キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

TikTokでバズったTo Be Continuedと”ランドアバウト“。そしてイエスのドラマー、アラン・ホワイトの死について

こんばんは、キタガワです。


フー・ファイターズのテイラーといい、デペッシュ・モードのアンディーといい……。特にここ最近は往年のロックバンドのメンバーの死が立て続けに起こっている感がある。確かに重鎮的バンドであれば年齢も年相応。それこそ「もう何キロもある衣装を履いて動けない」と身体的な理由で引退表明を行ったキッスのように、苦渋の決断で去っていくバンドもいて然るべきだろう。けれども未だ現役で、しかも1週間前に今年の来日公演を発表したアーティストが数日後に亡くなってしまうなんてことは、これまでになかったはずなのだ。……ただ、イエスのドラマーであったアラン・ホワイトを追悼することは敢えてしない。今回は最強のロックバンドでありながらも自分たちが好きな音楽性のみを探求し続けてきたイエス。彼らがこの令和に生み出した奇跡的なバズを、少しではあるが紐解いていきたい。

 

本題に移る前に、まずはイエスというバンドについて記さねばなるまい。イエスは1969年にデビューしたイングランド出身のバンドであり、活動歴としては単純計算で50年以上。この活動期間は日本で暮らす我々も良く知るQUEENやoasisよりも長いものだ。ただ彼らは先述のQUEEN、oasisらとは異なりその特殊な音楽性からかブレークまでかなりの時間を要したし、ブレーク後も様々な問題に苦しめられたバンドであったとも言える。彼らのデビューは『イエス・ファーストアルバム』と名付けられた作品から始まる。当時はロックバンド全盛期、更にはイングランド出身のバンド自体がそもそも少なかったことも相まって、彼らには早い段階で大手レーベルからの声がけがあったとされる。その頃のイエスは若き頃の初期衝動というか、自分たちがやりたい音楽を貫いた結果聴いたこともない曲を演奏している感覚で、それが確固たるオリジナリティでもあった。しかしながら対照的に売上はなかなか見込めず、順風満帆とは行かなかったようだ。

 

Roundabout (2008 Remaster) - YouTube

そこからイエスは、レコード会社との対立やアート音楽の流行(当時の彼らは売れるためにアート路線の試行錯誤を重ねていた)など様々な問題を抱えながら、遂に名盤『こわれもの(Fragile)』で一世を風靡する。そのアルバムの中でも注目されていたのがタイトルにも記した”ランドアバウト(Roundabout)“であり、ここからイエスの名は広く知れ渡ることになる。ちなみに、あと数カ月後に東京・大阪・名古屋で行われる予定で動いている『”危機“50周年記念再現ツアー』、この完全再現作であるアルバム『危機(Close to the Edge)』よりも、この”ランドアバウト“のリリースは圧倒的に早かったりもする。

 

Yes - Roundabout (live at Rock & Roll Hall of Fame 2017 induction ceremony) - remastered audio - YouTube

イエスのその後の動きはWikipediaに詳しいので割愛するが、とにかくイエスはめちゃくちゃに変わり続ける自分の音楽性をある意味では自分らしさで貫き通したし、ファンもその楽曲に絶大な信頼感で答え続けてきた。ただそれこそ我々10代〜20代の日本人が小椋佳、キャンディーズ、一世風靡セピアといった数十年前の音楽の話題にあまり興味が持てないように、言い方は悪いが年月が経つごとに古い音楽は次第に「合わない」と感じるようにもなってしまう。イエスも同様に、例えば今50代くらいの人には間違いなく知られている中で、当然若い人々には少なくとも楽曲は知られていないよね、という状況に長らく陥っていたのが現実だった。

 

To Be Continued - COMPILATION [4chan webms] - YouTube

そんな折、おそらく彼ら自身も全く予想もしていなかったバズが起こった。そう。それこそが今も若者世代にお馴染みのTikTokである。音楽に合わせて何かアクションを起こすTikTokの取り分け悲劇的な展開を迎える動画『To Be Continued』に対して、その緩やかな助走から一気に盛り上がる曲調の”ランドアバウト“は瞬く間に多用、拡散された。”ランドアバウト“はフリー素材ではないため著作権違反と言えばグレーゾーンではあれど、特に海外ではこうした楽曲使用・動画使用に関して非常に寛容であることも作用したのだろう。気付けば”ランドアバウト“は『To Be Continued』動画に必須な楽曲となり、そこから「そう言えばあの楽曲って何?」となり、結果としてイエスの注目度は若者を中心にこの時代にはあり得ない程に加速した。何度も繰り返してしまって申し訳ないがイエスは若者が彼らの存在すら知らなかった時代、1969年結成のバンド。しかもこの楽曲は「なるべく3分以内で収めろ」といった流行りと逆行する8分台の楽曲なのだ……。

 

翻ってイエスのドラマー、アラン・ホワイトの一報。もちろん、今50〜60代の人が彼の死を悲しむのは分かる。けれども驚いたのは、かなり若い世代でも彼を弔うリプライを書き記す若者が多数存在したこと。中には「TikTokでイエスの大ファンになりました」という若者や「”ランドアバウト“からお父さんとイエスの話で盛り上がりました。ありがとう」とする感謝など、音楽が時代を超えて愛される素晴らしさを目にすることもあり、何だか嬉しくなってしまった。……CDがサブスクに代わり、CD売上が売れ線アーティスト一色になり、激し目の曲が増えたり。正直歳を取るにつれて「あの頃の方が良かったなあ」と思うことはあるけれど、それでも。その『逆』の強みを見せてくれたのは、やはりイエスが今のところ最前線にあたる。


ちなみにこの予期せぬ大ブレークについて、イエスは大きなコメントは出していない。メンバーのほとんどが70歳を迎え、その裏で10〜20代の若者中心に”ランドアバウト“が広がっているという謎過ぎる事実はきっと気付いてはいるだろうが……。何が起きるか分からない追い風が今吹いているのは確かだろう。誰が予想したか、数十年越しのイエスの奇跡。アラン・ホワイトが亡くなったことは本当にショックだが、その遺志を次いでこれから始まるイエスの動きを、しっかりと見定めていきたい。