キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】桑田佳祐『LIVE TOUR 2022「年末も、お互い元気で頑張りましょう!!」』@横浜アリーナ

こんばんは、キタガワです。

 

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まさか毎年島根県の片田舎でコタツに嵌って紅白歌合戦を観ていた自分が、桑田佳祐のライブで年を越すとは思っても見なかっただろう。……自身最大規模となる桑田佳祐の全国ツアー・『LIVE TOUR 2022「年末も、お互い元気で頑張りましょう!!」』。元々は12月のある時期まで行われる予定だったこのツアー。もちろんこの時点では『毎年恒例の桑田佳祐のライブ』としての意味合いが強かったように思えるが、12月31日の追加公演が発表されたことで、ファンは大いに色めきだった。

結果として、当然ながらこのチケットの倍率はとてつもなく高いものになった。会場に行く道すがらにも「チケット1枚譲ってください」と書かれたプラカードを掲げた人を何人も見たけれど、その数もこれまでのライブより、どこか多かったような気もするし。ただライブ当日は厳重な本人確認が実施されていたことからも、正規のルート以外での参加はほぼ不可能。総じてこの日集まった1万7000人のファンは、奇跡的な幸運に恵まれたと断言して良いと思われる。

開演は当日に事前報告があった通り、21:30→22:00に変更。一瞬「このライブが紅白で生中継されるかも!?」と頭を過ったがそんなことはなかったので、おそらく諸々の時間調整も込みの措置だろう。到着すると、まずは電子チケットと身分証明書の二段構えで本人確認。それから中に入っていくと、腕に着ける『リストバンド型5倍ライト(BUMP OF CHICKENで言うところのPIXMOB)』が渡されたり、協賛するUNIQLOのご厚意でマスクが配られたり……。それらに満面の笑みを浮かべるファンたちの姿に、それだけで感動してしまう。

「えーアリーナ席ってどこー?」などと独りごちながら自分の席に着く。僕の席はアリーナのかなり上の方だったこともあり客席が見渡せる環境だったのだが、めちゃくちゃ人がいてビックリ。更には老若男女問わずといった様子で、本当に愛されているんだなあと実感した次第だ。山下達郎“クリスマス・イブ”や小田和正“たしかなこと”といった楽曲が流れる中、定刻の22時になると前説の女性が登場。改めて写真撮影禁止を含めたアナウンスを発していく。一応今回は過度な大声は控えるようお達しがあったが、それについて触れる際に「皆様歌いたい気持ちは分かりますが、その思いは年明けのカラオケで発散しましょう!」と笑いに昇華していたのは素晴らしいなと。そして会場中の手拍子がどんどん大きくなった頃、ついに会場が暗転。最高の時間が始まったのだった。

緩やかなジャズミュージックと共にステージの一部が照らされると、そこに鎮座していたのは『若い広Bar』と名付けられたバーカウンター。マスターと若い女性がグラスを磨き、サラリーマン風の男がワインを傾けているクールな場面。なおその中心には照明を落とした状態で見えづらいが、巨大な扉が設置されている。物語が進むと『サラリーマンがお代わりをオーダー→女性店員が転んで服にお酒をぶっかける→慌ててそれを拭く』という昭和チック(?)な展開にシフト。もはや収集がつかなくなった頃、中心の扉にバチッと照明がハマった。扉から「やってる?」と入ってきたのは、もちろん我らが桑田佳祐である。

桑田佳祐 - 若い広場(Full ver. + AL『がらくた』トレーラー) - YouTube

オープナーは2007年にリリースされた“こんな僕で良かったら”。これまで桑田に関してはずっとCD音源として、または本人を観るとすればテレビという状況だったのだけれど、観てきた歌う桑田の姿とあの歌声がグワッと迫ってくるたびに「本当に桑田さんが目の前にいる……」という、想像を越えた衝撃が襲ってくる感覚があった。これ現実?みたいな、夢のような時間というか。ただ本人的にはさすが余裕綽々で《女ならその胸を押し当ててパパイヤ》では淫靡な動きをしたり、頭を押さえながら「飲み過ぎちゃった」とフラついてみたりと、一挙手一投足が面白い。ラストはジャーンと終わった瞬間に手元のウイスキーグラスを指さし「これ牛乳に変えてもらえる?」と一言。かくして桑田は1曲目にして、完全にアリーナを支配したのだ。

この日のセットリストは、桑田の35年間の歩みを35曲に凝縮した2枚組のベストアルバム『いつも何処かで』を中心に構成。つまりヒット曲満載の記念的代物になることは予め確約されていた訳だが、それでも。これまで聴き続けた大好きな楽曲たちが次から次へと展開されていく3時間を、至福と言わずに何と言おうか。また全ての楽曲は左右のモニターに歌詞が表示され、背後の大型には桑田の他にステンドグラス、雪、夕日といったVJを使用した映像が常に流れていたのも特筆すべき点。サポートのバンドメンバーは管楽器も含めて総勢11名で、ダンスチームは20名超えの大所帯なのも大型ライブらしく、その圧巻なステージングは見どころのひとつでもある。

桑田佳祐 – 炎の聖歌隊 [Choir(クワイア)](Full ver.) - YouTube

前半部分のハイライトは“炎の聖歌隊 [Choir(クワイア)]”。一気に熱を帯びた演奏が始まった瞬間、ファンが着けていたリングが光りだしたことで直感的にひとり、またひとりと立ち上がるフロアである。一面の光の海に感動していると、放たれる歌詞にハッとする。

《開演お待ちどうさん ご来場大変ご足労さん/毎日お疲れさん ようこそここへ》

そこで思い返さざるを得ないのは、今年の生活のこと。自粛を続けて、毎日行きたくもない仕事に行って。無理に笑って。辛いこともたくさんあったけれど、2022年の締め括りとしてこの日を桑田が作ってくれた……。そのことに改めて感動した。そしてそんな我々の思いに呼応するように、ラスサビでは早くもクラッカーの特攻装置を発射!眼前では桑田の歌声。頭上には金銀のテープがヒラヒラ。しかもテープを取れなかった後ろの人には、ファン同士が優しく自分の分も渡してあげたりもしている。こんなに素晴らしい日があっていいのだろうか。

楽曲が終わると、ここでMCタイム。桑田はまずこの日集まってくれたファンと年末をこのライブで終えることができることを感謝し、大きな拍手を浴びる。「桑田さーん!」といった声もあちこちから聞かれ、とても良い雰囲気である。かと思えば赤ちゃん言葉を使いつつ「私今年で66歳なんですけども……」と自虐したり「申し遅れました。私、原由子の夫でございます」と言ったり。果ては「波乗りの歌(“波乗りジョニー”)とか今日はやりませんから。私のライブは盛り上がらないことで有名ってなもんで」などとおちょくったりとやりたい放題。この朗らかなキャラクター性も、やはりテレビでこれまで観てきた桑田そのもので嬉しい。

ここからも同じく『いつも何処かで』から、収録曲を連発。雪の降りしきる映像が投影された“MERRY X'MAS IN SUMMER”、サビの《ダンディー》の部分で腕が振られた“真夜中のダンディー”とそのままの盛り上がりで進行。もちろんファンそれぞれ『自分が好きな曲』というのは異なるはずだけれど、個人的に嬉しかったのは“明日晴れるかな”だった。

桑田佳祐 – 明日晴れるかな(Full ver.) - YouTube

少し話は逸れるけれど、僕が桑田佳祐の音楽と出会ったきっかけは母がカラオケで歌っていた、サザンオールスターズの“TSUNAMI”。そこから「あれって誰の曲?」となってサザンの大ファンに。そして僕が中学の時、ガッチガチに緊張しながら人前で初めてキーボードで演奏したのが“明日晴れるかな”だったのだ。ちなみに母は近頃癌になったりといろいろなことが重なったので、チケット放棄の形で今回のライブ参戦は叶わなかったのだけど……。とにかくそうした思い出がブワッと押し寄せてきたのが、“明日晴れるかな”が鳴らされた瞬間だった。気付けば涙で前が見えなくなっていて、もう何というか、「生きててよかったなあ」と思った。そしてこの日の僕がそうだったように、多分集まった人それぞれに、1曲1曲にいろんな思い出があるはずなのだ。それこそこの日集まっている僕より若い子たちは、間違いなく親さんの影響があるだろうし。そうしたことも考えて、またウルッときたりした。

桑田佳祐 – ダーリン(Full ver.) - YouTube

以降はポップテイスト全開な“ダーリン”、アダルティーなギターサウンドがクセになる“NUMBER WONDA GIRL 〜恋するワンダ〜”と続いていく。桑田が「悲しい物語です」と語った直後に寸劇で爆笑を生み出した“赤い靴”→“SMILE〜晴れ渡る空のように〜”の流れも秀逸だ。盛り上がりを意図的に一旦ブレイクさせたアンプラグドシーンでは、桑田がアコースティックギターに持ち替えて“鏡”、“BAN BAN BAN”、“Blue〜こんな夜には踊れない”をプレイ。また一味異なる魅力を放っていたのは、ファン垂涎ものだったろう。

 

この時点でライブから1時間近く経過していて、思えばライブの真裏で放送している紅白歌合戦の終わりももうすぐ。桑田はこの日VTR出演として紅白に出ることが確定していたのだけれど、もしかしたらその情報はフェイクで「ここで生中継があるのでは?」などと考えたりもしていた人も多かったはず。ちなみに桑田もそれについては考えたそうだが、生放送&ライブ音との擦り合わせの都合上実現が難しかったらしく、今回はナシ。ただ割と本気で紅白生中継があると予想していた人は一定数おり、会場はザワザワ。すぐさまその光景を観て「えっ?やると思った?やると思った?」とイジる桑田、ドSである。

桑田佳祐 – Soulコブラツイスト~魂の悶絶(Full ver.) - YouTube

そして先日、悲しい訃報が流れたアントニオ猪木の大ファンである桑田による“Soulコブラツイスト〜魂の悶絶”でパイロの炎に包まれた後、桑田は「年が明けるぞー!」と大声で叫んだ。そこから雪崩れ込んだのは遂に来たキラーチューン“悲しい気持ち(Just a man in love)”!ここで伝えておきたいことは2点。まずひとつは、この時点で誰もが楽しみすぎるあまり、時間感覚が消失していたこと。そしてもうひとつはこちらも楽しみすぎて、スマホを見ない(現時刻を把握できない)状況に陥っていたことだ。だからこそ我々は桑田の「年が明けるぞー!」発言をあろうことか、あまり深く考えなかったのだ。

桑田佳祐 – 悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE) (Full ver.) - YouTube

そんな状態で始まった“悲しい気持ち(Just a man in love)”。歌詞で言えば《夢であえたら あの日に帰ろう》あたりの時間、しばらくは純粋に楽しんでいた我々の目に、予想外の文字がモニターに飛び込んでくる。そこには『年越しまであと3分』と書かれており、なんとこの時点で時刻が23時57分になっていたことに気付く。その瞬間から「もう年が終わる!」という興奮と、ハッピーな楽曲の雰囲気が混在し、全員のテンションがおかしくなってくる。そこからカウントダウンは続き『年越しまであと1分』と表示されたあたりで、楽曲は終了。曲は終わったが、ワクワク感は抜けない会場だ。

興奮冷めやらぬ中、モニターには56、55、54……と秒単位でのカウントダウンが映し出され、桑田は急いでバンドメンバーと準備。どうやらカウントダウンに合わせてドラムとリズムを取る形だったようで、そこからはファン全員で秒数をカウントしていく。そしてカウントがゼロになった瞬間、大量のクラッカーと、頭上からはめちゃくちゃな数の風船が降ってくる!それらを嬉々として手に入れるファンたちの構図が美しい。モニターには『HAPPY NEW YEAR 2023!』と映し出され、「本当に年が明けたんだなあ」と実感する。「2023年!この年を迎えることが出来たのも皆様のおかげでございます。本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます」と喜びを表した桑田、嬉しそう。

桑田佳祐 – ヨシ子さん(Full ver.) - YouTube

興奮そのままに婬靡なサイケ曲“ヨシ子さん”を終えると、一旦のブレイク。先程からどうも様子がおかしい桑田は急にオネエ言葉になりつつ「アンタたち、私が誰だか知ってる?美空ひばりよ」と語る。どうやら昭和の歌姫・美空ひばりが憑依した状態(というテイ)らしい。そんな美空ひばり(桑田)は「私はマンネリが大嫌いなの。水着のお姉ちゃん呼じゃったりとか、波乗りの歌を歌う人っているじゃない? ああいうの大嫌いなの」と、桑田にディスを飛ばしつつ“真赤な太陽”を歌唱。もうここまでくるとモノマネというか、数年前までやっていた『ひとり紅白歌合戦』を彷彿とさせる流れなのだがおかまいなしである。

桑田佳祐 – 波乗りジョニー(Full ver.) - YouTube

楽曲を歌い終えると「それじゃ私帰るわね……」と袖に引っ込もうとする美空ひばり嬢。が、そこに大勢の水着美女が到来して彼女に群がり始める。大挙してステージに押し寄せた“水着のお姉ちゃん”が桑田のシャツに貼り付いていた「美空ひばり」というネームタグを引きはがすと、ラストソングは正気に戻った桑田による”波乗りジョニー“!誰もが待っていた大名曲だ。限界突破のキーで熱唱する桑田はもちろん、片手に風船・片手は手拍子という独特に盛り上がる我々の熱唱もマスクの中で反響。この表現が適しているかは分からないが、本人実在バージョンのカラオケ状態というか……。ここまで浸透している名曲、日本全国を探してもほとんどないのでは。歌唱中も次々に抱きつきに来る水着美女を無理矢理引き剥がしながら歌う桑田も可愛く、サビでのファンの『パン・パパン・フゥー!』の手拍子もバッチリ決まっている。涙と笑顔が渾然一体となった時間を共有した桑田はパパっとステージ袖にハケていったが、「またすぐ戻ってきます!」とアンコールを示唆。これにて本編は終了となった。

桑田佳祐 – ROCK AND ROLL HERO(Full ver.) - YouTube

まだまだ興奮冷めやらぬといった様子のファンたちの手拍子で再度呼び込まれた桑田、1曲目はメッセージ性の強い政治曲”ROCK AND ROLL HERO“。エレキギターの調べに自然に体が動く、まさしく最強のロックンロールナンバーだ。ただ家で聴いていただけでは政治批判のようにも思えるこの楽曲の向いている場所は、実際のところそこではない。「どんな状況でも頑張って生きなきゃ!」という個々人の思考の重要性を説いているのだと、この楽しそうな演奏を観て気付く。

桑田佳祐 – 100万年の幸せ!!(Full ver.) - YouTube

ここまででかなりの楽曲を披露してくれた桑田だが、その歌声は全くの衰え知らず。リングの発光によって本物の『銀河』を彷彿とさせた”銀河の星屑“、待ってました!な珠玉のバラード”白い恋人達“を続けてドロップすると、正真正銘の最終曲「100万年の幸せ!!」が鳴らされる。この楽曲はテレビアニメ『ちびまる子ちゃん』のOPとして長らく使われお茶の間に浸透した代物だが、大人の我々から見ても《今を生きてる大切な命守ろう》、100万年の長い年月を《たった100万年》や《せめて100万年》という歌詞にしていたりと、歌詞の重要性にも改めて気付かされたこの日である。

ラストの楽曲と言うこともあり、ステージにはこれまでのダンサーやバンドメンバーが大集結。ステージ上に30人以上が集結した様は目にも楽しい。桑田は幾分気楽な感覚で、ファンを楽しませるよう右へ左へと動いての歌唱が嬉しい。そして楽曲後半ではダンサーたちが自身のお尻を見せる形で「お互い元気に頑張ろう!!」「2023年もよろしくね!」と書かれたパネルを掲げ、桑田による「お互い元気に頑張りましょう!本年が皆様にとって、素晴らしい年でありますようにー!」の一言でライブは大団円。かくして予定時刻を大幅に超え、約3時間もの長尺となった最高の年越しライブは、その幕を降ろしたのだった。

桑田佳祐 feat. 佐野元春, 世良公則, Char, 野口五郎 - 時代遅れのRock’n’Roll Band(Full ver.) - YouTube

ライブ終了後「今日来てくれた人へのサプライズ」として用意された、紅白歌合戦で披露された“時代遅れのRock'n'Roll Band”の特別映像を観ながら余韻に浸る。1年のあれこれを洗い流すのが年末の役割だとするならば、この日のライブはまさしく『年末に行われるべき最高の代物』だった。全てをハッピーで飲み込んで、それを2倍3倍の陽の力で返すもの……。それこそが桑田佳祐のライブの素晴らしさなのだと、僕はようやく知ることが出来た。そして、我々が桑田の音楽を愛する理由も。

個人個人の出来事はどうあれ、ことニュースのみに目を向けるとコロナや物価高、戦争や政治問題など、2022年は例年以上にネガティブな出来事が多くあった年のように思う。ただそんな中でも誰もが光を求めて生きていて、それが今日この日に繋がったのだとするならば、それでオールオッケーなような気もする。……桑田の言うように、2023年が素晴らしい年になることを祈って。何かあればこの日のライブを思い出しつつ、頑張っていこうと思った一夜だった。

【桑田佳祐@横浜アリーナ セットリスト】
こんな僕で良かったら
若い広場
炎の聖歌隊 [Choir(クワイア)]
MERRY X'MAS IN SUMMER
可愛いミーナ
真夜中のダンディー
明日晴れるかな
いつか何処かで(I FEEL THE ECHO)
ダーリン
NUMBER WONDA GIRL〜恋するワンダ〜
赤い靴(日本童謡カバー)
SMILE〜晴れ渡る空のように〜
鏡(Unplugged ver.)
BAN BAN BAN(Unplugged ver.)
Blue〜こんな夜には踊れない(Unplugged ver.)
なぎさホテル
平和の街
現代東京奇譚
ほととぎす [杜鵑草]
Soulコブラツイスト〜魂の悶絶
悲しい気持ち(Just a man in love)
ヨシ子さん
真っ赤な太陽(美空ひばりカバー)
波乗りジョニー

[アンコール]
ROCK AND ROLL HERO
銀河の星屑
白い恋人達
100万年の幸せ!!
時代遅れのRock'n'Roll Band(NHK紅白歌合戦特別映像)