キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【音楽文アーカイブ】花道はらしく、ポジティブに。 〜泣いて笑って驚いて……。でんぱ組.inc、成瀬瑛美卒業公演の全貌〜

その裏表ない前向きさで、でんぱ組.incを明るく照らす元気印の役割を果たしていた結成当初よりの主要人物のひとり、えいたそこと成瀬瑛美。そんな彼女の10年8ヶ月にも及ぶ活動の集大成とも言うべき卒業公演が去る某日、東京・豊洲PITにて行われた。ダブルアンコール含め、この日2時間をゆうに超えるロングショーとなった最後のパフォーマンスは、終演後様々なメディアで発表があった通り新規メンバーが5人追加、総勢10名体制になることを発表した運命的な一夜でもあったが、それ以上に笑顔の花がそこかしこに咲いた、あまりに成瀬らしいポジティブに満ち満ちた空間であった。


ポップなフォントで織り成された此度のライブタイトル『ウルトラ☆マキシマム☆ポジティブ☆ストーリー!! ~バビュッといくよ未来にね☆~』がステージ上部のモニターに映し出される中、定刻になると開演を察知した多数のファンの拍手に導かれるように暗転、オープニング映像に移行。「明日はえいたその卒業式……!!」との卒業公演にちなんだテーマが映し出された後、成瀬画伯のイラストに合わせてメンバーがアフレコを施した動画がてんやわんやな盛り上がりで流れるよもやの幕開けだ。でんぱ組.incならではの荒唐無稽なトークが交錯するドタバタ劇を経て、動画上の成瀬は最後の夜を飾る運命的なこの日、メンバー内で初めて行う『パジャマパーティー』を提案。そしてツイッターで事前募集された、有志によるイラストの数々がモニターに次々公開されれば、シンセサイザーのダイナミックなサウンドと呼応するように照明が輝かしく明転。1曲目は昨年リリースされた6枚目のフルアルバム『愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ』より、リード曲たる“アイノカタチ”だ。


縦横無尽に入り乱れるダンスと歌唱でもって決して目には見えない、けれども間違いなく個々人の心に存在する無形の愛の形を具現化する“アイノカタチ”。今回のライブが成瀬のラスト公演であることからともすれば物悲しさを感じさせるライブとなる可能性も考えていたが、実際は今回の主人公たる成瀬はもちろんのことメンバー6人全員が満面の笑みを湛えており、一見今回の公演がいちメンバーの卒業公演であるとは思えない程、明るい雰囲気に満ち溢れている。ふとメンバーの衣装に目を向けると、『パジャマパーティー』を体現するが如く各自のイメージカラーを模した女児のパジャマテイストのニュー衣装に様変わりしており、具体的には藤咲彩音の背中に猫らしき生き物が引っ付いていたり、根本凪と鹿目凛の服にはハートや目玉焼きの刺繍があしらわれていたりと、目にも楽しい。ステージセットに関しても印象的で、成瀬によるイラストが随所に取り入れられたコミカルな自室と称すべき仕様。まさにこの日が成瀬の脳内における『やりたいこと』を出来る限り具現化した、後腐れなしの素晴らしきラスト公演であることを明確に示す形となっていた。


その後はあまりに過密な情報量でもって“愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ”を駆け抜けたかと思えば、コロナウイルスによる自粛期間中に公開された“なんと!世界公認 引きこもり!”を間髪入れずにドロップ。ほぼ現時点でのベスト的な構成となっていた4曲目以降と比較すると、この時点では新規の楽曲が中心となっていた。しかしながら“愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ”では座り込んだ成瀬を全員が力を合わせて起き上がらせるワンシーンや、続く“なんと!世界公認 引きこもり!”では後半部で繰り返される、もはや昨年以降我々が報道等で何度聞いたか分からない《Stay home!》のフレーズを歌唱する場所が成瀬理想の家を模したステージセットの目の前であったりと、そこかしこにこの日ならではの一幕が点在。集まったファンたちも感染拡大防止の観点から発声こそ出来ないけれど、その名状し難い興奮を代弁するが如くのサイリウムの激しい動きでもって答えていく。

“なんと!世界公認 引きこもり!”後は「萌えキュンソングを世界にお届け!でんぱ組.incでーす!よろしくお願いしまーす!」とのお馴染みの前口上を皮切りにMCへ移行。まずは古川未鈴が「みなさーん!お久しぶりでーす!」と底抜けに明るい笑顔でファンに挨拶。思えばこのコロナ禍ででんぱ組.incが有観客でライブを行ったのはこの前日に続いて2日目であり、当然メンバーのテンションも極めて高く「元気かー!」「会いたかったー!」などそれぞれが思い思いの言葉で集まったファンに感謝を伝えている。


この日がラストライブの成瀬はと言うと、正真正銘最後となる「世界のときめきはえいたそにおまかせ!ハイテンションA-POPガール、えいたそこと成瀬瑛美です!」との自己紹介を終えると、この日の抱負を口にする。ただそんな中でもトークはどこまでもポジティブで、卒業公演のしんみりとした雰囲気とは皆無であるが、そうした事柄さえもどこか『成瀬らしさ』を感じてしまう。続いて古川に卒業公演当日を迎えた現在の心境について問われた際にも、成瀬は「卒業公演ですねー!胸がいっぱいだよー。でも楽しくて仕方がないなあ、今」とどこまでも前向きだ。そうした良い意味で不変の成瀬のキャラクター性に誰もが目を潤ませる中、相沢梨紗は「せっかくだからえいたそがやりたいこと全部やりたいですね」と今回のライブを一切の心残りなく終えることを宣言。長年苦楽を共にしたメンバーらしく、その一連のトークの最中には誰かがコメントを発したり、笑い声が響き渡って更なる笑いを誘う循環が出来上がっていて、それはともすれば冗長なトーク。……けれどもでんぱ組.incのライブでは決してそうはならないという、何よりグループの絆を強く感じさせるものでもあった。


そしてパーティーにちなんで行われた成瀬による上下にリズミカルに振って行う独自の乾杯を経て、ここからは“でんぱーりーナイト”、“バリ3共和国”、“でんぱれーどJAPAN”などアッパーな楽曲を中心に展開しての怒濤の盛り上がりへと導いていく(なお古川は現在懐妊中であることから、4曲目の“でんぱーりーナイト”から11曲目の“サクラあっぱれーしょん”まではステージ袖で歌唱に徹していた)。確かに今までもライブで繰り返し披露されてきた代表的な楽曲のオンパレードではあるが、やはり成瀬のターンが回った瞬間に「成瀬だ」と分かるあの印象的な歌声を聞くたび、成瀬が如何にでんぱ組.incの重要なエッセンスとして位置していたのかを、改めて感じた次第だ。


中でも感動的に映ったのは、でんぱ組.inc屈指のライブアンセムのひとつ“でんぱれーどJAPAN”。この楽曲はでんぱ組.incの楽曲の中でもメロ部分のコールやサビの合いの手など、ファンのレスポンスが肝となる。しかしながら感染防止対策の徹底でこの日集まったファンによる発声は控えるようお達しが出ているために、此度のライブでは盛り上がりに一役買っていたコールについては、実質的な禁止行動であった。ただダークな照明に包まれたこの曲屈指のポイントである後半部ではファンは発声の変わりに、手拍子やサイリウム同士を叩き合わせたりと突発的に思い描いた様々なアクションを試みていて、思いがけず涙腺を緩ませる。他にも根本が《君と繋がる電波のパワーで》を《えいたそさんのパワーで》に変化させて歌唱したり、身重の古川に変わって成瀬が冒頭のダンスを担うなど、今まで幾度も披露されてきたはずの“でんぱれーどJAPAN”はまた違った魅力を携え、ファンの目と耳に届いていた。

ファン人気の高い“檸檬色”をしっとりと聴かせると、成瀬の心奥底に迫る質問コーナーへ突入。口火を切ったのはこのメンバーの中では最も若く、また2017年に驚きのサプライズ発表と共に新メンバーとして加わったねもぺろのふたりだ。まずは「何で今日パジャマパーティーなんですか?」との今回の設定の深意を尋ねた根本。気になる成瀬の解としては『パジャマパーティーはみんなとの絆が深まる』との知識をどこかで得たことから端を発した試みであるらしく、メンバーはそれぞれに頷き合って成瀬の意見に同調する。続く鹿目は「えいちゃんのでんぱ組.incの活動の中で、一番の思い出を教えてください」と10年8ヶ月にも及ぶ活動の総括の意味も込めたストレートな質問をぶつけ、暫し考え込んだ成瀬は「どれもステキ過ぎて決められないよ!」と溢れんばかりの笑顔で語った後、心からの感謝を込めた表情で「どれも一番ってことは、やっぱりでんぱ組.incに入ったこと自体が一番の思い出かなって思うよ!」と断言。その感慨深い返答に対し、心突き動かされたメンバーたちは次々に成瀬の名前を叫びつつ、彼女にダイブ。中でも一際強く成瀬の胸に飛び込んだ藤咲の目にはうっすらと涙が浮かんでいて、我々が知る表のでんぱ組.incとしての成瀬は元より、プライベートやバックステージ、リハーサルといった我々の知らない部分においての成瀬とメンバーの絆を物語っているようでもあった。そして相沢による「えいたそは死ぬまで、ずーっと続けてたいことってある?」との問いに対しての「それはあるよ。だから次の曲歌いたかったんだよね。ずっとステージで歌ってたいなあ。明日地球がこなごなになっても……」との言葉を合図に、緩やかに次の曲へと繋げていく。


「えいたそはでんぱ組.incに入って、10年と8ヶ月頑張ってきました!さっき言われて気付いたんだけどさ、ちょうど10年8ヶ月で『でんぱ』って読むんだね。でんぱ組.incに入って本当にさ、アイドルグループに入ることってこんなに幸せなことなんだなって実感することが出来て、何か凄い人生がキラキラしてました。10年8ヶ月、本当に本当に楽しいことばっかりだった!そりゃアイドルグループとして頑張っていく中では大変なこともあったけど、そういうのも全部含めて、楽しくて幸せなでんぱ組.inc生活を送ることが出来ました。本当にみんなのおかげだね。みんな本当にありがとう!」……成瀬は“Future Diver”後に、感極まって涙が溢れてかねない心をグッと堪えながら集まってくれたファンと、長年苦楽を共にしてきたメンバーに思いの丈を届けていた。今回のライブでは総じて成瀬が頻りに感謝の思いを述べていたのが印象的だったが、裏表のない成瀬のことだ。今回のMCで語られた一連の感謝の思いは間違いなく本心で、そこには寸分の淀みもないだろう。そんな中我々ファンはと言えば、『でんぱ組.incから成瀬が脱退する』という未だかつて予想していなかった……いや、予想することを意識的に拒んでいた未来がこうして訪れた今、彼女の一言一句を聞き逃すまいと真剣に耳を傾けている。その双方向的な関係はあまりに強固で、信頼の塊だった。


そして成瀬の感謝と次なるネクストステージへの思いが詰まった新曲“ポジティブ☆ストーリー”を経て本編のラストナンバーに選ばれたのは、でんぱ組.incの名を広く知らしめた契機とも言えるキラーチューン“でんでんぱっしょん”。メンバーはそれぞれのカラーのダンスリボンを幾度も交差させながらの矢継ぎ早に繰り出される歌唱でもって、天井知らずの熱狂へと導いていく。思えば曲間における「大丈夫!みんながいるし、仲間だもん!」との成瀬による一言から「えいたそは元気だな~……」と続く一連の流れがライブで披露されるのも、おそらくはこの日が最後。心なしかメンバー全員の歌声も冒頭から強い熱量を帯びている感すらあり、この日のハイライトとも言える凄まじい一体感を形成。ラストは6色のリボンをぴんと張ったお馴染みのキメで、本編は大盛り上がりで終了。ステージ上の全員が涙を堪えながらの「以上、萌えキュンソングを世界にお届け!でんぱ組.incでしたー!ありがとうございましたー!」との閉幕宣言でもって、メンバーは最大限の笑顔を振り撒きながらステージを後にした。

アンコールを求めるファンによる多数の手拍子に導かれ、続いては新生でんぱ組.incによるアンコール……と思いきや、突如会場に本編を終えた各メンバーの労いの声が響き渡る。以降のトークの内容を鑑みるに彼女たちの現在地はでんぱ組.incの楽屋であるらしく、ケータリングやコロナ収束後の旅行の計画などとりとめもない話の他「やっぱえいたそいないと、楽屋がちょっと寂しいね」という古川に端を発した「えいたそが印になって楽屋に辿り着いてみたいなところあったから」との相沢の思い出が相沢の口から語られ、卒業後はソロのシンガーとしてネクストステージへと足を踏み入れる成瀬の希望に満ちた今後について思いを馳せるメンバーたち。なおこの時点で未だステージは暗転状態で、聞こえてくるのはメンバー5名の会話のみ。しかしながら普段のライブトークの延長線上とも言うべき安心感のある会話の応酬に、会場はアットホームな雰囲気に包まれる。


そんな穏やかな流れが変わったのは、相沢が「あと楽屋に着いてからずっと思ってたんだけど、今日楽屋狭くない?」という発言から。彼女たちの発言を紐解くにその狭さの原因は楽屋に巨大な箱が5つ鎮座しているためであるらしく、メンバーたちはその箱の個数が現在のメンバー数と同じであることから何らかのサプライズプレゼントであると推察。おそるおそる一斉に箱を開けると「おはようございまーす!」「お疲れ様でーす!」との様々な声が出現し、口々にメンバーは驚きの声を上げる。


荒唐無稽な流れの果てに「ま……まさか……新メンバー!?」との困惑を携えた絶叫が鳴り響くと、再び会場に照明が。突如として雪崩れ込んだのは、“プリンセスでんぱパワー!シャインオン!”と題された新曲であった。今までもでんぱ組.incの楽曲は多種多様な音楽性を試みていたが、今曲はなんとミュージカル。愛川こずえ、天沢璃人(RITO、meme tokyo.)、小鳩りあ、空野青空(ARCANA PROJECT)、高咲陽菜(虹のファンタジスタ)ら一挙5名を増員した総勢10名の新たなでんぱ組.incが、すっかり呆気に取られるファンの眼前で圧倒的なパフォーマンスを行っている。前述の通り、でんぱ組.incがよもやの10名体制となったニュースはライブ終了後加速度的にSNS上を駆け巡り、多いに反響を呼んだ。当然その中には称賛の言葉と同等程度の驚きの言葉も躍ってはいたが、思い返せば当時最年少メンバーとしてサプライズ加入を果たした根本や鹿目も、更に遡れば藤咲もこの日卒業した成瀬も、かつてはでんぱ組.incの新メンバーとして加入した経緯がある。特に昨年以降、でんぱ組.incにはポジティブな面として古川の結婚・妊娠発表や成瀬の卒業発表、ネガティブな面としては新型コロナウイルスによるライブツアー中止など様々な出来事があったけれど、今回のでんぱ組.incの試みは今までと同様にきっと新たなポジティブな形として、行く行くはファンに広く受け入れられることだろう。故にこの新たなでんぱ組.incの初ライブは、新たな幕開けを飾る最初の一歩としてこれ以上ない前向きな試みであったと称して然るべきだろう。


続いては古川が「どの時代のでんぱ組.incだってね、いつでも最高なんだよ!だからね、この先のでんぱ組.incだって最高になるはずです!未来に向かって!“Future Diver”!」と叫ぶとこの日2度目となる“Future Diver”が姿を変えた形で披露され、でんぱ組.incの歴史を今後も繋いでいく決意を相沢が明言し、アンコールは終了。初の御披露目であることもあってか、未だ新メンバーに関しては強い緊張が感じられるものではあったけれども、きっと未来は明るい。その証拠に、アンコール終了後にファンがもたらした拍手は広く大きい、でんぱ組.incへの紛れもない祝福をもたらすものになっていたのだから。

楽しい時間はあっという間で、早くもアンコールまで駆け抜けた今回の卒業公演であるが、まだまだライブは終わらない。アンコール終了後も一向に点かない客電を察知してか、ダブルアンコールを求める手拍子が広がっていく。その手拍子に誘われるようにステージに三たび現れたメンバーたち。向かって左側から小走りで中心に向かうその最後尾には成瀬の姿もあり、驚いたファンによる拍手は明らかに大きくなっていて、予想以上の反応に成瀬も嬉しそうだ。まずは先程の新生でんぱ組.incについて「『今のは一体なんだったんだ』って、みんなも絶対思ってるはずなんだよね。みんな困惑してると思う」と藤咲がファンの声を代弁するように笑顔で語ると、古川に感想を問われた成瀬に至っては「めちゃくちゃ凄くて面白くて笑っちゃった!」との発言で爆笑の渦に包まれる。そして成瀬の合図から感涙必至のバラードソング“ORANGE RIUM”をしっとりと歌い上げると、その後は長尺のトークへと移行。


このトークではライブ冒頭からステージ背後に作られていた『成瀬の部屋』に全員が腰を降ろし、ある種緊張感のない雰囲気で思い思いの会話の応酬が繰り広げられるフリータイム。だがそれすらも成瀬が最後にやりたかったことのひとつであるらしく、言わばファン含めてのアフターパーティー的な意味も込めての一幕であった。そこでは成瀬へのプレゼントとして、事前の感動の予想を大きく覆す『成瀬を模した金色の像(なお制作者は藤咲の父であり、約2時間で作ったとのこと)』とメンバーと関係者による寄せ書き、ファン制作の卒業証書が送られると、成瀬直筆によるメンバーへの手紙を朗読する時間が到来。文章の節々に絵文字や擬音が挟まれるという成瀬らしさ全開、しかしてその内容は長年の信頼を詰め込んだ胸震わせる思い出の連続であり、メンバーは皆思い思いの感情をたたえて耳を傾けていた。


かつてのでんぱ組.incを総括するファン垂涎のトークが終われば、ライブはいつしかクライマックスへ。曲間における熱いコールがモニター上に踊り、ファンによるオレンジのサイリウムの海が出来上がった“キラキラチューン”で更なる感動へと誘い、ライブの終演を惜しむメンバーとファンへ最後の贈り物として鳴り響いたラストナンバーは、ポジティブなアッパーチューン”STARットしちゃうぜ春だしね“である。興奮が最高潮に達した結果マイクが鹿目の歯に直撃してしまったり、縦横無尽に動き回ったために成瀬の左足の靴紐がほどけてしまうハプニングも含めて、全員が満面の笑顔。徹頭徹尾ポジティブに振り切った出し惜しみなしのパフォーマンスだ。楽曲の終了が近付いたラスサビ部分ではメンバーが桜の花弁を模したピンクの紙吹雪を成瀬の頭上から次々舞い散らし、ラストは全員が横並びになっての深々としたお辞儀で感謝を体現。会場中に広がるいつまでも鳴り止まない拍手をBGMとしながら、此度のライブはその幕を降ろしたのだった。


……でんぱ組.incはこの日をもって、大いなる変遷を遂げた。無論日本全国様々なアイドルグループに目を向けても常に順風満帆に事が運んだアイドルというのはおそらくいないはずで、でんぱ組.incも様々な困難に直面した経験もある。ただでんぱ組.incにおいては今回の成瀬の脱退もメンバー加入も、あくまでポジティブな意味合いとして捉えている。明るい未来を占う試金石たる今回のライブが脱退ライブと称するにはおよそ不釣り合いな前向きな代物となったのも、きっと必然なのだろう。終盤のMCで成瀬とでんぱ組.incが共演する未来について語られたように、先の可能性は無限大だ。今後はそれぞれの活動を追いながら、来たる素晴らしき未来を座して待ちたい。


※この記事は2021年3月1日に音楽文に掲載されたものです。