キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】キュウソネコカミ『DMCC REAL ONEMAN TOUR 2022 -Doshite Mo Chihoude Concertshitainja 2-』@出雲APOLLO

こんばんは、キタガワです。

 

https://kyusonekokami.com/

後にも先にも、ここまでキャパシティと申込数が釣り合わないライブツアーはないだろうと確信する。フェスではメインステージ確定、全国ツアーが開催されれば軒並みチケット秒殺という彼らが今回行ったのは「どうしても地方でコンサートしたいんじゃ 2」と題されたツアー。具体的には昨年2021年のツアーで回りきれなかった地域をメインに選出したとのことだが、キャパ数十人のほぼプレミア化したチケットは即日ソールドアウト。多くのファンがここ神々の県出雲に集結するに至った。


この日は生憎の雨予報。ここ数日は開催地の島根県には連日雨の予報が成されていて、実際我々的にもある程度は「雨降るだろうな」と覚悟はしていたはずだ。けれども丁度開場時を狙ってか、番号を呼ぶスタッフの声も一切聞こえないレベルの局所的豪雨に見舞われた出雲APOLLO。流石に傘を持参していない&軽装で臨んだライブキッズにとってこの事件はこたえたようで、大半の参加者は全身びしょ濡れ。かく言う筆者もスマホが一時使用不可になり、靴の中の水がタプタプ鳴る状態に。なおもちろんこの時点ではかなり辟易したものだが、これが結果的に後のキュウソのMCにプラスの影響を与えたこともまた、大きな事実として位置していた。


お馴染みの『楽しくてもおもいやりとマナーを忘れるな(ё)』の文字がたなびく中、ライブは定刻を少し過ぎてスタート。暗転した瞬間から爆音で鳴り響くFEVER333“BITE BACK”のSEと共にヨコタ シンノスケ(Key.Vo)、オカザワ カズマ(G)、ソゴウ タイスケ(Dr)、そして現在療養中のカワクボタクロウの代打として空きっ腹に酒やJOCHOのメンバーでもあるシンディ(B)がステージに現れると、そこから暫し遅れてフロントマンたるヤマサキ セイヤ(Vo.G)が中央に進み出る。その手にはマイクのみでギターはない。……ということは、おそらく1曲目はあの楽曲だろうと瞬時に理解する。

 

キュウソネコカミ -「Welcome to 西宮」 - YouTube

そんな想像を具現化するように、静寂の只中にいる我々に向かってジャカジャーンとオカザワがギターを弾き鳴らし、すかさずセイヤが《住みやすい》と声を引き伸ばした形で歌い上げていく。……そう。記念すべきオープナーは彼らの生まれ故郷について綴ったロックナンバー“Welcome to 西宮”である。セイヤはピッチャーが振りかぶって投げるようなアクションで思いを届け、ヨコタは全力で飛び上がり盛り上がりを牽引。我々ファンもそうした光景に呼応するように、早くも冷えた体を熱に変えんと飛び跳ね飛び跳ね。ライブの滑り出しとしてこれ以上ない幕開けだ。


僕は地元近くに彼らが訪れたら取り敢えず向かうレベルの、対バンやフェス含めある程度はこれまでキュウソを追いかけ続けてきた身だと自負している。そのため「ちょっとやそっとじゃ驚かないぞ」というスタンスではいたのだが、この日のセットリストは紛れもなく現状のベストアルバム的セトリ。それこそ夏フェスのみに絞っても「ほぼ全曲やったことがあるんじゃないか?」という、それ程のキラーチューンのオンパレードだった。もっと言えばバラードも一切なし。本当に常に盛り上げまくって気付けば2時間が経過している、とてつもないライブだったのである。

 

キュウソネコカミ - 「ギリ昭和 〜完全版〜」 - YouTube

彼らの楽曲は基本的には人間的なメタ、社会風刺、ないしはタイアップ先に寄り添う形で作られている。特にライブの前半部分ではそうしたキュウソの強みとも言える部分を全面に押し出していて、あの眠気解消栄養ドリンク『メガシャキ!』のCMソングとなった“MEGA SHAKE IT!”に続き、愛する人への悩みが直接被害妄想で叩き込まれる“メンヘラちゃん”、令和の新時代に意図して制作された“ギリ昭和”など、どこか聴く者の心に訴え掛ける楽曲を多数展開。

 

キュウソネコカミー「ファントムヴァイブレーション」PV - YouTube

そんな中でも取り分けズガンと刺さったのは、ヨコタが「今日雨大丈夫でしたか?その濡れた体、汗に変えませんか皆さん!」と叫んで雪崩れ込んだ“ファントムヴァイブレーション”。この楽曲は『鳴ってもないのに鳴ってる気がする』という通知錯覚を通してスマホ依存症に焦点を当てた楽曲であり、何度も画面を見てしまったりついつい写真を撮ったり、充電コンセントを探す悲しきリアルを歌っている。セイヤは時折絶叫しながら拍手を繰り出しつつ、この楽曲における歌詞を《1日2時間は見てる》→《1日6時間くらい見てる》、《2ちゃんのまとめを見ちゃうね》→《5ちゃん》と現代風にしながら歌い、ラストは《スマホはもはや俺の臓器》と痛烈な皮肉で結論付けていく。盛り上がりに加えて自分の置かれた状況すら何となく自問自答してしまう、それがキュウソの魅力だとも再確認。


また、キュウソの全国ツアーでは抱腹絶倒のご当地MCも注目ポイント。この日のトークテーマは主に3つで、そのうちのひとつは出雲大社に参拝した話。開演前に土砂降りの雨が降ったのは先述の通りだが、どうやら彼らはリハーサル前に観光目的で出雲大社に赴いた際、参拝後に入口で写真撮影をしようと思い立ったところでゲリラ豪雨に見舞われたのだという。そこで急いで車に走るも途中でソゴウの傘がひっくり返り、再び戻った瞬間に中に溜まった雨水が頭に落ちてきた……と爆笑するメンバーたち。ただ転んでもただでは起きないのが彼らであり、ヨコタは「でも昔の人って良く言うやん。参拝した後に雨降るのは縁起ええんやって。穢れとか全部洗い流してくれるから」とフォロー。けれどもセイヤは「そう考えなやってやれんかったんちゃう?ほら、昔の人って車とかないから何時間もかけて歩いて行く訳やろ。そこであんな雨降られてみ?」と冷静に分析。なおこのワンシーンは奇しくもセイヤのツイッターに投稿済みなので是非ともご確認ください。

 

会場一体となった《ガーオガーオ》のレスポンスが光った“おいしい怪獣”、某不動産会社のCMソングとしてもお茶の間に広がったファストチューン“家”、様々な元号を経て令和に繋いだ“ギリ昭和”と次々楽曲を披露していく中、驚きのハプニングと共に爆笑を掻っ攫ったのは隠れたアップテンポ曲“記憶にございません”だろう。政治家が返答を渋る際に発するこの言葉、無論楽曲内でもそれらしき表現が存在するのだが、問題のシーンはセイヤがハンドマイクに持ち替えて「失墜は一瞬です」と語る際に発生。注目を一身に集める中、何とマイクの電源が入らないトラブルが起こってしまったのである。焦りまくったセイヤはすかさず「本当にマイクが入らなかったんです」と泣き顔で弁明するも、奇跡的に続けて歌われる《嘘つきはドロボウの始まり》の歌詞でもって笑いが増幅するというまさかの状況に。演奏終了後も「これまで何百回も入れてきた電源がなんで……?」と何度もセイヤは呟いていたが、結果的には最高のハプニングで会場は大いに沸いた。

 

“KMDT25”で会場を盆踊りで盛り上げると、続いては再び爆笑必至のMC2へ。全国的には地方都市と呼んで差し支えない島根県故にキュウソメンバーもその大半が数年ぶりの来県だったが、セイヤは今年1度テレビ番組への出演で出雲に来たことがあるそう。以降は出雲にあるとあるお芋屋さんでの『ジャンケンに命を掛けた女性店員』との思い出を語り始めていくセイヤである。この女性はどうやらお芋屋の傍らジャンケン最強を自称しているらしく、セイヤが勝負を挑んだ瞬間から目の色が変わって好戦的になったと言う(セイヤいわく『ジョジョのスタンドが出てるみたいな感じ』)。気になる戦績はボロボロで、不思議なことに本当に連戦連勝だったようである。ただ無心でジャンケンをしたら勝てたとのことで、締め括りとして「やるなら無の境地で行け」「何かのアトラクション感覚で1度は行ってみてほしい」と語っていた。

 

キュウソネコカミ - 「NO MORE 劣化実写化」MUSIC VIDEO - YouTube

その後は「続いては新曲なんですが芋ともジャンケンとも一切関係ございません。殺人鬼の歌です」と新曲“スプラッター”、現代映画の在り方に斬り込む“NO MORE 劣化実写化”、印象的な《推しは推せるときに推せ》のフレーズが力強く叫ばれた“推しのいる生活”と畳み掛け。キュウソの楽曲は全く異なる視点からのフックが飛び出すものだけれど、それこそ“NO MORE 劣化実写化”のような、これまで誰もが思っていながら公言出来ないいろいろをぶつける試みは痛快だった。本当に彼らの着眼点には感服するし、よくよく考えれば彼らはこうした楽曲制作スタンスを長らく続けているのだ。流石としか言いようがない。

 

キュウソネコカミ - ビビった MUSIC VIDEO - YouTube

そして「ここで来たか」のタイミングで満を持して鳴らされるのは代表曲“ビビった”。セイヤの「よっしゃ来いやー!」の絶叫から会場のボルテージは急上昇だ。オカザワはリードギタリストとしてサウンドの印象部を形成し、サポートのシンディは縁の下の力持ち的に丁寧に演奏。日々の筋トレでドラムに尽くしてきたソゴウも、力強いドラミングで圧倒している。……では残す2人はどうかと言えば完全燃焼の振り切りぶりで、汗でベタついた髪を流して歌うセイヤも、飛び跳ねまくるヨコタも素晴らしくアクティブ。メジャーデビューのリアルを歌った“ビビった”に顕著だが、生き残ることが難しい音楽業界で彼らが尻すぼみせず第一線で続けられているその理由を、はっきりと示すシーンだったように思う。


なお気になる本編最後のMC内容は、ソゴウの運転についてだった。彼はこれまで約30年間免許を取っておらず、取得後も頑として車の運転を拒んできた。けれども遂にこの日は関西から運転を決行。メンバーが思わず感慨深くなってしまうほど、レアなシーンが続いたのだという。ただそのドライビングテクに関しては未だ難アリで、高速の合流地点を20〜30キロで進んでマネージャー加藤に指導されたり(セイヤいわく『マリオカートのキノピオハイウェイくらいトラックに抜かれた』)、普通道に戻っても高速のスピードを出しかけてしまったり、果ては社名の書かれたセレナに煽られるなど抱腹絶倒のエピソードが次々飛び出す。結果普通道からは、見かねた徹夜状態のマネージャー加藤が運転するというオチまで含めて、ここ数年のバンドのMCの中ではずば抜けて笑った気も。

 

キュウソネコカミ - 「The band」MUSIC VIDEO(YouTube ver.) - YouTube

キュウソの楽曲の多くが社会に鋭く切り込む作風であることは、前述の通りだ。けれども本編中盤に鳴らされたふたつの楽曲には、彼らのロックバンドとしての信条を感じずにはいられなかった。そのうちのひとつが“The band”。セイヤは演奏前、コロナで辛い思いをした我々に思いを寄せながら「みんな生きとって良かったな!この距離で姿が観れる。これがライブハウスですよ!」と叫んだ。……確かに彼らはロックバンドの素晴らしさについて、この楽曲で歌っている。ただその本質は少し違う方向にあると思っていて、自分たちが『ロックバンド』として存在していられるのは応援している人がいるからだと、今も絶やさず考えていることの証左でもあるのでは。

 

キュウソネコカミ - 「3minutes」 - YouTube

そして本編最後に披露されたのは、ライブハウスに焦点を当てた“3minutes”。まだまだライブハウスへの風当たりは強いけれど、少なくともこの日集まった人々にとって、“3minutes”はこれ以上なく心に刺さった楽曲のはず。……密集・密接・密閉でここ数年何かと槍玉に上がったライブハウス。歌詞にもあるように、ライブハウスは無くても死なないというのが世間一般的なイメージなのは間違いない。けれど、これが俺たちの生き甲斐なのだ。彼らは最後まで全力で力を出し切ってこの楽曲を歌ってくれた。そのことに、深い感謝と感動を覚えた次第だ。しかも終わり際にヨコタはタオルを掲げながら、車を運転するネズミくんとヨコタを見比べる爆笑のラスト。もういろいろとさすが過ぎる。


客電が落ち、周りが静かになってもまだライブは終わらない。「もっと聴かせてくれ!」と段々強くなる拍手に誘われるように、再び登場したメンバーたちはお揃いのツアー黒Tでお目見えだ。ヨコタはTシャツに描かれたネズミくんを再度指さし「このTシャツはツアーでずっと売ってるけど、この運転手ソゴウバージョンは出雲だけやから。はじめてヴァージン捧げた県」と特別さをアピール。このTシャツが終演後売れまくったことはここに記すまでもあるまい。

 

キュウソネコカミ - 「優勝」 - YouTube

爆笑のMCもそこそこにアンコール1曲目に選ばれたのは、東京スカパラダイスオーケストラとのコラボも話題になった“優勝”。ホーン隊の部分は打ち込みで代替し、音源とはまた違ったアレンジでの進行となったが、とても初見の人多数とは思えないほどの盛り上がりである。また、それこそ『自分の興味のあるものしか観ない』という良くも悪くも多極化した音楽が有り余る中で、ほぼ初見の人でもグンと興奮させるのはやはり、ライブの特権だなあと思ったりも。


キュウソのワンマンライブは、基本的には2時間がリミット。その頃の時刻としては1時間45分を過ぎようというところで、もうじき全てが終わってしまうことは誰の目にも明らかだったろう。ヨコタはお立ち台に登って「俺が合図したら終わるぞ!いいのか!」と名残惜しそうに語り、最後に「また出雲に来ます。大好きなので。松江もまた!今度はカニ食べに行こっかなー!」とPUFFYの《カニ食べ行こう》のダンスをしながら、本当にラストの楽曲に。もちろんラストはシメの定番曲“ハッピーポンコツ”である。

 

キュウソネコカミ - 「ハッピーポンコツ」MUSIC VIDEO - YouTube

少し話は逸れるけれど何というか、ライブハウスに好んで赴く人は、日々の鬱屈を発散するために来ていることプラス、世間一般のイメージよりも音楽を高く位置している節があると思っている。そしてその理由の根本を辿っていけば、社会で上手くやっていけないけどライブがあるから生きられるとか、毎日死にたいけどライブに行けば笑顔になれるとか、そういう類の糧でもある。……“3minutes”でも記したけれど、おそらくライブハウスに行く人は世間一般的には少数派。でもそれはイコール、音楽がなくてもある程度生きられる人が多数派であるという、悲しい証明でもあろう。そんな中で“ハッピーポンコツ”は、たとえ仕事が出来なくても。陰口を叩かれても……。それでも何とかやっていけるんだと社会的弱者に伝えてくれる。それがどれほど感謝するに値するものなのかは不明にしろ、少なくともこの日集まった人々にとっては、何よりのメッセージになったことだろう。


「西宮の5人組、キュウソネコカミでした!」との宣言から、相席食堂のテーマソング・UNICORN“7th Ave.”が流れるエンディングを観ながら思う。この日はこれから何十年経っても忘れないライブになるだろうと……。それは豪雨がどうだとか地方都市でのキュウソのレア感がどうだとか、多分そういったことではない。ライブハウスで全身全霊で思いを届ける、キュウソネコカミという最強のバンドがもたらした多幸感が純粋にそう思わせている。……ライブハウスは三密?遠征は危険が伴う?確かに『普通』の人ならそうだろう。でも少なくとも音楽を愛する我々的には、この空間は何よりの宝物。それを改めて教えてくれたのは何を隠そう、この日出演した一組のネズミたちだった。

【キュウソネコカミ@出雲APOLLO セットリスト】
Welcome to 西宮
MEGA SHAKE IT!
メンヘラちゃん
ファントムヴァイブレーション
おいしい怪獣

ギリ昭和
記憶にございません
KMDT25
スプラッター(新曲)
NO MORE 劣化実写化
スベテヨシゼンカナヤバジュモン
推しのいる生活
ビビった
何も無い休日
The band
3minutes

[アンコール]
優勝(新曲)
ハッピーポンコツ