キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2021』は、何故開催中止を決断しなければならなかったのか

こんばんは、キタガワです。

 

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「こんなことがあってたまるか」……。rockin'onフェスの公式ツイッターで突如発表されたRIJ開催中止の報を見て、思わず発した一声は怒りというより、虚無感に近いものだった。この1年間、具体的には昨年の同時期からRIJ運営による様々な表明を目にしていただけに、その思いは大きかった。RIJの運営の方々には心からの感謝を伝えると共に、どうか気を強く持ってほしいと強く願っている。


RIJ総合プロデューサー・渋谷陽一氏の話によると、開催地である茨城県医師会の要請により今回の決断に踏み切ったとされるが、おそらく今回のRIJに関して言えば、開催中止となる要素は限りなく低いと誰もが思っていた。万全の感染防止対策を整えたフェスであることは公式サイトを見ても明らかだし、だからこそ予想を上回る申し込みで大勢の音楽好きが来場する予定だったのだと推察する。


ではそうした「ひとりも感染者を出さない」という思いで組み上げられた徹底的な感染防止対策の網を潜り抜け、何故フェスは中止へと追い込まれてしまったのか……。今記事ではそうしたデリケートな部分に焦点を当てることで、多くの音楽ファンに希望の光を灯したRIJという最高のフェスと、その光を無情にも消し去った様々な加害への認知としたい。


まず今年のRIJにおいて、我々参加者的にも例年と異なる部分的にも重要な点として位置していたのは、ステージを最もキャパシティの大きい『GLASS STAGE』のみに絞ったことだ。例年RIJは計7つのステージが用意されていて、自分が観たいアーティストをその都度選択出来るシステムを導入していたが、今回よもやの1ステージのみという発表は、公開当初より話題を呼んだ。言うまでもなくこの試みは観客が頻繁に移動することで生じる影響……。我々が報道番組等で口酸っぱく言われている所謂『人動抑制』によるもので、当然そのGLASS STAGEも前方は完全入れ換え制でソーシャルディスタンスもしっかり確保。来場人数もキャパの半分以下で1万人。


これらのある意味ではやり過ぎとすら感じる徹底した試みによって今年のRIJは100%開催されると踏んでいたので、まさか中止になるとは夢にも思っていなかったというのが正直なところだ。なおこれまでコロナ禍では様々なフェスが行われたが、それらの大半は2ステージ以上で設定されていて、逆に1ステージにまで抑えに抑えたフェスが中止になることは今までにほぼなかったという事実は、この場で特筆しておきたい。


そしてもうひとつ重要なのは、感染防止対策により今年のRIJの出演者も1日あたり8組、5日間合計で40組に激減したこと。ただその代わりにアーティストはとてつもなく豪華な顔触れとなったのもポイントで、ASIAN KUNG-FU GENERATION、サカナクション、King GnuといったこれまでのRIJでメインを張ったアーティストが勢揃い。1ステージ制やら価格帯やらで参戦を見送る声も以前こそ確かに存在したけれど、この瞬間RIJ2021は歴史上類を見ない超格安フェスとして君臨した。


当然当日は密集を避けるため、抽選で選ばれたファンのみが前方部の立ち位置をゲット出来る仕組みを作ったり、その前方席に関してもライブごとに入れ換えるなど、あらゆる可能性を考えて対策。野外であるため所謂『三密』をクリア出来るのもプラスで、他にもアルコールの販売を行わず持ち込みも禁止すること、飲食は限られた場所のみで行うこと、大きな発声を制限することなど厳重なルールが設けられ、様々な観点を鑑みても今年のRIJは大成功する……はずだった。


そして開催まであと1ヶ月と迫った本日、突然発表されたのが開催中止の一報だ。渋谷氏の話を読み解くに、酷く簡潔に言い表すならば「観客の来場後の行動を保証できない」ことと「今よりも規制を強めてほしい」ことが突然茨城県医師会から伝えられ、RIJ側は開催まで1ヶ月を切った状況の中、参加者にこれ以上の我慢を課すことが不可能であると考えて中止を決断したとのことだった。これについて個人的な思いを延べるならば、やはり「ずるい」の一言に尽きる。音楽を止めないように本気で取り組んだ関係者に対する血も涙もない事実上の決定権はその考えもやり方も、何もかもがずるい。


そもそもRIJは、開催地である茨城県に「こういうフェスをやりたいです。人数はこれくらいで、感染対策はこれほどして……」と事前に伝えて了承を得ているし、そうでなくとも開催が1ヶ月に迫ったこのタイミングで開催可否を問い質すというのは、仕事をするいち人間として考えても甚だ疑問だ。例えば何かしらの仕事を発注しておいて、納期1ヶ月を切っていきなり「あの件全部キャンセルで」と言うことになれば、当事者的には「なぜ?どうして?」の思いと共に「言うならもっと早く言ってくれ」と感じるのは自明だ。そして前述の「なぜ?どうして?」の疑問の茨城県医師会側の解とされるのが「たくさん人が来るし終わったあとの観客どんな行動するか責任取れないよね」とする部分だろうが、これについてもそもそも他のスポーツイベントなどは普通に開催されている時点で不公平極まりなく、「終わったあとの観客どんな行動するか責任取れない」の部分に関してはまるで引率の教師が「家に変えるまでが遠足ですよ」レベルのペラッペラな言葉で、これも不可能……というか逆にどうすれば良いのか茨城県医師会に聞いてみたいところ。しかもこうした言葉を医療に携わる『医師会』から告げられたことも大きく、ここまでNOと言えない状況まで追い込まれてしまえば、もはや諦めるしかなかったということだろう。


今回の開催中止の件について、ツイッター上でひとたび『ロッキン』と検索すれば、怒りの声が次々に流れてくる。それはおそらく、全ての音楽ファンが思う「これくらい感染対策してくれれば開催して良いと思う」というラインをロッキン側がクリアしていたこと、そしてそのラインにNOの意思を一方的に突き付けた茨城県医師会の理由に、誰もが納得していないことの裏返しなのだろう。これに関しては是非とも声を上げ、何がOKで何がNGなのかの決定的な線引きの言質が得られるまで根気強く公表を求めていく必要がある。


加えて、何よりロッキンだ。今回の中止により、ロッキンは2020年度のRIJ、年末のCDJという3回連続でフェス中止を経験したことになる。今回のテキストでも「今、中止を決定しても億以上の支出になります。それは日に日に何千万円の単位で増えていき、最終的には大変大きなものになります」と綴られていたが、今回の中止により我々の思い描く以上の損失が発生することは間違いない。であれば、我々がすることは何か。そう。中止になってしまったRIJのグッズを買うことだ。ロッキング・オン社の雑誌を購読することだ。そして、彼らの次なる試みと歩みを全力で応援することだ。さすれば来年、パワーアップした祝祭は必ずひたちなかに現れる。未だ難しい状況は続くが、それまで我々は粛々と日々を生き抜き、来たる爆発に向けて力を蓄えていこう。……「音楽を止めない。フェスを止めない」。この言葉を唱えるべきは今なのだ。