キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

『ドキュメンタル』シーズン8における失敗と失敗(ネタバレあり)

こんばんは、キタガワです。

 

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「amazonさんなんですけど、もうこの話してええか分かんないんですけど、前回のシーズン7がめちゃくちゃ評判良くて、amazonさんがもう大喜びで。ドキュメンタルはこの先もどんどん続けていきたいとお褒めいただいて。そのあと調子に乗って次のシーズン撮ったんです。ただ未だに公開が決まっていない。amazonの偉いさんが下品にも程があると。だからamazonと言えども、下ネタは底無しではないということです」


上記のコメントは、松本人志氏が各芸人から100万円を回収する少し前に語ったそのままの形で記したものだ。これを観ながら僕の首筋からは、熱帯夜がもたらす汗とは違う、嫌な予感を携えた汗が流れ出ていた。1週間前の自分からは想像も出来なかっただろう。まさかあれほど期待していたシーズン8が個人的に歴代ワーストに転落する作品となったことについては。


まずこの上記の松本のコメントの時点で、参加者の脳裏に『ドキュメンタルは完全なる無法地帯ではない』という決定的事実が掠めたはずだ。実際『最も下劣な回』として低評価レビューが駆け巡ったシーズン4では宮迫が息子を怒張させた状態で登場するのみならず、おそらく一般的なテレビ番組ではまずカットされるに違いない、井戸田とノブが放尿で笑いを取るという行為についても温情な判決で許され、過度な修正なしで公開されるに至った。そして回を重ねるごとにドキュメンタル自体の知名度も飛躍的に高まったことと、所謂お下劣に分類される様々な事象が結果的に何かしらの笑いを生むことが証明されてしまった今、言うなればどんな手段を使ってでも、この番組で目立った人間はある程度の評価を受けるという異次元的な状況が出来上がってしまっているのは事実としてある。


シーズン2の優勝者・小峠が全ての闘いが終幕した後のインタビューにて、ラスト数十分間斉藤との直接対決を余儀無くされた際に「俺本当に最後斉藤ぶん殴ろうかと思った」と語っている通り、ただそれでも何故小峠が暴力に至らなかったかと言えば、それは今まで培われたテレビ業界の『ここまではやって良いけどこれ以上はアウト』との無意識的な線引きが自己で成されていたためであろう。


だがゲーム開始前に「amazonならええやろ別に」と語ったせいじや「下ネタはなしってことなんですね?」と思わず質問した藤本に顕著なように、やはりこの場に臨む上で何かしらのインパクトのあるネタ……即ち下ネタに特化した何かを考えていた芸人は多いであろうし、参加芸人が全員男性であったことから「ならこれが使えるな」と判断した人間は多かったはず。そうした芸人たちはまずこの松本が発した強いコメントにより、大きく出鼻を挫かれることとなる。


更に言うならば、その直後に松本が語った「反省の気持ちも込めて今amazonのパーカーを着てる」との発言も、芸人たちをピリつかせる大きな要因であったように思うのだ。そう。この瞬間ドキュメンタルは『一斉一代の勝負の場』という芸人的な意味合いではなく『何としてでも成立させなければならない大事な番組』との認識が生まれてしまった。憧れの松本人志に迷惑をかけてはならない。下手なことをすれば炎上に繋がる。ドキュメンタルの今後の行方はこの回で決まる……。正直なこの発言から、先程まで緩やかだった全員の笑顔と口数が圧倒的に減った気がする。年末特番である『笑ってはいけない』から緊張感を増加させた番組が『ドキュメンタル』であるとすれば、この時点で今回のシーズン8はそれから更に緊張感を加えた形になってしまった。


そして悪い予感は的中し、番組は開始1時間半以上が経過してもひとりの脱落者も出ることはなく、最終的には参加者の半分以上に及ぶ全6名がタイムアップまで生き残るに至った。言うまでもなくここまで大多数の芸人が残ったのはドキュメンタル史上初であり、結果として異様な数の低評価を集めたシーズン6よりも多い。故に後半では我々視聴者でさえフラットな表情と見なしているにも関わらず、松本に「笑っている」と判断されて退場に至るケースも多々あり、直接的に松本に文句を言う人間はおらずとも芸人同士が強い言葉で貶し合ったり蔑み合ったりしているのを見ると、やはりフラストレーションは溜まっていたのだなあと思ってしまう。

 

加えてとある場面で松本が独裁で下した「全員ほぼ笑てる」との理由によるよもやの『この瞬間全員がイエローカードを保持していることとする』という審判も良くなかった。この時点で全ての芸人は気付いてしまった。我々は踊らされる駒なのだと。クイズ番組で「次の問題に正解すればなんと1万ポイントです!」と言われた瞬間ブーイングが起きるのは誰もが予想できるだろうが、そうした判断がドキュメンタルで行われたことについては、やはり悪手だったのではと思わざるを得ない。そこに必死に稼いだ100万円がかかっているなら尚更である。


さて、ここまで総文字量も推敲もせず思うがままに書き殴ってきた。現在の時刻は午前2時半。公開開始から同じく約2時間半が経過した計算になるため未だ今作が最終的に視聴者にどのような評価を受けるのかは分からない。だが僕個人としてはあのシーズン6に劣る出来であったのは確かで、今の僕には今後見返すとしてもスキップ機能を多用しながらの視聴になるだろうなという漠然とした……けれどもほぼ間違いなくそうなるだろうという確信がある。


僕自身チャンス大城や千原せいじの起用が発表された瞬間は酷く喜んだものだし、日々ドキュメンタルのことを考えて過ごしていた。それが期待値を下回った瞬間どうなるか、ということに関しては言うまでもない。ただドキュメンタルを根本から否定したい訳ではないのも確か。いち視聴者としては「面白い回が観たい」というその一心だけなのである。そしてドキュメンタルが作ろうと思って作ることが出来る番組であるわけではないのも重々承知だが、やはり本心としては「ちょっと残念だったな」との思いに帰結してしまう次第だ。でも次の作品も結局見ちゃうんだろうなー。ドキュメンタル。