キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

ボソボソ喋る(スポークン・ワード)系の若手洋楽アーティスト5選

こんばんは、キタガワです。

ポップにラップ、ロックンロール、ボサノヴァ、チルアウト……。たった一言で表すことの出来る『音楽』の娯楽はその実、数え切れないほど様々なジャンル分けでもって成り立つ無限の可能性を秘めている。特に最近では音楽性のみならずボカロ、K-POP、ネット音楽などその分類は更に多様化を極めている状況にあり、この記事を読んでくださっている読者の方々にとっても、「私は○○系の音楽が好き!」という大まかな感覚は存在することだろう。

そんな中、これまで明確なジャンル分けが成されて来なかった音楽もいくつかあり、そのうちのひとつが今回タイトルにも記した『ボソボソ喋る系』の音楽だ。ちなみにこれは単に筆者が勝手に『ボソボソ喋る系』としているだけなので抽象的な表現となってしまい申し訳ないのだが、一般的にはスポークン・ワードと呼ばれる。以下の鼓膜の裏で囁くような歌声で注目を浴びたビリー・アイリッシュよりももっと淡々と語るだけの音楽、と言えば伝わりやすいかもしれない。ただこれらの音楽はその特性上エゴサーチも検索も難しい部類のものとして位置していて、もしも好きだと感じたところで調べることさえ億劫……。

前置きが長くなってしまったが、今回はそうした形容し難い『ボソボソ喋る系の音楽』にフォーカスを当て、特に20代前後の新進気鋭の洋楽アーティストに絞って紹介していく。なお彼らは未だ日本では馴染みがなく(もちろん来日公演もない)、おそらく大多数の人々が初見であることと推察する。しかしながら海外では有名フェスにも名を連ねるアーティストばかりなので、その注目度は折り紙付き。是非ともその素晴らしい音楽性にも耳を傾けつつ、未だ謎ジャンルなミュージックセンスに浸ってみてほしい。

 


・Wet Leg

2022年4月に初のアルバムリリースを控えた、よもやのデビュー前のタイミングにも関わらず大バズを巻き起こしたのが女性二人組バンドのウェット・レッグ。その楽曲というのが以下の“Chaise Longue”なのだが、タイトルからして『長椅子』だし、歌声は言葉を選ばずに言えばヘタウマの感覚で、なおかつ音も軽い。そんな一見超インディー感さえ抱かせる現在地には思わず笑ってしまいそうになるが、彼女たちの凄いところはこれらを本能のままやってのけたことだ。

特に今の音楽は基本的にサビが耳に残る、MVがカワイイなど、聴き手に何かしらが刺さるように作られることが多い。もちろん全部が全部そうとは言い切れないけれども、これらが意味するのはつまり、天然型の音楽が生まれづらくなっているという事実でもある。ではウェット・レッグはどうか……と考えたときに面白いのが、彼女たちは田舎町でフラっとギターを構えて曲を作った結果この音楽性に辿り着いていて、そこにほとんど音楽的背景がないこと。何となーく作った曲が何故かバズっちゃって、自分たちも驚いているけどまあ別にどうでも良いっちゃあ良いよねという、今の若者的思考も楽しい。思いを力強く放つことなくまるで何かを諦めるが如くのマイペースを貫くウェット・レッグは、あのイギー・ポップからも太鼓判を押されながら現在音楽シーンを躍進中。来たる4月リリースの初アルバムからは、きっと大きな何かが動き出すはずだ。

Wet Leg - Chaise Longue (Official Video) - YouTube


・Yard Act

続いてはイングランドからヤード・アクト。彼らについて語られる際は、その音楽性はもちろんのこと、しばしばその歌詞に注目が集まることも多い。というのも、彼らが放つ言葉は物々交換によって日銭を得る行為であったり(“The Trapper‘s Pelts”)、ポスターに記された半額の文字や住宅所有者や路上駐車(“Fixer Upper”)など基本的には貧富の差であり、それが結果としてほとんどのアーティストが歌詞に入れない稀有さにも繋がり、メキメキと頭角を現しつつある。

しかもその表現もかなりグレーゾーンというか、場合によっては表現規制をされる可能性もあるレベルの際どいものばかり。今を生きるヤード・アクトという若者たちは、世間を常に俯瞰して楽曲に落とし込もうとしているのだ。加えて彼らのライブパフォーマンスもキワキワを攻めており、どんどん壊れていくジェームス・スミス(Vo)の姿も話題をさらう程。イギリス国内では一時4月時点で最大のレコードセールスを記録したとの報告もある彼らは、現在全国各地でライブ武者修行中。ここ日本での来日公演も、近いうちに実現しそうな感も……。

Yard Act - The Overload - YouTube


・Dry Cleaning

『ドライ・クリーニング(洗濯機)』とのバンド名を付けたとき、きっと彼ら自身ここまで注目される存在になるとは、流石に思っていなかったに違いない。まだまだ若手ながら、早い段階で超有名アーティストイギー・ポップから推され、大型フェスへのブッキングが固まったりしているのは、彼らに底知れぬ魅力がある証左だろう。

そんな彼らの気になるサウンド面はアート・パンクの異端児とも呼べる代物で、基本的には少ない音数でフローレンス・ショウ(Vo)が喋る挑戦的なスタンス。それもそのはず、フローレンスはバンドを組んだ経験がなくほぼ初心者。言わば彼女をサポートする役割をバンド全体が担っているからだ。一箇所が抜ければ破綻するレベルのキワキワ感は以下の“Scratchcard Lanyard”に詳しいけれど、逆にこのミニマルさが無骨な雰囲気を醸し出していて最高だ。その他、音楽的広がりにも若干の懸念点はあれど、結成したてとしてはかなりの注目度を得ているので、これからの飛躍に期待が高まるバンド。……先日リリースされた新曲“Tony speaks!”も想像を遥かに上回る脱力ぶりなので、この機会に是非一聴を。

Dry Cleaning - Scratchcard Lanyard (Official Video) - YouTube

 

・Billy Nomates

次世代アーティストの稀有な雰囲気がじわじわと注目を集めている今、取り分けどこにも染まらないオリジナリティーを醸し出す人物がいる。その名はビリー・ノーメイツと言い、緑広がるイギリス・レスターシャー州の田舎で育ったポストパンクアーティストだ。彼女が鳴らす楽曲はとにかくミニマルで、具体的には必要最小限のベースとドラムがぐるぐる回る中、マイペースに言葉を紡いでいくという独特のスタイル。そんな彼女は名前と雰囲気の類似から『暗いビリー・アイリッシュ』と呼ばれることもある程だが、ビリー・ノーメイツの本質は決してそこじゃない。

彼女はとにかく、伝える内容が等身大。彼女の楽曲は例えるとすれば日記の朗読で、理路整然と話すのではなく箇条書きにした言葉を読み上げる感覚に近い。故に我々的にはどこか青年の主張を聴いているようで新鮮味もある訳だが、イコールそれが彼女の魅力として確立しているのも面白い。ちなみにライブではバックバンドを一切入れずたったひとりでステージに立つ(!)超ストロングスタイルで、よりシンプルに曲に没入出来る作りになっているのも特徴的だ。まだ日本での知名度は低いし、CDも輸入盤を取り寄せるしかない現状ではあるが、それでも。一聴した瞬間「この才能が埋もれることは避けなければならない」とする直感が働く稀有なアーティストだ。

Billy Nomates - No - YouTube


・black midi

弱冠20歳、ロンドンの若きロックバンドブラック・ミディ。彼らが今回取り上げた他アーティストと大きく異なるのは、楽曲をどこか自己探求の一環として捉えている点だ。そのためサウンドも歌詞も良い意味で一貫性がなく、中には以下の“John L”のように弦楽器や不協和音、更には変拍子要素も盛り込んだカオス曲も多数存在する。先日リリースされたアルバム『Cavalcade』では、CDショップ展開の際に『無尽蔵の音楽隊列が戦慄の速度で駆け抜ける!』との謎のキャッチコピーが記されたことは記憶に新しいけれど、彼らの音楽はまさしくそんなルール無用の探求を体現したものだろう。

なお彼らのバンド名に冠されている『ブラック・ミディ』はMIDI……つまりは異様な音数でサウンドを支配する音楽ジャンルを元にしたもので、彼らが結成当初からこうしたサウンドを軸にしようと計画していたことが伺える。今でもSquidやBlack Country, New Roadら若手スポークン・ワード系バンドが台頭している海外バンドシーン、実はそのブレイクの先陣を切ったのはこのブラック・ミディであるということも一緒に覚えつつ、先日の『コーチェラ・フェスティバル 2022』ではレッド・ホット・チリ・ペッパーズの“Can't Stop”を独自のアレンジで展開したカオティックなイメージサウンドの沼に一度ハマってみてほしい。

black midi - John L - YouTube

 

音楽の可能性は無限大……という言葉を最初に発したのは誰だったか、今や本当に多種多様な音楽が日々生まれ、消費されている。これはとても素晴らしいことだと心底思う中で、やはり「聴いたことのない新しい系統の曲が聴きたい!」と罪な感情に捕らわれてしまうこともままある。今回のスポークン・ワードのジャンルはまだまだメジャーには程遠いけれど、数あるアーティストへの発見の意味も込めて、個人的には布教して行きたいと思っている。……実際、今回取り上げた中ではWet Legやblack midiらは音楽評論家からも高い評価を受けていたりもして、あながち未開拓・インディーという訳でもなかったりする。ので、是非ともこの機会に未知のサウンドに出会ってみるのもまた一興。今記事が何かのきっかけになれば、これほど嬉しいことはない。