キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

【ライブレポート】ずっと真夜中でいいのに。『お風呂場ライブ 定期連絡の業務』@YouTube

こんばんは、キタガワです。

 

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去る5月6日。時刻は20時を回り始めた。定刻になると生配信の動画の幕開けを飾るYouTube特有のカウントダウンが始まり、心中の興奮が一段階引き上げられる感覚に陥る。もっとも閲覧者がリアルタイムでコメントを行うことが可能なチャット欄はこの時点で既に1秒ごとに数十のコメントが飛び交うパンク状態と化しており、今回の生配信を待ちわびていたファンの期待値の高さをこれ以上ない視覚的勢いで感じ取ることができたのも、高揚感の理由のひとつであろうが。


そんな焦らしに焦らすカウントダウンがゼロになると、画面上にはタイトルを体現したお風呂場のイラストがお目見え。その床には今までずとまよのMVに幾度も登場したオリジナルキャラクター『うにぐりくん』と、今回新たに仲間入りしたその名も『バクさん』が座っており、その前には小さなグランドピアノが鎮座している。なおこのイラストは今回のライブに際してかつて“蹴っ飛ばした毛布”のMVでも共演したアニメーションクリエイター・革蝉が手掛けた代物。全編通してヨタヨタと一生懸命にピアノを弾き倒すキュートなうにぐりくんとバクさんの光景ももちろんだが、演奏の途中途中で目まぐるしく展開する圧巻の映像美も、ライブを彩る重要なエッセンスとして一役買っていた。


そして次第に不穏なピアノが鼓膜を刺激し、記念すべき1曲目に至るまでの道筋を緩やかに形作っていく。瞬間聞き覚えのあるピアノリフと共に、昨年発売のミニアルバム『今は今で誓いは笑みで』でも同様にオープナーとして位置していた“勘冴えて悔しいわ”が生ライブさながらの勢いでもって鳴らされた。


今回のライブは事前にアナウンスされていた通りずとまよの中心人物であるACAねに加え、楽器隊はピアノのみという、多彩な音が鳴るCD音源とは一風変わったずとまよにしては珍しいミニマルな編成であった。更にはピアノはツインピアノであり、まずレフトピアノは昨今のずとまよのライブでも絶大な存在を担っていた村山☆潤。ライトピアノは“秒針を噛む”や“ヒューマノイド”、“脳裏上のクラッカー”など数々のヒット曲のレコーディングに携わった西村奈央というピアノの存在感が極めて印象的なずとまよを語る上では欠かせない2名。加えてイヤホンを装着しながらライブを閲覧すると左耳からは村山のピアノが、そして右耳からは西村のピアノが主張する仕組みも取り入れられており、サウンド面のみに関しては流石に実際のライブと全く同じとは言わないまでも、ライブさながらの臨場感溢れるサウンドが鳴り響く極上空間であったように思う。


ライブの舞台がお風呂場ということで、個人的に「過剰なリヴァーブがかかってしまうのではないか?」との一種の懸念事項も脳裏を過ったACAねの歌声も申し分なしで、CD音源と遜色ないほど朗々としたボーカルで魅了した。前述の通り今回のライブはピアノの音量が大きく設定されていたのだが、そのど真ん中をACAねの歌声が切り裂くように響き渡り、思わず息を飲む。


“勘冴えて悔しいわ”の後はACAねによるひとしきりのMCに移行。


「こんばんは、ずっと真夜中でいいのに。です。みなさん、元気……?何して、過ごしてますか。私は家で曲作ったり本読んだり、ゲーム実況観たりして過ごしてます。(今日本来は)幕張のホールでライブだったんですけど、延期になってしまって。残念ですが記念に歌いたいと思います」


たどたどしくも、言葉を選びながら思いを語ったACAね。後に「緊張してあたふたしていましたが..楽しかったです」と自身のSNSに綴っていた彼女だが、今までライブのMCや弾き語り形式の生配信でのACAねと比較するとボリュームを最大にしても所々聞き取れない吹けば飛ぶような語り口に徹しており、今回の実験的な試みは彼女の長い音楽人生で考えても未知の部分が多かったのだろうと推察する。けれどもそうしたACAねのトークもひとたび楽曲が始まると一転、高らかに突き抜ける歌声でもって心を掌握させる力強さを携える。総じてACAねはずっと真夜中でいいのに。という音楽ユニットとしての側面以上に、ひとりのシンガーとして類い稀なる才能の持ち主であることに気付かされる一幕であった。


続いて披露されたのは“蹴っ飛ばした毛布”。ここでどうしても思い返してしまうのが、昨年の10月24日、Zepp Tokyoにて行われたフルアルバム『潜潜話』リリース前に敢行されたプレツアーでの一幕だった。彼女はかつて“蹴っ飛ばした毛布”の歌唱前、2時間のライブ中最も長い尺でもって、集まったファンたちに極めて印象深い言葉を残していた。


「新しいアルバム(潜潜話)は、自分が中学生時代に悩んでいたことが軸になってて。昼休みとか休み時間とか、ひとりでいるじゃないですか。みんな、結局。私も友達がいなかったわけじゃないんですよ?でも、距離感を測ってる自分がいて。なるべく人に好かれたい、嫌われたくないっていうのがあって」


「その時から人に言われて気付いたんですけど、無意識に鼻歌を歌う癖が付いてたんです。本当に無意識で気付いてなかったんですけど、その話の『間』が怖くて。で、ある時それをつつかれて。友達に凄い耳障りな思いをさせてしまったのかと、悩んだりもして。でも今はこうやって歌ってるから、そうしたことも曲にしてるし。幸せだなって感じていて。弱い部分を歌で正当化して逃げてるだけかもしれないけど……。(“蹴っ飛ばした毛布”は)そんな不安を紛らわすために作った曲です」

 


ずっと真夜中でいいのに。『蹴っ飛ばした毛布』MV


《ずっと解決が 答えじゃないことが 苦しいの わかってるけど/無口な君真似ても 今は緩い安心が不安なんだよ》

《誰に話せばいい これからのことばかり大切にはできないから/すぐ比べ合う 周りがどうとかじゃなくて 素直になりたいんだ》


現状ずとまよには、記録に残る形として記された媒体は一切存在しない。コメント動画もインタビューもタブー。それどころかACAねの素顔やそもそもずとまよはACAねのソロなのかグループなのかという根底に関わる事柄についても一切の公表を拒み、徹底して『楽曲』という武器のみを用いてここまで登り詰めてきた。


だからこそ過去のふたつの依頼記事(以下参照)にも記したように、ずとまよの楽曲にはACAねの伝えんとすることが如実に現れていることは明白で、その中でも取り分け“蹴っ飛ばした毛布”における歌詞にはACAねの本心が極めてストレートに記されている。そもそもこうした事柄は考えること自体無粋だろうが、代表曲をほぼほぼ廃し、更には同じくピアノ主体の“”こんなこと騒動“でもグラスとラムレーズン”でも“Dear Mr「F」”でもなく、何故この楽曲が演奏曲は僅か4曲、時間は30分弱という環境下でセットリスト入りを果たしたのか、その理由については勝手ながら、様々に思考を巡らせてしまった次第だ。

 

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その後は自在に緩急をコントロールしつつ、ライブにおいてもACAねのボーカルとピアノのみで進行していたこの日に相応しい“優しくLAST SMILE”で清らかな歌声を響かせると、最後は「良かったら最後お風呂場とかで一緒に歌ってください」との一言から、これを聴かずには終わることの出来ないずとまよ屈指の代表曲“秒針を噛む”をドロップ。

 


ずっと真夜中でいいのに。『秒針を噛む』MV


原曲ではギターの主張も強かった“秒針を噛む”だが、この日ばかりはピアノオンリーのアレンジで再構築。時計の針を刻むアニメーション映像が流れる中、先程披露された“優しくLAST SMILE”とは打って変わってソウルフルな歌唱に徹し、完全燃焼を図るACAね。終盤では《このまま奪って 隠して 忘れたい》とのコメントが踊るライブさながらの一幕もありつつ、ライブは大団円で幕を閉じた。


瞬間映像は切り替わり、ACAねが感情の赴くままに謎のぬいぐるみを布団上でダンスさせる映像でもって、5月14日に公開となる新曲“お勉強しといてよ”と、8月5日にリリース予定の自身3枚目となるミニアルバム『朗らかな皮膚とて不服』の報告が成され、そして本邦初公開の特報として10月30日に公開となる映画『さんかく窓の外側は夜』の主題歌決定と、その楽曲のタイトルが“暗く黒く”であることが発表され、この日のお風呂場ライブ『定期連絡の業務』の業務は全て終了したのだった。


もはや言うまでもないが、今の日本におけるネット発のアーティストとしてはずとまよは間違いなく、トップを走る存在である。思えばずとまよの存在が認知される契機となったのは突如YouTube上に投稿された“秒針を噛む”のバズであり、それからずとまよを一躍シーンの中心に押し上げたのは昨年発売のフルアルバム『潜潜話』だった。そして8月にリリースされるミニアルバム『朗らかな皮膚とて不服』はおそらく、ブームの渦中に漂うずとまよの人気を不動のものとする渾身の一作となるだろう。


そう。今回の『定期連絡の業務』は毒にも薬にもならないような単なる事務的な連絡ではなく、確固たる宣戦布告であったということを、我々は近い将来必ずや思い知ることになる。そう。ずとまよの躍進はまだまだ続くのだ。


【ずっと真夜中でいいのに。@お風呂場ライブ『定期連絡の業務』 セットリスト】
勘冴えて悔しいわ
蹴っ飛ばした毛布
優しくLAST SMILE
秒針を噛む