キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

映画『PLAN 75』レビュー

こんばんは、キタガワです。

 

『日本が高齢化の一途を辿っている』という事実は、きっと誰もが理解しているはず。ただ調べてみると日本の平均年齢はほぼ50歳。このまま行けば我々若者世代がどんどん損をする時代になるとのことで、思った以上に状況は深刻なことが分かる。……そんな現状を打破するには何が出来るか。最も効果的なのはもちろん子どもを産みやすい社会にすることだが、それはなかなか難しい。となれば、残る手段はひとつしかない。そう。高齢者の数自体を減らすことである。

今回紹介する『PLAN 75』は、75歳以上の高齢者が安楽死できる制度を取り入れた、未来の日本を描いた物語だ。主人公は75歳を迎えた女性(倍賞千恵子)で、仕事はホテルの清掃員。けれども程なくして高齢者を雇うことで若者の雇用を奪ってしまっていること、また「あんなおばあちゃんたちが働いてるなんておかしい!」と抗議の電話が入ったことで、高齢者全員が退職に追い込まれてしまう。過去の同僚らと今後の生活について話す中、否が応にも聞こえてくるのは『PLAN 75』の政策だった。ただ彼女中では死の選択肢はなく、今後も働きたいと願う。けれども現実問題として雇ってくれる場所は激減し、同僚は孤独死を遂げ……。次第に生きる活力が失われていくことに気付いた彼女は、遂に『PLAN 75』の説明会に参加する。というのが、今作の簡単なあらすじである。

この映画を語る上で避けて通れないのは、あまりにもリアルで、また非常に心が辛くなってしまうその描写にある。この『PLAN 75』の政策は国が率先して取り組んでいるということもあり、テレビで流れる内容は「今後の老後の未来を考えましょう!そんなあなたにこの制度!」と好意的なものばかりで、世間的にも受け入れられている。まずここが怖い。そしてそんな状況下に置かれた、肩身の狭い高齢者の生活。何度もハローワークに通いながらも陰口を言われて落とされたり、孫に迷惑をかけないように安楽死を選んだりと、生きようとする行動がにっちもさっちも行かなくなった『ポジティブな末路』であることも、悲しみを感じさせる。約2時間、絶望的なドキュメンタリーをずっと観ているような感覚というか。

ただ悲しいかな、もはや高齢化社会を打破するための行動はもうこれしかなくて、今日本に生きる我々自身がこの政策を「こんなの実際ありえんだろ」と一蹴出来ない怖さというのもある。だからこそ、この数年後に訪れかねない未来の当事者意識が、この映画の描写を更に色濃くするのだ。『PLAN 75』に加入すればご飯も食べれるし、お金も国から10万円出る。……それこそ僕が暮らす島根県では高齢化が進んでいて、実際家族もおらず一人暮らしをする人とも何度か会ったことがあるのだけれど、その人たちに「もしそれほど辛いんなら、マジで一回『PLAN 75』の説明会行ってみん?」と悪気もなく言ってしまいそうな、無自覚なヤバさ。

しかしながら、ともすればネガティブ一辺倒になりがちなこの映画は、クライマックスにかけてグンと盛り返すシナリオも秀逸だった。鍵になってくるのは『PLAN 75』の加入者を獲得しようともがく、学生の電話オペレーターと営業マンのふたりの人物。本来であれば業務的な関わりで終わるはずのオペレーターの女性は「本当はダメなんですけどね」と主人公と直接カフェで会話をしたり、ボーリングをすることで、75歳以上の高齢者を安楽死させることの悲しみに触れる。対する営業マンの男性は、偶然『PLAN 75』に加入しようと訪れた自分の叔父と会ったことで、制度そのものの仕組みに疑問を抱いていく。このふたりの存在が感情を動かし、最終的には『PLAN 75』は正義なのか悪なのか、また人の命の尊さまで問う形で、感動的なクライマックスに突き進んでいくのだ。

死を扱う映画というのはどれだけ入念に考えても、どうしてもフィクションによる面白さが強いものだと思う。時間を巻き戻したりだとか余命が短いとか、殺害されたりとか。けれどもこの作品の75歳以上が安楽死を選べる日本というシナリオは、どう考えても否定できない未来のような気がするのだ。「高齢者が生きづらい世の中にする」→「安楽死なら葬儀も無料でお金ももらえる」→「いつしか安楽死がポピュラーなものになる」……。この流れ、本当に怖い。物語の終盤ではニュースキャスターが「『PLAN 75』の制度で我が国の高齢化率は解消傾向。また今後は対象年齢を65歳に引き下げる法案が可決される見通しです!」とも笑顔で語り、高齢者がそのニュースにキレてテレビの電源を抜くシーンがあるのだが、めちゃくちゃにやるせない気持ちになったりした。

そして改めて思うのだ。本当に評価されるべき映画は、こうした痛みを伴うものではないかと。観るものを完全に黙らせる大問題作にして、社会に警鐘を鳴らすメッセージ性も強い『PLAN 75』。気になった方は是非劇場で。避けられない未来の姿を、より多くの人に大画面で目撃してほしいと願っている。

ストーリー★★★★★
コメディー★★☆☆☆
配役★★★★☆
感動★★★★★
エンタメ★★★★☆

総合評価★★★★★

倍賞千恵子主演映画『PLAN 75』予告編【2022年6月17日公開】 - YouTube