キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

中田ヤスタカが本当にやりたかったサウンドこと、きゃりーぱみゅぱみゅの新曲“どどんぱ”の回帰

こんばんは、キタガワです。

 

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つくちーつくちー。どーんちどんちー。てけてけどこどこ。ちきどん……。文章的な表現を完全に廃して奇天烈な擬音の羅列が続き、なおかつダブステップ色を強く取り入れて構成された怪曲“どどんぱ”を最初に聴いた時、長年のファン含め多くのリスナーが困惑したに違いない。ただひとつ多くのライブを鑑賞してきた身として思うのは、ニューアルバム『キャンディーレーサー』の中でも明らかな意欲作として位置しているこの楽曲は正真正銘、音楽プロデューサーである中田ヤスタカが本当にやりたかった楽曲なのではないか、ということである。


そもそも“つけまつける”や“にんじゃりばんばん”、“ファッションモンスター”といった一大ムーブメントを巻き起こした楽曲群で誰もが熟知している通り、これまできゃりーは徹底してポップイメージに寄り添い、広く明るさを振り撒いてきた。今思えば早くに形成された彼女のこうしたキャラクター性は、ミステリアスなCAPSULEとクールなPerfumeという複数のアーティストを同時進行させる上での中田なりの戦略であり、結果唯一無二のポップアイコンを世の中に落とし込むことに成功。中でもモデル雑誌に引っ張りだこだった活動当初の様子などは、意識的な成功への道程を体現するワンシーンとして今なお印象に残っている。


ただこうしたカワイイ系のきゃりーの楽曲が目論見通りのバズを記録した一方で、中田がかねてより好んでいた若干シリアスな雰囲気の楽曲(ダブステップ)は大衆からスルーされていた部分も事実としてあり、いつしか中田は言うなれば『中田ヤスタカっぽい』楽曲をCAPSULE・Perfume・きゃりーぱみゅぱみゅの3組に平等に割り振っていた制作方針を緩やかに変更。CAPSULEはリミックスアレンジ、Perfumeはクールな楽曲オンリーで展開する独自のライブ『Reframe』と、これまであまり見せてこなかった中田流のEDMサウンドの片鱗を積極的に公開するようになり、海外も注目する稀代のサウンドメイカー・中田ヤスタカとしてのレンジの広さを存分に見せつけていった。なお中田がドラマ『LIAR GAME』のダークな音像の制作に傾倒したり、ソロ楽曲でダブステップをふんだんに取り入れるようになったのもこの頃である。


そんな中きゃりーはと言えば、原宿ファッション紙の相次ぐ休刊や20代を折り返す年齢になったこと等に伴い、2018年にリリースされた『じゃぱみゅ』辺りから大幅なシフトチェンジを図るに至った。無論これまで敢えて収録されて来なかったEDM主体のこれらの楽曲はとても良い傾向にあったと思うのだけれど、裏ではいろいろと言われていたのも間違いなく、2019年にきゃりーのライブが『中田ヤスタカ/きゃりーぱみゅぱみゅ』名義のDJスタイルになっていたことも鑑みるに、この頃は総じて定着していたきゃりーぱみゅぱみゅ像を根底からではなく少しずつ少しずつ、外堀を埋めていたような気もする。

 

きゃりーぱみゅぱみゅ - どどんぱ , KYARY PAMYU PAMYU - DODONPA(LYRIC VIDEO) - YouTube


翻って今年、きゃりーの2018年の『じゃぱみゅ』に次ぐアルバム『キャンディーレーサー』のリード曲として投下されたのが件の“どどんぱ”である。今作では10周年を迎え、原点回帰しながらも原点回避して前に突き進むきゃりーの姿をメインテーマに据えている(公式ホームページより)けれど、ここまでの過程を踏まえると“どどんぱ”は冒頭に記したように、中田の本当にやりたかったダブステップをようやくきゃりーぱみゅぱみゅという媒介を通じて具現化した楽曲であるとも称することが出来るはず。そして楽曲を繰り返し聴いていると、きゃりーとダブステップの親和性に感服すると共に改めて「これはCAPSULEでもPerfumeでもなく、きゃりーじゃないと出来ないなあ」とも感じてしまうのだ。


まさしく誰にも成し得ない原点回帰で、躍進を続けるきゃりー。来年からは過去最大規模となる10周年記念全国ツアーが敢行されますます勢いに乗ることはもちろんのこと、今回の耳に残る言葉遊びとカオティックなサウンドに翻弄される“どどんぱ”がライブセトリに加わるのもほぼ確実とされている。カワイイから華麗な転身を果たした彼女が送る極めて中田的な“どどんぱ”はまさしく、今のきゃりーぱみゅぱみゅの新機軸を象徴する楽曲として広く響き渡るはずだ。