こんばんは、キタガワです。
孤高の天才SSWことエド・シーランについて我々が知る情報は、世界各国を見てもかなり多い部類に入ることだろう。16歳から音楽をプレイし始めた。どんな巨大な会場でもギター1本で立つスタンドアローンぶり。タトゥー愛好家。シングルの売れ行き1億枚。ファン思いの性格……。たとえ彼についてほとんど知らない人であっても、代表曲“Shape of You”のイントロ程は最低限聴いたことがあるはずだ。
しかしながらエドは興行収益7億3670万ドル(日本円でおよそ800億円)・総動員数815万684人という約2年半の長期に渡った前代未聞のツアーが終わると、すっかり表舞台から姿を消した。ではその間彼が何を行っていたのかと言えば、多数の著名なアーティストとの共作活動であり、アン・マリー“2002”、BTS“Permission to Dance”、ONE OK ROCK“Renegades”……。ジャンルレスに様々なアーティストとコラボレーションを図る様はおよそ今までのエドのイメージとは対極に位置するものでありながら、結果全てが大ブレイク。なおこうした試みについては「ソロ以外の活動をしたい」ではなく「志の高い人たちと曲を作ることで更に成長したい」との思いに基づいてのことだったのだが、特にここ数年の彼はもはや大物アーティストを後押しするプロデューサーのような印象が強く、合間に『No.6 Collaborations Project』なるまさかのコラボアルバムをリリースしたことからも、エドの次回作については当分先のことだろうと誰もが思っていた。
【和訳】Ed Sheeran「Bad Habits」【公式】 - YouTube
そうした現状を踏まえて、最新アルバム『=(イコールズ)』である。今作は約4年ぶりとなる4枚目のオリジナルアルバムで、2011年『+(プラス)』、2014年『×(マルティプライ)』、2017年『÷(ディバイド)』ときて「絶対次はマイナスだろうな」とする大方の予想を裏切ってのタイトルでも話題を呼んだ。そして何よりも驚きなのが今作にはコラボ曲が1曲も収録されていない点で、この数年間のシンガーソングライター・エドの現在地をはっきりと観測する手段としても位置していたのである。
大前提として、エドは自分の身の回りで起きた出来事しか歌にしない。今作にもそれは顕著に現れているのは当然として、内容はこれまでの楽曲と比較しても良い意味で一貫性がないことが大きな特徴となっている。子どもが生まれたことで一家の主としての決意を描いた“Sandman”と“Leave Your Life”、明らかな時の人となった現状を俯瞰する“Tides”をはじめ、彼自身「個人的な作品だし、自分が大人になるまでの成長の記録だと思っている」と今作について語っていたように、ポジティブもネガティブも引っ括めてその時にしか生まれなかった楽曲を敷き詰めたのが『=』なのだ。
【和訳】Ed Sheeran「Visiting Hours」(パフォーマンス・ビデオ)【公式】 - YouTube
中でもアルバムで重要な存在を担っているのは2曲。それはエドの師匠であり友人である人物が亡くなった報告を受け急遽制作に着手した“Visiting Hours”と、アッパーなサウンドで牽引するリード曲“Bad Habits”。サウンド的にも内容的にも完全に対極を行くこれらの楽曲を「今だから出来た」とするのがエドの主張だが、長期的に見手これらが今後何十年とライブで歌われ続けることも考えると、ある意味ではエドがいつでもこの時の時分を思い出すことが出来る記念碑的な2曲であるとも言える。特にエドは亡くなった人物がまだ存命だった頃から様々なインタビューで言及していたので、ファン的には“Visiting Hours”への感動は強いことだろうし、それはまるで『誰かが聴き続ける限りその人は亡くなってもなお心に残り続ける』という、彼なりのメッセージを体現するかのようで感動的に映る。
これからのエドは長い時間をかけてニューアルバム『=』のプロモーション活動に奔走するスケジューリングが組まれており、数々のテレビ番組出演も既に決定。おそらくはあの小さいリトルマーチンギターで広く歌声をお茶の間(とYouTube)に届けていくことだろうが、その心中に携えた『=』への思いについても同様に語られ、更なるファンを増やし続けるに違いない。……アルバムを出すたびに「昔の方が良かった」と言われる厳しい音楽業界で、徹底して今に照準を合わせるエド・シーラン。前作『÷』で巻き起こった一大ムーブメントのように、日本でふたたび爆発が起こるのはもう目の前まで迫っている。。