キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

映画『ONE PIECE FILM RED』レビュー

こんばんは、キタガワです。

サブスクでいつでも映画を観ることが出来る時代、映画館という代物は時代錯誤かも、と思うことがある。その理由は大きく分けて『値段と時間』で、サブスクは月額500円程度で流し見が可能である一方、映画館では1 本1800円、しかも常に集中する必要があるからだ。故に我々はいつしか、特に映画館で映画を鑑賞する際にレビューの評価を気にするようになった。大切なふたつの存在を守るため「どうせ観るなら良いものを観たい」というのは、仕方のないことだろう。……でも、ふと思うのだ。本当にそのレビューは、正しい評価なのだろうかと。

 

そこで今回鑑賞したのは『ONE PIECE FILM RED』。言わずと知れた、週刊少年ジャンプで長期連載中の有名漫画をオリジナル映画化した代物である。その爆発的な興行収入とは裏腹に、ネットレビューでは「ウタ(Ado)の歌が多すぎる」やら「2時間かけたMV」やらいろいろな声も飛び交っていて、総合評価は平均☆3と低めの点数に留まっている今作。普段はこの瞬間に鑑賞リストから外してしまいがちなところを、いっちょ観てやるかと怖いもの観たさで鑑賞を決断。しかも僕自身はワンピースをクロコダイル編までしか観ていないという超ミーハー。圧倒的に不安が勝った状態で映画館へ向かったのだった。

映画は、とある国で麦わら海賊団がウタと呼ばれる有名アーティストのライブを楽しんでいる一幕からスタート。この時点で“新時代”や“私は最強”の楽曲がフルで流されると、突如ウタを誘拐するために暴君が襲来してライブ中断。ルフィたちがいつも通り敵をコテンパンにやっつけると、ウタは「今日のライブはずっと続けるよ!」と叫び、再び“逆光”を含めた楽曲で観客を盛り上げていく。また同時期にウタがルフィのかつての友人であったこと、ウタがシャンクスの娘であることが明かされ、会場は賛否渦巻く流れに。

そしてウタが「ルフィ。海賊やめなよ」と告げ、ルフィがそれを断ったことで物語は急展開。ウタはその瞬間から変貌してルフィたちと敵対し、ウタが海賊を嫌悪していること、また『みんなを一生幸せな夢の中で暮らす』ことを目的に、ウタウタの実の能力によって会場中の全員(+テレビジャックした総国民の7割)を永遠にこのライブ空間に閉じ込めることを宣言する。この時点でお分かりの通り、ウタはヒロインかと思いきや、実は今作におけるラスボスの役割を果たしていたことを察知する我々……。

 

【Ado】新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED) - YouTube

いろいろな偏見はあったにせよだ。結論として、今作はかなり面白かった。確かにウタ(Ado)の楽曲が事あるごとに流れたのはかなり辟易したけれど、それ以外の箇所が割と無理もなく。後半にかけては過去の体験を踏まえて緩急もつけつつ、一番盛り上がる形に変えていたのは好印象だ。……ウタが何故このような事件を生み出してしまったのか。彼女が抱く理想は何なのかを示した上での結末はとても良かったし、原作映画化作品全体においても、見本とするべき展開だったと思われる。

そもそも論、今の映画は売れなければ話にならない。なので今作のAdoの起用はユニバーサル・ミュージック側の猛プッシュが届いた結果だろうし、映画関係的にも「今流行りのAdo経由でバズって興行収入が伸びればいいな」的な思惑が透けて見える作りで、これに関してはユーザー的にはマイナス、売上的には逆にプラスだろう。こうした形の変遷については某名探偵映画の安室さん然り、もう制作者的にはどうしようもない。ただそれでも映画として内容が伴うかどうかは大事で。そんな中でこの作品はうまい形で折衷案を作り出したのかなと考える。それこそ筆者のような深くキャラクターが分からない人でも楽しめる教科書的な一作に結果的になったのは、おそらく監督側の配慮によるものなのだろう。とにかくストーリーが良かった。

 

【ウタ】"ウタ" LIVE in 日本武道館 2022.07.22 配信特別ver.【UTA】 - YouTube

冒頭で述べたことの繰り返しになるが、今の時代は劇場で映画を観ることすら最大級の娯楽だ。どれがとは敢えて書かないが、作品名を取り出して「このタイトルなら売れるだろう」とする作品も絶対的に存在する中で、今作はとても良く作り込んでいて素晴らしかった。明らかなマイナス点としては、Adoの歌唱パートに関しては3分の1にして欲しかったこと、加えて登場人物があまりに多すぎること(既存キャラ含め30名超え)が挙げられるが、まあまあ及第点。レビューの点数は確かに低いが、理想が高くなければ非常に面白い作品だ。

それこそ我々の社会生活でも、ひとりが「あなたのために言っているのに!」という説教が、その対象には「いやそれは違うっしょ……」と心では思いながらニコニコされてしまうように。善意のぶつかり合いほど怖いものはないのだけど、ウタが思い描く「幸せなことが起こるだけ」の新時代と、我々が思い描く「辛いこともあるけどそれが人生」の新時代の齟齬をうまく対決させたアンチ理想郷論は一見の価値あり。《新時代はこの未来だ》(“新時代”)とあるが、あなたが思うそれ、本当の話ですか?

ストーリー★★★★☆
コメディー★★★☆☆
配役★★★★☆
感動★★★☆☆
エンタメ★★★★☆

総合評価★★★★☆

《ONE PIECE FILM RED》最終預告 - YouTube