こんばんは、キタガワです。
先日、とあるシナリオ賞の予選通過作が発表された。最近は意識的に考えないようにしていたため、いつが発表なのかも不明瞭だったのだが、とにかく。自身初のシナリオ作品『裏目と語れ』が無事一次選考を通過しました。初の何かしらのストーリーを書いて入選したのは高校時代が最後なので、もう十何年ぶり。表面的には「ふーん。そっすか……」とクールな感じを装っていたが以降、この日は人と話すときに声のトーンが上がっていたことに気付く。つくづく人というのは単純な生き物である。
思えば僕は物書きを始めた当初から、今回のように誰かと競って評価されようという『コンテスト系』の活動に重きを置いていた。13歳から10年間続けたハガキ職人時代のランキングもそうだったし、音楽ライターを目指してからのロッキンの音楽文時代も。ただ悲しいかな、誰かと競い合えども勝利することはなく。何度も何度も負けが続いてメンタルがおかしくなる、暗中模索の日々だったように記憶している。……というか、もう僕のようなタイプの物書きが陽の目を浴びる方法はコンテスト関係しかないのだ。詳細を書くのはアレなのでぼかすけれど、結局はいつも前向きに媚びて、流行に乗る行動力のある人だけが新規契約を受ける……というのをもう5年近く見てきたので。
話は変わって。今作で主人公は『他人が考えていることが分かる』スキルを有する代わりにメンタルよわよわの人間として描かれているけれど、これはほぼ生き写しで。つまり、僕自身も表情を見た瞬間に相手の気持ちが分かるが故に、社会に居場所をなくしてしまった人間なのだ。例えば「キタガワはちょっと……」と思いつつも無理矢理場を持たせようとする心遣いとか、3人で一緒にいるときに見せる、ふたりで盛り上がる表情とか。そうしたものを見るたび、僕は気付かれないうちにどこかへ消え、結果として今では友達と呼べる人はほとんどいなくなってしまった。
対して、類が友を呼ぶとは良く言ったもので。人の心が分かってしまうが故に、僕に好意的な視線を向けてくれる人は、何らかの生きづらさを抱えている人が多かった。そして彼らに共通するのは『必死に生きているのに人生が辛すぎる。でもそれを見せてしまうと嫌われるから、何とか健常者を装っている』という内面だった。それこそ今作の2話で書いた『ずっと笑顔の人』、3話の『常にアルコールを飲まないと生きられない人』は実際に僕が相対した人たち。彼らは今どうしているかと言うと、笑いながら隠れて隠れて精神薬を飲んでいて、かたやアル中を理由に解雇された末、ホームレスになったり……。中には命を絶ってしまった友人も2人いたのだけれど、同級生的には『何も真実を知られないままなぜか突然死んでしまった人』で、彼と比べて死ななかった今の俺超楽しい!という認識でしかなかったりするのだ。
けれど、そんなネガティブなことばかりを考えてしまう人たちも生きてもいいと思えるような、そんな世の中でなければいけないのではないか。辛い人には辛い人なりの幸せが訪れなければ、こんな出来レースはないじゃないかと。……なので今作では未遂を経験した主人公と、自死を全く理解できないヒロインを中心に置き、他人の希死念慮を取り除くストーリーを描くことにした。一応ファンタジー系のコンテストの応募要項に沿うようにいろいろ設定は作ったけれど、結局はヒューマンドラマである。多分ないだろうが、万が一受賞することがあって「この作品を誰に読んでほしいですか?」と問われることがあれば、僕は「ネガティブな感情を普段感じない人に」と答えるだろう。「あ、辛い人もいるんだな」と思って、そこからクラスの隅っこで小説を読んでるクラスメイトに話しかけてみるとか。毎日笑顔の人に「この仕事辛かったりしないー?」と聞いてみるとか。その一助になれば、まあまあの価値はあるかなと。
今回の通過は言うなればM-1グランプリ1回戦突破に近い。僕以上にもっともっと本気で取り組んでいる人たちを尻目に、ちょっと噛んだだけの人間が「やりましたー!」とガッツポーズをするのは絶対に違うと思うから、おそらく受賞はないだろうと察してはいる。でも素直に嬉しい通過。本当にありがたい。次の何かに繋げられるように、これからも。全部が裏目に出てしまう人生、その中で内面と向き合って成長する話が、何かに繋がれば。