キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】打首獄門同好会『獄至十五ツアー』@松江Aztic Canova

こんばんは、キタガワです。

 

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6月23日、打首獄門同好会『獄至十五ツアー』の島根公演に参加した。


打首獄門同好会にとってこの日は、日本武道館前の勢力拡大計画として行われた47都道府県ツアー『戦国絵巻』、そしてROTTENGRAFFTYとの対バンとして招かれたライブに次ぐ、通算3回目の島根県ライブとなる。


しかしながら、今までのライブ会場はいずれも出雲市に位置した『出雲アポロ』。その場所は同じ島根県ではあるものの、島根県の中心部からは34キロも離れている。


つまり今回は打首史上初の島根県の県庁所在地・松江市でのライブとなる記念すべき日でもあったのだ。


フロントマンである大澤会長(Vo.Gt)も期待に胸踊らせていたようで、事前にオススメ料理をツイッター上で募集するなど上機嫌。昼食には結果的に3000円超えの高級うなぎ丼を食したようで、準備は万端だ。


この日のチケットは完全ソールドアウト。スタッフからの「もう一歩前へお進みください!」の声が幾度も聞こえるほどに、パンパンの客入りとなった。


盟友GOOD4NOTHINGが存分に温めたフロア。ステージには所狭しと置かれた機材の他、もはや打首のライブではお馴染みとなった大きなスクリーンと小型モニターが鎮座し、期待値をぐんぐん高めていく。


定時になり河本(Dr.Vo)、junko(Ba.Vo)、大澤がオンステージ。「こんばんは、打首獄門同好会です!」との大澤の一言から、観客は大歓声と共に一瞬にして前方に密集。演奏前から一種の蒸し風呂状態となった。


オープナーを飾ったのは最新アルバムでも1曲目に位置していた『こどものねごと』だ。


僅か1分少々の時間にロックのエッセンスをふんだんに盛り込んだ、単純明快な盛り上げソング。打首ならではの7弦ギターと5弦ベースの重厚なサウンドが鼓膜を刺激し、観客の熱量を底上げしていく。


大澤によるこの日限りの「オッケー松江!」の絶叫に対して、観客は一様に「遊ぼうぜ!」のレスポンスを返していく。楽曲の後半では早くもあちらこちらでダイバーが出現し、湯気が立ち込めるカオスな空間に変貌。島根県民と言えばシャイな性格で有名だが、今日この日に関しては話が別。皆日頃のリミッターを解除するかのように踊り狂っていた。


その後は3月6日に発売されたミニアルバム『そろそろ中堅』の楽曲を軸に演奏していくのだが、特筆すべきはスクリーンの映像。CD音源では間接的な笑いとして届いていた箇所が極めて直接的に目に飛び込んでくるのだから噴飯ものである。

 


打首獄門同好会「Shake it up ’n’ go 〜シャキッと!コーンのうた〜」


パ行の最初の文字が連発される『パ』のラストで島根県の会社が製造・販売を手掛ける『パスチャライズ牛乳』が表示されたかと思えば、エースコック株式会社の大人気商品を歌った『YES MAX』では、既視感を覚えるあのロゴが大写しに。続く『Shake it up 'n' go~シャキッと!コーンのうた~』はPVがそのまま投影され、キャラクターのあまりの可愛さに笑みがこぼれてしまう。


ここまで4曲。メンバーも観客も既に汗だくだが、一向に休まる気配はない。「今日がツアーの折り返し地点」と語っていた打首、むしろ火に油を注ぐ勢いでもって限界突破を図る。


続く『島国DNA』、『ニクタベイコウ!』では、海鮮料理と肉料理の数々がドドンと視界に入るドSっぷり。

 


打首獄門同好会「ニクタベイコウ!」


気付けば20時を過ぎ、世間一般的には晩御飯の時間帯である。夕方からモッシュ・ダイブを繰り返してきたライブキッズからすると、この食べ物ソングの流れはさぞかし拷問だったろう。しかしそれは演奏前に「今日の打ち上げは海鮮料理と聞いている!」、「松江は肉も有名らしいじゃないか」と語っていた大澤も同様らしく、空腹をバネにしたがむしゃらなパフォーマンスで会場を沸かせていた。


演奏が終わり、話は大澤の地元である浜松市の話に。


聞けば大澤は浜松市の『やらまいか大使』という観光大使に任命されているそう。そのため県内外で浜松市をPRする立場にあると言い、ここでは『浜松まつり』について話が及ぶ。


『浜松まつり』とは毎年ゴールデンウィークに開催される年中行事のひとつで、子どもの誕生を祝う目的で行われるという。「オイショーオイショー」との掛け声を発しながら凧を揚げたり街を練り歩いたりすると言い、祭りの期間中は市をあげて盛り上がるのだそうだ。


しかし大澤いわくいわゆる『ヤンチャ系』の若者によって、昨今の浜松まつりはその姿を変えつつあるという。かつては街を一列になって練り歩く形であったのが今では大きな輪を作り、中心の旗を軸にグルグル回るという、新しい風を吹き込む形へ変わっているらしい。


当日の様子を動画で流しつつ、大澤は「これってライブのサークルと同じじゃないか?」と一言。「この場で浜松まつりを開催してもよろしいか?」との流れから『HAMAMATSU』へ。


〈そんなわけで紹介するのは 私の地元浜松市〉

〈静岡県の西部に位置する けっこうおっきな街ですよ〉


浜松市の名産品や観光地、オススメスポットのみならず、ゆるキャラやうんちくまでも網羅したまさに『THE・ご当地ソング』とも言うべき歌詞の連続に、会場からは笑いと共に「そうなんだ」という意味合いの「へえ~……」の声が上がる。


かと思えばサビ部分に差し掛かった瞬間には肩車されたひとりの観客を「オイショー!オイショー!」と取り囲みながら叫ぶ特大サークルが出来上がっており、緩急をしっかり付けたパフォーマンスで魅了。大澤も「何度かライブでやったけど、お客さんが肩車するのは今までにないパターンだったね」とご満悦。

 


打首獄門同好会「はたらきたくない」


その後はキラーチューンを連発する磐石のセットリストで進行。「おかしいと思わないか?ゴールデンウィークが終わってから祝日が1度もないなんて」と始まった『はたらきたくない』、「今は冬だ。今は冬だ」と事前に観客を洗脳させた『布団の中から出たくない』、一旦ステージを降りた後、ドでかい被り物を被って再登場した『New Gingeration』……。そのどれもが圧倒的な盛り上がりでもって迎え入れられており、観客は一様に忘我の境に入って楽しんでいた。


次なる『デリシャスティック』は、この日の大きなハイライトとして映った。

 


デリシャスティックPV


『デリシャスティック』の意味とはズバリ『うまい棒』である。まずは袋に大量に入ったうまい棒をリレーし、観客全員に配っていく恒例の時間に突入。その間は物販紹介で場を繋いでいくのだが、終始ボケを織り混ぜつつ笑いに包まれながら進行。


当初はTシャツを画像付きで「普段着にも着やすいやつー」、「かわいいやつー」と説明付きで紹介していたのだが、終盤のキーホルダーや缶バッジといった小物類に関しては「他にはこんなのがありまーす」と超速でスクロールして終了するというグダグダっぷり。そのスピード感は大澤に「こんなに適当に紹介したのは初めて」と言わしめるほど。


うまい棒が全員に行き渡ったところでようやく『デリシャスティック』に突入。コーンポタージュ味やサラダ味といったポピュラーな味はもちろんのこと、レッドロブスター味やカニシューマイ味のような現在では入手困難な味も歌詞に入れ込む作りは圧巻。


僕自身「いろんな味があるんだなあ」と感心しながら観ていたのだが、ふと配られた手元のうまい棒を見ると、そこには歌詞には入っていない『なっとう味』と書かれていた。……うまい棒の味は僕らが思っている以上に多彩らしい。


後半に差し掛かり、ここからは怒濤のハイカロリー楽曲が続く。「食べ物の曲ばかりやってきましたが、絶対歯磨きしましょうね!」と雪崩れ込んだ『歯痛くて』、おじいちゃんおばあちゃんの嬉しくも悲しい心中を代弁した『まごパワー』、超有名楽曲のカバー『おどるポンポコリン』と、出し惜しみ無しのフルスロットルで駆け抜けていく。


本編ラストは『日本の米は世界一』でシメ。

 


打首獄門同好会「日本の米は世界一」


前半に披露された食べ物ソング2曲はいずれも海鮮料理と肉料理と、ある種のジャンル分けがされていたのが特徴的だった。しかしこの楽曲で描かれるテーマは更に幅広い『米』である。


スクリーンには刺身定食や焼肉定食、更にはカツオのたたき定食やステーキ定食と、陸海の枠を超えた料理が渾然一体と表示される。その光景は観ているだけでも涎が出そうになる。


そんな歌詞の数々がキャッチーなサウンドと共に押し寄せてくるのだからたまらない。ダイバーとモッシュが続出する、この日一番のカオス状態と化した。


「最初から!最初から!」という鳴り止まないアンコールの声に答えて再登場した打首メンバー。正真正銘最後の楽曲として披露されたのは『フローネル』だ。

 


打首獄門同好会「フローネル」


冒頭で「風呂入って速攻寝る計画」とある通り、この楽曲では『風呂に肩まで浸かった瞬間』と『温かい布団にもう一度潜った瞬間』が何より幸せなのだということが歌われている。


さて、この楽曲をライブで演奏される際は暗黙の了解として、サビ前の「幸せって……?」の問いに対して大澤が完全なるアドリブで対応する場面が2箇所、終盤でjunkoが『私○○ですけどね!』と語るアドリブパートが1箇所存在する。


もちろんアドリブなのでグダグダになる場合もあればカッチリ填まる場合もあるわけで、逆に言えばこの3箇所こそが『フローネル』においての最大の見所であり、重要なポイントなのだ。


それを踏まえて今回の『フローネル』である。まず風呂場に向かう前の準備段階として大澤が選んだのは「幸せなことって言えば、今日のライブはソールドアウトしたじゃないか!」との一言。そしてその喜びを携えてお風呂に向かう流れ。1箇所目、まずはクリアである。


問題は難易度が上昇する2箇所目。この箇所では『出勤時間が近付いてナイーブになっていたが、“あるうっかりミス”で実は休日だったことに気付き、また二度寝する』という流れを作らねばならない。


まずナイーブな事柄については、島根県ではお馴染みの『秘密結社鷹の爪』を引き合いに出し『世界征服を謳うブラック企業で務めている社員』を演じることでクリア。そして間髪入れず「そういえば打首のライブのために有給を申請していた!」と完璧な流れでフィニッシュ。


junkoのアドリブパートに関しては、直前に出演したGOOD4NOTHINGのMAKKIN(Ba.Vo)がMCで「最近おねしょをした」と話していたことを踏まえ、「私おねしょはしない派ですけどね!」とイジってクリア(直後にMAKKINがマイクを奪い取り「でも一回くらいあるでしょ?」と語る一幕もあったが)。


汗と笑いに包まれたまま突っ走り、最後は「お風呂最高!」の大合唱で幕を閉じた打首。去り際に「またライブハウスで、あるいはスタジオで会いましょう」と叫んだ大澤の顔は晴れやかだった。


個人的に打首のライブ参加は3回目を数えるのだが、やはり抜群に面白かった。


今回はミニアルバム『そろそろ中堅』のリリースツアーということもあり、セットリストの大半はこのアルバムの楽曲だった。


しかしながら彼らが脚光を浴びたのは『日本の米は世界一』や『布団の中から出たくない』といったユニークな楽曲群がSNSで話題となったのがきっかけ。そのため『そろそろ中堅』を軸に展開する今回に関しては、元々の楽曲を知らない状態でライブに臨んだ観客も一定数いたはずだ。


にも関わらずライブ終了後の観客は皆、満面の笑みを浮かべていたのが印象的だった。全身びっしょりの汗にまみれ、口々に感想を言い合い、物販には長蛇の列ができている……。その光景は『打首のライブは最高だった』という事実を何よりも雄弁に物語っていた。


鬼気迫る演奏とエンターテインメントを携えたライブパフォーマンスは、ニューアルバム『そろそろ中堅』に収録された楽曲の追加によって、更に強まった。今年で結成15周年を迎えるが、今の打首は敵なしだ。この先もきっと、ファンが予想もしない奇跡を次々と起こしてくれることだろう。


一頻り思いを巡らせながら、すっかり暗くなった道を歩いて帰る。帰り際、口を衝いて出たのは「良かったなあ……」という心からの一言だった。ふとポケットに手を入れると、『デリシャスティック』で配られたうまい棒があった。そして納豆の風味が鼻を刺激するそれを食べながら、僕は再び余韻に浸るのであった。

 

【打首獄門同好会@島根 セットリスト】
こどものねごと

YES MAX
Shake it up 'n' go~シャキッと!コーンのうた~
島国DNA
ニクタベイコウ!
HAMAMATSU
はたらきたくない
布団の中から出たくない
New Gingeration
デリシャスティック
歯痛くて
まごパワー
おどるポンポコリン
日本の米は世界一

[アンコール]
フローネル

 

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