こんばんは、キタガワです。
「ライブハウスの利点って何だろう」と、歓声も密集も禁止された最近のライブシーンで、改めて考えることがある。もちろん人それぞれ思う部分はあれど、個人的にはライブハウスの素晴らしさは『誰も置いていかないところ』にあると思う。腕を挙げても挙げなくても、踊り狂っても直立不動でも……。何かに縛られることなくオールオッケーとされるあの空間はやはり音楽好きにとってなくてはならない環境だと、行くたびに実感する。
ただコロナの状況下である以上、ライブハウスに行くからには絶対的な制限も理解して臨まなければならない。人それぞれが好きなように楽しむことは変わらないまでも、距離や発声制限といった制限は100%守ることが絶対条件。それらを守って初めて、素晴らしい現実逃避が確保されるというのは流石に誰もが知っていることだろう。……が、今回参加したライブは違った。これまで当ブログは参加したライブは基本的に全てライブレポートを記す形で約5年間やってきたけれど、申し訳ないが今回ばかりはパスさせてほしい。それ程までに、僕は今回のライブでショックを受けたから。
最初に断っておくと、今回のメインアクトであるとあるバンドのパフォーマンスは本当に最高だった。観客と目線を合わせ、愚直に楽曲を圧倒的な音で畳み掛けるスタイルは感動したし、最後の物販で思わずいろいろ購入してしまった程完璧なライブだった。では何が問題だったのかと言えば、それはひとりの観客の存在。全体のキャパで考えればおよそ100人いる中でのたったひとりだが、そのたったひとりの馬鹿な行動が全体のイメージを下げたのだ。
結論から書くが、彼はマスクを着けず、時にはステージ前方の柵に跨がって大声で叫び続けていた。彼はステージから数えて2列目の真ん中、運悪くちょうど観客の大半にとって視界に入ってしまう位置に陣取っていて、おそらくは開演時にはそのフラフラな姿を見てほとんどの人が、彼が何杯かのアルコールを摂取していることが理解出来たはずだ。
SEが鳴り、バンドがステージ裏から出てくる。そこからライブは始まるのだが、彼はとにかく腕を大きく上げる、立ち位置から外れる形で動くなどのアクションが多く、目に付く存在だった。けれどもそうした行動を取る人は本当にこれまでいろいろなライブで目にしてきてもいるし、それらのアクションひとつとっても、シラフで行う人もいるはず。故に僕はその時彼がそこまで酔っているとは思っておらず、むしろ「全力で楽しんでくれてるなあ」「これこそがライブハウスの良さなんだよなー。分かる!」と、心底嬉しくなった程だった。
だが、次第に彼の行動は激しさを増していった。その理由はやはりアルコールで、楽曲ごとに挙げられる手に収められたジントニックの量がどんどん減って空になるたび、彼は後ろのバーカウンターでジントニックを注文。また元の場所に戻ってジントニックをあおりながらライブを鑑賞する時間が続いた。その量はライブでは必ずアルコールを数杯飲む僕からしても『飲みすぎ』と思えるレベルで、実際彼はアンコールまでの約1時間30分の間に度重なるおかわりを続け、最終的には僕が把握する限り、通算5杯のジントニックを飲んでいた。もちろんこれはライブギリギリになって入場した僕が観ていたものだけをカウントするので、実際はもっと飲んでいるとは思うが。とにかく彼の楽しみ方は『ライブのついでに酒を飲む』というより、明らかに『酒のついでにライブを観ている』ようだった。
そしてライブも後半に差し掛かり「あと3曲やって帰ります。最後は盛り上がる曲ばかりです」とボーカルがMCを叫んだ後、事件は起こった。これまで大きく腕を挙げてフラフラとしていただけだった彼が、突然前方の観客をかき分け、ステージと観客とを繋ぐ柵に飛び掛かったのだ。しかもマスクは所謂『顎マスク』状態。当然我々観客的にも彼の存在は一気に目立つものとなり、でも誰も注意も出来ないし言ったら興奮が削がれるし……という微妙な空気になったのは瞬時に分かった。ボーカルは歌っている最中にも関わらず、柵に跨がる彼に目を向けながら指を口に当て「(マスクは付けよう)」とジェスチャーを飛ばす。ふと横を観ると、先程まで楽しんでいたファンが動きを止めている。そして見兼ねたスタッフは彼の元に向かい、何やら耳元で叫ぶ……。こんな光景、誰も観たくなんてなかった。
結果、ここから彼はまだまだフラフラしつつも激しい動きは見せなくなったが、僕はその間もまた柵に跨がるんじゃないかと、最悪ライブが中断するんじゃないかと気が気じゃなかった。特に最後の方はそいつを視界に入れるのが嫌で、僕は薄目でライブを観ていた程。だから最後の一番盛り上がる3曲は正直記憶にないまま、ライブは終わってしまった。彼はダブルアンコールが終わるとそそくさとライブハウスを出ていったが、そうした『俺お前らの音楽聴くために来たんじゃねえし』的な行動さえも、ここにいる全ての人々を馬鹿にするだけして逃げるようで、心からの怒りすら覚えた。
終演後、僕はいろいろとエゴサーチをして彼のアカウントを特定したのだが、そこには今回のライブに対する鬱憤が140文字に詰め込まれていた。「俺はルールを守ってた」「注意してきたスタッフふざけんな」「こんなんだったらもうライブハウス行かねえ」というような、そんな罵詈雑言が。……繰り返すようだが、個人的にはライブハウスはどんな人でも受け入れる場所であるべきだし、今回の彼の行動を咎めることは僕には出来ない。きっとこれまでのようなライブハウスだったら、好意的に観ていた可能性だってある。でもコロナ禍で誰もが必死になっている中での今回の行動は、努力者に対する侮辱以外の何者でもない。たったひとりの間違った行動のせいで何人もの人が嫌な気分になり、しかも当の本人は無自覚ときた。今後彼が行く先々で同じような思いをする人が出ると思うと、本当にやるせない気持ちになる。
人と大きく違うことをした場合であっても、黙認せざるを得ないのが日本の常。それはライブハウスも同じで、彼に出禁の処分が下されることもないし、痛みを伴う措置が取られないのだから、彼が今後反省することもないだろう。多分今回の一件はアルコールの過剰摂取によるものが大きく、きっと彼は元々良い人間なのだと思いたいが、それでも。迫害するようで申し訳ないが、音楽よりも酒の高揚感が上回るようなら、もうお前は一生ライブハウスには来なくていいと思ってしまう。コロナによる様々な規制は今後緩やかになっていくことだろうが、他者を思いやる心だけはどうか忘れないでほしい。ライブ好きからの心からのお願いです。