こんばんは、キタガワです。
ライブが終わった後、体中にじんわりと滲んだ汗を感じながら「セクマシのライブを観たんだなあ」と感慨に浸りながら、同時にこの感覚を味わうのも随分久し振りであることに気付く。それもそのはずで、コロナの影響で遠方への遠征を止めてから2年以上の長い期間が経過しており、かつこの間にツアーとして島根に訪れてくれるバンドも圧倒的に少なくなったからだ。だが彼らは昨年の『LIVE TO WEST』に引き続き、今度はニューアルバムを携えて再び来県してくれた……。そんなライブがどれほどの熱狂だったのかはもはや言うだけ野暮というものだが、とにかく素晴らしいライブだったことは最初に述べておきたいところ。
彼らの出番をソワソワしながら待っているとゆっくりと客電が落ち、スターウォーズメインテーマのSEに呼び込まれる形で森田剛史(Vo.Key)、日野亮(B.Key.Cho)、近藤潔(G.Cho)、ケンオガタ(Dr.Cho)が笑顔で登場。中でも背中にデカデカと『圧倒的な存在感!!』と記された自身のバンドTシャツを着用した森田のテンションは段違いで、すぐさまPAさんにSE停止を要求すると客席を見渡して「始まる前から凄く良い雰囲気!」と大絶賛。
セックスマシーン!!「ウッドストック2019」MV - YouTube
一瞬たりとも気を緩めることのないセクマシライブ。その幕開けを飾ったのは、ニューアルバム『もっと!も〜っと光を!』から“ウッドストック2022”。開始時から森田の合図で上がる腕、腕、腕。セクマシのライブではファンと共に作り上げるコール&レスポンスの応酬が魅力のひとつであり、ともすればこの発声制限が課せられた状況下では、難しく作用してしまう可能性すらある。しかしながら流石はコロナ禍でも場数を踏んできたセクマシ。ファンのアクションは基本的に手拍子や腕上げ、腕を左右に振るといった最小限のものに留めつつ、いろいろと制約はある中でも決して興奮が失われない折衷案をしっかり示していたのが印象的だった。
今回のライブは元々はスリーマン。故に持ち時間もほぼ均等に3分割される予定だったが、1バンドのキャンセルに伴い持ち時間が増加。森田が「ニューアルバムだけで(持ち時間)全部やれるんじゃないかっていう……」と語っていた通り、自信満々の完成度で届けられたニューアルバム『もっと!も〜っと光を!』の楽曲を中心に歴代代表曲を配置するという、現時点でのベストのセットリストに。リリースから間もないこともあっておそらく未聴の人も多かったことと推察するが、ことセクマシのライブでは無問題。本当に全曲がキラーチューン並みの盛り上がりとなっていたことには、心底驚かされた。
以降はこれまで新曲として各地のツアーで披露されてきた“かくせ!!”と“祝辞”、そして森田の「俺の曲順ない!」というよもやの森田のセットリストだけ見当たらない爆笑ハプニングを挟みつつ“謎”、“AIウォーズ”を畳み掛け。取り分け「人間同士争ってる場合じゃないぜ!」との一言から雪崩込んだ“AIウォーズ”は奇しくもロシアとウクライナが争う現在の世界情勢に合致している感もあり、思わず深く頷いてしまった。世界は変わる。世の中も変わる。我々が生きる糧としていた音楽も同じように、コロナ禍を経て大きく変わった。ただ、根底にある素晴らしさは一切不変なものであると、彼らはこの日はっきりと訴え掛けていた。
ここまでで既に汗だくの灼熱地獄だが、少しも興奮が落ち着くことはない。マイクケーブルを首に巻き付けた森田が絶唱を極める“君を失ってWow”、様々な方向に指を指しながら道標を示す“始まってんぞ”を含むお馴染みのキラーチューンで更に熱量を底上げしつつ、再度“鼓動が知っている”や“何にもない日々”といった『もっと!も〜っと光を!』楽曲を繰り出す極上のフルコースに、気付けば体の動きも自然に大きくなっていく。セクマシは前日にも他県でライブを行い、そのまま島根に向かってこの日を迎えている。しかも今回は他バンドのキャンセルに伴って持ち時間が急遽1.5倍になっているため、ともすれば疲れからパフォーマンスも下降線を辿ってしまう可能性もあったろうが、むしろ「もっと興奮をよこせ!」とばかりに煽り倒す森田を観ていると、本当にセクマシは生粋のライブバンドなのだなと思った。
セックスマシーン!!「何にもない日々」MV - YouTube
「ライブが終われば曲を作りたくなる。良い曲が出来ればライブで披露したくなる。こんなご時世だからとかいろいろ言われるけど、ライブでしか得られないものがある」……。完璧に記憶している訳ではないので曖昧ではあれど、森田は後半部のMCにて熱く語ってくれた。今まで通りのライブ活動は不可能だとしても、いろいろな制限があったとしても。音楽を愛する人々がライブで現実を忘れて楽しんでくれればそれでいいのだと、セクマシは本気で信じていた。そんな彼らが希望を込めて鳴らしたのが“夜の向こうへ”、“春への扉”、“新世界へ”という鼓舞曲3連発で、地に足付けた無骨な演奏でもってクライマックスへと向かっていく。
本編最後に披露されたのは“夕暮れの歌”。最終曲と言うこともありその興奮は凄まじいものがあったが、中でも汗だくになりながら「ヘイ!」に合わせて観客たちが拳を突き上げる姿は美しいことこの上なく、眼前で絶対的な熱量で演奏するセクマシに関しても全てを出し尽くすようで素晴らしかった。明るい昼と暗い夜が繰り返される境目でもがく人生。それは今後も何十年と続いていき、先の未来は誰も分からない。それこそ今回のコロナ禍のような最悪の未来さえ起こり得るかもしれないけれども、我々にはライブがあるし音楽もあるのだ。《明日も生きてまた会おう 明日もまたここで会おう》と最後に絶唱した森田の表情は、どこまでも笑顔だった。
退場後、アンコールに呼び込まれ再びステージに上がったメンバーたち。アンコール1曲目はアルバムリード曲にして、合唱曲テイストなMVが話題を呼んだ“もっと光を”。スピーカーから流れるオケに乗せて直立不動で歌うメンバーは先程の熱量最大の姿とは明らかに違っていて意外性たっぷりではあったが、どんどん没入していく感覚もあって楽しい。よく見ると日野はコーラスパート、近藤はアルトパートとしっかり歌い分けているのも確認でき、こうした肉体的な裏事情を確認できたのもまた、ライブの醍醐味と言えよう。
セックスマシーン「頭の良くなるラブソング」 - YouTube
正真正銘ラストの曲として鳴らされたのは、これを聴かなきゃ帰れないライブアンセム“頭の良くなるラブソング”。CD音源以上に抑揚を付けながら進行するこの楽曲で彼らが届けたのは、どれほど離れていても絶対にまた出会えるとする愚直な思い。そしてこの日ライブに飢えた我々の元には『セクマシが直接あなたの街へ出向く』という有り難い形でその約束は果たされたし、きっと今後も果たされ続けるのだろう。どしゃめしゃな演奏が繰り広げられた後「俺たちはロックバンドだったんだぜウォー!」と叫び、観客を指さして「続く!」と締め括った森田の姿に、何故だか近い未来の興奮さえ見えた気がした。
終演BGMとしてBON JOVIの“Always”が流れる会場で、改めてライブは不要不急ではない最高の代物であると感じることが出来た。……正直、今でもライブ参加は怖い。この2年間チケットを購入していた県外のライブはほぼ全て自主的にキャンセルした。あれほどライブに行っていたのも、もう遥か昔だ。ただ今回のセクマシのライブに参加して、言葉にするのは難しいけれど「こんな1日があるのならこれからも頑張って生きようかな」と思った。「また来ます!死ぬなよ!」とはライブ終盤の森田の弁だが、もし死にたくなった時が来ても『セクマシのライブにいつかまた行ける』と考えれば大丈夫。我々の心は、これからもセクマシと共にある。
【セックスマシーン!!@出雲 セットリスト】
ウッドストック2022
かくせ!!
祝辞
謎
AIウォーズ
始まってんぞ
君を失ってWow
サルでも分かるラブソング
鼓動が知っている
何にもない日々
夜の向こうへ
春への扉
新世界へ
ゆっくりと今日が終わってく
夕暮れの歌
[アンコール]
もっと光を
頭の良くなるラブソング