キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】TOTALFAT・BIGMAMA『BAND FOR HAPPY Tour 2022』@出雲APPOLO

こんばんは、キタガワです。


『幸せのためにバンドをやる』……。このタイトルを見た瞬間、何故だか笑みが溢れてしまったのを覚えている。こんなどこまでもド直球なTOTALFATだからこそ、彼らは長年愛され続けているのだと。この日行われたのは、ツアーも後半戦に差し掛かった20本目。対バン相手として選ばれたのは盟友・BIGMAMAで、先日コラボシングルをリリースしたばかりか、TOTALFATのShunとBIGMAMAの金井政人(Vo.G)は学生時代の先輩後輩の関係性としても知られている。どんな化学反応が起きるのかを見届ける期待値の高さからか、チケットは瞬殺でソールドアウト。とてつもない熱気に包まれつつ、かくして灼熱の1日は幕を開けたのだった。

 

バックに巨大な『TOTALFAT』の垂れ幕が掲げられたステージが印象的な今回のライブハウスは、定刻ジャストに暗転。思えば新体制になって久しいBIGMAMA、どこかで聴いたことのあるクラシックのSEに導かれながら柿沼広也(G.Vo)、安井英人(B)、Bucket Banquet Bis(Dr)らBIGMAMAの面々が登場。頭にバケツを被ったBucket Banquet Bisの出で立ちや、東出真緒(Vio.Cho)がピンクのパジャマ姿だったり、金井が早くも自身のバンTで登場、という驚きもありだ。

 

BIGMAMA "荒狂曲“シンセカイ”" MV - YouTube 

 

気になる1曲目は“荒狂曲“シンセカイ””。金井は「ライブハウスへようこそ!」と一言放つと、そこからはまさしく荒々しくも綺麗な演奏が展開していく。かつてBIGMAMAはクラシック音楽をモチーフにした『Roclassick』というアルバムをリリースした経験があり、そのうちの何曲かはライブ定番曲に位置することとなったが、この楽曲はリリース直後から毎回披露されてきた代表曲でもある。当然ファンとしても盛り上がり方については熟知しているようで、開幕から飛び跳ね飛び跳ねのカオス地帯が出来上がっていた。


中でも印象的だったのはやはり、東出と金井の一挙手一投足。東出はサウンドの中心をロックバンドとしてはかなり異質であろうバイオリンで奏で、対する金井は端正な顔立ち+艶っぽい声で魅了。「ああ、これがBIGMAMAのライブだったなあ」と改めてハッとさせられる、至福の時間が流れていく。しかもよく観ると「スタッフかな?」と思っていたドラムの真横には、TOTALFATのメンバーが何故かこの時点で全員立っていて、一緒に口ずさんだり腕を挙げたりしている!正直対バン形式のライブはこれまで何度も観てきたけれど、ここまで距離感が近いのはもちろん初だ。

 

BIGMAMA "神様も言う通りに featuring FM802" MV - YouTube

メンバー増減により新体制になったBIGMAMA。元々のライブ回数が少なかったこともあり、彼らの現在地を目撃するために参加した人も決して少なくなかったはず。そんな中で“神様も言う通りに”や“MUTOPIA”といった既存曲や若干新し目の楽曲含め、今回は全方位にアピールする鉄板セトリだ。特に出雲大社にお参りに行った結果「オオクニ(オオクニヌシノミコト)さん一生推します」と推しメンがひとり増えたという東出のMCの後、彼女がおみくじで第9番が出たことから急遽セトリに加えられた“No.9”は、数少ない長らくのライブアンセムとして確立していた印象があった。ストレートなロックとも違う独自の世界観というか。

 

TOTALFAT x BIGMAMA "WE RUN ON FAITH" Music Video - YouTube

TOTALFATとBIGMAMAが対バンをするという事実から、期待していたファンも多かったことだろう。後半にかけてはTOTALFAT・Shunを招いての“WE RUN ON FAITH”へと雪崩れ込みだ。演奏前、無意識に肉食系なShunと優男の金井を比較してしまい「一体どうなるんだ」と思ったものだが、実際のコラボもなかなかどうして、音源以上の化学反応が起きるから不思議。歌唱中、何度もポーズをキメるShunの姿(以下公式ツイート参照)の姿も本当に楽しそうで、これこそ対バンの醍醐味だなと実感した次第だ。

 

最終曲はベストアルバムにもリードとして収録されていた“Let it beat”。まるでBIGMAMAの多様な作品性を一纏めにしたようなキャッチーさのオンパレードだ。それこそBIGMAMAの活動初期あたりは、何かとバイオリンを有する編成の珍しさや、クラシック音楽への傾倒といった、意外性のある部分にフォーカスを当てられることもあった。けれどもあれから何年も経ち、メンバー増減を繰り返した彼らの今はどこまでも真っ直ぐ。統率の取れた演奏の果て、「ちょっと遠いけど10月21日に、東京でフリーライブ用意してます。是非皆さんのご来場をお待ちしています」と語った金井。これから新生BIGMAMAは本格始動するけれど、その第一歩をこの場所で観測出来たのは、とても幸福だったように思う。


【BIGMAMA@出雲APOLLO セットリスト】
荒狂曲"シンセカイ"
I Don't Need a Time Machine
神様も言う通りに
No.9
MUTOPIA
Perfect Gray
CPX feat.Shun(TOTALFAT)
WE RUN ON FAITH feat.TOTALFAT
Let it beat

 

BIGMAMAが会場を大いに温めてくれたところで、続く後攻はお待ちかね、荒ぶる3人組TOTALFATである。SEと共にシュタッと定位置についたJose(Vo.G)、Shun、Bunta(Dr.Cho)。見れば3人共がタンクトップを着用しており、これから始まる汗だくの狂宴を暗示しているかのよう。1曲目に選ばれたのは、ニューアルバムから“Miracle”。開幕を飾るに相応しい猪突猛進ぶりで会場のボルテージを上げていく。早くも彼らの体には汗が輝いていて、確かに我々としてもこの時点で「凄く楽しい!」の感想に尽きるものではあった。しかしながら、この時まだ我々は知る由もなかったのだ。彼らがこのテンションをまさかの1時間キープし続ける、壮絶なライブを行うことなど……。

 

Miracle - YouTube

MCでも語られたひとつの事実として、今回のツアーはアルバムリリース後である関係上『BAND FOR HAPPY』からの楽曲は大前提として全曲届けられた。ただそれ以外のセットリストはその時々で完全に入れ替えるアドリブなもので、これまでセットリスト入りをあまりしてこなかった楽曲も多く披露されるに至った。そんな中でも異様だったのは、まるで何かに取り憑かれるように楽曲を連発する彼らの姿。指にピックを貼り付けて弾くという特殊な奏法のJose、ポカンと空いたステージ正面に何度も体を動かすShun、忙しなくクルクルとスティックを回すBunta。全部全力、故に汗はもはや流れ過ぎてサウナ状態だが、それでも。溢れ出るバイタリティーで捻じ伏せる、スポ根顔負けのハードライブがそこにはあった。


彼らにとって出雲という場所は特別な地、そのためMCではそんな出雲への愛情を深く感じさせるものに。初期曲“マイルストーン”や“DA NA NA”が今回鳴らされた理由とも重なるが、彼らは活動初期から毎年この場所でライブを行っていてもはやホームと言ってもいい。この日も興奮のあまり、早朝から5キロのランニングをし、Shunは出雲で新タトゥーを彫ったりと、全身の毛穴が開くほどこのライブを楽しみにしていたというし、他にもGYAOのクイズコーナーでの「ツアーで一番美味しかったご当地グルメは?」にJoseが出雲そばと答えた一幕もそうだが、こうしたMCは地元民としては本当に嬉しい限り。

 

TOTALFAT - Smile Baby Smile(MV) - YouTube

例えば洋楽がよく槍玉に挙がるように、英語詞の楽曲は我々日本人にとっては刺さりにくい音楽ではある。というのを大前提として、感動的に映ったのはこの日演奏された“Smile Baby Smile”だった。偶然僕はすぐそばにいたのだけれど、『どんな時でも笑顔で』の精神を具現化したこの楽曲中、前方の女性が号泣しているのは何となしに理解はしていた。女性はTOTALFATの長年のファンであり、おそらくはこの楽曲に強い思いがあるのだろうと勝手に推察しながら聴いていると、Shunがその女性に向けて一言発した。「お姉さん!涙を拭いて笑ってくれよ!」と。その女性は一瞬にして泣き笑いの表情になり、Shunは敢えて目を空中に逸らしながら笑顔で歌う。「生の体験に勝るものはない」とは誰が言った言葉だったか、これこそがYouTubeの動画などでは絶対に味わえないライブ体験であると実感した次第だ。

 

そして演奏後、何やら「わかったわかった!わかった!」と理解したShun。そこで放たれたのはよもやの「決めた!今年もう1回出雲来ます!」というライブ宣言だ。まずもってこの時点でTOTALFATのライブ予定は白紙であり、そのためこの発言はShunによる突発的な提案に過ぎない。けれどもすかさず「このあと店長のスッスーさんと真剣にミーティングします!」とする彼らの目からは、強い決意が伝わってきた。もちろん次のライブをこうした形で決めるのは異例中の異例で、特に「また来るぜと言ったバンドが二度とこない」とする自虐ネタさえ知られている訳で。少なくとも僕は島根でライブを観てきて長いけれど、今回の絶対的な再会宣言は初だった。

 

TOTALFAT - ONE FOR THE DREAMS(MV) - YouTube

興奮はその後も一切途切れることなく続き、最終曲は“ONE FOR THE DREAMS”。最初から最後までパンクでまとめる潔さは元より、笑顔、ハッピー、幸福ときて、ラストにバンドの存在理由の最たる『夢』で締める。何と彼ららしい最後であろうか。最後と言っても特段変化がある訳ではなく、いつも通りがむしゃらにパンクを届けるTOTALFAT。Joseは幾度も開催地の場所を叫んで煽り倒し、Shunはポッカリ空いたステージ中央に何度も移動と目にも楽しいステージングで魅了。パンクの真髄を明らかにした、とてつもなく愚直な灼熱。

 

TOTALFAT - 晴天(MV) - YouTube

まだまだ聴き足りないと巻き起こるアンコール。ステージ袖……と言うよりは完全にステージに出てきてしまっているのBIGMAMAのメンバーを尻目に、TOTALFATの3人が再び登場。ただそこに遅れて現れたのはBIGMAMAの金井と東出。そう。アンコール1曲目はよもやのコラボ曲となった、TOTALFATの“晴天”である。舞台袖のメンバー、更にはスタッフも含めての大盛りあがりとなった空間に、金井と東出の甘いサウンドと声が響き渡る感動的な演出。ここまで来るとやりたい放題というか、TOTALFATのメンバーも顔を突き合わせながら笑顔を振り撒いていて最高だ。現在も様々な規制が敷かれているライブハウスだが、少なくともこのステージ上ではコロナ前のワチャワチャ感が復活していたように思う。

 


最終曲を終えて颯爽とハケたメンバーを見送る我々。パンクなBGMをバックに退場案内を待つそこには、漠然とした『楽しい』の感情だけがあった。それこそいろいろな『楽しい』の種類があるのがライブの醍醐味のため、例えば演出が良かった、セトリが良かった、雰囲気が良かったなど様々存在するはず。でもこの日は本当に、純粋なハッピーな感情のみを残す最高の一夜。他のことなんてもうどうだっていいと遮断する強制的な楽観主義は、こと悲しいことばかりが起こる現在において、とても大切なものだったのでは。


今回のツアーが『幸せのためにバンドをやる』と題されているのは、冒頭に記した通り。ただ生きていくには楽しいだけでは駄目で、副業を蹴って公務員を目指す若者がトップを走るデータからも、自分のやりたいことより将来性を考えるのが主流になりつつある。そんな中で彼らは、高校時代からの欲望のままパンクロックをやり続けている。その理由は『どんな安定差し置いても音楽を鳴らすのが楽しいから』……。そしてそんなパワーはこの日、何よりも強いエネルギーとして炸裂した。クソッタレな今の時代に欲するものは何なのか。世間一般的な人たちの考えはよくわからないが、少なくともこの日集まった人々は、それこそ彼らが鳴らすあの音楽を欲しているのだろうと強く思った。


【TOTALFAT@出雲APOLLO セットリスト】
Miracle
Steer This Band
Dirty Party
Ashtray
Phoenix
夏のトカゲ
My Secret Summer
Lucky Boy
Welcome to Our Neighborhood
Show Me Your Courage
Drive‘s High
Summer Frequence
Dear My Empire
DA NA NA
マイルストーン
白煙
Smile Baby Smile
PARTY  PARTY
ONE FOR THE DREAMS

[アンコール]
晴天 feat.金井政人&東出真緒(BIGMAMA)
Place to Try