでうまく表現する術を自分が持っていないことも同時に、伝えておかなければならない。いや、多分、ネタバレ禁止でなくてもこの映画を伝えることは難しい。とても不思議なヒューマンドラマ、それこそが『ドライブ・マイ・カー』だった。

物語の始まりは、愛をむさぼるとある一夜から。詳しくは以下の公式MVを参照していただきたいのだが、なにぶん3時間もある映画である。行為中に妻が放つ謎の詞も、他愛もない発言も、緩やかな流れも、まだこの段階では大した意味を成さない。しかしながらこの時点で、既に良い意味で時間がゆるりと過ぎていく空気感と、何か巨大な出来事が起こりそうな雰囲気はひしひしと感じる。ともすれば冗長なイメージさえ抱いてしまいそうなところだが、そうしたこともなく。それこそ我々が休日に公園を散歩しているような、絶対に時間は経過しているけれどもそこまで実感がない、そんな感覚が続く。

物語が大きく動き出すのはその後。もちろんネタバレになるので詳しくは記さないものの、セリフ以上に登場人物の目線の動きや風景描写で魅せる作りは日本映画ならではだ。確かにネットでいろいろと言われている通り、それこそ同じ日本アカデミー賞にノミネートされている他作品と比べれば「結局ここはどういう意味だったの?」と考えるシーンもある程度はあるし、個人的には気にならなかったものの3時間の尺を厳しく思う声もある。ただ、そうした部分を踏まえても絶対にこの映画には触れるべきだ。『ドライブ・マイ・カー』でなければ有り得ないレベルの言葉にならない読後感は、是非とも体験してみてほしい。人は何故辛い中でも生き続けなければならないのか……。その理由の一端が、この映画には描かれている気がする。


ストーリー★★★★★
コメディー☆☆☆☆☆
配役★★★★★
感動★★★★☆
エンターテインメント★★★★☆

総合評価★★★★★

 

映画『ドライブ・マイ・カー』90秒予告 - YouTube