こんばんは、キタガワです。
PV。いわゆるプロモーションビデオのことだが、現在はPVありきで楽曲が広がることが増えてきている印象がある。例えばDA PUMPの『U.S.A.』や星野源の『恋』といったPVは、そのダンスの振り付けを真似するべく何度もクリックさて、結果何千回もの再生数を記録した。今やPVの存在は、楽曲をただ聴くよりも大きいものなのだ。
だからこそPVには多額の費用をかける。場所を選び、天候を考え、果てにはアーティストの躍動感や表情を映し出すため、カメラワークにとことんこだわる。
さて、そんな中で今回紹介したいのは、『定点カメラで撮影したPV』である。
前述したように、PV撮影においては躍動感が最重要。よって1台の固定カメラで撮影するというのは、PVの常識から逸脱した行為であるとも言える。
しかしながら探せば何でも出てくるもの。そこで今回は『1台のカメラで、全くその場から動かしていないもの』のみを集めてみた。以下に列挙していく。
- 絶対的/ヒトリエ
- A-PUNK/VAMPIRE WEEKEND
- goodbye happiness/宇多田ヒカル
- ミュージック/サカナクション
- 無線LANばり便利/ヤバイTシャツ屋さん
- 冬枯れ花火/あぶらだこ
- 箒川を渡って/踊ろうマチルダ
絶対的/ヒトリエ
元ボーカロイドクリエイター、wowakaがソングライティングを務めるバンド。
タッピング奏法を多用した卓越したギタースキルと、つんのめるように進む疾走感あるサウンドは、まさに『絶対的』と語るに相応しい。
ワンカメラなのはもちろんのこと、演出やカット割りさえも徹底して排除した姿勢には、ある種の男らしさも伺える。wowakaは動画コメント内で「俺は俺をやるしかないという証明である」と述べている。なぜwowakaがボーカロイドから生身のバンドサウンドに転向したのか、これを見ればその理由が垣間見えるような気もする。
PV内では、首がもげそうなほどにベースとギターが暴れまわっているのが面白い。終盤ではベースのストラップが取れるハプニングもあるが、「そんなの知らねえ」とばかりに荒ぶった演奏を続けるヒトリエ、天晴れ。
ヒトリエ 『絶対的』 / HITORIE – absolute
A-PUNK/VAMPIRE WEEKEND
海外のロックバンド、ヴァンパイア・ウィークエンド。彼らの代表曲である『A-PUNK』は、実は定点カメラで撮影されている。
カメラは固定しながら、その中で目まぐるしくスイッチする様は秀逸。楽器入れ換えや生着替え、果ては天候操作。僅か2分少々ではあるが、その分多くの要素を詰め込んだPVに仕上がっている。
中でもメンバーがドラムを叩く音と徹底的に合わせようとするシーンは、そのシュールさから笑いが込み上げてしまう。
昨年はフジロックのヘッドライナーを務め、会場を沸かせてくれた彼ら。もちろんこの曲では一際大きい歓声が上がり、途中の「エッ!エッ!エッ!」と叫ぶ場面では、観客も一体となって盛り上がっていたのが印象的だった。今年の来日にも期待したいところ。
goodbye happiness/宇多田ヒカル
ライブ定番曲であり、同時に初めて宇多田自身が監督を担ったPVとしても知られている。
PV内では『travelling』や『ぼくはくま』といった、過去の代表作のパロディ要素が多分に含まれており、いわばファン必見のPVであるとも言えるだろう。
一見すると、まずはYouTuberの配信映像の如く、定点カメラで収められたリアルな姿に目を奪われてしまう。しかし時間が経過するにつれて大掛かりな仕掛けも施され、結果的には宇多田ならではの世界観を構築している印象。
これを見たら、きっとあなたの中で宇多田ヒカルの好感度は爆上がりすることだろう。クールかつ可愛らしい宇多田の姿を、ぜひ堪能してほしい。
ミュージック/サカナクション
紅白歌合戦出演時にも演奏した楽曲『ミュージック』。昨今のライブではMacを使った最先端の演奏を行っているのだが、このPVでは別。
山口(Vo.Gt)はコーヒーを飲んだりPCを弄ったりと、まるで普段の素の彼を見ているよう。しかしその左右ではミステリアスな映像が繰り広げられているわけで、ふたつの世界の対比が面白い。
楽曲の展開に合わせて紙吹雪が舞ったり、腕が何本も生えてきたりするため、片時も目が離せない。定点カメラでここまで魅せられるのは、やはり映像に拘るサカナクションならでは。
個人的には山口が一貫して暗い世界にいるのは、楽曲自体が『夜』をモチーフにしているからだと推測するのだが、真相は如何に。
サカナクション - ミュージック(MUSIC VIDEO) -BEST ALBUM「魚図鑑」(3/28release)-
無線LANばり便利/ヤバイTシャツ屋さん
『寝ているメンバーを叩き起こしてPVを撮る』という時点で優勝。今までもハリウッドに降り立ったり、プロポーズの場でおイタをしたりしていたのだが、そんなPV製作は今回も健在。楽曲にしろPVにしろ、独自の目線で描くヤバTワールドはさすがの一言。
完全に寝起きの状態で演奏するのだが、企画の趣旨を理解し始めたメンバーが我に返り、次第に正確なリズムを刻むのが良い。そして最後には自宅のWi-Fiパスワードを公開するなど、オチもしっかり配置。既存のPVの概念を破壊する、彼らにしかできない流れに賛辞を送りたい。
よく聞くとコールの部分も「ハイ!ハイ!」ではなく「ワイ!ファイ!」になっていたり、最後にはアルバムの次曲をうっかり流してしまったり。やたらと芸が細かい。真面目な中にもおふざけのエッセンスを散りばめた、何度も観て布教したいPVのひとつ。
ヤバイTシャツ屋さん - 「無線LANばり便利」Music Video
冬枯れ花火/あぶらだこ
日本が誇るサイケデリックバンド、あぶらだこ。彼らの数十年間の活動でごく僅かとされるPV。そのひとつがこれだ。
以前サイケデリックバンドの紹介をしたときも書いたが、楽曲内に幾度も繰り出される変拍子の連続に、頭がくらくらしてしまう。加えて、ライブではこのリズムを完璧に再現するというのだから驚きだ。
画面を睨み付けるボーカル長谷川と、その背後で鬼気迫る演奏を続ける他メンバーとの差に、笑いが込み上げてしまう。なぜこういった構成にしたのかは謎だが、何にしろ唯一無二の世界観である。
しかし何度観てもわからないのは、彼らがこのスタンスで音楽を作って大ブレイクしたこと。今の世の中では絶対にウケないし。やはり当時(約30年前)は異常な時代だったのだろうなと思う。
箒川を渡って/踊ろうマチルダ
シンガーソングライター、踊ろうマチルダ。先日ツイッターにて活動休止を匂わせる発言をしていたため、今後どうなるかはわからないのだが、とにかく。
彼の特徴的は、独特の歌声。しゃがれた歌声は高らかに響き渡り、ビリビリと鼓膜を震わせる魅力がある。実際にライブを拝見したことがあるのだが、ライブではその歌声と共に、PVでも使われているアコーディオンの他、ビンテージピアノ風の見慣れない楽器などを持ち替えて演奏していた。
このPVがやけに古ぼけているのは『箒川を渡って』が主題歌に起用された、とある戦争映画がモチーフになっているためと推測する。まるで数十年前に遡ったようなざらついた映像は、現代のPVにはないものだ。
さて、いかがだっただろうか。
自分の脳内の音楽記憶の中から探したところ、定点カメラのPVはあるにはある。だか途中でどうしても動いてしまったり、別の映像を挟んだりと、終始一貫して定点カメラを使った映像はほとんどなかった。
ジャンルも形態もバラバラではあるが、以上7つが今回の結果と相成った。
今後も様々なPVの世界を紹介していく所存なので、また機会があれば紹介したいと思っているので、その際はぜひ。
それでは。