キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】GReeeeN『GReeeeNと不思議な大脱走』@米子コンベンションセンター BiG SHiP

こんばんは、キタガワです。

 

“愛唄”や“キセキ”の大ヒットはもちろん、連続テレビ小説の主題歌としてお茶の間に広く浸透した“星影のエール”など、第一線で活動を続けてきた4人組・GReeeeNによる待望の全国ツアー『GReeeeNと不思議な大脱走』。今回のツアーはこれまでの活動で訪れることのなかった都道府県を多く回る最大規模のものだ。

会場に入ると、そこには多くの人、人、人。個人的にはこれまでも何度か訪れたことのある会場……なのだが、写真撮影スペースやファンの寄せ書き、ツアー物販、更には弾き語りアーティストによる演奏スペースなど明らかに情報量が多く、眺めているだけでも楽しい。中でも驚いたのは幅広いファン層で、おじいちゃんおばあちゃんを含めて小さい子どもも何人もおり、改めてGReeeeNの人気を実感。

イベントスペースに入ると、そこには上部に大型スクリーンがドドンと配置された、一風変わったステージがお目見え。逆にそれ以外の箇所はポッカリと空いており、演奏楽器も皆無。その対比もかなり印象的だ。なお開演前のスクリーンには“流星のかけら”のダンス動画とライブ紹介動画がループで流れ続けていたのだけれど、VIP席を獲得した前方のファンの中には、それを見ながら実際にダンスしたりする人も。他にも物販グッズのミ鳥を鳴らしたり、光るグッズを点灯させたりと、それぞれのファンがライブの期待を高めているのがグッとくる。

定刻ジャストに会場な暗転。すぐにライブが開始するかと思いきや、パッと明るくなった会場には、地面に倒れた男性(ひこひこ)の姿が。どうやら彼はとある場所から『大脱走』してきた様子で、後に合流した女性(魔里恵)と共に再び逃亡をはかるふたり。そのままスクリーンには、今回のツアーのキャラクターデザインも手掛けている『ONE PIECE』の作者・尾田栄一郎が寄稿したアニメーションが次々と展開。一風変わった姿のHIDE、navi、92、SOHという4人のメンバーが映し出されたところで、本公演の始まりが告げられたのだった。

 

Cho Kaze - YouTube

記念すべき1曲目は“超・風”。GReeeeNの代名詞とも言える、圧倒的なリリック数で駆け抜けるアッパーナンバーだ。いつの間にか背後のスクリーンは上下に二分割されており、上部には歌詞の数々が、下部にはGReeeeNが4人、マイクを持った姿でパフォーマンスしている。鼓膜にズンズン響く重低音はまるでEDMライブの様相で、サウンド的な楽しさもあり。またスクリーンの届かない箇所には基本的にダンサー4人が踊り続けていて、早くもスモークやパイロ(火柱)などの特攻装置がどんどん使われる大盤振る舞いだ。

ただ結論から書いてしまうと、今回のライブはあくまで個人的にはとても不満の残るものだった。その理由は大きく分けて4つあって、まずひとつ目の『メンバーの不在』は、明らかな欠陥部分として位置していた。ご存知の通りGReeeeNの本業は4人全員が歯科医師であり、その関係上、素顔を明かしていない。そのため今回の全国ツアーについても「よく休み取れたな」と疑問を抱いていたのだが、何のことはない。今回のライブは事前に録音された歌声を流すのみで、本人は誰一人としてこの場にいなかったのだから。……確かにモーションキャプチャーの映像は作り込まれていて、本人たちが目の前にいるような感覚はあった。これは単純に凄いこととしても、息づかいが聴こえる訳でも必死さが伝わる訳でもない、悪く言えば熱量ゼロの歌声が延々とカラオケ的に聴こえる空間は、とても物足りないものに。

 

GReeeeN LIVE TOUR 2021 「ツーナゲール 全繋大作戦 〜何処かに広がる大きな声が〜」-2021.7.15 立川ステージガーデン- - YouTube

次に『歌声とサウンドのバランス』について。前述の通り、今回のライブは重低音が常に流れるダンスミュージックだった中で、歌声が聴こえない場面が非常に多かった。基本的には誰がどのフレーズを歌っているのかは聴き取れず、耳を集中させればスクリーンの歌詞を踏まえてまあギリギリ分かるな、といったライン。この原因も本人の不在が間違いなく影響していると見られ、CD音源をそのままボーカル録音とガッチャンコさせたために起こった悲劇だった。

3つ目は『楽曲をフルで流さない』点。ヒット曲が多数あるためなのかその真意は不明なれど、『A→サビ→B→サビ→C→サビ』が通常の流れだとするとこの日は『A→サビ→C→サビ』という、全楽曲を2分以内に収める工夫が成されていたのだ。例えば“キセキ”では《二人寄り添って歩いて〜》のサビが来た後に《二人ふざけあった帰り道〜》のラップパートが来るような具合で、ところどころで「フルで聴きたいのに……」とする不満が蓄積していったりも。最終的に2時間にしてはかなりの曲数をやったように思うけれど、これも全部ぶつ切りの結果だったりもして。もっと曲数を減らしてでも、感傷に浸るような雰囲気作りは出来たはず。

 

GReeeeN LIVE TOUR 2021 「ツーナゲール 全繋大作戦 〜何処かに広がる大きな声が〜」-2021.11.20 福島・とうほう・みんなの文化センター (福島県文化センター) - YouTube

そして最後に『途中途中で挟まれる演出』だ。「尾田栄一郎監修ということはつまり、ONE PIECE的な映像も流れるだろうな」とは漠然とイメージしてはいたが、実際にはその5倍くらい。公演全体の20%ほどが映像を観るだけという、異常な量の映像が流れていたのはいただけない。その内容もお世辞にも良いとは言えず『君に出逢えた運命(キセキ)パンチ』で敵を倒したり、ミュージカルパートが挟まれたりと、かなり低年齢層向けの作りだったのは寒かった。

で、問題なのはその映像が実に3曲に1回ペースで流れること。「みんな盛り上がってるかー!」と叫んだ曲の後に、映像が流れて全員が着席。また映像が終われば「次の曲行くぜー!」とまた激しい曲が始まって、みんながゆっくり立ち上がる……という繰り返しは、もっとやりようがあったんじゃないかと。それこそ先日公開されたONE PIECEの映画が音楽ばかり流れていて「Adoを使いすぎ」と炎上していたのは記憶に新しいが、それと同じで。我々はGReeeeNを観にきていて、別にONE PIECEを観にきた訳ではないのだ。

 

GReeeeN - 愛唄 - YouTube

正直、今回のライブスタイルを一言に批判するのは違うとは思う。これらを知った上でGReeeeNのライブ大好き、という人もいるだろうし。ただ、今回の参加者の8割が初めてGReeeeNのライブを観る人たち(=ライブになかなか行けない地元民)だったこと、老若男女が集まったほぼソールドアウト公演だったこと、チケット代が9800円だったことなどを鑑みると、やはりライブの在り方としては批判せざるを得ないなと。それこそ「人生ではじめてライブ観ました!」という人も多いはずで、そうした人々が「ライブってこんな感じなんだ」とする固定観念を植え付けてしまうことは、絶対に良くないと思った。

……というネガティブな部分はこれくらいにして。ライブは歴代のヒット曲を入れ込みつつ“4 ever ドーン!!!!!”、“PHANTOM 〜約束〜”などONE PIECE楽曲を交えながらほぼノンストップで進行。合間には会場のファン全員参加のボール運びゲーム(事前に配布されていた手袋を着用)を行ったりと、体全体で楽しめる工夫も。

 

Weeeek - YouTube

今回のライブではストーリー上、映像で紡がれる物語が重要な役割を果たしていた。中盤の映像では様々な挫折や後悔を持つ4人がひょんなことから出会い、その現状を打破するために誓約書を書いて『ワンダフォNAパラダイス』と呼ばれる楽園に入所。しかしてその実態は強制労働施設であり、4人は絶対的支配で牛耳るコウ・ジョウチョウから叱責されながら、辛い生活を続ける描写が描かれる。

そこで彼らは一度、それぞれの境遇について思いを馳せる。ひとりは歌うたいとして挫折した経験を。ひとりは人間不信になったことを。ひとりは濡れ衣を着せられて仕事をクビになったことを……。赤裸々な思いをミュージカルに乗せて歌い上げていく。そこで4人は未来もない中で、ただ現状だけは打破しなければという思いから、この『ワンダフォNAパラダイス』からの大脱走を決意。ネプリーグのトロッコアドベンチャー的な地下通路(出題された問題は専門用語が多用される歯科医師資格の超難問)を経て、ようやく外に出たのだった。

しかしHIDEはその瞬間、自分が抱いていた『歌手になる』という夢を忘れてしまっていた。そう。『ワンダフォNAパラダイス』から脱出した者は、自分自身の夢を忘れてしまうのだ。そんな中で目的意識が欠落してしまったHIDEは、何も考えなくて良い労働を求めて、出たはずの出口から再び労働施設へ戻ろうとする。残された3人は“U R not alone”の訴え掛けで、HIDEの夢を取り戻すことに成功し、未来へ向かう車中で、HIDEは「みんな音楽が好きなんだよね?じゃあ4人でボーカルグループを作ろうよ!」と提案。それは奇しくも、GReeeeN結成の経緯と重なるものだった。

 

GReeeeN - キセキ - YouTube

そうした万感の流れから鳴らされた“キセキ”は紛れもなく、この日のハイライトだった。多くの人々に認知されるきっかけとなったこの曲をライブで聴ける、という有り難さはもちろんあるが、一度聴いただけで思い出が蘇る感覚が、この“キセキ”には内包されていたような気がする。スクリーン上のメンバーも《アリガトウや ah 愛してるじゃ まだ》といった歌詞の『ah』『まだ』部分をあえて歌わず、ファンにマイクを向けて歌わせる方向にシフトしていて、それがまた絶妙な感動を生み出していた。

 

GReeeeN-たけてん【Official Music Video】 - YouTube

本編最後の楽曲は、最新アルバム『ベイビートゥース』のリード曲でもある“たけてん”。前向きでもなく励ましでもなく、少しずつ歩んでいこうとするその歌詞を、彼らは丁寧に紡いでいく。ラストは平仮名表記の『たけてん』が『竹天』に変わり、最終的には『笑』の一文字になる映像工夫で、その特殊なタイトルの伏線を回収。拍手に包まれながら、画面が徐々にフェードアウトする形で本編は幕を閉じた。

手拍子で再度招かれたアンコールは全5曲。その前半は“オトノナルホウヘ!!!!”と“ハイタッチ!!!!”というBPM早め、歌詞に大きな意味を与えないしっちゃかめっちゃかなナンバー2曲を投下だ。スクリーンにはお祭りのやぐらが映し出され、火柱もしきりに上がっていて視覚的にも楽しい。相変わらず何が歌われているのか不明なボーカル不調はあったものの、興奮は確かにそこに存在。

 

GReeeeN - 「星影のエール」MUSIC VIDEO - YouTube

「今後もGReeeeNという旅路を続けていきます」という4人のMC(と言っても事前録音だが)を経て、最後は朝ドラ主題歌として、更には自身初の紅白歌合戦出場も成し遂げた“星影のエール”でシメ。それこそ数年前に“愛唄”や“キセキ”で一世を風靡したGReeeeNが、新たなフェーズに到達したことを示した1曲である。音楽的一面をぐんぐん広げる彼らの現在地をしっかりと見せながら、しっとりと終わる流れ。ただそこから再び映像が挟まれ、GReeeeNメンバーと尾田栄一郎作メンバーが出会ってしまい、タイムパラドックスが起きる……というエンタメ的な方面に向かうのもまた、彼ららしいなと感じた次第だ。

前半で記した通り、今回のライブは様々な点を総合的に考えたとき、あくまで個人的にはお世辞にも良いとは言えない代物ではあった。けれどもそうした状況でも確かに伝わってきたのは、圧倒的な『曲の力』。例えば当時野球をしていて“キセキ”に励まされたとか、あるいはポケモンを見て、NEWSから入って、朝ドラから興味を持って……と、タイアップの多い彼らの楽曲は常に我々の耳元で流れていた。その蓄積経験がこの日、実際に目の前で鳴っていること自体は素晴らしいものだと思った。また活動が続けばセットリストも変更していくことだろうし、ある意味ではこのGReeeeNの手法は成功なんじゃないかとも思ったり。……僕個人としてはまるでダメだったけど、それも人それぞれのはず。長年のファン的に感慨深いものがある、そんなライブ。いろいろと勉強になりました。

【GReeeeN@米子 セットリスト】
超・風
勝ちドキ
ソラシド
BEST FRIEND
オレンジ
4 ever ドーン!!!!!
2/7の順序なき感情
流星のカケラ
愛唄
青焔
ハロー カゲロウ
weeeek (NEWSセルフカバー)
PHANTOM 〜約束〜
あの日のオレンジ(SOHソロ)
たそがれトワイライト

every
U R not alone (NEWSセルフカバー)
キセキ
たけてん

[アンコール]
オトノナルホウヘ!!!!
ハイタッチ!!!!
自分革命
アカリ
星影のエール