キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【音楽文アーカイブ】教祖プレゼンツ、秘密基地的大規模集会 〜ポルカドットスティングレイ教による音楽的宗教行事『#教祖爆誕』、オンラインにて。〜

去る10月某日、ポルカドットスティングレイのオンラインライブ『ポルフェス48 #教祖爆誕 オンライン』が開催された。


今年のポルカは1月上旬に発売されたニューミニアルバムを引っ提げ『新世紀TOUR』と題された全国ツアーで全国各地を回り、更なる躍進を遂げる予定だった。けれども新型コロナウイルスの影響によってツアーは全公演中止を余儀無くされ、それならばと来年に予定された国立代々木競技場第一体育館公演も、感染拡大防止の観点から中止が決定。故にこの日はポルカにとって約9ヶ月ぶりのライブとなることに加え、未だ先行きの不透明なコロナ禍においての数少ない存在証明の場でもあったのだ。


ライブ前に「うちの配信ライブが普通のライブの下位互換ではないことをみんなの耳と目に分からせてやるワンマン」と雫(Vo.G)が自身のツイッターアカウントで発言していたことからも分かる通り、並々ならぬ決意を滾らせつつこの日を迎えたポルカ。此度のライブに関してバンドの絶対的コンポーザー・雫による配慮は今までに行われた様々なアーティストのオンラインライブと比較してもどこまでも行き届いていた印象で、公式ホームページ上に作られた『HOW TO #教祖爆誕 2020』なる特設サイトには計4つの視聴形態を完備。チケットの購入方法を丁寧にレクチャーするフローチャートや、ライブを視聴する上で最適な環境を記したイラストもバッチリで、痒いところに手が届く完璧な案内で誘導。自身初となるオンラインライブに向けて磐石の体制で挑んでいた。


開演は20時だが、開場は少しばかり早い19時。早めに会場入りすると、そこには「とりあえずMV観といてくれよな」との文字と共に“FREE”や“JET”といった比較的新しい楽曲を中心としたMVが予習の意味合いも兼ねて流れており、他にも推奨環境の提言、ライブ視聴時における注意事項等といった配慮の成された説明文が躍り、ライブへの期待を底上げ。なお同時刻、ツイッターでは今回のライブ独自のハッシュタグ『#教祖爆誕』がトレンド入りを果たすと共に、備え付けられたコメント欄には個々人によるカウントダウンと言語化不能の興奮が乱打される事態となり、その勢いは定刻の約2分前、画面上に「まもなく開演です 超たのしみ マジやばいね(ギャル) 楽しむ準備できた?」との雫本人による一文が大映しになると更に追うことが不可能な程に加速した。


定刻を過ぎると、画面が緩やかに暗転。瞬間流されたのは、ティザー映像のフル尺バージョンだ。「なんか最近全然ライブやってないよね」と語る雫、突如右の手の平からレーザーを発射するウエムラユウキ(B)、手元のスマートフォンに目を落とすエジマハルシ(G)とミツヤスカズマ(Dr)……。その動画は字幕の色合い含めメンバーの一挙手一投足含め、事前に公開された映像と全く同じであり、後方で待機していたスタッフことSAY YESマンが「時間です」のプラカードを掲げると、全員が扉の前に向かう。元々の映像では雫がここで扉を開け「なんこれ……」と発言する場面で映像が途切れていたが、今宵の動画ではポルカが扉を開けたその後……ティザー映像の言葉を借りれば『4人の魔法みたいな1日』の全容が描かれるに至った。


扉の向こうにあったのは、この日のために多種多様なセッティングが施された特設ステージ。そこには雫の愛猫・ビビが涙を流した半泣き黒猫団(ポルカファンの通称)の旗、「ポルカドットスティングレイはここにいる」と英語で記された垂れ幕の他、きらびやかな電飾、天体望遠鏡、マネキン、ミラーボール等、全てを書き記すことが不可能なほど所狭しと置かれた物、物、物。その非現実的空間はまさに秘密基地と称して然るべき代物であり、ステージに足を踏み入れた瞬間から目に入ったアイテムについて口々に思いを述べるメンバーたち。いつの間にやらメンバーの服装も扉を開ける前と異なる青を基調としたものに様変わりしており、変化に気付いた雫が指摘すると一様に興奮を爆発させていた。……開幕からここまで数分。まだオープニングながら、これ以上ないエンターテインメント性抜群の滑り出しである。

オンラインライブの1曲目を飾ったのは、雫が自粛期間中にSNSを見て感じたことを赤裸々に歌詞に起こした“FREE”。ポルカ印の爽やかなポップナンバーである同曲はこの日が初のライブ披露ということもあり、故に多少なりともやり辛い部分もあったろうと推察するが、フロントウーマンたる雫は口ずさむように、随所に挟まれたラップ部分も含めて英詞と日本詞を織り混ぜた歌詞を朗々と響かせていて、その表情はにこやか。堅実な演奏で楽曲を支えるミツヤスとウエムラ、飛び道具的な音像が印象的なエジマのギター等個々の役割をしっかり果たす楽器隊と、頭を揺らしつつ莞爾たる演奏を行う雫との対比も面白い。加えて楽曲後半ではMV内のVJよろしく歌詞の数々がリアルタイムに投影され、目にも楽しい作りとなっていたことについても、ぜひとも特筆しておきたい。


以降は速いBPMで疾走した“パンドラボックス”、「まもなくYES!準備するのだ!」とのSAY YESマンの合図の後、コメント欄に多数の「YES」ワードが寄せられた“エレクトリック・パブリック”とアッパーなライブアンセムを連続投下。その中でも前半部のハイライトとして映ったのは、イラストレーター・たかだべあによるオリジナルキャラクターであるけたたましく動くクマ(通称けたくま)が画面を侵略した“DENKOUSEKKA”。過去には公式MV内にて「結成してから今までで一番適当な歌詞」との説明文も躍っていたこの曲だが、箱入り娘の大脳、指名手配犯の感情といった荒唐無稽な歌詞の果てに到達したとある一幕では、カメラに向かって雫自ら《指を1本出せ》と命じたにも関わらず瞬間「人を指指すなあー!」と猛り狂って笑いを誘う。ハルシの見せ場でもあるギターソロに突入する頃には画面上のけたくまが「世の中パンチと勢い」と記されたパネルを掲げると、雫による「ギターソロだああああー!」の絶叫と共にクライマックスに向けて突き進んでいく。


ここまでハイカロリーな楽曲を続けて披露したポルカ。故に少しばかりの疲れも顔を覗かせていたらしく、開口一番「さっき大きい声出し過ぎてさ、終わったね。声帯が」と笑顔で語り、その後も突拍子もない発言を連発する雫。それらの発言にメンバーが相槌を返している間にも、雫はSAY YESマンから差し出されたステージドリンクを飲みながら「水おいしいねえ。……これ水ですか?」と疑惑の目を向けたり、突如セッティングされた椅子に座りつつ「こんな曲(“DENKOUSEKKA”)やった後にこの編成(アコースティック版“トゲめくスピカ”)ですか?やべえ奴が考えたセトリじゃんこれ」と自由奔放なトークを繰り広げると、その後はアコースティックバージョンで魅せた“トゲめくスピカ”、雫がステージを離れて脇に設置されたゲームの筐体を回って歌唱した“BLUE”と続き、一瞬たりとも興奮が途切れることはない。

“BLUE”終了後は画面が遷移し、真っ白なベッドに包まれながらマイクを握る雫のアップに。この瞬間、誰しもの脳裏に『かの楽曲』におけるMVのワンシーンが過ったことだろう。そう。次なる楽曲はミドルテンポなポップナンバーたる“JET”だ。雫はこの日のライブグッズでもあるXSサイズの白Tシャツを身に纏いつつ、秘密基地内を軽やかな足取りで巡り歩いて歌声を響かせる。この楽曲ではこの日演奏された楽曲で唯一雫以外のメンバーをほぼ映さないという特異なカメラワークであったが、途中カメラを通してファンへ視線を送ったり、スウィートランドをモチーフにしたゲームに興味を示したりしながら、雫は極めて自由度の高い歌唱でもってオンラインライブならではのライブ空間を形成。そして楽曲の終了と共に地面に倒れ込んだ雫が映し出された後には、四分割された画面でもって個々の演奏にフォーカスを当てた“ヒミツ”、“ハルシオン”と怒濤の勢いで突き進んでいく。


いつの間にやらライブも後半戦で、ここで長尺のMCに移行。「秘密基地やからさあ、ぶっちゃけ菓子パ(菓子パーティーの略)とかする勢いやんか。こういうとこ来たら菓子パやない?曲やっとる場合じゃないんよマジで」と雫が語ると、トークテーマは次第に『各々の好きなお菓子』へと移り、エジマがきなこ棒、雫がひもQ、ウエムラは蒲焼さん太郎とトークがぐんぐん盛り上がる中、ミツヤスはひとり沈黙。後にミツヤスがいそいそと「じゃあ僕も蒲焼……さんで」と語ると、ミツヤス以外のメンバーは大爆笑。どうやらその後の話を紐解くに、この一連のお菓子トークはミツヤスを除く3人で打ち合わせをして答えを示し合わせた一種のドッキリであるらしく、結果的に「多分ガチで思い付かなくて俺と同じのを言う」とするウエムラの事前予想が見事的中した形だ。以降も雫が「毎年この時期に楽しいことをしとった気がするんやけど、思い出せん」と語った雫に対してウエムラが福岡の三大祭のひとつである「放生会(ホージョーヤ)?」と返すなど、肩の力抜けた脱力トークを展開し、アットホームな空間を形成。


本編最後に鳴らされたのはポルカの認知度を飛躍的に高めるのみならず、バンドの命運すら大きく変貌させた契機とも言える代表曲“テレキャスター・ストライプ”。ここまで楽曲内にプラスアルファで多種多様なギミックを付与してきたポルカだが、“テレキャスター・ストライプ”では視覚的効果を一切用いずストレートなパフォーマンスに終始。エジマによるギャリギャリのギターリフから楽曲は猛然とした勢いでもって鼓膜を蹂躙し、本編最後の畳み掛けを図る。ライブ序盤に演奏された“FREE”では若干の緊張も見え隠れしていた楽器隊も、本編最後の楽曲ということも作用してのことだろう、各々目立った動きすらないが体全体で音に身を任せるプレイを試みていて、その表情も心なしか朗らかだ。ギターソロでは「ハルシがギター弾きまーす!」と雫の絶叫を合図にどしゃめしゃの演奏が繰り広げられ、熱狂に包まれながらつんのめるように終了。演奏終了後はボソリと「疲れたし、菓子パやるかこれは……」と呟きながら頭を垂れる雫を先頭に全員がカメラ外にハケる形で、本編は幕を閉じたのだった。


彼らが去った直後、画面には『アンコール? #教祖爆誕』の文字が出現。それに呼応するように、同時刻のツイッター内では『#教祖爆誕』のハッシュタグを携えたアンコールの要望が躍り、トレンドの順位が更に上昇。各々の呟きが広がりを見せる中、アンコールから然程間を置かず再びステージに帰還したポルカ。雫は開口一番訴えかけるように「早いよ……戻らされるのがよお。もうさ、菓子パしようと思っとったんよこっちは……」とご機嫌斜め。無論雫が本当におかんむり状態という訳では決してなく、その証拠にファンに対する感謝の心が若干の笑みを携えて表面化。

そしておもむろにギターを構えた雫が「菓子パはちょっとみんながさせてくれんみたいやけん。……新曲ですか?」と語ると、画面は本邦初公開となるニューソング“化身”のMVとMV撮影の舞台裏、そしてよもやの12月16日に自身3枚目となるフルアルバム“何者”のアナウンスが放たれると、画面が暗転。直後雫の「……つってね」との微笑みから放たれたのは、“化身”のライブバージョンである。今回の本編で演奏された“パンドラボックス”や“テレキャスター・ストライプ”も速いBPMで疾走する楽曲であったが、“化身”のBPMの速さと演奏難度はそれらを凌駕する代物。焦燥に駆られるが如くの勢いで猛然と駆け抜けたメンバーたちは、口々にその演奏の難しさについて語っていた。


その後は遂に忘れていた『何か』が雫28歳の誕生日であることを思い出した雫。《もしも僕が教祖になったなら》という歌詞が印象深い教祖爆誕の恒例的ナンバーこと“夜明けのオレンジ”を投下するとファンに全身全霊の感謝の思いを述べ、「本当にありがてえわけだ。噛み締めているわけだよ。なのでこの曲をやらずにはいられねえと」との決意表明が終わると、ファンへの気持ちをつまびらかにした叙情曲“ラブコール”を万感の思いで披露。雫は幾度も喉が潰れんばかりの渾身の絶叫で文字通り等身大のラブコールを伝え、ギターのカポを地面に投げ捨てる衝撃のラストでもって、大団円で約1時間に及んだライブの幕は降ろされた。


思えばポルカは活動当初より極めて策略的に、言葉を選ばずに言えばある種の音楽的ビジネスワークとしてポルカドットスティングレイというバンドの舵を握り、ファンに対して『どうすれば喜んで貰えるか』という思考を第一義に活動を行ってきた。その結果今のポルカは『ファンに受け入れられるためには何でもやる』という明確なワーカホリック状態にあり、昨今タイアップ楽曲を多く制作していることや前述の『HOW TO #教祖爆誕 2020』のハウツー、今回のライブも全て、最終的な還元先に位置しているのはファンであることは間違いない。


今回のアンコールで雫は「実際にライブハウスでお客さんがいて対面してライブするっていうのと、配信でライブをお見せするのって、お客さんの環境が全然違うやんか。だから別の考え方した方がいいなと思って」と語っていたが、それを突き詰めた結果こそが今回の『#教祖爆誕 オンライン』であり、結果として何よりも雄弁にポルカドットスティングレイというバンドの在り方を体現するものとなった。……アンコールで発表があったように、来たる12月16日にはニューアルバム『何者』の発売を控えるポルカ。2020年は様々なネガティブな事象に翻弄されたよもやの年となったが、それは一時の落ち込む理由にはなれど、長時間立ち止まる理由にはならない。ポルカはきっとこの先も、驚きと感動を提供してくれる……。そんな確信にも似た期待が、今回のライブには宿っていたように思う。


※この記事は2020年11月30日に音楽文に掲載されたものです。