こんばんは、キタガワです。
いきなり自分語りをしてしまって恐縮だが、僕はかなりのゲーマーである。……いや、ゲーマー“だった”というのが正しいだろうか。
思えば僕のありふれた日常には、何かしらのゲームの存在があった。幼少期、近所のゲーム屋にポケモンスタジアム2の体験版があったのだが、その体験版をやりたすぎて「お母さんかくれんぼしよー!」と提案し、母が悠長に100数える間にゲーセンに走った通称『ポケスタ失踪事件』を引き起こしてからというもの、僕の人生は大きく歪んでしまったのである。
小学生の頃にはゲーム博士と呼ばれ、中学生の頃の卒業コメントには『将来の夢はファミ通の編集者』と書き、大学在学中にはPS4のトロフィーコレクターと化した。今でも僕を形成しているのは、間違いなくゲームの存在が大きいと、強く信じて疑わない。
そんな僕だが、いつしかゲームは一切プレイしなくなってしまった。「大人になった」と言えば聞こえは良いが、実際は純粋に「興味がなくなった」のだ。歳を取るにつれ、他の趣味というのは出てくるものだ。そうした物事にあれこれと取り組んだその弊害として、僕はゲームのプレイ時間を犠牲にせざるを得なかったのである。
ふと思いついて何度か息抜きにとゲームを購入してみたこともあったが、総じて数分プレイして「めんどくせ」と辞めてしまう始末。嗚呼、心の奥底にぶっ刺さり、時間を忘れて没頭できるゲームがやりたい……。そんな思いを抱きながら、僕は長年ゲームを触ることもなく、当たり障りのない人生を送っていた。そう。あのゲームに出会うまでは。
さて、今回紹介する『AI:ソムニウムファイル』(2019年9月19日発売)は、そんな僕の頭にハンマーで殴られたような衝撃を与えた稀有なゲームである。
ジャンルはアドベンチャー。キャラクターはキュート。それでいて18禁という一体どこの層を狙ったのか皆目分からない作りだが、製作が『ダンガンロンパ』や『ザンキゼロ』、『ウィッチャー』といったカオス作品を多数生み出したゲーム界の異端児、スパイク・チュンソフトということで、妙に納得。
ストーリーはズバリ、一言で『サスペンス』と称して差し支えない。左目をくり貫かれた死体を発見したシーンから、物語は幕を開ける。主人公である伊達は、自身の左目に埋め込まれたAI-Ball(アイボウ)と共に事件の収束を図る、唯一無二の警察官。プレイヤーはこのふたりを操り、一風変わった操作方法を経て真相に迫っていく。
しかし犯人はそんなふたりを嘲笑うかのように、次第にシリアルキラーの様相を呈していく。果たして犯人は誰なのか。残虐非道な犯行の意味するところとは……。以上がざっくりとしたあらすじである。
そもそもの話、アドベンチャーゲームに限らずこの世の全ての創作活動において、最も重要な比重を占めるのはシナリオである。それこそネット上で炎上した『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』や『メタルギアソリッド5』、『龍が如く6』といった作品群に顕著だが、どれだけ素材が良くともシナリオという名の調理方法いかんでは、瞬時にクソゲーになり得る。
その点『AI:ソムニウムファイル』はシナリオが素晴らしい。昨日発売された作品のため僕はまだ9時間程度しかプレイしていない身ではあるものの、矢継ぎ早に繰り出される予想外の展開やギャグ要素、特殊な操作パートにより、既存のゲームにはまずない程の高いレベルの没入感をもたらしてくれる。
そしてやはりというべきか、CERO Zの記載は伊達ではない。おそらくは今までの日本ゲームシーンの歴史ではまずない、それどころか今後も出てくることはないであろうスプラッターシーンがいくつか出てくるのだが、その凄まじさは筆舌に尽くしがたい。中でもモニタ越しに繰り広げられる『某シーン』は「よくOKを出したな」というレベルで、人によってはトラウマになる可能性すらある。
ちなみに今作は、全編通してゲーム実況OKときている。おそらく数日後には『ソムニウムファイル グロシーン』との文言が検索トップに君臨し、さらに数日後にはYouTubeで実際の映像が流され、大いに拡散されることだろう。あの『龍が如く』でも全編録画禁止の措置を取り、クローズドサークル系ホラーゲーである『アンティルドーン』に至っては、グロシーンを全て真っ黒な暗転で隠す(通称・暗転ドーン)といったほど、昨今のゲームはグロに敏感。にも関わらず、ジェイソンもビックリな殺戮を繰り返すこの作品の録画、ゲーム実況、動画保存に「オールオッケー!」の指示を出したスパチュン、はっきり言ってアホである。
なぜかモンハンやペルソナという様々な有名作品が発売されるこの時期にリリースしたためか、なにかと注目度の低い『AI:ソムニウムファイル』。どこを切り取ってもネタバレになるこのゲーム。好き嫌いは分かれるだろうが、ぜひ出来る限り多くの人にプレイしてもらいたい。
個人的には「これを買わずして何を買うんだ?」というレベルで心酔する作品であることは間違いないし、昨今のオープンワールドや取って付けた続編、DLCありきの商法ばかり蔓延るゲーム業界の、土手っ腹に風穴を開ける作品であるとも思っている。
なお、ストーリーはマルチエンディングを搭載している。死因が全く異なっていたり、別のルートでは語られなかった真実が垣間見える仕組みである。眠れない日々はまだまだ続きそうだ。