キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】ジャパハリネットAC『「アコースティックだよ!全員集合!vol.1」ツアーファイナル!!!!』@米子Aztic laughs

こんばんは、キタガワです。

 

人気絶頂の中、2007年に解散したジャパハリネット。彼らはその8年後の2015年に再結成し、そこからメンバーの本業と両立する形で、精力的な活動をふたたび開始し始めた。ただ2019年に新型コロナウイルスが蔓延したことで、彼らは実質的な活動停止状態に。それならばと計画されたのが4人のジャパハリネットではなく城戸けんじろ(Vo.Acoustic Guitar.Harp)、鹿島公行(Acoustic Bass.Perc)がふたりで行う、その名もジャパハリネットACだった。

全公演が着席制、更には全てのチケットが当日の会場で手渡されるというアコースティックならではの環境なので、ステージも簡素……かと思いきやそうでもなく。確かにけんじろの立ち位置にはスタンドマイクとギターがあるのみだが、鹿島の足元にある大量のエフェクターは印象的だ。なお客席は全22席とかなりコンパクトで、まるでアーティストのディナーショーのような、ゆったりした感覚。集まったファンもおそらく県外勢だろうか、隣の人と話したり。かたやひとりでスマホを見詰めたり。その空気も和やかだ。

19時になって緩やかに暗転すると、舞台後ろのカーテンを開けてけんじろと鹿島がフラッと登場。立ち位置に移動するとけんじろはすぐに最前列の女性を「あ!」と指差して笑顔を見せる。どうやら愛媛公演でも出会った方のようである。その後は水筒から白湯をコップに出して飲み、鹿島はつば付きハットをアンプの上に乗せて歩き回る、とてもリラックスした幕開けだ。そしてふたりが一斉に「ジャパハリネット、ACでーす!」と高らかに叫んでカウントを取ると、オープナーの“Love me do?”へ。

 

『デリバリーだよ!全員集合!vol.1』ダイジェスト - YouTube

“Love me do?”と聴くと「ジャパハリにそんなタイトルの曲あったっけ?」と一瞬思ってしまうが、これはジャパハリネットが結成当初からライブのSEとして使ってきた、高知県出身バンド・Wig Beachによる楽曲のカバー。ライブに足しげく通ったファンだけに伝わるニッチな選曲にまずビックリだ。けんじろは朗らかな歌声でアコギを鳴らしており、対する鹿島は左足でパーカッションエフェクター(タンバリンの音が鳴る仕組み)を踏みながらベースを鳴らし、しかもエフェクターを随所で踏み変えて音を変化させるという非常に高難度なプレイをやってのけている。またそのベースの弾き方も単音ではなく、指の爪を使って上下に弾くギタープレイ的で、基本的に全ての弦が鳴っているという、これまたベースとしては稀有な演奏に驚く。

今回はジャパハリネットではなく、ジャパハリネットACとしてふたりでの出演。そのため「アップテンポで激しい楽曲はセットリストから外れるだろうな」と漠然と思っていたのだけれど、結果的には激しい曲どころか代表曲も大多数を廃し、約半分を新曲とカバー曲で固めた攻めのセトリとなった。ただバンド編成ではまずあり得ない選曲は逆に、この日の期間限定ユニットの貴重さを証明していたようにも思う。また今回のライブではMCが非常に多かったのも特徴で、時間を気にせずマシンガントークを繰り広げる様は、これまでのジャパハリと何ら変わらない嬉しさがあった。

「本当は2020年かな、再結成後のベストアルバムでツアーを回る予定だったんですけど、延期延期で中止となりまして。それでコロナが落ち着いた頃にやろうとなったんですが、どうにも4人が個人的な問題で今は集まることが難しいと。それなら暇なふたりで回ろうということで考えたのが、今回のジャパハリネットACでございます」。彼は今回のツアーとジャパハリネットACの活動について、次なるMCでこう語っていた。つまりこのアコースティック活動は期間限定に過ぎないもので、来年以降はジャパハリネットとして活動していく。……ということは、今回のライブが今後何年間続く彼らの活動において、かなり稀有なものになる証左でもあった。

また「アコースティックなので本来なら街の喫茶店とか、そういうところでやるものだと思うんですが、我々は今回ライブハウスを中心に回っております。ところがどっこい、ジャパハリネットACはライブハウスとの相性が良いんですねえ」と親和性の高さを語ったり、「最近の照明っていうとLEDが多いでしょ。でもあれって涼しいんですよ。ライブハウスは生の照明だから暑いんだけど、ライブやってるなって思える」という一言からパーカーを脱いだり、かと思えば最前の女性に「あっ!あなたも脱いどるね。やっぱ照明が来るから暑いんよね」と語りかけて「照明届かんやろ」と鹿島にツッコまれる一幕も。まるで漫才の掛け合いのようである。

 

ジャパハリネット【蹴り上げた坂道】 - YouTube

思えば彼らがロックシーンを牽引したのはパンク全盛期で、今から数えれば十数年も前のこと。そのため代表曲の“蹴り上げた坂道”然り、再結成後にライブで披露された“PEOPLE × PEOPLE”然り、セットリスト的には人それぞれ思い入れは異なるものばかりだったが、新たな一手として歌われたのは“ラ・セーヌへ行こう”と題された新曲。これまでも“It's a human road”など英詩の楽曲はあったが、サビは基本的に日本語のものが多かった。ただこの楽曲はなんと歌詞は全編英語で、リズミカルなポップソングとして新たな一面を見せてくれた感覚がある。先日レコーディングが終了した楽曲もこの“ラ・セーヌへ行こう”であるそうで、けんじろ曰く「40分くらいで終わった」とする完成度の高さ。来年リリース予定とのことなので、期待したいところ。

 

ジャパハリネット【帰り道】 - YouTube

鹿島とけんじろのふたりで作った代表曲“帰り道”、活動後期の“約束の場所”、そしてよもやの選曲となった鹿島の別バンド・ニッポリヒトのカバーである“絶望よ!こんにちは!”まで叩き込んで、再度MCへ。こちらはライブ語の食事の話で、前々回のライブ終わりに焼肉屋に行って失敗し、その次のライブではとても極上の肉を食べたが鹿島だけ全く食べなかった、という内容(注:鹿島は大の肉嫌い)。その店で提供されたA5ランクの肉に対して「だって油の固まりじゃないっすか!」と声高に叫ぶ鹿島は、今回の米子で美味しい海鮮系の店を質問。すかさず飛んだ「カニがうまい店」に反応を示した鹿島、無事行けただろうか……。

 

ジャパハリネット【哀愁交差点】 - YouTube

そして最後の楽曲はもちろん、これを聴かねば帰れない“哀愁交差点”。「何でもできる!」と無敵感に溢れていたあの頃と、社会に揉まれて身の丈を知った今の心境を歌うポッブロックだ。おそらくこの場に集まったファンが彼らの音楽と出会ったのは、もう10年以上も前。言わばこの日演奏された“哀愁交差点”は、あれから10年経ったそれぞれのアンサー的意味合いをも携えていたように思う。哀愁交差点の真ん中を、あっちへフラフラこっちへフラフラ……。良いことが起これば悪いことが起き、その繰り返し。人生が思うように行かないことは、嫌というほど経験した。でもそれでも生きていかなければならないのだ。時折声をからしながら熱唱するけんじろと、静かな熱量を込めてベースを鳴らす鹿島を観て、誰もが「また明日も頑張ろう」と思った、感動的な時間だった。

アンコールは、またもリラックスムードで開始。客席後ろに外国人の観客が座っていたことから、「本場の人に全部英語の“ラ・セーヌへ行こう”を歌ってしまった」とけんじろ。そのMCを聴いて爆笑していた外国人の観客を観て「良かった!笑ってくれてる!」と楽しそうな雰囲気を作り出し、ゆるーい空気が流れていく。

アンコール1曲目はこれまた新曲の“僕らが忘れたたったひとつの事“(最下部の動画の演奏曲)。”ラ・セーヌへ行こう“とはまた違ったミドルテンポな楽曲で、アコースティックアレンジとも合う1曲。こちらは本家ジャパハリと言うよりはACに合致している印象があり、来年の作品に収録されるかは不明だが、今この場で鳴らされたことは意味のあるものだったように思う。

 

ジャパハリネット 【贈りもの】 - YouTube

そして運命のラストソングは”贈りもの“。余談だが終演後、鹿島氏に見せていただいたセットリストにはもともと”百花繚乱“と記されており、そこに棒線が引かれて”贈りもの“となっていた。おそらくは直前で変更したのだろうと思われ、有り難いことにこの変更は最高の結果となった。というのも、ラストソングとなった”贈りもの“は彼らのライブでは超定番の楽曲であったからだ。歌詞を聴くたびにかつての青春が蘇る感覚はもちろん、彼らが今もまだ活動を続け、地方都市まで足を運んでくれている喜びもその感動に拍車をかける。そして思うのだ。やはり何年経っても、ジャパハリは不変であると。

けんじろが「来年また帰ってきます。それまで元気でやってくれよー!」と叫んで、ライブは終了。時計を見ると時刻は20時20分、時間にして僅か80分のライブだったことになる。ただ体感的にはもっとあったような気さえして、満足感のあるイベントとして終わった次第だ。終演後はけんじろが「はいどうもいらっしゃいませー。いらっしゃいませー」と言いながら自ら物販に立ってファンと交流し、鹿島はひとりステージを片付けていた。この距離の近さは大バコをソールドアウトさせていたあの頃には絶対に有り得ないものだったが、ふと思った。多分パンクが今でも好きな僕らと同じで、彼らは何も変わっていないのだ。あの頃と同じ楽しさを持ちながら、年月だけが経った……。ただそれだけ。それがどれほど美しいことなのかは、もはや語るまでもない。

【ジャパハリネットAC@米子laughs セットリスト】
Love me do?(Wig Beachカバー)
蒼が濁ったナイフ
PEOPLE × PEOPLE
蹴り上げた坂道
対角線上のアリア2021
ラ・セーヌへ行こう(新曲)
帰り道
約束の場所
絶望よ!こんにちは!(ニッポリヒトカバー)
哀愁交差点

[アンコール]
僕らが忘れたたったひとつの事(新曲)
贈りもの

遂に来たブラーの活動再開!デーモン・アルバーンとゴリラズ、2023年のサマソニ&フジロックの可能性も

こんばんは、キタガワです。

 

正直な気持ちとして、Blur(ブラー)が活動を再開することは全く予想していない訳ではなかった。今年の夏頃には「ロンドンのライブで活動再開か」と噂されていたし、公式アカウントが突然動き始めたりと、何やら『それっぽい』ムーブは続いている感はあったからだ。ただ、往年のバンドの再結成はこの目で見なければ信じられないもの。海外で飛び交う噂を見ながらワクワクしていた中で、遂に来た最終報告。本当に活動再開するんだなあ。

blur on Twitter: "Blur, Wembley Stadium 🏟 8th July 2023 Tickets on sale 10am (GMT) Friday 18th November https://t.co/pVoIxia1PP https://t.co/xVomuUnQtt" / Twitter

ブラーは1998年に結成されたイギリスのロックバンドで、当時は「ビートルズの再来」「オアシスの永遠の宿敵」と言われる程の人気を博してあち。その反面、背景にあったのはネガティブなこともあり、当初はイギリス国内で注目を集めていたブラーは「もっとイギリスの外に出てみよう!」というマネジメント戦略をきっかけに、アメリカを含む海外ツアーを数多くこなすように。ただそのスケジュールはあまりにハードであり、メンバーがアルコールで心身喪失状態になることも少なくなく、次第に首謀者であるデーモン・アルバーン(Vo.G)は、世間的に好かれる音楽と徐々に距離を置くことを計画。結果としてあらゆる世界観を醸し出すバンドになったのは、やはり唯一無二なのではないかと思う。

 

Blur - Coffee And TV (Official Music Video) - YouTube

そこからいろいろな出来事があった末にブラー、というよりデーモン・アルバーン自身が、有り余る創作意欲をブラー以外の場所にぶつけるようになった。その中でも分かりやすい形で大成功を収めたのがご存知、アニメーションキャラクターを押し出したロックバンド・ゴリラズだ。ギターサウンドを推し進めていたブラー、そして電子音とベース主体でグルーヴにこだわったゴリラズ……。サウンドもそれぞれに異なるものになったが、世間的な成功レベルは若干ながらゴリラズに軍配。

 

Gorillaz - Feel Good Inc. (Live At The MTV EMA's) - YouTube

そんなゴリラズは数年前から活動ペースが異常化。アルバムリリースの感覚はいつしか1年未満になったのだが、もちろんその理由はデーモンの創作意欲の爆発にあった。例えば『The Now Now』では収録曲が“Kansas(カンザス)”や“Idaho(アイダホ)”、“Lake Zurich (チューリッヒ湖)”といった地名で構成されているのだけれど、その理由についてデーモンは「そのツアー先で書いたからそれをタイトルにした」と語っており、何とツアーで訪れた国のホテルで、収録曲の大半を完成させたと明言。また『Song machine』と題されたアルバムではシーズン1に続き2、3と続くことが示唆され、来年にはニューアルバムの発売も既に決定。とにかく作りまくり売りまくり、めちゃくちゃなワーカホリック状態になっているのが今のデーモンである。

 

Blur - Song 2 (Official Music Video) - YouTube

翻って、今回彼がブラーを再始動させたのもおそらく、それが理由なのだろうと思われる。つまりは新曲ありきの再始動、新たなブラーの始まりである。とりあえずは来年あたりまでは『ぼくがかんがえるさいきょうのブラー』的な代物をライブで見せてくれるだろうし、おそらく2023年のサマソニやフジロックも視野に入れてはいる。ただ最終的な方向としては、再構築したブラーを見せることなのかなと。……ブラーなのかゴリラズなのか、ソロなのかもう分からなくなりつつあるデーモン・アルバーン。彼の活動は続く。頼むから過労死だけはしないで……。

【コラム寄稿のお知らせ】2022年紅白歌合戦 初出場アーティストをチェック! 

uzurea.net様に『紅白歌合戦2022』の初出場アーティスト特集を寄稿しました。

紅白歌合戦の発表は毎回楽しみにしています。いろいろネガティブに言われている部分はあるんですが、それでも圧倒的な視聴率が稼げる環境で、音楽と触れ合う環境っていうのは今やほとんどない訳で。それだけでも価値があるものだと思ってます。

中でも感動したのがSaucy Dog。ボーカルの石原さんとは高校が近いらしく、同じ島根県松江市出身なので勝手に親近感を抱いてました。“いつか”という曲の中で《田和山の無人公園でさ》という歌詞もあるんですが、その場所は僕の家のすぐそばでして。そんな近い場所からスターが生まれた感動は凄かったですね。今年は髭男もいるし……。早くも地元の松江市では新聞やらポップやら、大フィーバーになってます。

仕事の合間に発表を確認して「すげー!」となった紅白発表。余談ですが、あまりにテンションが上がった結果、急遽担当編集の方とやり取りをして書き始めたんですが。「明日にはお渡しします!」と余裕綽々で言ってしまったその日、残業し過ぎて帰宅したのが日付が変わってからで……。ヒーヒー言いながら書いた記事でもあり。いい経験になりました。

2022年紅白歌合戦 初出場アーティストをチェック! ウタ、サウシー、JO1、BE:FIRST、LE SSERAFIMほか10組を紹介 - uzurea.net

【コラム寄稿のお知らせ】コンビニオリジナルの低価格チューハイ&ビール系飲料レビュー

uzurea.net様に、大手コンビニ3社で購入可能なオリジナルのお酒のレビューを寄稿しました。

当ブログでも何度か記していますが、僕は酒をよく飲みます。具体的には350ml缶を最低4本、休肝日に関してはもう5年以上ないような生活で。なのでこの経験を活かして、何かお酒関係で書きたいなと考えを巡らせていました。

そんな中で、ある日uzurea.netの編集の方とやり取りする機会がありまして。その日の僕は確か7本とか開けてたのかな。……とにかく相当に酔っていて、結構なウザ絡みをしてしまって。その時に送ったのが、今回のアルコールレビューの案でした。で、いろいろ盛り上がる中でもしっかりと『仕事』としての視点をお伝えいただいて、単なる紹介だけでは独自性に乏しいからちょっとという話になり。結果『コンビニオリジナルのお酒の紹介』として、グッと絞った作りになりました。ニッチな記事ですがぜひとも。

コンビニオリジナルの低価格チューハイ&ビール系飲料レビュー セブンイレブン、ローソン、ファミリーマート 各PBを飲み比べ - uzurea.net

 

ポッポLv.100でポケモンマスターを目指すサトシになりたい

「今日天気いいっすね」

「あ、明日は雨なんすか?いやーキツいすね」

「でも雨の日ってめっちゃ寝れたりしません?◯◯さんって夜寝るときのルーティーンとかあります?」

僕が人に話を振る。相手が答える。それに相槌を打って僕がまた質問する。次は相手が深い部分まで話してくれる……。こうした会話を繰り返す日々で思うのは、確かな順応感。そしてそれとは対象的に心中に巣食う、これまた確かな自罰的な思いだ。

僕は元来、人と関わることがとても苦手だ。小中高のクラスメイトの顔はほぼ覚えていないし、思い返すとしても僕を虐めていた時の狂った嘲笑ばかりが浮かんでくるレベルで、僕の青春時代は暗黒だった。ならばこの性格は大学に行って社会に出れば慣れるはず!と思っていたが、結果的には「キタガワは暗い」とサンドバッグにされたことで、アラサーになった今ではある意味達観した気持ちでいる。……おそらく、僕は人間社会で生きること自体が難しい人なのだということを。

こうした生活の果てに辿り着いたのが「ニコニコして前向きに。自分はあまり喋らず、人に話を振りまくる」という処世術だった。言うまでもなくその理由は、そうすれば旗から見ればポジティブ、かつ聞き上手な雰囲気をもって円滑にコミュニケーションが回るからである。有り難いことにそれからというもの、周囲の評判は決して悪くない。それこそあの暗黒の学生時代よりは、圧倒的にマシになった感覚もある。

にも関わらず、いつもいつも精神的に悪い状況に陥っているのは不思議だ。僕は精神的な不調が出やすいらしく、今の僕は街ですれ違うとほぼ二度見されるレベルでおかしいらしい。ただ例えば「痩せてるじゃん」といったことをいろいろな人に指摘されるたび、キャラクター的に「いや大丈夫っすよ!実は最近断食してまして!知ってます?断食めっちゃ良いんすよ!」と嘘で嘘を塗りたくりざるを得ない状況が、かえって精神的には悪くさせている。

僕が常日頃からあまり人に言えないことを考えているというのは、これまでの当ブログ『雑記』カテゴリーと、シナリオ原案の『裏目で語れ』に詳しい。仕事が辛いなら転職すればいい。イジメに遭っているならいっそ休学してみよう。パチンコがストレスならやめてみよう……。世の中には様々なネガティブな事象があるが、それらは環境を変えれば何とでもなる。そんな中で、どれだけ恵まれた環境にあっても精神的に病んでしまう僕のような人間は生存競争如何というより、生きるうえでの相当な枷がずっとある、といった感じ。

そんな自分が輝ける場所を探して、僕はなるべく人と関わらずに強みを活かせる物書きを目指して、何年ももがいてきた。けれども、生きていくには金がいるのだ。尊厳がいるのだ。世間体がいるのだ。そしてそれらを全て満たすものは、やはり夢を捨てて正社員の称号を手に入れるしかなかった。で、結果として今の僕はその正社員としての激務と人間関係で、かつてないほど病んでいたりもする。つくづく人生とはままならないものである。

ティモンディ高岸のような「やればできる!」、あるいはひろゆきのような「僕人生楽しいですよ」のスタンスは憧れはすれど、多分僕はそれには辿り着けない。かと言ってこの先何十年かをうまく行かないまま悩んで生きるのは、生き地獄にも等しい感覚だ。少なくともこの生活を続ければ壊れてしまう気がしているから、どこかで逃げ道を探してばかりだ。……それはさながらポケモンで言うところの、トレーナーと戦ってレベルアップしながらポケモンリーグ制覇を目指すのではなく、マサラタウンでレベル5のポッポと戯れる生活。でも実は心の中では「”そらをとぶ“を覚えたポッポと偶然出会って外に出て、ポケモンマスターになれたらいいなあ」という、自分勝手な欲求だけ強いクソサトシである。

ただそんなクソサトシでも、何かのきっかけでポケモンマスターになれるかもしれない。……ポッポを100体捕まえた動画がバズって金が入るかも。最初の草むらで偶然ミュウツーが出るかもしれないし、色違いのコラッタで一攫千金の可能性だってある。僕がやっているのは、そんなこと。戦わないけど戦っている何か。精神を殺しながらやる活動が何かに変わるその日まで、必死で生き抜きたい所存だが、途中でコラッタやポッポにやられたらその時は笑ってくれ。

君島大空 「19℃」 Official Music Video - YouTube

【ライブレポート】KEYTALK『15th Anniversary Tour 津々浦々夏の陣 〜鳴けぬなら、踊りたまえ、ホトトギス〜』@米子Aztic laughs

こんばんは、キタガワです。

 

https://sp.keytalkweb.com/

KEYTALK史上最大規模となる全国ツアーは彼らにとってどんな意義を持つものなのか……。そんな絶対に自分では答えの出ない疑問を、僕は開演前にずっと考えていた。確かに、このコロナ禍に大規模な全国ツアーを行ってきたインディーズバンドはたくさんいるだろう。ただKEYTALKは別格。デビュー当時からフェスではメインステージに出続け、ライブは必ずソールドアウトというメジャーな彼らが全国津々浦々を回ることに関しては、地元民としては感謝もあれ、何か他の理由がある気がしてならなかった。

元々この日鳥取県・米子laughsで行われたライブは、ツアーの中盤戦として位置づけられていたものだ。ただメンバーのコロナ感染が発覚し、予定が延期。そのまま米子公演を含めたいくつかを延期した状態でツアーは進み、50本目のこの日の米子は事実上のツアーファイナルとなった。会場にはツアーファイナルということも作用してか、遠征組が圧倒的多数多数。その他の参加者は初めて彼らを観る地元民が占めていて、開場前の待機列が作られる広場にはKEYTALKのTシャツを着たファンたちでごった返すという、期待値の高さを表す形となった。

フロアに入ってパンパンの客入りを感慨深く確認していると、19時ジャストに突然会場が暗転。これまで恒例となっていた“物販”(KEYTALKが10年前におふざけで作った曲)のSEではなく、様々な楽曲がぶつ切りで繋ぎ合わされた新たなSEと共に八木優樹(Dr)、小野武正(G)、寺中友将(Vo.G)、首藤義勝(Vo.B)らメンバーが登場。その際に気付いたことだが、それぞれが持つギターとベースには本来あるはずの長いケーブルが繋がれておらず、完全ワイヤレス。また巨匠(※寺中の愛称)のギターはあえて余った弦をそのままにしているために、ペグの上には短い6本の弦がピョンピョン(以下動画参照)。この光景を観ると「KEYTALKだなあ」と思ってしまうのは、ファンならではか。

 

KEYTALK - 「桜花爛漫」MUSIC VIDEO - YouTube

そして巨匠が片腕を挙げてPAさんにSEを停止させると、爆音と共に義勝が高らかに歌い始める。そう。1曲目はアニメ主題歌としても浸透したいきなりのキラーチューン・“桜花爛漫”である。一度聴いたらはっきりと分かるあの歌声で歌われるこの楽曲の爆発は何と言うべきか……。とにかく、ここから何十分も続く幸福の始まりなんだなと胸が高鳴る感覚があった。途中の手拍子もバッチリ決まってファンとの信頼度も抜群だったし、昨日に引き続いてのライブなので喉の調子を懸念していたりもしていたが、結果杞憂。それどころかツアーファイナルだからか、全てを振り絞ろうとする雰囲気さえも感じられる力強いパフォーマンスだ。

ライブは15周年ということもあり、この日はセットリストに関しても活動を総括するものになる!……と思いきや、意外と違っていて。確かに“桜花爛漫”をはじめとしたライブアンセムを入れ込んではいたものの、全体としては「俺たちがやりたい曲をこのタイミングでやる」というスタンスを貫いていたのは驚きだった。そのためベストアルバムに収録されていたような楽曲の大半は演奏されなかったのだけれど、つまるところ彼らが今一番やりたい曲はキラーチューン連発ではなくて、新作EP『KTEP4』や最も新しいアルバムの『ACTION!』、そしてメジャーアルバムの中にあるあまり披露されてこなかった曲、ということになるのだろう。

 

KEYTALK - 「MATSURI BAYASHI」 MUSIC VIDEO - YouTube

以降はアッパーなセクシーソング“宴はヨイヨイ恋しぐれ”を《いやー、分かりません》のフレーズにて、巨匠が目玉おやじのマスコットをマイクの側で動かして答える一幕もありつつ、意外な選曲の“真夏の衝動”で、一気にライブモードへ。そうして続いた“MATSURI BAYASHI”は、前半部のハイライトのひとつだったように思う。MVとしては“MONSTER DANCE”に次ぐ数少ない公式振り付け楽曲であることもあり、ファンの中には完コピして踊る人も多数。そうでなくともそのお祭り的な雰囲気の破壊力は凄まじく、周囲を見渡すと全員が体を動かしている。また演奏陣に関しても武正は原曲のギターソロを完全無視、超絶テクで即興ソロを鳴らしているし、八木も薬指と小指でスティックを支えて叩くという、一見どうやっているか本当に分からないプレイで魅了していて最高だ。

MCゾーンでは、この日がツアーファイナルであること、またもう少しでライブが終わってしまうことについて吐露。武正は「いろんなことがあったなあ」とし、すかさず会場のファンに「昨日の松江きた人?」「地元から来た人?」とクエスチョン。結果県外勢が圧倒的多数だったことからか、最前のファンを何となく指差し「あー……。あなた昨日来てましたもんね?うん、覚えてる」と適当に逆質問。ちなみにその間にも酒を愛する巨匠は、ライブハウスによくあるプラスチックのコップに注がれたアルコール(おそらく中身はジントニック)を毎回半分程度飲みまくっており、しかもこれをMCのたびに行っていたことは特筆しておきたい。

 

KEYTALK "fiction escape" 【PV】 - YouTube

ここからは最新EP『KTEP4』のリード曲“夜の蝶”を含めた、ややBPMの速い曲を固め打ち。“夜の蝶”と“大脱走”、“流線ノスタルジック”は今のKEYTALKを。残る2曲はメジャーデビュー曲とインディーズ曲という、この周年ライブだからこその流れにグッとくる。中でも感動的に映ったのは、この日のセットリストでは最も古い曲に位置していた“fiction escape”。今思えばタイアップやメジャーでの制約といった縛りもない、若かりし頃にリリースされた裸一貫の楽曲である。楽曲中でも《23年間》《26年間》と当時の年齢が刻まれているが、今の彼らは30歳を超え、すっかり日本のロックバンドを牽引する存在になった。そのことを考えると、また新たな感動となって聴こえてくるのがこの日の“fiction escape”。ディレイのエフェクターの踏み間違えで武正のギターが鳴らなくなるミスも含めて、とても見ごたえのある瞬間だった。

メジャーデビューシングルの“コースター”、そしてインディーでポツポツと売れ始めた“fiction escape”もそうだが、やはり我々がこの瞬間に抱いたのは、彼らの活動の歩みについてだった。そんな思いを見透かすように、話は彼らが大学生の頃、1000枚限定でタワーレコードでリリースした処女作『KTEP』へ移行。当時所属していたKOGA RECORDSの社長から「一瞬でハケる」と言われていたにも関わらずなかなか売れなかったこと、その後のライブの動員も増えなかったことなどを回顧。今回の『KTEP4』は当時使っていたスタジオで録音、プロデューサーも同じ人を起用し、原点回帰としてリリースしたことも語ってくれた。

 

KEYTALK - 2016年3月2日発売「DVD&Blu-ray&CD 『KEYTALKの武道館で舞踏会 ~shall we dance?~』 」トレイラー - YouTube

また今年が結成15周年であることに加え、来年はメジャーデビュー10周年であることについても触れた巨匠。「メジャーデビューは、僕らが絶対に音楽で食っていくぞって決めた運命の日でもあって。いろんな経験をさせてもらったけど、なかなかうまくいかなかったり、悩んだ日も正直ありました。そんな僕らがメジャーデビューした運命の日、2023年3月1日。日本武道館でライブをします。ぜひ皆さん遊びに来てください」。一言一句を記憶している訳ではないけれど、彼はしっかりと自分自身の思いを口にしてくれた。……コロナも増税もあらゆる事件もそう。当たり前だと思っていたことは決して当たり前ではなくて、KEYTALKが15年間続けられているのも、当たり前なんかではないのだと改めて気付く。

 

KEYTALK/「アオイウタ」MUSIC VIDEO(2018年1月24日発売13th SINGLE「ロトカ・ヴォルテラ」収録) - YouTube

印象深いMCを終えた後半戦では、これまでワンマンライブでもあまり披露されなかった楽曲を多く披露するゾーンに。中でも驚きと共に迎え入れられたのは、シングル曲のカップリングとして収録されていた“アオイウタ”の一幕だった。……先にも巨匠が述べていたこととも繋がるけれど、はっきり言ってしまえばKEYTALKはここ数年、ファン的にはある種の混迷期に入っていたように思う。具体的にはアルバムにおける『Rainbow』と『DON'T STOP THE MUSIC』の2枚あたりがそうで、もちろん楽曲は良質なものばかりだったものの、これまでの楽曲が次々跳ねた反動からか「もっと『HOT!』のような曲を聴きたい」といった贅沢な悩みを抱えるファンは確かに存在。この“アオイウタ”に関してもそうで、MVが制作されている代物でありながらリリースされて以降、ファンの反応を考えてかほとんど演奏する機会のないままこの日を迎えた楽曲だった。

結論から言えば、この楽曲のメインボーカルを務める義勝は、この楽曲で泣いていた。彼は2番に入った瞬間に後ろを向き、そのまま歌声が入らないままAメロ、Bメロと時間が経過。ファンのみならずメンバーも困惑する時間にしてわずか10秒程度の沈黙だったが、これまで人前で涙を見せることのなかった義勝の思わぬ姿は どうしてもこの15年間の重みを感じずにはいられなかった。特に《もう一回僕ら 描いていこう》とするフレーズを巨匠が放ったとき、我々ファンには絶対に分からない何か……アーティストにおける『産みの苦しみ』のようなものがあったのだろうなと察したりもして。それこそシングルカットされている曲の大半は義勝作曲な訳で、「“MONSTER DANCE”みたいな曲を」「もっと祭りイメージの曲を」といった意見もあったに違いないし、本人なりの悩みも携えた15年間だったのだなと。

先程の“アオイウタ”の驚きの一幕を経て、武正は「びっくりしたー!(義勝が歌えないところを)俺が歌おうかと思ったもん」と一言。すると巨匠が「それだと“アオイウタ”じゃなくて“ヤバイウタ”になっちゃう」と突っ込んで笑いを取ると、残されたライブ時間が短いことを暴露。また今年行うライブに関してもほぼ終わったと語り、話は2023年1月1日、年が変わってすぐに演奏する『COUNTDOWN JAPAN』へ移行。先日タイムテーブルが発表されたこのフェスにおいて、自身の出番前のカウントダウン担当が盟友・04 Limited Sazabysであることを語ると、巨匠がボーカルのGENの高い声のトーンを真似しながら「皆さん!フォーリミにちなんで4回叫びましょーう!……ありがとうございまぁす(低音ボイス)」と、本当にやりそうなリアル感でイジり倒す。他にもツアー開始からいつの間にかやらなくなった巨匠のマラソンの話などいろいろありつつ、本編へ……。

 

KEYTALK - 「Summer Venus」MUSIC VIDEO - YouTube

「残り2曲です。最後は僕らなりの応援歌と、ハッピーな曲で終わりにしたいと思います。今日は本当にどうもありがとうございました。KEYTALKでした!」。巨匠はそう語るとストレートに背中を押す“Oh! En! Ka!”、一転して強制的なパリピモードでアゲまくる“Summer Venus”に雪崩れ込みだ。中でもこれまでのフェスではほぼ欠かさず演奏されてきた“Summer Venus”は爆発力が凄まじく、KEYTALKでは珍しい打ち込み主体のサウンドでもって『楽しい』の一言に集約される盛り上がり。また後半では巨匠と義勝がビールを一気飲みし、唇から垂れるビールを拭いながらパフォーマンスする姿もあり、テンション上昇にも一役買っていた。演奏が終わると先程までの熱量はどこへやら、ひとりひとりが「まあ会おうね!バイバーイ!」というセリフを裏声を使って叫び、ラストに残されて困惑した八木が「にゃいっ!(八木の一発ギャグ)」を放ちつつ、失笑の会場を首を傾げながら後にする幕切れで終了。最後まで各々のキャラクターが立っているKEYTALKであった。

鳴り止まないアンコールに答え、ツアーTシャツ着用でまず出てきたのは八木と武正。普段MCをすることが少ない八木は「いやー15年ですよ。15年間何かを続けるってなくないですか?15年やってきたことってオ◯ニーくらいしかないですよ」と突然の下ネタを展開。先程までの熱が一気に氷点下まで下がったことを察した八木、「普段全然MCやらないんで許してください!」と陳謝するも、武正の「(アンコールの時間を)みなさんいけますか!」と叫んだ際に下ネタと勘違いして「イケますか!」と返してしまう八木……。その様子をいつの間にかステージに現れた巨匠と義勝が真顔で見詰めるという、カオスな時間である。

 

KEYTALK/「MONSTER DANCE」MUSIC VIDEO - YouTube

ツアーファイナルであることもあり、本編初公開となるFCツアーの開催を宣言したKEYTALK。ここからはアンコール楽曲として『KTEP』シリーズより八木作曲の“shall we dance?”、セットリスト入りしない日はない超代表曲“MONSTER DANCE”、初期の最終曲候補だった“アワーワールド”と続いていく。メンバー全員が作曲の力を持っていることに気付かされた“shall we dance?”をはじめ、“MONSTER DANCE”では声は出せないもののMVのダンスを完コピして踊るファンに思わずウルウル。久方ぶりの披露となった“アワーワールド”に関しては、合間合間に挟まれるメンバーを呼ぶアレンジにグッときて、総じて15年間の重みを強く感じた時間でもあった。

……最後の最後、自身以外のメンバーが全員ハケた後に語った巨匠の言葉が忘れられない。「コロナとかいろいろ。辛い世の中です。だから皆さんの周りにもライブハウスに行かなくなった友達だったり、なかなか自分も行けなかったりっていう人も、多分たくさんいると思います。この状況で僕らが最大規模のツアーをやった理由はライブハウスを取り戻そうと思ったからです。いろんな地域で頑張っているライブハウスがあるから、僕らは活動出来ている。そのためにこれまであまり行けなかった地域も含めて、僕らじゃないと出来ないから、攻めたライブをやってます。また絶対に、今度はまた皆さんと大声でライブが出来ることを願っています。今日は本当にありがとうございました!」と、彼は高らかに叫んだ。

 

アワーワールド - YouTube

コロナ禍以降……いや、おそらくそのずっと前から、地方都市と都会とのライブバランスの差は激しかった。それこそ僕は島根県民だけれど、基本的にツアーにアーティストが来ることはないし、行くとすれば片道5000円レベルの遠征が必須。しかもこのコロナ禍によって状況は悪化し、そもそも収益が見込めない地方都市は行くべきではない論のようなものが、水面下では確かに根強くある。嫌な話をしてしまうが、今回のライブは結果的に『あのKEYTALKが僕らの町に来てくれた!』という個人的な感動とは裏腹に、チケットソールドアウトとはならなかった。これは少なくとも地方都市において、ライブツアーに行く重要性は失われつつあることの証左だと思う。

そんな中でも彼らは来てくれた。何故か?巨匠の言葉を借りれば、今回のツアーの意義が「ライブハウスを取り戻すため」にあるためだ。今回のツアーが期せずして地方都市である米子がラストになったのも、何かの運命かもしれない。本当に素晴らしいライブだったし、同時にこれからも彼らを追い続けようと強く思った一夜だった。

【KEYTALK@米子laughs セットリスト】
桜花爛漫
宴はヨイヨイ恋しぐれ
真夏の衝動
MATSURI BAYASHI
夜の蝶
大脱走
流線ノスタルジック
コースター
fiction escape
ODORYANSE
パラレル
エンドロール
アオイウタ
Monday Traveller
Oh! En! Ka!
Summer Venus

[アンコール]
shall we dance? 
MONSTER DANCE
アワーワールド

【ライブレポート】POLYSICS『25th Anniversary Tour ~アタック25!!!~』@京都磔磔

こんばんは、キタガワです。

 

http://www.polysics.com/

日本に現存するロックバンドの中でも最も不変のバンドがPOLYSICSだと、今でも信じて疑わない。確かに彼らのように、長らく活動を続けているバンドはいる。ただここまで同じ熱量で、全く方向性が変わることもないまま25周年を迎えたバンドはほとんどいないのではなかろうか。

今回『25th Anniversary Tour ~アタック25!!!~』と題されたツアーは、これまで10年・15年・20年と周期的に行われてきた周年ライブの一環。コロナ禍もあってなかなか訪れる機会の少なかった地域も含めて、一気に回ろうという粋な計らいである。京都会場に選ばれたのは、酒蔵をライブハウスに改造したという、一風変わった磔磔(たくたく)。外観からは絶対にライブハウスとは分からない木族建築に約100人のファンが集まり、開場時には手持ちの傘を適当な脚立に引っ掛ける、雨の中全員で協力して物販場所を守るなど、なかなか珍しい光景の果てに入場。

そんな会場は中も特殊。客席の中心には巨大な柱が聳え立っていて、よくよく見るとステージ横には演者の出入り口が一切なし。ただそのステージ上はお馴染みのシーケンサーとシンセ、マイクがそれぞれ2本ついたスタンドが鎮座していて、POLYSICSのライブが今から行われるんだなあと実感。そして入場口では『トイス!(POLYSICS流のあいさつ。おいっす!的な意味)』と大きく書かれたうちわが配られ、興奮が次第に高まってくる感覚に。

ライブは定刻の17時30分にスタート。暗転するなり背後に視線を移すファンたちになんだなんだと疑問を抱くのも束の間、PA卓の横にある階段にピンスポが当てられる。すると突然ハヤシ ヒロユキ(Vo.G.Syn.Vocoder.Programming)、フミ(B.Vo.Vocoder)、ヤノ(Dr.Vo)たちが降りてくるではないか!驚くファンの真横を笑顔で通り過ぎ、ステージに立ったPOLYSICS。かなり異様な光景だが、どうやらこれが京都磔磔のあるあるらしい。

今回のライブはなんと1曲目からSEの新曲!“Dee B-Bop”と題されたそれで、一気に会場は電子音の波に飲み込まれていく。圧倒的な音量で鳴り響くピコピコ&シンセ音は確かにPOLYSICS的だし、本来ピコピコ音と掛け合わさること自体がタブーとも言われるエレキ楽器をどしゃめしゃに掻き鳴らすのもやはり、POLYSICSなのである。《Dee B-Bop Dee B-Bop Dee B-Bop ヘイ!》という歌詞以外はほぼインストなのだが、新曲の特殊さもあって、全員がすぐにレスポンスを返していたのが印象的。POLYSICSのライブの定番になっているSE楽曲は今後1年ほどはこの楽曲になると思われるので、ぜひライブで聴いてみてほしいところ。

先述の通り、当日の京都磔磔は彼らの結成25周年を祝う代物だった。ただライブのたびにセットリストを目まぐるしく変える彼らのこと。この日もかなり変則的な曲順になるかと思いきや、個人的にこれまで観てきたどのライブよりも鉄板セトリだったのは驚き。ファン必須アイテムの『BESTOISU!!!!』『POLYSICS OR DIE!!!!』『Replay!』のベスト盤3枚の凝縮セット、と言えば分かりやすいだろうか。……とにかく、最初から最後までずっとハイテンションな状態を2時間キープした異常な空間がそこにはあった。

 

POLYSICS 『PLUS CHICKER』 - YouTube

後のMCでもハヤシは「今日は新旧詰め合わせのライブ」と語っていたように、特に前半はこれまでポリのライブでほぼ欠かさず演奏されてきたキラーチューンを大盤振る舞い。1999年にリリースされた“PLUS CHICKER”をはじめ、いつしかライブの超定番となった“Young OH! OH”や“Digital Coffee”、フロアにヘドバンの海を生み出した“シーラカンス イズ アンドロイド”……。それら全てがこれまでの思い出と共に爆音で鳴らされる様は、本当に圧巻だ。何を言いたいのかが全く分からない歌詞に、ロボット的なボコーダーボイス。そして主張の強すぎる打ち込みと生楽器が半ば反発するように炸裂するカオス。これこそがポリである。

 

POLYSICS『Young OH! OH!』 - YouTube

また25年間彼らを追い続けてきた身としては、会場全体が盛り上がり方を熟知していたことにとても感動した次第だ。分かりやすいところで言えば振り付けの数々で、“Young OH! OH!”の体をクネクネ動かすハヤシだったり、“Baby BIAS”のラジオ体操的な飛び跳ねだったりと、これまで何度も観てきた挙動を全員がマネしている。多分、みんなの体が自然にそうなるのだろう。それを見ながら幾度も「トイス!トイス!」と連呼するハヤシのテンションも、どんどん高まっていくのも◯。

本編初となるMCでは、初めて京都磔磔に訪れた思い出をトーク。この会場は酒蔵を改装して作られたライブハウスで、外観的には由緒正しい建造物にしか見えない。その内部も植物のツタや一本柱など印象的なものが多い関係上、彼らはその音楽性とのミスマッチから「海外アーティストの来日ライブかと思った」という。ただそれ以降磔磔での公演が多くなったとし、結果的に2019年には『磔磔でクタクタ!』と題された特別ライブも敢行。磔磔でライブができる喜びを、改めて滲ませる3人が愛おしい。

 

POLYSICS 『Baby BIAS』 - YouTube

緩いMCとは打って変わって、楽曲に移ればすぐさま豹変する結成25年の彼らである。競馬から着想を得た“ムチとホース”をはじめ、ハヤシとフミのダブルボーカルが印象深い“人生の灰”、形を変えて長い間演奏されてきた“Baby BIAS”と、全くスピードが落ちることなく進行。制限もあるため全員がしっかりマナーを守っていて、数年前では当たり前だったモッシュやダイブは全く行われない素晴らしい環境にしろ、「多分これコロナなかったら物凄いモッシュが起きてただろうな」と容易に想像できるほど、興奮は凄まじかった。

ここからは「磔磔では普段なかなかないことが起きる」というMCから、新曲を含めた新たなゾーンに突入。まず披露されたのは“Hey Shepherd(ヘイ シェパード)”、“Wipe Out Happy Guy”と名付けられた新曲。全国各地で全く違う新曲を演奏していることから、おそらく次のアルバムに収録されるであろう楽曲たちだ。『売れる・売れない』といった収入的な部分はもちろん、「昔のような曲より今はこれをやりたい」と、長年活動していたアーティストでも方向性が変わることは当たり前とされている中で、1ミリもブレていないのは流石ポリ。音を聴いただけでとてつもない安心感がある。

 

POLYSICS 『シーラカンス イズ アンドロイド』 - YouTube

かと思いきや、既存曲に関しては一方的な音楽的エゴ(褒め言葉です)を撒き散らす熱量で展開。中でも凄まじい盛り上がりだったのは“Crazy My Bone”。直訳すれば“俺の骨はヤバい”になるそれを、ハヤシはスクワットを繰り返しながら熱唱。もちろん我々も彼の動きを真似しながら暴れているが、肉体的にも興奮を突破したのか、ハヤシが目に装着しているバイザーはいつしか壊れ、素顔でのパフォーマンスになっている。以降もあの独特なハイトーンボイスで、旧SEのバンドリアレンジverの“ACTION!!!”、レア曲“Jhout”などの旧楽曲を次々展開。ほぼ休憩もない熱狂下、思わず記憶が混濁するレベルの盛り上がりには脱帽だ。

“Don't Cry”後には、ハヤシが壊れたバイザーをなんとかする時間に。かつてのライブでも韓国の俳優のように顔が整っていることをイジられていたハヤシ、この日もフミから「このまま行く?YOUのイケメン見せちゃいなよ」と提案されてはいたものの、断固として拒否。その間は普段ほとんどトークをしないヤノが無理矢理場を繋いで失笑……という、まさしく「磔磔では普段なかなかないことが起こる」を体現した時間が続き、なんとかバイザーも復活。いろいろと残念そうなふたりを尻目に、絶対にバイザーを外さない宣言をするハヤシの対比が面白い。

 

POLYSICS『Let's ダバダバ』 - YouTube

終盤戦はハチャメチャな電子音が侵略する“How Are You?”から。これまでも激しい楽曲のオンパレードだったが、このゾーンは明らかに我々のテンションを壊しにかかっていた。例えば先述の“How Are You?”。こちらは4人から3人になって初のアルバム曲だし、10年以上前の楽曲“go ahead now!”で思い出に浸り、ライブで100%演奏される代表曲“Let's ダバダバ”では声が出せない代わりに、メンバーが『ダバダバ』と書かれたうちわを振り回すという……。25年間の総括と言えば簡単に思えるが、それこそ“How Are You?”の頃は活動休止してソロ活動をすることも視野に入れていたとインタビューで語られてもいるし、いろいろな危機も乗り越えた末に行われているのが今回のライブでもある。

クタクタのライブのラストソングは“URGE ON!!!”。ボコーダーにより歪められたロボットボイスを経て、会場はピラニアにエサ状態の盛り上がりだ。もう興奮だけでこうなっています、と言わんばかりのダンスがそこかしこで繰り広げられ、ハヤシはエビ反りでギターを掻き毟りながら更に熱量をよこせと煽り倒す。そんな音の洪水の中でライブハウスの素晴らしさがスパークする様は、どこか感動すら覚えた次第だ。

ここで一旦ハケ、鳴り止まない拍手に再び呼び込まれたポリの3人。そこでハヤシがおもむろに語ったのは、改めてこの磔磔という運命的な場所についてだった。それこそこの日は大雨の影響で開場時間が大幅に遅れたのだが、何度も磔磔でライブを行ってきた彼らも、一度だけライブ時間ギリギリに到着したことがあるという。そのとき磔磔に到着したのはなんと開場時間を過ぎてから。「もう時間押してるんだけど、1曲だけリハ(リハーサル)しましょうって。次やる曲はそのときリハした曲で、この曲を絶対今日の磔磔でやりたかった」とハヤシが語り、アンコール1曲目の“ドモアリガトミスターロボット”に繋げていくのだった。

 

POLYSICS 『Lucky Star』 - YouTube

そこからは鉄板ポップアンセム“Lucky Star”を挟んで、最終曲は結成当初から鳴らされ続ける代表曲“Buggie Technica”。この楽曲に主だった歌詞はなく、メンバー紹介以外は基本的に爆音の電子音で構成されている。ただ制作されて以降メンバーが脱退、周年アルバムリリースとと様々な出来事が起こるたび、その都度新録されてきたのがこの“Buggie Technica”であり、言わば彼らの活動を総括する大切な楽曲なのだ。もちろん会場はイントロが流れた瞬間から大盛り上がり。メンバーたちも頭が取れるレベルの激しいヘドバンで熱量に油を注いでいき、お馴染みの振り付けもバッチリ成功。もはやヘドバンと爆音で前後不覚の状態になったところで、気付けば終了。アウトロとしてギターが響き渡る環境でハヤシはダメ押しの「トイス!」を連発し、最後には「おやすみー!」と叫ぶ恒例の流れでもって、圧倒的興奮に包まれたライブは終幕したのだった。

 

POLYSICS 『BUGGIE TECHNICA 2012』 - YouTube

全部で25曲という曲数も表している通り、名実ともにこの日のライブは彼らの25周年を記念するものだった。当然ながら、大学時代から25年間やり続けたバンドは日本全体を見てもなかなかいないだろう。ただ今回のライブは特にメンバーからの印象深いMCもなく、いつも通りに終わったことは驚きでもあった。それこそ僕は長いこと彼らを追い続けていたが、住む場所が田舎になったことから、ある時期を境に7年近くPOLYSICSのライブに行くことはなくなってしまった。なので正直なところ今回のライブの参加には若干の不安もあったのだが、良い意味で彼らは本当に何も変わっていなかった。特に曲調が変わることもなく、大好きなままのポリがそこにいたのである。

今回のライブでも何曲か披露されたように、彼らは既に『25周年の次』を見ている。またアルバムを作って、全国ツアーを回って……。30周年を迎えて記念ツアーをして、35年、40年と続いていくはずだ。その通過点としての今回のツアーは、きっと大きな糧となって還元される。今度は「トイス!」が全員で叫ぶことが出来ることを願って、これからも追い続けていきたいと思った夜だった。

【POLYSICS@京都磔磔 セットリスト】
Dee B-Bop(新曲)
PLUS CHICKER
Young OH! OH!
Digital Coffee
シーラカンス イズ アンドロイド
ムチとホース
人生の灰
Baby BIAS
Hey Shepherd(新曲)
Wipe Out Happy Guy(新曲)
Crazy My Bone
ACTION!!!
Jhout
Stop Boom
Don't Cry
How Are You?
go ahead now!
Funny Attitude
Let's ダバダバ
ピーチパイ・オン・ザ・ビーチ
SUN ELECTRIC
URGE ON!!

[アンコール]
ドモアリガトミスターロボット
Lucky Star
Buggie Technica