キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】ナナヲアカリ『DELICIOUS HUNT TOUR 2022』@広島セカンドクラッチ

こんばんは、キタガワです。

 

全国ツアーが新型コロナウイルスの影響で中止となり、場所的には3年ぶりとなったナナヲアカリの広島ライブ。また『DELICIOUS HUNT TOUR 2022』と第された今回のツアーはこれまでのようなアルバムリリースを前提としたものではなかったために、セットリストについても全く予想が出来ない面白さもあった。……ただ、結果として今回のライブはある意味ではイメージを逸れたものだったのだ。何故ならアンコール含め80分、全17曲を披露したこの日は間違いなく最高だった中で、明らかな人間的一面も感じさせるライブでもあったから。


フロアに足を踏み入れると、バンド機材が等間隔で並べられたステージが目に入る。ここだけを見ればシンプルなセット。ただ少し目線を動かすと映像を映し出すVJ卓があったり、何よりステージ背後には巨大なスクリーンが鎮座。結論から書くと今回のライブは常に映像を投影しながら行われるものだった訳だが、もうこの時点で心中の興奮は止まらない。どうやら周囲を見てもその考えは皆同じのようで、友人間でセトリの変更箇所を予想する人、忙しなくSNSに文字を書き込む人も多数。改めて「愛されているんだなあ」としみじみ。


ライブは定刻ジャストの17時30分に開演。彼女のライブでは『ナナヲアカリ』の言葉がぶつ切りにされたSEを流し、メンバーが飛び跳ねながらステージに立つことが恒例になっているけれど、今回それはなし。真っ暗な中、サポートメンバーであるカトリーヌ(G)、かのーつよし(B)、タイヘイ(Dr)、野良いぬ(VJ)がひとり、またひとりと持ち場に立つシリアスな幕開けだ。そこから少し遅れてスタンドマイクの前に立ったのは、今回の主役ことナナヲアカリ(Vo.G)その人。この段階ではシルエットのみしか分からないものの、無表情で前を見据えていることだけは分かる。

 

二度目の花火 -Short Ver- (短編映画「日曜日とマーメイド」 Edit) / ナナヲアカリ - YouTube

オープナーは早くも先日リリースされたシングル『恋愛脳/陽傘』から、カップリング新曲“二度目の花火”。背後に線香花火や打ち上げ花火が打ち上げられる綺麗な映像と、虚ろな目で歌い上げるナナヲの対比が光る。時折腕を前に出しながら感情を憑依させる彼女の姿を、誰もがじっと見詰めているという一風変わった始まりには驚いたけれど、思えばハッピーで盛り上げるナナヲとナイーブな心を映し出すナナヲ、そのどちらもが彼女のカメレオン的な魅力なのだ。


この日のライブは、確かに広く知られているナナヲのアッパーな楽曲を中心に披露するものではあった。ただ詳細までは語られなかったが、後のMCで「この数ヶ月で私自身いろいろと考えさせられる出来事があって。本来やろうと思っていなかった曲も入れようと思いました」と彼女が説明していた通り、“事象と空想”や“ホントのことを言うのなら”、果てはインディーズ時代の“プラネタリー・メッセージ”といったナイーブな楽曲も一定数取り入れた代物となった。……それはネガティブな自分自身と折り合いを付けながら活動を続けるナナヲは元より、そんな彼女に心酔して集まったファンからの、双方向的な信頼感も表していたように思う。また全ての楽曲でVJにMV映像、もしくは新規映像が映し出されており、目にも楽しい形となっていたことも特筆しておきたい。

 

事象と空想 / ナナヲアカリ - YouTube

“ハノ”が終わると、この日初となるMCへ。まずは「3年ぶり!」「初めて!」「昨日ぶり!」とライブの参加者を挙手制で確認。結果昨日から続けてライブに来た人が最も多く、喜ぶナナヲ。そして今回ツアー地としては3年ぶりとなる広島へと会話が移り、「あー(ナナヲの一人称)が中退した大阪の大学にも広島から来てた友達がいて。今でも仲良いんですけど、しかも今日来てるんだよね」と暴露。ただ客席を見渡すナナヲにつられてファンも周囲を見渡すが、それらしき人はどこにもいない。我々的にも疑問が浮かびかけてきたとき、「本当に今日来てるよね?ミツコ?……んなわけないけど!」と、ここで友人の話が嘘であったことが判明。そのまま“んなわけないけど”の興奮へと導いて行くのだった。


ここからは一転、激しい楽曲を連発するゾーンへと突入。移り変わる躁鬱感情をシャカリキな音に乗せた“んなわけないけど”、クールな踊りで注目を一身に浴びた“ヤンキーダンス”、圧倒的な言葉数で翻弄する“ラブみ”……。彼女の存在が広まる契機となった数々のMVをバックに、どんどんライブは続いていく。

 

完全放棄宣言【Live ver.】 / ナナヲアカリ - YouTube

中でも圧巻だったのは、キラキラシンセが印象的な“完全放棄宣言”。イントロが鳴った瞬間からファンが飛び跳ね飛び跳ね、体感として地面がグラグラ揺れたこの曲。“完全放棄宣言”というタイトル通り『頑張って生きること』を諦め、怠惰を極める少女が描かれているのだけれど、この空間にいる普段学校や職場で辛いながらも働いている人たちが、一様に共感して盛り上がる様はあまりに痛快。サビ部分ではVJの野良いぬが前に進み出てナナヲと共にギブアップダンスを踊る一幕もあり、間違いなくライブ前半のハイライトのひとつだった。


そして今回のツアーの恒例となっている早口言葉コーナーでは、お菓子のおっとっとを題材として「おっとっととっとってっていっとったのに、とっといてくれんかったん?(おっとっと取っておいてって言ってたのに、取っておいてくれなかったの?)」を言うだけのカオスな時間に。ちなみにかのーつよしは成功か不成功か微妙なラインで終わるも、早口言葉が大の苦手な野良いぬは前半で既に撃沈。……ただ流石に微妙な空気を感じ取ったのか、話はゆっくりと今回のグッズである証明写真ガチャに移行。免許更新や履歴書などで使うようなナナヲの証明写真が売られるというガチャの中で、唯一シークレットで入っていた謎のおじさんの正体が『ナナヲのマネージャーの直属の上司』であることを暴露。それなりの笑いを取って、ボチボチな感じでMC終了。この緩さもナナヲアカリのライブあるあるだ。

 

陽傘 / ナナヲアカリ - YouTube

中盤は先のMCの通り、もうひとりのナナヲとも言うべきネガティブな本心を強く映し出すセットリストで構成された。何枚かリリースされてきたナナヲのアルバム。その中でも物悲しげな雰囲気の楽曲は1、2曲程度しかないため、今回の試みがどれほど稀有な代物であったのかは容易に想像出来る。当然その大半の楽曲はこれまでライブで披露される機会が少なかったものばかりだったけれど、ナナヲが「いろんな人の心に響く曲だと思います」と語って歌われた新曲“陽傘”はあらゆる喪失を、そしておそらくはナナヲ自身がこの数ヶ月で経験した大切なものとの別れを、暗に示していたように思う。


僕が今回のライブを通して思ったことがあるとすれば、それは『彼女の根底にはいつもネガティブが存在している』ということだった。それこそ“完全放棄宣言”と“陽傘”が全く異なる歌声で歌われているように、ナナヲはいつも楽曲に合わせて雰囲気を作り変える、カメレオン的な歌唱を武器としていた。そしてそれは歌のみならず、他媒体でも同様。自身が姿を見せて語るカラオケのDAMチャンネルなどでは笑顔だったし、逆に顔を出さないインタビュー記事では弱さを出すこともあったのだ。ただ今回のライブで明らかに『素』に思えたのはこの“陽傘”で見せた、何かを耐えるように言葉を紡いでいく彼女の姿。変わらない心象風景と変わっていく自分自身を、感情を込めて歌うナナヲに強い感動さえ覚えた次第だ。

 

ハッピーになりたい【Live ver.】 / ナナヲアカリ - YouTube

「まさかインディーズの曲やるとは思わなかっただろー。ここから後半戦ですが行けますかー!」と煽ると、以降はクライマックスに続く定番曲を連発。「オーオォー」のレスポンスもバッチリ決まった“メルヘル小惑星”、あまりの熱量に誰もが飛び跳ねまくり、ほぼステージが見えない状態と化した“ハッピーになりたい”、ナナヲがギターを激しく掻き鳴らしたアッパーナンバー“Higher‘s High”とシームレスに鳴らし続ける代表曲たち。例えば内容的にもMV映像的にも、“ハッピーになりたい”などは希死念慮を抱えてひきこもるストーリーで、それを大ジャンプして腕を振り上げるファン……という構図は些か異様ではある。けれどもそんな対比も、やはりナナヲのライブとしては至極正しいのだ。

 

雷火 / ナナヲアカリ - YouTube

「最後の曲です!ナナヲアカリでした!」と叫んで鳴らされたのは“雷火”。MVとはまた違う電撃をフィーチャーした映像が流れる中、ナナヲはキーの限界まで声を張り上げ、右へ左へと動き回りながら歌声を届けていく。また中盤では中央のマイクスタンドを袖まで移動させつつ、ポッカリ空いたセンターステージでファンを煽り倒す一幕もあり、最後まで存在を印象を付けたナナヲ。アウトロが終わった瞬間にお立ち台から飛び降りるラストを経て、満面の笑顔でステージを去っていった。


本編が終わり、すぐに暗転した場内。しかし興奮収まらないファンたちは一様に手拍子を続け、次なるアンコールへの期待を覗かせている最高の環境である。と、突然暗闇の中からひとりの人物がステージへと足を進め、中心でピタッと停止。そして彼女が《まわるまわる ふたりのフィーリン》と歌い始めると、ステージがパッと暗転。そこにいたのは今回のツアーTシャツを着用したナナヲであり、そのままアンコール1曲目の“恋愛脳”に雪崩れ込みだ。

 

恋愛脳 / ナナヲアカリ - YouTube

ツアー前のとあるインタビューで、ナナヲは「どこで“恋愛脳”を聴かそうかな? とか、いろいろ考えてます』と語っていたナナヲだが、結果この日の“恋愛脳”は大きな衝撃でもって迎え入れられた。まず1番に関しては実質的なカラオケバージョンで、ナナヲたったひとりで歌い踊る様はまるでアイドルのよう。かと思いきや、2番からはバンドメンバー+新顔の女性の総勢6名で振り付けアリで踊るカオス空間に。新曲ながら、前方では早くもダンスを完コピするファンもおり、今後この楽曲はナナヲのライブで欠かせないものになるのだなと実感。


“恋愛脳”が終わると、この日最後となるMCへ。まずは「どんどん人増えてくね……」と語ったナナヲ、どうやら今回のツアーにおける“恋愛脳”はその場所ごとに新メンバー(マネージャーなど)を招いて全員で踊る、というコンセプトになっているそう。なおこの日現れた女性は絡まったマイクコードを直したり、ギターを用意したりするナナヲのローディーとのこと。ただ「この感じだとツアーファイナルどうなるんだろうね」と想像を巡らせるナナヲをよそに、かのーつよしとタイヘイが後ろで延々『恋愛脳ダンス』を繰り広げ、野良いぬが「ライブ中に練習しないでよ……」とツッコんだりと、最後まで仲の良いえんじぇるズ(サポートメンバーの通称)である。

 

なんとかなるくない?【ティザーMV】 / ナナヲアカリ - YouTube

そしてライブは最終局面へ。「今日は本当にありがとうございました!明日からまた学校って人、仕事辛いって人、いろいろいると思います。けど……なんとかなるくなーい?」とナナヲが叫ぶ。そう。正真正銘ラストの楽曲は爆速で駆け抜けるファストチューン“なんとかなるくない?”だ。セットリストの大半を占めたファーストアルバム『フライングベスト 〜知らないの?巷で噂のダメ天使〜』の中でも極めてレスポンスが多いこの楽曲を、全員が全力で楽しむ姿はあまりに感動的。サビではこの日一番の大ジャンプが巻き起こり、「mani mani」や「Yeah Yeah」の大合唱も確実に決まる一体感はやはり、ここに集まったファンがどれだけライブを楽しみにしていたのかを表しているようでもあった。


時間にして80分。おそらくはあらゆる単独ライブ全体を見ても最も短い持ち時間で構成されたこの日のライブはその実、多くの人々が抱える『陰と陽』の心情をギュッと凝縮して説明するような、濃密な一夜だった。何度か本文でも記したけれど、例えば今回は披露されなかった“チューリングラブ”や“インスタントヘヴン”など、ナナヲの楽曲で広く知られているものの大半はキラキラ明るいアッパーなものだ。もちろんナナヲ自身もそうした楽曲を好んでいるのは間違いないまでも、決してそれだけじゃないよ、という本心に切り込んだのが冒頭と中盤に挟まれたモードだったのではないか。


そして、そんな『陰と陽』の精神は我々自身についても同様だ。辛くても何とか笑顔で頑張ったり、楽しいと思ったらネガティブになったり……。突然変わる心を制御しながら、我々は今日も生きている。ナナヲが今回披露したある意味特殊なセットリストは、何故我々がナナヲに心酔するのか、それを暗に示した運命的なものだったようにも思える。辛い現実に悩む“二度目の花火”のシチュエーションがあるように、全てを開放して楽しむ“なんとかなるくない?”の躁メンタルも共存する人間という生き物。いろいろあるけど取り敢えず生きてみようとする力強さを共有した、素晴らしいライブだった。

【ナナヲアカリ@広島 セットリスト】
二度目の花火
事象と空想
ハノ
んなわけないけど
ヤンキーダンス
完全放棄宣言
ラブみ
ランダーワンド
陽傘
ホントのことを言うのなら
プラネタリー・メッセージ
メルヘル小惑星
ハッピーになりたい
Higher‘s High
雷火

[アンコール]
恋愛脳
なんとかなるくない?