キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】Perfume『Reframe Tour 2021』@広島文化学園HBGホール

こんばんは、キタガワです。

 

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Perfume Official Site


ライブ終了後、「自分は一体何を観ていたのだろう」とふと考える。これまでは都市部で開催され、その都度多くの反響が寄せられていたPerfumeコンセプトライブ『Reframe』待望の広島公演。これまで多くのライブを目撃してきた自負はあったが、正直ここまでの衝撃は未だかつてないと断言出来る。そこで観た約1時間半の衝撃は紛れもない音楽体験でありながら、同時に超大作のMVのようにも、何千光年先の未来の演劇のようにも感じられる伝説的な代物だった。


会場に足を踏み入れると、圧倒的な存在感でステージを覆い尽くす紗幕に目を奪われる。そこにはPerfumeのメンバーがアンドロイド化した今回のライブのメインビジュアルと『Reframe』の文字が記されているものの、その背後にあるはずのセットは紗幕に隠されて一切視認出来ない。なお今回のライブはキャパ100%かつソールドアウトで展開され、定刻時のアナウンスでも語られていたように観客は完全着席型、サイリウムの使用も禁止。更には演出の都合上携帯電話等の電子機器は電源を切るようお達しが出るなど、ことPerfumeのライブとしては異例の措置が取られていたのも特筆すべきだろう。


定刻を5分ほど過ぎると、会場が暗転。直後紗幕に映し出されたのはアナログ放送の砂嵐にも似たグレーの荒々しい映像で、そのバックではおよそ異常なレベルで増幅された低音が心臓を叩き続けている。「一体何が始まっているんだ」と思いを巡らせていると、次第に映像は砂嵐オンリーの状態から少しずつ変化。紗幕に『2021/12/17』と当日の日付が現れてその日付がどんどんカウントダウン形式で逆戻りしていき、そこから再びゆっくりと当日の日付に向かって時間が動き始める。以降はアフターズスクール広島(ASH)時代とおぼしき10代の頃のメンバーのインタビューが流れたり、以降はこれまでリリースされてきた“ポリリズム”、“レーザービーム”、“ねぇ”、“TOKYO GIRL”など代表的な楽曲のMVがぶつ切りで挟まれ観客の視線を一点に集中させる。今回の『Reframe』はPerfumeの20年の歴史を再構築して表現するライブであるため、おそらくこれらの演出はこれまでの歩みを追体験する役割なのだろう。

 

[Official Music Video] Perfume 「DISPLAY」(short ver.) - YouTube


そうして日付が現在に戻り紗幕が徐々に引き上げられると、オープナーの“DISPLAY”が圧倒的な音圧で鳴らされる。もちろん数メートル分の高さがあるステージセットの上でポーズを決めるのはあ〜ちゃん、かしゆか、のっちの3人だ。どうやらそのステージセットにはいくつのもLEDビジョンが埋め込まれているらしく、具体的にはステージを丸ごと包み込むLEDが背後にひとつ。更にはPerfumeが立つセットの四方八方にもLEDが設置されていて、基本的にはどこを見ても映像が流れているような、そんな感覚だ。小さな四面体の物体が大量に流れる壮観なビジュアルの中、クールに舞い踊る3人の対比が美しく、思わず感嘆の声を漏らしてしまう程。


今回のライブは結果的には時間にして約90分、既存の披露曲としては9曲とコンパクトな内容。ただ物足りなさを覚えるものでは決してなく、その随所にRhizomatiksが手掛けた『Reframe』ならではの映像技術を取り入れていて、言わばとてつもない満足度をギュッと90分に収めたようなあまりに濃厚な時間だった。周囲の観客の様子についても体を動かすどころか息を止めて食い入るように観ていたのが印象的だったのだが、それ程に圧巻。この世のものとは思えない体験がそこにはあったのだ。

 

[Official Music Video] Perfume「VOICE」 - YouTube


続いてはステージがぐるりと回転→新たな形に変化する一幕でもって、各自の声を録音しループさせるインタールードへ。これは上部に『REC』が出されている時にメンバーが舌を鳴らしたり、「ツーツー」、「ハッハッ」など声を出す……いわゆる野外フェス等のマイクチェックでスタッフがよく行う描写を体現しており、そこから『PLAY』に切り替わると録音されていたものがどんどん重なって流れるというもの。すると空間は暗転し、あ〜ちゃんが《点と点をつなげてこ/Everythingを合わせてこ》と“VOICE”の歌詞の一節を朗々と歌い上げ、そこからかの名曲“VOICE”へと駆け抜けていく。


Rhizomatiksによる映像効果が最大規模で発揮されたのは、おそらく続くシーン2つだろう。まずはメンバーがPerfumeにとって代表的な18曲の冒頭のポーズを映像に記憶させていき、最終的には3人がポーズを決める様々な3D映像が画面に映し出されていく。そしてのっちが中心に立った状態であ〜ちゃんとかしゆかがその周囲を回りながらカメラで撮影する次なるシーンでは、まさに今まさにそのカメラの映像がバックスクリーンに投影される中、のっちの体には電気的な模様が加わっていく。こちらも先程のポーズと同様、おそらくはメンバーの体をスキャンしてリアルタイムで映像を重ね合わせているのだろうと推察するが、正直目を凝らしてみても「凄すぎる」という簡素な感想しか出てこない。一体どのようにシステムが組み立てられているのかは全く分からないけれど、素人目にも相当な技術で制作されていることだけは何となく理解できた。


気付けばライブは折り返し。その中で最も衝撃を受けた楽曲は何かと問われれば人それぞれ異なるだろうが、個人的には規格外の演出で攻め切った“FUSION”を推したい。この日の楽曲では極めてダブステップ色の強い“FUSION”はCD音源の時点でも相当な意欲作のように感じていたので「どんなパフォーマンスになるのだろう」と気になっていたけれど、実際はフォーメーションを幾度も変えてメンバーの周囲をぐるぐる回る複数のLEDパネルがメンバーのシルエットを不規則に映し出すというまさかの展開。もはやこの場に何人が存在しているのかも分からなくなりそうな空間の中、後半にかけては緑や赤、青と色合いが変化していき目にも楽しい作りに。


以降はどしゃめしゃな電子音が鼓膜を揺さぶった“edge”で熱量をもう一段階高めると、ビジュアリゼーションを駆使したKiseki(軌跡)でこれまでのツアーの歩みを追体験。そして記念すべきオリジナルアルバム『GAME』から“シークレットシークレット”が投下された頃には、そのバックに流れるかつてのライブ映像も相まって、感動的な雰囲気が会場を包み込んでいく。なおこれまではあまり意識してこなかったことだが、映像を見ると髪型や髪色をほとんど変えていなかったり、変わらない笑顔でハイカロリーなダンスを披露していたりと、改めて彼女たちが強いプロ根性を持って活動していることも感じさせられた。

 

Perfume - "Challenger" (Official Music Video) - YouTube


三角形の物体が降り『ボク』や『キミ』、『光』といった言葉が投影されたLylic Analysisを終えると、その後は複数のレーザーを3人が自由自在に操った“無限未来”、まるでオーロラのように色彩豊かにたなびく頭上のカーテンが感動的な“Dream Land”、満面の笑みで進行した“Challenger”など楽曲を連続投下。もちろんその全てに映像効果が用いられていて、それらの光景に驚くのはこれまでと同様だ。しかしながらクライマックスが近付いているためか楽曲もややアッパーなものが多く選曲され、完全着席型ながら観客の興奮も徐々に高まっているのが分かる。


紗幕にエンドロールが投影された後、再び紗幕が廃されたラストに披露されたのは新曲“ポリゴンウェイヴ”。2019年の『Reframe』公演では前曲“Challenger”で終幕していたところを、ここに来てもう1曲追加のサプライズサービスである。なおこれまで披露された楽曲で最もカラフルな“ポリゴンウェイヴ”はダークな演出ではなくキラキラの照明が入り乱れる演出で、序盤からの緊張も解れたのか、観客はこの日初めての手拍子で応戦。それを見たメンバーも最高の笑顔で舞い踊る、極上の空間がもたらされた。

 

[Official Music Video] Perfume 「ポリゴンウェイヴ」 - YouTube


ここまで水分補給はおろか、一切のMCさえ挟まなかったPerfume。最後の楽曲である“ポリゴンウェイヴ”を終えると、この日初となるMCへ。まずは鳴り止まない拍手を静止し、あ〜ちゃんがゆっくりと語り始める。この日集まってくれた全員に深い感謝をしていること。すっかり以前とは違う世の中になってしまった中で、どうすればライブを安心して楽しんでもらえるか考えたこと。そうした中で着席形式で声も出さない『Reframe』が最適だと結論し、1年半前から今回のツアーを計画していたこと……。そう一言一言を噛み締めるように語る彼女はとても丁寧で、今回集まった我々のみならず、関係者の方々にも心の底から感謝していることがそれだけで伝わってくる。なおそうした中でも言葉の節々に広島弁が現れていて、とてもアットホームな空間になっていたことも特筆しておきたい。


続くかしゆかは開口一番、ここ地元でのライブが約3年7ヶ月ぶりであることに触れ「皆さんの目や拍手から思いが伝わりました」と感慨深げ。そうして今回の『Reframe』がPerfumeの20年間にも及ぶ歴史を再構築して見せるライブであるとし、広島で開催出来ることの嬉しさ、また町中を車で走った際に感じた懐かしさを飾らずに語ってくれた。そして最後に「Perfumeの歴史はこれからも積み上がっていきます。皆さん、また来てください!」と放ったかしゆかに、会場は温かい拍手で答えた。


最後を飾るのはのっち。どうやら彼女はASHの下積み時代にここ広島HBGホールに立ったことがあるらしく、思い出深いこの場で『Reframe』を行うことができたことを、とても嬉しそうに語ってくれた。他にも『Reframe』がPerfumeの代名詞的なテクノロジー表現を大胆に使っていることにも触れ、「テクノロジーは私たちを冷たいアンドロイドのように見せることも出来ます。でも同時に温かく見せることも出来るんです」と改めて今回のライブの特別性を語ると、最後は「みんなと一緒にライブを実現できる、それがPerfumeだと思ってます」と締め括った。


その後はあ〜ちゃんがRhizomatiksの圧倒的な表現と深い感謝、果ては先日ファンである一般男性と結婚を発表したaikoに対して「私が結婚したいよ!aikoさんと!一般男性だれー!?」と感情を露にする一幕もありつつ、これにてライブは大団円で終了。いつまでも鳴り止まない拍手をBGMにしながら、メンバーは満面の笑顔でステージを降り、ステージ上には紗幕に投影された3人のアンドロイドの映像だけが残された。


最先端のテクノロジーで、圧巻の音圧で……。今回のライブが紛れもなく、考え得る限り最高の技術を用いた代物だったことは冒頭に記した通りだ。ただ最後のMCでのっちも語っていたように、それらは決して映像表現のみに全振りした冷たいものではなかった。言わば「Perfumeがどういう試みをすれば、もっとお客さんに楽しんでもらえるのか」と考えた末の、温かな感謝の具現化だったのだ。


20年の歴史を再構築した『Reframe』を経て、Perfumeはこれからも、それこそ今回の『Reframe』が遠い過去の話になる程更に更に先まで続いていく。……そう。今回のライブはまだPerfumeの旅路の停車駅のひとつに過ぎないのだ。総じて、確かに素晴らしいライブだったと同時に、今後も彼女たちの動きをこれからも我々ファンは追い続けなければならないなと、そう強く感じたライブでもあった。


【Perfume@広島文化学園HBGホール セットリスト】
Scene 1. Recollect
DISPLAY
Scene 2. Record
Scene 3. Koe - Interlude
VOICE
Scene 4. Pose - Analysis
Scene 5. Pose - Perspective
Scene 6. Body - Analysis
FUSION
edge
Scene 7. Kiseki - Visualization
シークレットシークレット
Scene 8. Lylic Analysis
無限未来
Dream Land
Challenger
ポリゴンウェイヴ