こんばんは、キタガワです。
時は2020年、場所はシアトル。人間の他サキュバス、エルフ等多様な種族が共存する未来型社会だ。そんな街にすっかり陽が落ちて夜の帳が覆い尽くした時間帯に、隠れ家的カフェ・コーヒートークはオープンする。ここでは日夜様々な客が訪れ、プレイヤーであるマスターが提供する飲み物で一息入れつつ、時には人生相談、時には執筆活動と思い思いの時間を過ごす憩いの場である。客が来るかって？それが結構来るんだよ……。
と、ここまで大まかなあらすじにテレビドラマ『深夜食堂』のお馴染みの台詞を組み込んで記してきたが、PS4とNintendo Switchで絶賛発売中のインディーゲーム・『Coffee Talk（コーヒートーク）』は緩やかな雰囲気も相まって、完全にカフェ版のそれである。ゲームシステムは至ってシンプルで、客がオーダーした飲み物をその通りに作って提供し、その後の会話を聞く。たったそれだけ。ただたったそれだけのことが、実際のカフェで友人と語らうかの如くの独特の浮遊感も相まって、時間泥棒としてこれ以上ない役割を果たしてくれるのだ。
オーダーを聞いたプレイヤーは、3つのものを合わせて飲み物を作ることが出来る。ベースとなるのはコーヒー、抹茶、紅茶、ココア、ミルク。そしてサブ材料は上記の5種類に加えてショウガ、ミント、レモン、蜂蜜、シナモンの計10種類と豊富。これらを自在に調合して飲み物を作っていく訳だが、例えば『コーヒー＋コーヒー＋コーヒー』のオーダーであればあればほろ苦いエスプレッソが、「ココア＋ミルク＋ミルク」ではしっとりとしたバージョンのココアが出来る。もしも作成した代物が思っていたものと違えば、最大5回まで作り直すことも可能である。……ここまでの流れを知れば簡単なゲームのようにも思えるが、冒頭では「エスプレッソちょうだい」や「ミルクたっぷりのラテを」といった簡単なメニューのオーダーであるのに対し、後半では「ミルクなしの若干甘めのコーヒー」「カフェインの入ってないホッとする飲み物」「飲み物で驚かせてほしい」など各々の価値観で答えが千差万別なものが多数オーダーされ、ふと制作した飲み物で何故か新メニューを開拓してしまうという偶然も多々。当然カフェであるため初めての客や常連の客など様々だが、どれも苦心して出来上がった飲み物が好まれ、その飲み物の素晴らしさを契機に次第に胸襟を開いて会話が弾むのはやはり嬉しく、中にはその腕前を見込んで「ラテアート書いて」と注文してくれる客も存在するため楽しみが途切れない。なおパッケージ版に記載されているライターのフレイヤという女性に関しては毎回エスプレッソしか頼まないため、こちらとしては非常にありがたい存在である。
そして何よりその後のトークが、実にドラマ的なエッセンスが散りばめられていて面白いのだ。前述の通り今作で描かれる社会は多様な種族が共存する未来であるが、悩みながら生活を送る異種族のカップルなど未だに根強い同種族主義が物語上で垣間見えたり、純粋にマスターを話し相手として認識する話したがりな人、フレイヤのように執筆がてら日々立ち寄る人といった様々な客が来店し、時には客同士で邂逅。そこから新たな話に繋がることもあって、プレイヤーはまるで本当にカフェのマスターになったように共感したり反対したり、良い意味での相談相手として確立。シアトルといえばアメリカの中では比較的雨の降りやすい都市としても知られているように、外は基本的に雨が降っている。しかも夜。店内にはゆるりとした音楽が常に流れる穏やかな雰囲気もカフェ的で○。故に『Coffee Talk』はおそらく、世間一般的なゲーム・ゴールデンタイムとして語られる夕方～夜にかけてではなくとっぷりと陽が暮れた深夜、ひとり厳かにプレイするのが最適解だろう。深夜の特に寝る前になるとその日の思い出をふいに回想してしまうことが多いというデータを見たことがあるが、脳がカチャカチャとデータを組み換えるこの時間帯だからこそ、このゲームはまた新たな面白さを伴って眼窩に侵入するのだ。
……筆者も週に何度もカフェに入り浸る類いの人間であるけれども、基本的にカフェに自ら赴く人間というのは統計的に見ても少数派で、外出先での小一時間の暇潰しや流行りの新商品を頼んでみようという好奇心で何となく足を運ぶ人が多いと聞く。現在ではコロナ禍が長く続いている状況も相まってカフェからすっかり足が遠退いてしまった人も多いはずで、そんな時だからこそ『Coffee Talk』は光る。なお今作はPS4、Nintendo Switch共にダウンロード版は1600円と超割安、更にPS4版は6月までフリープレイ……つまり完全無料で購入が可能。この機会に思い思いの楽しみ方で、是非とも1日の最後の至福の時を過ごしてみては如何だろうか。
