キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

新木場STUDIO COAST閉館と、今後のライブシーン

こんばんは、キタガワです。

 

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Zepp Tokyoの後を追うように突如報じられた、新木場スタジオコースト閉館のニュース。このライブキッズにとってあまりに悲しい速報を目にした時、きっと多くの音楽ファンは今までに参戦したこの場所でのライブ風景を回顧したことだろう。あの全ローマ字で表記された特徴的な看板を写真に写すことも、丁度良い広さでその時々に演出が加えられる会場の様子も、外に出て飲食店も何もないがらんどうな風景を観ながらビールを飲むことも、もう出来ない。もしもこの事実を事前に知っていれば間違いなく過去足しげく通っていただろうが、「本当にスタジオコーストが素晴らしいライブハウスだった」ということに我々は少しばかり気付くのが遅かったのかもしれないと、やはりどれだけ考えても後悔の念すら感じてしまう。

 


スタジオコーストは2002年に開業した中規模型ライブハウスで、約20年の間で5000本以上のイベントを開催。延べ700万人以上が来場する東京屈指のライブ会場として広く知られていた。アーティストの登竜門として広く知られているのは『ロックの聖地』との呼び声高い日比谷野外大音楽堂や言わずと知れた日本武道館などが挙げられるだろうが、それぞれキャパシティが日比谷は約3000、武道館は約14000程度。それらに比べスタジオコーストは約2500であり、この数字だけを見てもかなりコンパクトな作りであることが分かる。

 


そんなキャパ約2500のスタジオコーストは果たしてアーティストにどう思われていたのか……。それはズバリ、とてつもなく素晴らしい環境であったと言わざるを得ない。あまり知られていない事柄ではあるが前述の日比谷野外音楽堂や日本武道館は希望が殺到する関係上、基本的には公演の1年以上前からスケジュールを押さえておく必要がある。更にはそのスケジュールを押さえることについても当然応募多数であるためほぼ抽選形式になるので、実は日比谷や日本武道館で公演を行うアーティストは様々な幸運が重なった結果であるとの見方も出来る。そこで白羽の矢が立つのがスタジオコースト。スタジオコーストは通常のライブハウスと同様の運営……つまりは希望制・抽選制の概念がそもそもなく、動員でペイ可能な目算とスケジュールとさえ会えば容易にツアー予定に組み込むことが出来るからだ。加えてキャパ約2500というかなり多いが物凄く多い訳でもない絶妙な収容人数は『いま大注目のアーティスト』がツアーファイナルの場として選ぶ点でも非常に優れた会場で、実際世間的に売れていると見なされるアーティストは基本的にこのスタジオコーストを何かしらの形で経由しているし、HP上でも「○年にはスタジオコーストでライブを行ったバンド」と記載すれば広く好感触を獲得することが出来る代物でもあった。


その中でも特に恩恵を受けていたのは海外から来日したアーティストで、Maroon 5やa-haら明らかに多数の動員が見込まれるアーティストはドームを、そしてある一定の知名度を誇るアーティストや激し目のバンドに対してはZepp Tokyoかスタジオコーストがまず選ばれる流れはほぼ鉄板化しつつあったため残念極まりない。無論スタジオコーストが閉館することで国内アーティストにも辛い状況になるにはなるが、最も危機的な状況となるのはやはりツアー決定時点で「じゃあ日本ではどこでやる?」と考える海外勢であろうという気がする。楽屋がストレスフリーな環境だったり、ある意味では都市部から離れた位置にあり人だかりが出来にくいことも含めてだが、アーティストにとって有難い環境はまたひとつ失われることになるのだ。


Zepp Tokyoに続いてスタジオコーストの閉館……。かつては永遠のように思えたライブハウスの存続が極めて危機的状況に陥っていることが、このコロナ禍でより明白になった。そして何より悲しいのは、こうした状況にありながらも、誰よりもライブを愛する我々がほとんど何も出来ないことだ。現段階で考え得る最適解としてまず浮かぶのは、コロナ禍でもかつてライブハウスに通い続けてきたひとりひとりが同じようにライブに赴くことだろう。しかしながら本来のキャパシティの半分以下で運営を余儀無くされているライブハウスだ。たったひとりが行動を変えたところで存続が変わる訳でもないし、身も蓋もない話だが例え連日ソールドアウトの状態を作り出したところで、キャパ半分であるために赤字は絶対に避けられない。……ではコロナが収まるまで待つか、答えはそれもノーだ。結局はコロナが収まり、マスクも外すことが出来て、キャパ100%で自由に楽しめることが出来て初めてライブは黒字になる。故におそらく、今後閉店するライブハウスは我々が思う以上に多いのではと推察する。


未だ収束の見通しが立たないコロナウイルス。ライブキッズにとってもライブの突然の延期・中止は数あれど、誰しもが想像もしていなかったスタジオコーストの閉店は、かなりの衝撃として映ったはず。ただ希望もなくはない。何故なら昨年の春に吹聴された『ライブハウスは三密』との考えは2021年夏現在然程聞かれないようにはなったし、他にも春フェスの成功などポジティブな事例をいくつも積み重ねていて、世間的な風向きはかなり良い方向に動いていると思うからだ。今回のスタジオコースト閉館のニュースは確かにショックな報道ではあったが、今後も音楽を愛する我々こそがライブハウスという最高の場所を守るべく、奮闘する必要があるに違いない。

 

⑤ 公民 (the dresscodes 2017 “meme"TOUR FINAL 新木場STUDIO COAST) - YouTube