キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】ずっと真夜中でいいのに。『オンラインライブ NIWA TO NIRA』

こんばんは、キタガワです。

 

f:id:psychedelicrock0825:20200618124322j:plain


8月上旬に行われたずっと真夜中でいいのに。(以下ずとまよ)の有料生配信ライブ『オンラインライブ NIWA TO NIRA』。摩訶不思議なタイトルを冠した今回の試みは結果としてエンターテインメントに特化した異次元空間を形成するに留まらず、今やインターネットシーンの筆頭として絶大な存在感を放つずとまよ)の更なる飛躍を確信させる一夜でもあった。


配信時間は夜の20時。ライブ開始前にも関わらず、コメント欄は多くのファンによる興奮が理性を超越したかの如き感嘆符の数々がひっきりなしに流れ、もはや追うことさえ不可能な有り様。そんな激しく行き交うコメントをよそに、画面には青空と自然をバックに“お勉強しといてよ”のMVにおけるメインキャラクター・にらちゃんと共に「しばらくお待ち下さい」との不適切なシーンが見られた際に流れる緊急画面を彷彿とさせる固定画面が大写しになっており、ライブの幕開けをじっと見守っていた。


長らく固定画面が続いていたが、定刻を過ぎると画面は切り替わり、いつしか画面は宙に浮いたやかんから煙がゆらゆらと立ちのぼるリアルタイムの映像へとシフト。しばらく待っていると更に画面が切り替わり、そこに映し出されたのはずとまよのフロントウーマンにして、現状唯一バイオグラフィーに名を連ねているACAね(Vo.G.Electric Fan Harp)その人であった。


当のACAねはしばらく暗闇を歩いて最終的にはボウルに盛られた大量の野菜の数々とまな板、包丁が配置されたテーブルに着くなり、パプリカやナス、トウモロコシなどの野菜の数々を丁寧に乱切りし、別のボウルへと移し変えていく。その表情は背後に絶妙に照らされる照明による逆行でシルエットとなり、その一切が判別不能である。彼女がニラを切るタイミングに合わせてバックで流れる打ち込みのドラムの音がシンクロし、1曲目“眩しいDNDだけ”が鳴らされた。

 


ずっと真夜中でいいのに。『眩しいDNAだけ』MV

 


さて、今回のライブは終始圧倒的な音圧でもって鼓膜を刺していたのだが、それもそのはず。この日の楽器隊は総勢8名を超える大所帯であり、去る5月7日に行われたオンラインライブ『お風呂場ライブ 定期連絡の業務』にてACAねの両脇を固めていた村山☆潤(Key.Manipulator.Band Master)と西村奈央(Key)の他、かねてよりずとまよのライブのサポートメンバーとして全国を共に回り、信頼を構築してきた盟友たち。加えてその中にはフジロックや昨年の全国ツアーでサポートを勤めていたオープルリール式テープレコーダーを楽器として演奏するOpen Reel Ensembleのメンバーもフル参戦するなど、総じて現状におけるずとまよの最強メンバーが首を揃えた形だ。


何より驚きだったのは、一口に『ライブ』というひとつのショウには到底収まらないほど練り上げられたステージの装飾である。天井から垂れ下がる大量のケーブルとボロ布、ある種の物悲しささえ感じさせるエアコンの室外機、括られたカーテン、懐中電灯、そこかしこに置かれた機材の数々……。そのあまりに非現実的な光景は終末世界のイメージとも、SFにおける組織のアジトと称されたところで合点がいく、ミステリアスな雰囲気を醸し出していた。


そんなあまりに情報量の多いステージの中心で歌うACAねはCD音源と遜色ない高らかな歌声を響かせると共に、大サビに入る直前の《満たされていたくないだけ》の一幕では限界まで伸ばしたハイトーンでもって、いちボーカリストとしての実力を遺憾無く発揮。なおその間もカメラがACAねを重点的に捉えることは然程なく、むしろサポートメンバーの面々やステージの装飾を目まぐるしく映し出しずとまよの世界観を画面越しの我々に最大限伝えるよう尽力している印象すら受けた。

 


ずっと真夜中でいいのに。『お勉強しといてよ』MV(ZUTOMAYO - STUDY ME)


なおも衝撃は続く。以降は先日リリースされたミニアルバム『朗らかな皮膚とて不服』のリード曲にして、5台のブラウン管テレビを叩く和田永(Open Reel.TV Drums)による前衛的な演奏が炸裂した“お勉強しといてよ”、きらびやかな音像で一気にライブの高揚を高めた“ヒューマノイド”とアッパーな楽曲を立て続けに披露するモードに突入。重厚なアンサンブルと視覚的効果を見事に融合させた圧巻のステージングで、ぐんぐんと引き込んでいく。


“ヒューマノイド”終了後、再びテーブルに向き合ったACAねは、先程自身の手で切り刻んだ野菜を盛ったボウルを持ちながらライブハウスを後にし、薄暗い階段を一段、また一段と登っていく。そんな荒唐無稽な流れの果てに彼女が辿り着いたのは屋上のプールサイド(ライブ終了後の彼女のツイッターでは「庭」と語っていた)で、全長10数メートルはくだらない巨大なプールを取り囲むように、いつの間にやら楽器隊がひしめき合い、ずとまよの主たる存在であるACAねが定位置に着くのを待っていた。


そして階段を上がったACAねが謎の黒服にボウルを手渡したのを皮切りに、ニューアルバム『朗らかな皮膚とて不服』収録のメロウチューン“マインブルーの庭園”が緩やかに鳴らされる。チームずとまよは本物の扇風機をギタータイプに改造したオリジナル楽器・扇風琴(せんぷうきん)を巧みに操り、アコーディオンを模したオープンリール……その名もテープレコーディオンを弾き倒し、更にはオープルリールの剥き出しになったテープ部分を叩いたり引っ張ったりと、特異なライブ空間を演出。途中には謎の黒服がACAねの切った野菜を鉄串に刺して焼く演出も挟まれ、とっぷり日が暮れた屋外であることも相まって、壮大ながらもどこか開放的だ。


パーカッションを軸としたアコースティックな演奏で魅せた“君がいて水になる”、盆踊り風のサウンドで全国各地で中止となったであろう夏祭りの雰囲気を脳裏に過らせた“彷徨い酔い温度”と、ロック然とした前半とはまた違った雰囲気を携えた楽曲群の演奏が終わると、プールサイドをぐるりと回る形で定位置から離れたACAねにカメラがフォーカスを当てる。おむもろに椅子に腰掛けたACAねは夜空の下、焼き上がったシュラスコ風の野菜に舌鼓。時刻は夜の20時30分過ぎ。少し遅めの優雅な夕食である。しばらくその時間が続いていたが、次第にどこからともなくEDMのライブを彷彿とさせる心臓を打つEDMのメロが流れていることに気付いたACAねは、その音楽に誘われるように再びライブハウスへ帰還。するとそこは先程までのライブ空間から一変、天井に巨大なミラーボールが鎮座し艶やかな光が辺り一面を支配するダンスフロアと化しており、まるで一昔前のディスコの様相の中で新機軸のキラーチューンである“MILABO”が艶やかに奏でられたのだった。

 


ずっと真夜中でいいのに。『MILABO』MV(ZUTOMAYO - MILABO)


“MILABO”が終わると「改めましてこんにちは、ずっと真夜中でいいのに。です。ACAねです。少し落ち着いたような感じが、してます。見てくれてる……。ありがとうございます。最近ハマってることは、体幹を鍛えることと、画像をザラザラに加工することです。楽しいです。元気です。大変な状況だけど……みんなお忙しい中だと思うんですけど、見てくれて凄い嬉しいです」とたどたどしくも感謝と近況報告を語るACAね。ずとまよのオンラインライブは今回で2回目。今回が大幅増員の総勢8名の大所帯となった理由については「ACAねのやりたいことが生放送では厳しいと判断したスタッフ達により、スペシャルなバンド編成でのライブになります」とのライブ前に発信された公式のコメントが全てであろうが、結果として去る5月7日に行われた前回のオンラインライブ『お風呂場ライブ 定期連絡の業務』でのACAね+ピアノ隊2名というミニマルな編成とは大きく趣を異にするものとなった此度のライブは、彼女の中でも確かな成功を感じ得る代物であったはずだ。


直後「はじめて投稿した曲が(総再生数が)6000万回になり、ありがとうございます。記念に一緒にお願いします……」との流れで突入した“秒針を噛む”でもって画面越しに観ている何人ものファンの琴線に触れると、以降はダンサブルなサウンドが突き抜けた“低血ボルト”、後半部に差し掛かるにつれ俄然熱を帯びていく“マイノリティ脈絡”と続き、ラストは「帰りの時間です……」と語ったACAねが楽器隊に向き合い指揮を振る形で、古くからの名曲・夕焼け小焼けをオリジナリティ溢れるインストゥルメンタルアレンジでゆったり聴かせた後の“正義”で大団円を飾った。1時間を通して楽曲以外では直情的な思いを語ることのなかったACAねだが、ハンドマイクで跳び跳ね身ぶり手振りを繰り出し、楽曲の最後に本来の体感とは全くの真逆の体感温度であるはずの「涼しいー!」と叫んだ一幕は、この日のライブが彼女にとって濃密な時間であったという事実を如実に表していたように思う。

 


ずっと真夜中でいいのに。『正義』MV


何故今回最後に演奏されたのが、前日にリリースされたミニアルバム『朗らかな皮膚とて不服』の収録曲ではなく昨年にリリースされたフルアルバムに収録された“正義”だったのか、そして今まで単独ライブでは一切の例外なく本編のラスト、若しくはアンコールを飾るポジションに位置していた“秒針を噛む”が何故今回に限り中盤付近で鳴らされたのか、僕はずっと疑問として浮かんでいた。実際ライブが終幕して数週間が経過した今でもその確たる真意は不明のままであるし、今回のライブのラストに“正義”を選んだ理由についてACAねが発言することも、おそらく可能性としては低いだろう。しかしながら歌詞において秘密に蓋をしたり、はたまた無意識的に話しすぎてしまう場面が幾度となく記されているように、この世の全ては個々人における正義的言動の乱立によって成り立っている。そしてそれは日常であった様々な事象が消失し不便な生活を余儀なくされている我々にとっても、感染防止の関係上オンラインライブとして楽曲を届けざるを得ないACAね自身にとっても同様だ。故に此度のラストにACAねが“正義”を選択したのは彼女にとっての何よりの正しい道理の主張なのだと解釈するのは、流石に早計だろうか。


そしてライブ画面のフェードアウトと共に「ライブ見てくれてありがとう。今日のために部活やお仕事休むといってくれてたのも見かけました。申し訳ないです…でも嬉しいです。目の前にお客さんいなかったけど機材に囲まれ幸せです。会ってライブしたいねえ…」とACAねの直筆で記されたコメントが流れ、今回ライブを形作った関係者全員の名前の横に検温時の体温が記載されるという稀有なエンドロールでもって、約1時間に及んだライブはその幕を下ろしたのだった。


その独特なタイトル然り挑戦的なコメント然り、始まる前は一切の予想が出来ず若干の不安なも正直な思いとして存在していた今回のライブだが、結果として『オンラインライブ NIWA TO NIWA』は画面越しのライブの常識を覆す多大な遊び心と確かな音楽的価値を示した、言わばずとまよにしか成し得ない神秘的な体験だった。思えば約2年前にYouTube上急速にバズをもたらした“秒針を噛む”によって運命が一変したずとまよだが、特にここ数年は大勢のファンの前で場数を踏み、ハイペースに楽曲をリリースするという愚直かつワーカホリックな活動の果てに今では広く認知されるに至ったずとまよ。そして現在ではストリーミングサービス市場で特集が組まれたり、此度リリースされたミニアルバム『朗らかな皮膚とて不服』もアルバムチャートの上位に食い込んだ事実も証明しているように、ずとまよは今や音楽シーンにおける先頭を走る存在を担っている。そんな中今回のライブは言わば、彼女たちの今までと更なるこれからの快進撃を証明するに相応しいライブであったように思う。来たる10月30日には映画『さんかく窓の外側は夜』の主題歌を担当することも決定しているずとまよ。今後も目が離せない存在となるのは、およそ間違いないだろう。


【ずっと真夜中でいいのに。@オンラインライブNIWA TO NIRA セットリスト】
眩しいDNAだけ
お勉強しといてよ
ヒューマノイド
マリンブルーの庭園
君がいて水になる
彷徨い酔い温度
MILABO
秒針を噛む
低血ボルト
マイノリティ脈絡
正義

 

f:id:psychedelicrock0825:20200819213117j:plain