キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】10-FEET『25th ANNIVERSARY ONE-MAN TOUR 2022』@BLUE LIVE 広島

こんばんは、キタガワです。

 

https://10-feet.kyoto/

今回のツアータイトルを見た瞬間「もう25年も彼らは愛され続けているんだなあ」と感じ、何だか嬉しくなったのを覚えている。……邦ロックシーンを席巻する言わずもがなのロックバンド・10-FEET待望の全国ツアー。それはセットリスト的にも活動を総括する意味合いがあったのは間違いないけれど、それ以上に彼らがどれ程熱いステージングでファンの心を動かしてきたのかを、はっきりと感じさせるものだった。


会場は広島港のほど近く、目の前に海が見える絶好のロケーションのブルーライブ広島。これまで10-FEETが何度もソールドアウト公演を繰り広げてきた思い出の地である。まだ空も明るい時間帯に到着すると、そこには見渡す限りの人、人、人。しかもそのほとんどが10-FEET、もしくは京都大作戦(10-FEET主催のフェス)のTシャツを着用するファンたちで、中にはファン同士で「○○さんやっと会えた!」と合流する集団も多数。おそらく県外から訪れたファンもかなりの数いるだろうけれど、それにしてもこの熱気はどのライブバンドにもない特殊な代物だ。


場内アナウンスの後に拍手が巻き起こる最高の流れを経て、ライブは定刻の5分後にスタート。お馴染みのドラゴンクエストⅢメインテーマである“そして伝説へ…”の壮大なSEが流れると、全てのファンが手拍子で応戦。彼らがステージに姿を現したのはそのSEを我々がじっくり聴き終えた後のことで、真っ赤に照らされる照明の下で真剣にチューニングを行う3人のコントラストが光る。今回はリリースツアーではないため「1曲目は何だろう……」多くのファンが思いを巡らせていたことだろうが、TAKUMA(Vo.G)が「ハハーっ!GO!」と叫んだことで、誰もが瞬時に理解する。そう。1曲目は2007年リリースのライブアンセム“SHOES”である。

 

10-FEET - SHOES - YouTube

英語を多用し、圧巻のスピードで駆け抜ける“SHOES”。カラオケ等で多くのファンが歌唱を放棄した経験があるであろう、あの矢継ぎ早に繰り出されるフレーズを噛み締めつつ、踊りたい気持ちをグッと堪えてステージをじっくり凝視する。TAKUMAは独特の高さの位置のギターを弾きながら熱唱しているし、NAOKI(B.Vo)はアグレッシブに動き回りながらピック弾きでサウンドを下支え。KOUICHI(Dr)は満面の笑顔がたまに真顔になりながら、力強くスティックを打ち下ろしている。うん、いつもの最強の10-FEETだ。そしてファンについても思わずツーステを踏んでしまったり声を出してしまったりする一幕も多少ありつつ、全力でルールを守って楽しもうとする感覚が伝わってきて感動的。……かくして最高の一夜はその幕を上げたのだった。


今回のセットリストは、とても雑に表現すれば現時点での10-FEETの入門的ベスト。一般的に代表曲と呼ばれるレベルのキラーチューンはほぼほぼ網羅していて(実際これまでリリースされたベストアルバムの収録楽曲が大半を占めていた)、これまで追い続けてきたファンにとっても『考え得る限り最強のセトリ』を体現していたように思う。そんな中で少し趣向を凝らしているなと感じたのはその構成。取り分け前半部分は英語詞をフィーチャーしたものを、逆に後半部分では日本語の歌詞の深みを携えたメッセージソングを中心に入れ込んでいて、結果彼らがライブで何を伝えようとしているのか、その真意を我々が汲み取ることの出来るような展開を作っていたことは特筆すべきだろう。

 

10-FEET - hammer ska feat.東京スカパラダイスオーケストラ - YouTube

約2時間半、総演奏数24曲という結果からも分かる通り、特に前半はどんどん楽曲をプレイするスタイル。声が出せない部分を腕を突き上げることでカバーした”hammar ska“、10-FEET側とのレスポンスが楽しい”火とリズム“、関西的なラップと転調でぐんぐん熱量を上昇させた”1 size FITS ALL“……。まだまだ制限はあるため今回は白いマス目の中で鑑賞するライブだったが、これまでのライブ風景だとモッシュ&ダイブが大発生すること請け合いのアッパーな連続には、ファン大歓喜。その証拠として早い段階で体中はじんわり汗ばみ、空中には霧が出現。「こんなことなったのツアーで初めてちゃうかな」とNAOKIは語っていたけれど、異様な盛り上がりがそこにはあった。


ただそんなライブの激しいイメージとは対照的に、MCでは一気に脱力するのが10-FEETらしさ。楽曲が終わった瞬間にTAKUMAは『いーけないんだーいけないんだー♪』のリズムで、NAOKIのベースが壊れてしまっていろいろと試行錯誤するも結局2本目のベースに持ち替えたことを暴露。「やからこれが壊れたらライブ終わりです。どうする?ギターでもやる?」と笑顔で語るTAKUMA。純粋に10-FEETが25周年ということは彼らの関係も25年以上続いている計算になるが、ライブの彼らは本当に仲良しで、見ているこちらも思わず笑顔に。

 

10-FEET - 1 size FITS ALL - YouTube

そこからは「何か話しといて。チューニングにあと50年かかるから」とするTAKUMAの一幕を挟みつつ、NAOKIとKOUICHIによるMCに。しかしながらNAOKIが真面目に語っているところで、KOUICHIが照明さんに自分のところだけ明るくしてもらうようコッソリ提案。結果、KOUICHIにピンスポが当たっているけど話しているのはNAOKI……というコントのような展開となり、特にやることもないのでスティックを持って伸びをしたりキメ顔をするKOUICHI(もちろんめちゃくちゃ目立ってます)と、暗闇の中で真面目にライブの大切さについて語るNAOKIの対比が更に爆笑を誘っていく。ただ後にMCを振られたKOUICHIは「いやー広島はやっぱりいいところですよね。……はあ!?」とややウケな状況をセルフツッコミする順応ぶりで、まさしくいつも通りの3人である。


かたやチューニングの終わったTAKUMAは「俺たち新しいことやり続けていくから」と、新ライブ様式としてスポッチャのバブルサッカー、鎧を着てライブなど次々提案。しかしながらどんどんウケ具合が下降線を辿ることを察したTAKUMAは「じゃあ、ありがとうございました。……ええなこれ。フェスとかでやってみる?怒られへんくらいの曲数やって。MCやって。こんな感じ(MCでウケなくなったとき)になった瞬間に『じゃあ、ありがとうございました……っていきなり終わるとか」と絶対に賛否両論ある流れに切り込んだところで、「じゃあ曲やりまーす」と無理矢理ハンドルを戻していた。

 

10-FEET「RIVER」Music Video - YouTube

前半部分のハイライトは、10-FEETのライブにおける鉄板曲“RIVER”。TAKUMAが単音でギターを弾き倒した果てに、一気に熱量が急上昇する様は何度観ても感動的だったし、この日は広島ならではの試みとして《枯れるまで流れゆく河》の部分を『流川』と『太田川』に変えて歌唱する場面もあり、その都度嬉しさのあまりファンの腕が挙がる光景が楽しい。……確かにAメロで本来「HEY!」と叫びながら腕を挙げる場面や《あのRIVER-VER RIVER》のフレーズを大合唱することは、コロナの制限によって不可能ではあった。けれども合唱ポイントでは誰もが腕を挙げ、それを見るTAKUMAも敢えて自分でその箇所を歌わずファンの動きに託していた。これを信頼と言わずに何と言おうか。

 

10-FEET ― アンテナラスト ~京都大作戦2016 LIVE VERSION~ - YouTube

ここからは折り返しの後半戦。先に記した通り、これまでが彼らのミクスチャーロック然とした楽曲を披露していたとすれば、後半は歌詞の深みをグッと心に落とし込む、号泣必至の楽曲が多数演奏された。嘘の言葉に疲弊する心情を歌った“アオ”、年齢と共に次第につまらなくなってしまう思考を世界と照らした“淋しさに火をくべ”、悲しみを溜め込む精神的弱者に寄り添う“2%”、傷付き合う関係性を思い出として昇華する“アンテナラスト”……。たとえばポジティブな人から「頑張れ!」と無神経に言われたり、逆にネガティブな人から共依存的に「お互い辛いよね」と言われたりするのとは圧倒的に違う。本当に悲しい経験を数多く経験した10-FEETだからこそ、その思いは心に響く。このあたりから目に涙を浮かべるファンも増えて、でも激しいロックで体は動くという、ある意味では泣き笑いのような状況に変わるフロア。


死んだらあかんで。自分の気持ちを溜め込んで、辛い気持ちになることが生きとったらたくさんある。怒りたいけど怒られへん。言いたくても言ったらあかん。やから結局自分を傷付けてしまったり。そういう人たち。でも誰かの一言で楽になることもあって、逆も然り。ありがとう。ごめんな。好きやで。……言葉にするタイミングさえ間違えへんかったら、きっと大丈夫です」

「俺も根暗やし。ライブでイエーイ!って言ってるのも、多分根暗やからやと思います。ただどれだけ辛くてもライブがあれば頑張れるって、ロックがあれば生きれるって、そう思ってくれたら嬉しいです。今日は仕事の関係で無理して来てくれた人もおるかもしれへん。ほんまありがとう。……また辛いことあれば3人の夜回りおじさんがいつでも来ますので。生きていきましょう」

 

10-FEET - 蜃気楼 LIVE VERSION(10-FEET野外ワンマンライブ2019 in 稲佐山) - YouTube

取り分け会場内に大粒の涙が流れたのは“蜃気楼”の一幕。TAKUMAはこの楽曲を演奏する直前、ギターを鳴らしながらの長尺のMCでもってこう語ってくれた。まるで信頼出来る友人から肩を叩かれるように穏やかなそれは、彼なりの最大級のエールだったに違いない。そうして雪崩れ込んだ“蜃気楼”。何度も繰り返す絶叫ゆえに声を枯らしながら、TAKUMAは思いの丈をストレートにぶつけ続け、ファンは涙で顔を濡らしながら腕を挙げて答えている。音楽での対話はここまで感動的なものなのかと心底驚いたけれど、よくよく考えればこの感動も10-FEETだから成し得たこと。

 

10-FEET - その向こうへ LIVE VERSION(2018.2.22 Zepp Tokyo) - YouTube

そしてTAKUMAによる「アンコールの時間を使ってあと4曲やって帰ります。ありがとうございました」との一言からは、クライマックスに向けてのアッパーナンバーの連続だ。「飛べー!」の一言で会場が揺れた“VIBES BY VIBES”、限界突破の絶唱が刺さった“ヒトリセカイ”など度重なる絶頂にこの日何度目かの感動を覚えた中で、やはり“その向こうへ”のパフォーマンスには心を強く揺さぶられた。TAKUMAはリフを弾き終えると「しっかり観とかんかーい!」と絶叫し、そこからは池にピラニアを放つレベルの獰猛さでファンが揺れる揺れる。まるで死にたい気持ちと生き辛い思いの、その向こうへ行けるように。顔はもはやグチャグチャで汗もダラダラだけど「こんな最高の時間を過ごすことが出来るなら人生も悪くないかな」と、強く感じた幸福な時間だった。

 

10-FEET - goes on - YouTube

気になっていたラストソングは何と“goes on”。これを聴かねば帰れない、10-FEET鉄板のパンクアンセムだ。体を駆け巡る興奮からツーステを踏んだり体をクルクル回転させるファンたちを観ながら、TAKUMAは「ありがとう」「悲しいこともいつかストーリーになるよ」と笑顔で語り、改めて感謝を伝えていた。そしてラスサビでは「あれ行こかー」とファンを全員しゃがませての恒例の大爆発だ。当然楽曲が終わる頃にはファンは全ての力を出し尽くして満面の笑顔。その光景を観ながらTAKUMAは「疲れたらおいで。そしたらまた一緒にもっと疲れよう」と優しく微笑んで、とてつもなく感動的なライブはその幕を閉じたのだった。


京都大作戦を毎年楽しみにし、単独ライブには決まって足を運ぶ我々ファンはもちろんとして、ヤバTやマンウィズら若手バンドにも多大な影響を与えているのが10-FEET、という事実は本当に広く知られている。ただ「何をもって彼らに心酔するのか」を考えたとき、説明が難しい。……そんな中で、おそらく10-FEETの人気の理由を分かりやすく伝えるには『ライブに参戦すること』が最も適しているのだろうと思う。それはズバリ、何より熱量を強く感じることが出来るからだ。誇張ではなく、10-FEETのライブがあるから今日も生きている人も絶対にいる。


間違いなくこの日のライブでもきっと誰かを救っているはずだけれど、もしそう伝えても彼らは「ホンマありがとう」の次に「でもそれは君が頑張ったからやで」と語って、手をヒラヒラさせながらその場を去るのだろう。……なので生活を彩ってくれた彼らへの感謝は、これからも出来る限りライブに参戦することで伝えていけたらと思う。本当に最高のライブだった。


【10-FEET@ブルーライブ広島 セットリスト】
SHOES
STONE COLD BREAK
hammar ska
火とリズム
CHOICE
4REST
1 size FITS ALL
RIVER
PLANLESS
ハローフィクサー
淋しさに火をくべ
アオ
2%
アンテナラスト
recollection
LITTLE MORE THAN BEFORE
蜃気楼
シエラのように
quiet
VIBES BY VIBES
その向こうへ
ヒトリセカイ
goes on