こんばんは、キタガワです。
先日amazarashiの公式サイトにて、『新言語秩序 amazarashi武道館公演』という謎のアプリの配信がスタートした。
残り1ヶ月を切った日本武道館公演。どうやら彼らはこのアプリを使って、ライブ中にある実験的な試みをするつもりのようだ。
さて、ここからが本題だ。このアプリ内で現段階で公開されているのは、秋田ひろむが執筆した『新言語秩序』と名付けられた小説のみである。
僕は思った。この小説には深い意味があるに違いないと。
実際、小説を読み進めていくと『朗読演奏実験空間 新言語秩序』という奇妙なタイトルの隠された意味を知ることが出来る。
断言するが、今回の武道館ライブはこのストーリーを沿った形で進行することは間違いないし、同時にこの小説の内容を知っているかいないかで大きく変わってくるものだとも思うのだ。
だが、太宰治や寺山修司の影響を受けた秋田ひろむの文章は、読み進める上では少々難解な部分もある。普段活字に触れていない人にとっては、解釈にかなりの時間を要するだろう。
なので今後は、小説『新言語秩序』について、分かりやすく直して紹介していこうと思う。
難解な部分は読みやすく、かつ分かりやすいよう工夫してみる所存だ(もちろん検閲は解除済み)。
そして最後には、僕自身が感じた部分について、簡単ではあるが持論を述べたいと思う。
第1回目となる今回は『第1章』を取り上げる。
それではどうぞ。
C区の町はぼんやりしている。
それは初めての船乗りが進む、終わりのない海。そこから『希望だけを抜き取った』くらい、ぼんやりしている。
普通の商店街の裏に、居酒屋がたくさん並ぶ街があった。そこの橋の下のトンネルに、私が憎むものがあった。
それは落書きだ。
例えば『日本死ね』や『セフレ求080』や『愚連隊参上』や『HOPE』や『終末は訪れる』などと書かれた、落書きだった。
これらは全て“テンプレート逸脱”*1なので犯人を見つけて処分したいところだが、それは無理だろう。だが私たちが知りたかったことはわかった。
”言葉ゾンビ”*2共の協力者が、この街にもいるのだ。それは許せない問題だ。
インターネット上で好き勝手暴れているだけならまだいい。特定が簡単だし、警察による再教育も簡単だ。
だが、言葉ゾンビ共の活動に影響を受けた者たちがインターネット上ではなく、自身の住む街や周辺でこういった“テンプレート逸脱活動”を行い始めたということは、それだけ“熱心な活動家”*3が、またひとり誕生したということだ。
私はスマホで写真を撮り、すぐさま“新言語秩序”*4の調査係にメールする。
落書きを象徴するように、その言葉は大きく書いてあった。
『言葉を取り戻せ』
言葉は人をダメにする。時に傷付け、時に違う考えへと動かしてしまう。
人間は言葉で作られる。
母が赤ん坊に語る言葉。教師が生徒に言う言葉。友達との会話。テレビ、ラジオ、本や音楽。ビデオゲームやインターネット。そういうものの積み重ねで人間性は作られる。
私にしたってそうだ。母に怒られ、父にレイプされた。クラスメイトや教師たちにいじめられた。汚い言葉によって心をズタズタにされた者は、それにふさわしい人間になった。
いつか仲間に言われたことがある。
「実多はまるで言葉の潔癖症」だと。
私に言わせれば、彼などは汚い言葉を口から垂れ流すだけのゾンビだ。彼のような人間が私たちの心をズタズタにしようとするのだ。何気ない日常の中で。路上で。インターネットで。
調査係からメールが返ってくる。
「実多さんお疲れ様。特定完了です。言葉ゾンビの希明で間違いない。やはりC区にいるようです」
いつも通りの返信。
足元でアリがのたうち回っていた。私が体を踏み潰したので苦しがっていたのだ。こんな苦しそうな動きを、昔見た気がする。
そうだ、思い出したくもない。
父親に散々レイプされて、何十回目かの夜だった。もう私には少しの怒りしか残されていなかった。私はその怒りを結集させたハンマーを、彼の勃起した××へと振り落とした。
彼はのたうち回った。そのすきに顔面を目覚まし時計で殴った。何度も。
その時の彼はいっそ殺してくれという苦しい表情だったのを思い出した。なのでアリを一気に踏み潰した。
目覚まし時計は壊れたけれど、おかげで私はようやく目が覚めたのだ。
私は言葉を殺さなければならない。
[了]
……いかがだっただろうか。やはり簡単にしようとすると、かなり希薄な内容っぽく感じるなと。これに関しては僕の力不足である。
今回の第一章は、主に世界の現状と、主人公である実多の紹介について書かれている。
まずこの世界は、僕たちが暮らす日本とは全く違う環境にある。
大きな部分は「自由に言葉が使えない」こと。強い言葉や、国の意に反した言葉が口に出せない世界なのだ。
例えば「こんにちは」。これは大丈夫。だが「ちわーっす!おーい馬鹿野郎」などと言った瞬間、処罰される。
例えば「朝」、「昼」、「晩」。これは大丈夫。だが「朝ってクソ起きるのめんどくね?マジざけんなよ」と言ったらアウト。
要はソ連や北朝鮮のイメージ。少しでも国の意見に歯向かったら殺される。みんな絶対服従。それの言葉バージョンと言っていいだろう。
そして主人公の実多は、そんな『強い言葉を使う人たち』を許せない人間。なんというか、かなりの悪役である。だからこそ味方と連絡をして、『日本死ね、セフレ求、HOPE(希望)』と書いた人を見つけ出して殺そうとしているわけだ。
なぜ実多がそんな性格になったのかは、幼い頃に多くの傷付いた経験があるからだ。イジメ、暴言もあるが、特に酷かったのは父親の性的虐待。これらがきっかけで実多は『汚い言葉』を嫌うようになり、それらを使う人間は全員抹消するつもりでいる……。
ここで第一章は終わりだ。第二章では、さらなる情報が語られることになるのだが、それはまた今度。
近いうちに第二章を更新したいと思います。それでは。
→第二章はこちら
→第三章はこちら
→最終章はこちら
→日本武道館公演レポートはこちら