キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

会社会

「あ、そういえばキタガワくん。僕ね……」

事務作業に追われていた某日の午前、ふと口を開いたのは直属の上司だった。今思えば『普段寡黙を貫く上司が身の上話をしようとしている』という時点で身構えるべきだったのだろうが、その時の僕は何の気無しに対応してしまった。なもんで、受けるダメージも想定より大きくなる結果になった訳である。

上司が語った内容は至ってシンプル。それは「僕は会社を辞めることにしたよ」とする退職報告だった。聞けば新たな就職先ももう決まっていて、それどころか退職の具体的な日程も、引き継ぎ如何に関しても既に決まっているらしい。……今後の予定を朗々話す上司を見つつ、僕は何となく察した。この報告は職場の何人かにしているのだと。様々な話し合いを重ねた終着点であることを。そして、上司の退職はもはや確定事項であると。

就職当初の僕と上司は、お世辞にも仲が良いとは言えない関係性だった。電卓の向きや書類配置に至るまで、どんなことでもキチッと済ませたい上司と、重要部以外はルーズにこなす僕はまるで磁石が離れるように、近付こうとするたびに反発し合うのは必然だった。もちろん一番怒られたのもその上司であり、「ExcelのコピペはCtrlとCの方が早いじゃん」「何で◯◯補充しとかないの?」などと、僕は細かな部分を目ざとく指摘されて大目玉を喰らう日々。対して怒られた側の僕はと言えば、重要なこと以外は基本的に「はいぃ!すいませんしたぁ!」と一見反省しているように見せつつ、心の中では舌を出していることも少なくなかった。

ただ上司の言うことに、間違っている部分はひとつもなかった。先述の電卓の向きにしても、お客様から見たらどう見えるかを考えての発言だったし、Excelコピペも同じ作業を1日数百回するようになって初めて、右クリックでコピペすることの非効率さを問われた気がした。

反面、仕事が暇になって雑談が始まると、僕と上司がとてつもなくウマが合うことが分かった。音楽の趣味。ゲーム。休日の過ごし方。僕が知っていることは上司も知っていて、逆も然り。それでもって話しているうちに仕事が増えて、その僕の仕事ぶりをまた上司が咎め、少し暇になったらワイワイ喋る……。要は人一倍『仕事は真面目に。それ以外は力を抜く』を徹底している人であり、そんな上司をいつしか僕は、心から尊敬するようになっていた。

頭が回る上司のことだ。この退職の決断は揺るがないだろうし、きっと新たな職場でも役職持ちの地位にすぐ収まるだろう。……方や我々の職場としても『誰かがずっと側にいる世界線はない』との事実を見につまされた、大きなタイミングであるようにも思う。ひとりひとりの集合体が職場なのであれば、各自に悩める部分があれば崩壊するのは自明。いつまでも今が続くのは、自分がひとりきりの時だけなのだ。

BRIAN SHINSEKAI - 泣かない人(Official Music Video) - YouTube